【業界分析:宅配便】ECによる市場拡大と「働き方改革」。変化する宅配便業界の市場規模と動向

2017.09.27 業界分析

「働き方改革」が進む?宅配業界

物流業界では、ヤマト運輸や日本通運といった大手で多様な働き方を推進する動きが相次いでいます。ドライバー不足や、働き方改革への対応が進んでいます。

例えば、佐川急便は、一部地域で正社員のドライバーに週休3日制を導入したことを明らかにしました。休日については他の仕事との兼業も認めています。また、ヤマトでも宅配便の時間帯指定サービスの見直しなど労働環境の改善に取り組んでいます。日本郵便では、郵便局で労働時間を6-10時間に増減できる日を試験的に実施するなど、柔軟な働き方の導入も進んでいます。

日本通運でも、働きやすい環境づくりを促す「ダイバーシティ推進室」を新設しています。

 

ECの進展、ドライバー不足、そして働き方の変化を迎えている物流業界について、専門家の花房氏に伺いました。

 

深刻化するドライバー不足の解消には労働環境の改善が不可欠

近年の宅配便業界におけるこうした働き方変革など労働環境の改善が進む背景には、ドライバー不足があります。

厚生労働省によると、ドライバーの年間労働時間は全産業平均の約1.2倍と長時間である一方で、年間所得額は1-2割も低いそうです。

 

Q.物流業界においてドライバー不足が指摘されています。こうした背景には何があるのでしょうか?

花房:1990年からの物流業界規制緩和のの影響を受けて、運送事業者と車両も増えているが、ドライバーはそこまで増えていませんね。事業者数が増えて競争が激化したことで、荷物運賃の水準は低下しています。それに伴ってトラックドライバーの賃金水準も下がっていきました。その結果として、深刻なドライバー不足を引き起こしています。

 

Q.最近は、働き方変革が宅配便業者への影響があります。このドライバー不足解消という問題については、これらは改善する余地や方向性はあるのでしょうか?

花房:長距離ドライバーがいないことが問題です。広告業界と同じで運送業者のディスカウント率が高すぎます。物流のコストも料金が自由になったからこそ、過当競争状態で安くしすぎています。だからこそ、適切な報酬を支払うことが難しくなり、長距離ドライバーのなり手がいなくなっています。

 

このように、ドライバーの慢性的な人手不足の背景には、90年代以降の規制緩和による運送業界における参入の増加、そして競争環境の激化があげられるようです。運送事業が免許制から許可制に、荷物の運賃が認可制から事前届け出制に変更されたことで、新規参入が激増しています。

 

今後ドライバーを確保していくためには、既に対策が練られ始めている通り、長時間労働の是正も必要です。労働時間が減ると、短期的には人手不足が強まるものの、中長期的には改善された労働環境へ労働者を呼び込むことができるという考えです。

また、こうした宅配便などのサービスの生産性を向上していくことも重要です。宅配便サービスも、これまで顧客ニーズにこたえる形で多様化してきました。既に、時間指定配達、冷凍冷蔵配達、往復便などが提供されています。一方で、再配達の増加が非常に生産性を下げていると過大視されている通り、生産性の向上のために再配達の削減や、共同配送や駅の宅配ロッカー設置といった施策も考えられています。

 

トラック運送事業者はこの20年で大幅に増加。激化する競争環境

トラック運送事業者でみると、2014年度で、事業者は6.2万社、1990年の4万社から比べると、20年で大幅に増加しています。

国土交通省の資料から、運送事業者数の推移をみると、2008年以降は、退出事業者が新規参入を超え、結果として事業者全体の増加傾向は抑えられている状況になっています。こうした増加傾向の低減は、輸送需要を超えた事業者数による競争激化での事業環境の悪化に加えて、国交省による新規参入時の許可基準厳格化なども背景にあるようです。

さらに、2006年の道路交通法改正では、5分を超える道路上での駐車が禁止され、配送員が単独で対応することが難しくなりました。配送員の増員、有料駐車場などの対応が必要となるため、事業者の負担は増大しています。

トラック運送事業者数の推移

出典:国土交通省

運送事業者の従業員の平均月給は、2014年には約29万4000円で、全産業平均より約2万円低い(厚生労働省)。さらに、運送業で働いている人の年齢層は、40代~50代前半の中年層の占める割合が、全産業平均に比べて非常に高いことも知られています。就業者の年齢構成比において、40-54歳の年齢層が占める割合が、全産業平均の34.1%に対して、道路貨物運送業では44.3%に達しています(国土交通省)。つまり、実態として中高年のドライバーが低賃金で働いている状況です。

 

Q.トラックの運送業者はここ20年で大幅に増加しています。業界における競争激化が課題ですね。

花房:トラックは800万両あります、つまりトラックは使わないのに免許を持っている人はいないので免許が800万人いることになります。一方で、運送業の免許のトラックは120万台程度しかありません。つまり、実際のところ、問屋が運んだり、築地などでも自家用トラックは運んだりしていますので、そうした業者以外での運送が多いのです。

運送業者は、トラックとドライバーがあれば、小資本で簡単になれますので、参入が容易です。昔、規制産業だったという経緯があり、その後、緩和したのですが、全面的に解放したわけではありません。過剰競争になったので、業者は市場からある程度自然に淘汰されるべきなのに、そうした規制緩和をしている割に自由度は足りない。採算が合わない事業主は徐々に市場から退出はしているのですが、そうしたドライバーをうまく吸収できるといいと思っています。

注:トラック運送事業者の保有車両数は、トレーラを含めるとおよそ138万両。登録されているトラック車両数の合計はおよそ755万両(2014年、全日本トラック協会資料)

物流業の事業分野別営業収入(2013年)


出典:国土交通省、日本物流団体連合会

トラック運送事業は、物流業界でも最大の規模で、2013年で15兆6千億円となっています。そのほか、倉庫で1兆7千億円、外航海運で4兆7千億円といった規模になっています。

トラック運送事業の営業収入の推移


出典:国土交通省、日本物流団体連合会

宅配便の取り扱い個数は30億個を突破し、成長は継続

次に宅配便の市場全体をみていくと、ドライバー不足が叫ばれる業界ですが、取扱個数は増加しています。取扱個数は2007年度に30億個を突破し、2015年度には37億個となっています。

宅配便(トラック及び航空等利用運送)の取扱個数の推移


出典:国土交通省

ECの利用浸透によって宅配便数は今後も増加

1976年にヤマト運輸が宅急便の取り扱いを開始して以降、市場は成長期を経て成熟期へと移行しつつあります。成熟期へと移行しつつある宅急便ですが、BtoC分野においては、ECの利用の浸透によって今後も利用数は増加していくと考えられています。

 

なお、2016年の国内EC市場規模は、15.1兆円、前年に対して10%の伸びを示しています。その中でも、宅配便にかかわる物販系分野は最大で、8.4兆円と全体の5割以上を占めています。その他の分野でも、サービス系分野(5.3兆円)、デジタル系分野(1.7兆円)もそれぞれ成長しています。

EC化率も、毎年伸長しています、物販系分野においては2016年で5.43%に達しています。

EC(BtoC)の市場規模及びEC化率の推移


出典:経済産業省「電子商取引に関する市場調査」

ECの普及拡大によって、配送の小口・多頻度化や、時間指定など消費者ニーズの多様化もおきています。全体として宅配するべき荷物が増加しているにもかかわらず、指定時間帯に届けなければならず、不在の場合には、再配達の必要があります。

この再配達は業界の生産性を下げる問題になっており、全体のおよそ2割が再配達になっているというデータもあります。業界としても、国土交通省でもこれらの問題についての対応策の検討を進めているようです。

 

Q.宅配便の市場拡大の背景として、ECの利用拡大があげられますね。今後も、BtoCの宅配が大きく伸びていくと考えられています。

花房:そうですね、ただ、EC化率は期待ほど大きく伸びていない印象をもっています。日本ではシニアにどの程度EC利用が受け入れられているのかというのがまだみえていません。オリンピックまでにEC化率10%に達するのでしょうか。他の国が伸びているから日本も伸びるという、他国との比較によってこれから伸びると考えるのも早計で、日本は他国とは人口分布が異なります。平均年齢でみても日本は10歳ほどアメリカよりも年をとっていると考えていい、そのような要素もEC化率の進展の不透明さにつながっていると考えています。

 

「物流コストはタダ」の意識

ECの展開によって消費者ニーズも多様化していき、その対応に追われている宅配便業界、もう一つの問題が、「送料無料」という考えが消費者側に浸透していっていることです。

当然ながら、送料は実際に無料になるわけではありません。そのコストが転嫁されているのですが、実質的には販売側が負担をしています。

運送業界のドライバー人材不足解消のためには、ドライバーの労働環境の改善、賃金の底上げが必要です、そして、そのためには運賃の底上げが必要ですが、価格交渉力の強いEC大手に対して、まだ過当競争状態にあり、中小企業が多い運送事業者の負担軽減は難しいかもしれません。

Q.物流が安い、ECで送料無料、というイメージがすっかり定着しているように思えます。ただ、こうした送料は無料であるという、消費者の意識の変化を促すのは非常に難しいですね。

花房:そうですね、実際には無料であるはずがない。当たり前ですが、売り手が負担をしているわけです。物流だけは安くできるものだというのは錯覚です。価格や報酬が、実際の業務に見合った支払いをするように運送業者と合意さえすれば、こうした物流に対してそれなりの対価を支払うのは当たり前になるはずです。

 

プロフィール:花房 陵

1978年慶大経済学部卒、経営・物流コンサルタントとして25年の実績を積む。28業種200カ所以上の物流現場を新規開設・改善指導しており、異業界、異商材の物流施策を導入・定着させることに取り組んでいる。最新のテーマは「コンプライアンス物流」、3PL標準契約やセキュリティ重視の販売に貢献できる高付加価値物流を研究。2012年からは物流専門月刊誌『ロジスティクス・トレンド』の発行者として、物流の普及に努めている。(株)アバンセ 代表取締役、(株)イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント 協同組合物流情報ネット・イー相談役、ほか多数の物流顧問に在籍。主な著書『物流リスクマネジメント―止まらない物流、最強のBCP』『戦略物流の基本とカラクリがよーくわかる本』