【業界分析:スポーツビジネス】スポーツビジネスの市場規模と動向。欧州のサッカーリーグと米国の4大リーグ
DAZNとJリーグとの大型契約にみるスポーツのコンテンツとしての価値の向上
2016年7月20日、Jリーグと、Perform Groupが提供するスポーツのライブストリーミングサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」は、2017年からの10年間で約2,100億円の放映権契約を締結したことを発表しました。これによって、DAZNによりJ1、J2、J3の全試合が生中継されることとなりました。Jリーグは、2017年から10年間分の放映権料として2,100億円をDAZNから受け取ります。このような大型契約の実現を受け、Jリーグの今後も注目されています。
2017年6月15日、「DAZN」はUEFAが主催する「UEFAチャンピオンリーグ」「UEFAヨーロッパリーグ」「UEFAスーパーカップ」の2018年以降3シーズン全試合の日本での独占放映権を獲得したことを発表しています。他にも、DAZNはボクシングの「メイウェザー対マクレガー」の日本での独占ライブ配信も話題になりました。
このように、近年スポーツビジネスは、グローバル化が進む中、コンテンツとしての価値の認知が高まっている印象を受けます。日本でもこうした海外のサッカーやボクシングなどを見ることも一般的になってきましたが、今後もこうしたコンテンツ価値のみならず国内では地方創生といった観点でも大きな可能性が認められているスポーツビジネスの市場についてみていきましょう。
プロスポーツチームの収入源は3つに大別
プロスポーツのビジネスは、興行収入、放映権収入、商業収入の3つの収入源からなります。ほかにも、ネーミングライツによる収入やスタジアム運営による収入もあります。
興行収入とは、入場料チケットとユニフォームなどのグッズによって得られる収入です。これらに試合ボーナスや勝利ボーナスなどが加わります。
放映権収入とは、主にテレビ放送において、他社から借り受けたり配給されたりするニュース素材、放送番組や、スポーツイベントを放映できる権利によって発生する収入です。先ほどJリーグの放映権について述べた通り、特に海外においてこの放映権は巨額の取引になっています。
3つ目の商業収入とは、主にユニフォームやスタジアムの看板にスポンサー企業のロゴを掲載することによって発生する広告・スポンサー収入です。
2016年11月には、サッカーのスペイン1部バルセロナとネット通販大手の楽天のスポンサー契約も話題になりました。ちなみに、この契約は、期間は4年間、1年間の延長オプションが付き、契約金は年5,500万ユーロで、4年総額2億2千万ユーロとなる大型契約です。こうしたスポンサー契約は楽天のグローバルのブランド強化のためのもので、バルセロナのユニホームの胸には楽天の名前が入ります。
スポーツビジネスのエコシステム
スポーツビジネスのエコシステムを見ていきましょう。例えば、一部のスポーツビジネスは以下のような収益の流れでビジネスが成り立っています。
まず、スタジアムに動員観客数が増えることによって、チケット代や物品購入にて興行収入が増えます。試合放映が行われることで放映権収入が増える。こうして獲得した観客や視聴者の目に入るように、企業は多くの広告を打ち、それらが商業収入になります。
スポーツエコシステムの例
出典:AT Kearney「Winning in the Business of Sports」を改変
スポーツビジネスの市場規模。900億ドルに達する成長市場
スポーツビジネスの市場規模は、2013年に761億ドルに達しています。
2005-09年の年平均成長率(CAGR)は6%、2013-17年予測のCAGRは5%と少し鈍化するものの、引き続き成長し、2017年には909億ドルに達するとみられています。
2005年から比較すると、この12年で倍近く成長しており、今後の成長もますます期待されています。(出典:「Winning in the Business of Sports」AT Kearney)
グローバルスポーツ市場規模
出典:AT Kearney「Winning in the Business of Sports」
スポーツビジネスのカテゴリ別内訳。サッカーと米国スポーツが大きな市場を形成
次に、どのスポーツに関する市場が大きいのか、スポーツビジネス市場の内訳をみていくと、大きくサッカーと米国スポーツの市場で占められていることがわかります。
米国スポーツは、北米4大プロスポーツリーグといわれる、アメリカンフットボールのナショナルフットボールリーグ(NFL)、ベースボールのメジャーリーグベースボール(MLB)、バスケットボールのナショナルバスケットボールアソシエーション(NBA)、アイスホッケーのナショナルホッケーリーグ(NHL)と、大学スポーツを含めたものです。
それらに、モータースポーツのF1(フォーミュラ1)、テニス、ゴルフといったスポーツが続きます。
グローバルスポーツ市場におけるスポーツ別の割合(2013年)
出典:AT Kearney「Winning in the Business of Sports」
注:米国スポーツは、米国のアメリカンフットボール、野球、バスケットボール、ホッケー、モータースポーツ、大学スポーツを含む
サッカーは、特に欧州にて大きなビジネスになっています。欧州リーグの選手の巨額の移籍金の報道などで耳にした人も多いかもしれませんが、サッカーはグローバルに展開しており、スポーツの中でも最大の規模で、2013年で353億ドルの市場規模に達しています。
日本でもJリーグのみならず、こうした欧州のリーグを観戦したりすることが増えてきました。
グローバルスポーツ市場におけるスポーツ別規模(2013年)
出典:AT Kearney「Winning in the Business of Sports」
スポーツごとの市場の成長率、今後の成長率予想でみても、サッカーは2009年から2013年までで年平均成長率(CAGR)9%と高い成長を実現しており、2013年から2017年までの成長率でみても年平均成長率5%となっています。そのほかのスポーツもテニスの3%、F1の4%、ゴルフの4%といずれも引き続き成長していくことが見込まれています。
グローバルスポーツ市場におけるスポーツ別の年平均成長率
出典:ATカーニー資料
地域によって異なるスポーツビジネス市場。欧州ではサッカーが圧倒的
スポーツビジネスは、スポーツによって地域差があることも特徴的です。欧州や南米ではサッカーが圧倒的ですが、米国ではアメフト、野球、ホッケーなどのスポーツの市場が大きく、グローバルにファンがいるサッカーであってもそれほどでもありません。
地域別市場規模(2013年)
出典:AT Kearney「Winning in the Business of Sports」
欧州ではやはりサッカーが圧倒的で、次にモータースポーツのF1も人気があり、ビジネスとしても大きな規模になっていることがわかります。
欧州のスポーツ別市場の割合(2013年)
出典:AT Kearney「Winning in the Business of Sports」
フォーブスの2017年スポーツチームの資産価値ランキング
フォーブスの2017年スポーツチームの資産価値ランキングでは、 サッカーのカテゴリではマンチェスターユナイテッドがトップで資産価値36.9億ドルとなっており、全スポーツチームでは3位となっています。ただし、同ランキングでも上位5チームのうち3チームが欧州のサッカーチーム(マンチェスター・ユナイテッド、バルセロナ、レアル・マドリード)が占めており、サッカーのスポーツビジネスとしての存在感の大きさがわかります。
そして、このランキングをみると、昨年に比べて順位の変動はあるものの上位10位のチームの顔触れはほとんど変わっていません。
スポーツチームの資産価値ランキング(チーム名、資産価値(百万ドル)、スポーツ)
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ダラス・カウボーイズ Dallas Cowboys 42億ドル (NFL:アメリカンフットボール)
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ニューヨーク・ヤンキース New York Yankees 37億ドル (MLB:野球)
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マンチェスターユナイテッド Manchester United 36.9億ドル (サッカー)
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バルセロナ Barcelona 36.4億ドル (サッカー)
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レアル・マドリード Real Madrid 35.8億ドル (サッカー)
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ニューイングランド・ペイトリオッツ New England Patriots 34億ドル (NFL:アメリカンフットボール)
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ニューヨーク・ニックス New York Knicks 33億ドル (NBA:バスケットボール)
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ニューヨーク・ジャイアンツ New York Giants 31億ドル (NFL:アメリカンフットボール)
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サンフランシスコ・フォーティナイナーズ San Francisco 49ers 30億ドル (NFL:アメリカンフットボール)
ロサンゼルス・レイカーズ Los Angeles Lakers 30億ドル (NBA:バスケットボール)
出典:Forbes(Full List: The World’s 50 Most Valuable Sports Teams 2017)
注:これらの資産価値は、フォーブスが過去一年の間に行ったNFLと北米アイスホッケーリーグ(NHL)、米プロバスケットボール協会(NBA)、MLB、F1、各サッカーリーグ、全米自動車競争協会ストックカーレース(NASCAR)に関する調査から割り出したものです。
デロイトのフットボールマネーリーグの売上高ランキング
なお、欧州でのサッカーリーグの経済規模をみていくのに、大変興味深い資料として、デロイトのフットボールマネーリーグがあります。サッカークラブの長者番付のようなもので、デロイトによってシーズンごとに、欧州のサッカークラブの売上高のランキングや経営内容分析が発表されます。
こちら(Football Money League 2017 – Deloitte)では2015/16 の売上高ランキングとして、上位3チームの顔ぶれは、マンチェスター・ユナイテッド、FCバルセロナ、レアル・マドリードになっています。ここでも上位10クラブの顔ぶれは3年連続同じで、欧州の主要リーグでも上位クラブは寡占化が進み、上位クラブと下位クラブの収益差は拡大しつつあるようです。
フットボールマネーリーグの2015/16 売上高ランキング(チーム名、売上高:百万ユーロ)
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マンチェスター・ユナイテッド 689.0
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バルセロナ 620.2
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レアル・マドリード 620.1
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バイエルン・ミュンヘン 592.0
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マンチェスター・シティ 524.9
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パリ・サンジェルマン 520.9
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アーセナル 468.5
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チェルシー 447.4
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リバプール 403.8
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ユベントス 341.1
出典:Deloitte(Football Money League 2017)
米国では4大リーグなど北米スポーツが圧倒的
次に、米国でのスポーツの種別の市場シェアをみていくと、米国では4大リーグなど北米スポーツが圧倒的です。グローバルに人気のあるサッカーはメジャーリーグサッカー(MLS)として米国内でも人気が出てきていますが、未だチーム数やその収益規模では野球やバスケットボール、アメリカンフットボールなどに及びません。
なお、フォーブスの2017年スポーツチームの資産価値ランキングでは、 NFL(アメリカンフットボール)のダラス・カウボーイズが2016年に続いて、資産価値42億ドルで全スポーツにおけるトップとなっています。その他の米国主要リーグをみるとMLB(野球)では、ニューヨーク・ヤンキースが前年の4位から順位を上げて2位に、NBA(バスケットボール)ではニューヨーク・ニックスが33億ドルで7位となっています。
米国のスポーツ別市場の割合(2013年)
出典:AT Kearney「Winning in the Business of Sports」
アジアパシフィック市場では、サッカーが最大だが、その他も幅広く市場を形成
最後に、アジアパシフィックでのスポーツの種別の市場シェアをみると、サッカーが最大です。ただし、米国スポーツやF1、テニス、ゴルフなどのスポーツの市場も一定のシェアを獲得しており、比較的幅広く市場を形成しているようにみえます。
アジアパシフィックのスポーツ別市場の割合(2013年)
出典:AT Kearney「Winning in the Business of Sports」
今後も成長していくことが見込まれているスポーツビジネス市場。当然ながら市場規模拡大のためにはそのスポーツの人気や認知度が向上していく必要がありますが、一般的に人気があるからといってビジネスとして成功できるとも限りません。
日本でも、2020年のオリンピック開催を機に、政府としても「スポーツの成長産業化」の方針が明らかにされています。そこでは、最新のデジタル技術等を活用した新たな観戦スタイルのみならず、スポーツの魅力を経済価値に転換していくための取組も進めていくとされています。
今後、日本でもいかにしてJリーグをビジネスとして成功させていくか、スポーツ産業の活性化が注目されています。