【5G新規事業】商用サービス開始間近の次世代通信「5G」、日本企業がグローバル競争に勝つ条件は 御供俊元 ソニー常務

2020.01.27 エキスパート

2020年春に次世代通信「5G」の商用サービス開始が予定されています。5Gは高速・大容量・高画質、データ伝送低遅延、多数端末同時接続など、既存通信サービスができなかったサービスを可能にする技術的特徴を持っています。用途面でもスポーツのリアルタイム通信、自動運転車の集中管理、遠隔医療診断など新たなビジネス開発の可能性が議論されています。

今回は5G市場の有力プレーヤーの1社として活躍が期待されているソニーの御供俊元常務に、5Gによって生み出される新たなビジネスの展望やグローバル競争で日本企業が勝つための条件をお伺いました。

 

商用サービス開始は迫っているが未解決課題山積の5Gビジネス

―― 5Gを活用した新ビジネスを開発する上での課題は何でしょうか。

御供 諸外国では商用サービスが開始され、日本でもその開始が迫っていますが、5Gは既存の通信サービスと「似て非なり」と言えるほど新しい可能性を有する通信技術なので、実はまだまだ問題が山積しています。

それらの問題をうまく解決して5Gに最適化した製品をラインナップできるのか、現時点ではまだまだどうなるか分からない流動的要素が多いのが実情です。

―― 具体的にはどんな課題でしょうか。

御供 技術的な課題と制度的な課題があります。技術的には、5G通信では直進性の強いミリ波を使うことから、環境による影響を受けやすく、電波が届きにくい工場などの閉鎖的空間では金属類の電波反射・生産設備のノイズによる電波干渉などの問題が生じることや、デバイスにおける発熱が大きく放熱に関する設計をどう最適化するか等の課題があります。ミリ波を使用するにあたり、特有の技術的課題をいかにして克服するかが重要です。

また、従来の通信領域のみでなく、放送や医療等、様々な領域での活用が期待されますが、法制的には、これらの活用にともなう電波法やそれらの領域での関連法の改正が必要になる可能性があるといった課題があります。例えば放送であれば事故で済みますが医療であれば生命に関わる責任問題になるので、解決が必要です。

また、技術的なベネフィットに注目が集まりますが、コストの問題もあります。5Gでもたらされるメリットに対するコストも含めて顧客が納得してはじめて活用が広がるので、そういう意味ではアプリケーションが非常に重要になります。ニーズから展開していくことも重要ですので、スタートアップも大企業も含めてビジネスモデルを考え、実証実験をしてアプリケーションを見つけていく必要があります。

 

5G商用サービス市場立ち上がりを牽引するのは放送、医療、交通

―― そうした課題が解決され、5G商用サービス開始の環境が整備されたと仮定した場合、5G商用サービス市場を牽引する領域はどこでしょうか。

御供 5Gの特徴を考えると、最初はやはり放送系サービスが市場を引っ張ると思います。

2020年は東京オリンピック・パラリンピックを含め国際的な大規模イベントが目白押しですが、その後の冬のオリンピックなど、これらのライブ中継を全国一律の映像でではなく、ユーザーごとにカスタマイズされた5Gのリアルタイム通信で見たいとのニーズは高いと思います。

eスポーツも従来であればVRをワイヤーでつないでいましたが、その必要もなくなります。SNSやバーチャルの世界でも、皆がつながり、共有をして、一体感をもってエンターテイメントを楽しめるようになる。

放送系以外では、遠隔医療や自動運転車の領域が有望だと思います。遠隔医療の場合ですとCT、MRI、PETを始めとする各種画像診断機器の画像が年々高精細化しているので、データ伝送容量が新製品発売の度に大容量化する傾向にあります。このため、画像伝送に時間がかかっているのが現状です。

しかし5Gなら大容量データも低遅延で伝送できるので、リアルタイムの遠隔診断ができます。そうなると、医師不足が深刻化している人口過疎地域の医療サービス問題の解決手段のひとつになると思います。

自動運転車の場合では、通信の遅延解消が期待できます。現状では走行中の自動運転車に遠隔操作で急ブレーキをかけても停止するまでに遅延がでるので、急ブレーキの用を成しません。しかし5Gなら、車の手動運転と変わらない反応で急ブレーキをかけられるようになるでしょう。この他、集中管理センターと走行中の自動運転車1台1台の車載データの送受信、走行中の周囲の障害物を発見するための画像送受信も高速・大容量・多端末同時接続のリアルタイム送受信ができます。したがって、自動運転車の実用化に5Gは不可欠なインフラと言えるでしょう。

まだ課題は多いですが、当面のニーズに限っても放送系サービス、遠隔医療サービス、教育の分野、工場などの産業利用、自動運転車などの領域における5Gに対する期待は大きいと思います。

―― 御供さんは、中国総代表にも就任されています。5Gについては先行している中国についてはいかがお考えですか。

御供 中国は、5か年計画で5Gの商用化について示していますね。国際標準にも沿って、グローバリゼーションの中で主導権を確保しようとしています。政府の主導によって、IoT、5G、AIで世界をリードしていくことを目指しており、自動運転はバイドゥ、スマートシティはアリババ、顔認証はセンスタイム、医療はテンセントとテック企業の支援をしています。交通インフラでの顔認証などの画像認識システムについては、「スカイネット(天網)」計画という監視ネットワークも知られていますね。

日本は中国とは人口が違うのでデータ量も異なりますが、メリットがあるところは規制緩和を進めていくべきです。5Gにおいて日本の企業にとっても事業機会はあるので、ソニーも含めて産業界のノウハウを活かしていける可能性があります。国や産業としてどのようにしていくのかをもっと議論していく必要があると思っています。

※スカイネット(天網)は、中国のAIを用いた監視カメラを中心とするコンピュータネットワークによる犯罪防止プログラム

グローバル競争では現地企業とパートナリングできる企業が有利

―― 5Gソリューション製品をグローバル展開していく上で重要なことは何でしょうか。

御供 キーワードはローカライズだと思います。5G商用サービスに関わる技術規格は、現在「3GPP」が国際標準化の策定を続けています。そのため近い将来、5G商用サービスのインフラに関しては世界各国の5G商用サービス事業者が国際規格に準拠すると思います。通信インフラは国際規格に準拠すれば問題ないのですが、問題となるのはその手足となる端末になると思います。すなわちエンドユーザーが使う5Gソリューション製品です。

こちらは国や地域ごとにローカライズをしないと使い勝手の良い製品にはならないからです。

昔は、例えばインテルのCPUのように技術力が圧倒的に優れた製品を開発すれば、その技術力の高さで世界中のユーザーを囲い込む独占的ビジネスが可能でした。しかし現在は、オープンソース化を含め、周辺の様々な技術を取り込んだスピード勝負でクオリティを上げないと、グローバル市場で勝てない時代になっています。したがって、1つの優秀な製品だけでグローバル競争をするのは、率直に申し上げて極めて難しいと思います。

競争の矢面に立つのは技術力ではなく、それを使って各国・地域の市場特性にローカライズした製品やサービスをいかに早く、いかに安価に、どれだけ多く普及させられるかの仕組みだからです。

―― と言うことは、日本企業が5Gソリューション製品をグローバル市場で展開するためには、進出先の国・地域ごとの市場特性に対応した製品を提供しなければ競争優位に立てないということですね。

御供 そうです。今は同じ製品でアメリカも、ヨーロッパも、中国も、と言う時代ではなくなっているのです。従って旧来のグローバリズムの流れのまま、グローバル競争を世界一律に捉えている企業より、ローカル市場を捉えている企業の方が有利でしょうし、ローカルニーズをいち早く見つけて対応した企業の方が勝者になる可能性が高いと思います。

―― 別の見方をすると、5Gソリューション製品と言うのはローカル性が極めて高い製品ということですか。

御供 少なくとも私はそう見ています。

何故なら、5Gソリューション製品とは、その国・地域の「安全・安心・便利な生活向上」に寄与する製品ではありますが、「安全・安心・便利な生活」の基準や価値観は国・地域によりそれぞれ違う、あるいは温度差があるからです。

ですから、5Gソリューション製品の開発・販売にはコラボレーション、すなわちパートナリングが重要だと思います。企業規模の差は関係ありません。スタートアップとのコラボレーションも含めて、現地企業とのパートナリングを上手にできる企業が5Gソリューション製品のグローバル競争では勝つと思います。

そもそも、今の時代は、リアルとバーチャルが融合したエコシステムで成り立つので、独り勝ちは難しいです。かつては市場を独占していたマイクロソフトもAzureの会社になり、現在ではアップルのiPad用にも提供するようになっていますが、囲い込みで独り勝ちはできない時代に入っています。むしろ、エコシステムの中で自社の強いセグメントを見つけて特化していくことが重要になっています。

―― 5Gソリューション市場と言うのは、まさに市場プレーヤー同士の協創なくして成長はあり得ないということですね。御供さんは、事業開発プラットフォーム担当として、スタートアップもみられています。2019年には新しいファンドも立ち上げられました。海外のスタートアップについてはいかがお考えですか

御供 ソニーでは、現在ファンドをふたつ立ち上げており(2016年に設立したSony Innovation Fund、 2019年に設立したInnovation Growth Fund)投資先は地域ごとに見ています。先ほども、ローカライズというお話をしましたが、ライドシェアでみても、Uberは米国では強いですが中国ではDiDiですし、グラブはUberの東南アジア事業の買収をしていますね。日本と米国、欧州のスタートアップに投資をしていますが、結果的に現時点で日本企業の割合は3分の1程度となっています。ユニコーンの上位ランキングでみると中国は多いですが、中国やインドでは、大学も起業に協力的、成長も早く、既にバリュエーションも高くなっています。シーズの段階においては、実績はないので経営者のタレントなどをみて出資しています。

記事作成:福井 晋

 

プロフィール

御供 俊元

ソニー株式会社 常務 知的財産、事業開発プラットフォーム担当 中国総代表 Startup Acceleration 部門長。1985年ソニー株式会社 入社、2013年 業務執行役員 SVP知的財産担当を経て、2019年より現職。