【デジタルマーケティング】BtoBデジタルマーケティングの取組はある意味一巡、カスタマーサクセスが重要に 電通デジタル 魚住高志

2020.03.19 エキスパート

スマートフォンやタブレット端末の普及によって、消費者は時と場所に関係なくインターネット上で商品やサービスを検索するようになり、実店舗で実物を見つつ、SNSや口コミサイトの情報をもとに商品を評価するなど、多様な消費行動をとるようになりました。このため、消費者一人一人の思考やニーズに合わせ、最適なアプローチをする必要が高まっています。デジタルマーケティングでは、Eメール、SNS、スマートフォンアプリなど、デジタルで得られるあらゆるデータを活用し、扱う世界の範囲も格段に広いことが特徴です。

複数のチャネルを連動させ、消費者の購買行動なども含めた膨大なデータを蓄積し、AI(人工知能)を活用して分析、消費者の行動を予測したり、潜在的なニーズやトレンドを検証する取り組みなども始まっています。こうした中で、デジタルマーケティングの今後の展開や課題について、電通デジタルでビッグデータ領域の事業プロデュースなどに取り組んできた魚住高志氏に伺いました。

 

カスタマーサクセス領域は市場も文化も未成熟、活性化に期待

 ――BtoBのマーケティングの領域で、コミュニティの動きも最近はみられるようになりました。こうしたビジネスコミュニティの取組についていかがお考えですか。

魚住 特定のプロダクトを導入した企業同士でより良い使い方を共有し、互いのビジネスをよくしていくユーザーコミュニティがもっと出てきていいと思います。カスタマーサクセスにおけるビジネスコミュニティの領域はまだまだ市場も文化も成熟していないので、今後活性化が期待されます。SaaS企業では、各社が成功事例を共有しあうような、ユーザーコミュニティを作っていますね。こうしたSaaS企業のみならず、BtoB企業でもそのような取り組みを真似ていくとよいと思います。プロダクトの使い方がユーザーに委ねられているので、互いの成功事例を共有していくことは時代にも即しているかもしれません。BtoB領域だけでなく、BtoC領域でもカスタマーサクセスはあるべきだと思っています。

――BtoBのデジタルマーケティングにおいて今後重要になってくる要素はどういったものでしょうか。

魚住 私の支援している企業はBtoBtoCが多いのですが、例えば旅行代理店の法人営業の相手は学校や会社で、その先にエンドユーザーがいるわけです。ソリューション提供側としてはエンドユーザーにとっての価値をイメージしたBtoB取引をしないといけない。近年では、BtoBのサービス提供元がエンドユーザーと直接つながり、サービスを提供する事例も増えています。中間業者を介さずエンドユーザーの情報を取得・活用してニーズを理解しながら営業することが競争力になっているのです。

 

BtoBデジタルマーケティングの取組はある意味一巡、カスタマーサクセスが重要に

――注目されている取り組みはどんなものがありますか?

魚住 どの企業にどんなネットワークがあり、どの企業と連携するといいかという情報は、名刺管理会社などがデータとして持っています。そういう名刺の情報をうまく活用し、イノベーションを生むことで新しいビジネスチャンスが生まれるかもしれません。

――なるほど、名刺管理会社のもっている企業同士のネットワーク情報の活用ですね。そうした新しい視点での取り組みも求められていくのでしょうか。

魚住 BtoBのデジタルマーケティングの取り組みはある意味一巡しています。ものを売る活動ではなく、カスタマーサクセスという、エンドユーザーまでが成功することを目的とした営業活動がより重要になっています。

――そうした流れの中で、どの業界に特に注目されていますか?

魚住 自動車業界です。コネクティッドカーになっていくと、ユーザーによる自動車の使われ方のデータは自動車メーカーが直接取得できるようになります。従来は自動車業界ではメーカーはユーザーと直接接点を持つことが難しく、動向情報は販売店が持っていていました。しかし、今後はメーカーが直接データを取得して需要予測などもできるようになります。販売店向けにマーケティングをしていたメーカーもユーザーと直接向き合って、車のより良い使い方を指南する等、カスタマーサクセス的な思考をもったサービス展開が可能になりました。BtoBがいつの間にかBtoCになって、マーケティングを変えざるをえなくなったのは自動車業界だけではなく、家電メーカーも同じです。

 

メーカーが直接顧客と接点を持つ時代に

――メーカーが直接ユーザーの情報を取得することができるようになります、そうなるとその間の流通や販売店の価値はなくなっていくのでしょうか?

魚住 難しいですが、カスタマーサクセスのハイタッチの接点として、販売店の重要性は変わらないと思います。しかし、販売店では、これまで自動車を売るということが重要で、ユーザーによりよく商品を使っていただくというカスタマーサクセスの思想が足りない部分があったかもしれません。こうした取り組みをメーカーが主導して、カスタマーサクセス志向を啓蒙していくことが鍵になると思います。

――役割が変わっていくのですね。

魚住 これまで、ユーザーと直接向き合ってきた組織はメーカーにはありませんでした。唯一あったのがコールセンターですが、これまではユーザーにインシデントが起こった時、インバウンドで対応する組織でした。今後は、カスタマーサクセスでインシデントを未然に防ぐとなると、アウトバウンドな組織も必要です。そこで、コールセンターをコンタクトセンターに変革しようという動きがあります。コールセンターとデジタルマーケティング組織を統合し、ユーザーが解約する前に働きかけることが可能になります。

 

市場構造が変化する中で、データを活用しながらどのように対応していくのかが重要

――組織の変革も含めて、デジタルトランスフォーメーションが重要になってきますね。

魚住 例えば、コンビニやスーパーの流通業界の市場は多重構造になっています。受発注が多重な中、卸としては在庫がないのは致命傷になるので、忖度が忖度を生み、過剰在庫などいろんな無駄が存在しています。それが結果としてフードロスなどにもつながっている。それを全て統合し、プラットフォームで在庫の見える化や需要予測をしたり、受発注したりしていくべきという人もいます。

――そうした取り組みの推進における課題はどのようなことですか?

魚住 商習慣から既得権益が生まれ、それが変革の阻害要因となります。変革はボトムアップでは難しく、意思決定者がトップダウンでリードしていく必要があります。トヨタ自動車がすごいのは、販売店が多い中で車のサブスクリプションサービス「KINTO(キント)」を始めたこと。トップの危機意識がとても強いからできたことだと思います。

――クルマを作る会社からモビリティサービスへの変革ですね。

魚住 いい車だと思ったら、これまでは「どこのブランド?」と聞いていましたが、これからは「どこのサブスクサービス?」になるでしょう。メーカーがサブスクリプションサービスに車を卸す事業体になってしまえば、それまで積み上げてきたブランドがなくなり、ユーザーとの接点も喪失するリスクがある。にもかかわらず、トヨタはこれをトップの意思でやり始めました。放送局も同様です、オンデマンド系のサービスが広がることで、単なるコンテンツメーカーになるリスクがあります。気づいたらToCからToBになっている可能性もあるのです。

――確かに、多くの業界でそうした構造変化が起きつつありますね。

魚住 デジタルマーケティングの仕組みは整いましたが、実は市場構造の変化にどう対応するかが課題です。カスタマーサクセスという概念を文化として位置付けたり、企業内のソフト部分を改革したりしないと変わらないでしょう。市場がディスラプトされている中で、いかにユーザーのデータを活用して効果的な営業活動をするかが今、論点になっていると感じます。

 

記事作成:中山 佳子

 

プロフィール:

魚住 高志氏 株式会社電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門 サービスプロセスデザイン事業部 事業部長

2004年電通入社。2017年より電通デジタル出向。コンサルタント兼プロデューサー。日本マーケティング協会「マーケティングマスター」

マーケティング領域における「ビッグデータ」と「クラウド」の可能性に早期から着目し、それらを活用したソリューション開発やクライアントの事業変革コンサルティングに従事。それらをテーマとした記事執筆や講演も多数。現在は主に自動車や保険やエネルギー業界、B2B業態を中心に「顧客との関係を維持し続ける仕組みづくり」の支援を行っている。