【IR・カジノ】IRに期待するインバウンドの送客機能、日本発のエンターテイメントを世界に訴求 アクセンチュア株式会社 マネジング・ディレクター 上野正雄

2020.01.31 エキスパート

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの後、落ち込みが予想される観光業の起爆剤として注目を集める統合型リゾート(Integrated Resort、IR)。カジノのほか国際会議場や高級ホテル、レストランなどを一体化した複合施設で、国内では2016年12月の「IR推進法」、2018年7月に「IR実施法」が成立し、最大3カ所に造成されることになりました。横浜、大阪、和歌山といった自治体が誘致を表明しており、計1兆円超の市場規模になると期待されています。

一方で、カジノによるギャンブル依存症が懸念され、誘致を表明した地域で住民による反対運動が起きているほか、2019年12月にはIRに関わる政治家の汚職事件もあり、IRへのイメージが悪化しつつもあります。こうした中で、IR・カジノ市場にはどのような可能性があるのか、また、IRが国内にもたらす利点とは何か、有識者に伺いました。

 

インバウンドの送客機能の強化で長期的経済効果が期待

――IRの日本経済への影響について、どのようにお考えですか?

上野 長期的な経済効果になると思います。インバウンドの集客効果があり、大阪のIRにはこれまでユニバーサルスタジオや京都、奈良へ行っていた人などに加え、韓国やマカオの既存カジノ客が訪れるでしょう。また、送客機能にも注目しています、IRから観光客を関西圏や日本全体へ連れ出し、お金を落としてもらうためにどんな仕組みが作れるかが重要です。例えばIRに訪れた観光客が、日本に滞在する1週間のうち1〜2日は熊野古道へ、というように人が循環すれば、関西経済圏全体への中長期的な経済波及効果につながるでしょう。

――なるほど、IRを経由して他の地域にも送客していくことが重要ですね。国内でのIRに関する課題には、どのようなものがありますか?

上野 法案レベルでは日本全国で、同じ施設要件を課していること。東京・横浜・大阪と長崎・常滑で、同じ敷地面積やスイートルームの数が求められています。

例えば長崎でその規模の施設を作ったら、九州全体の総入込客数と同程度の客を連れてくる必要があり、これは非現実的です。また、自治体レベルでの課題は、インフラ負担を誰が担うかということ。本来であれば自治体がやっているような投資、例えばアクセス改善のため自治体と電鉄が共同して作るべき線路などを民間のIR事業者が数百億単位で負担するとなると、事業計画へのインパクトが大きすぎて、オペレーターも本気で手をあげるところが減るリスクがあります。また、税制もはっきりさせないと事業者は事業計画がつくれません。他に事業者側の課題としては、依存症対策が挙げられます。

さらには、区域認定の期間の更新について、最初の期間(10年間)での初期投資の回収は難しいので、更新(5年間)が必要になります。ただ、地域経済の活性化のために手を挙げている自治体でも、更新のためには議会承認が必要になりますが、地方議会の議員構成が変わるといった政治的な要因で継続できないリスクもあります。そうした不確実性がある中、巨額投資ができるのか、というのもあります。

 

ノンゲーミングに注目、日本独自のエンターテイメントを世界に訴求

――IR産業もカジノだけではなく多様な事業で成り立っていますが、IRカジノから生まれる新しい事業機会としてどういった領域に注目されていますか?

上野 IRにはゲーミング(カジノ)とノーゲーミングがあります。ゲーミングが大きな事業機会ですが、そこにはIRオペレーターが長く培ったノウハウがあるので、日本企業のノウハウ面での深い関与は難しい。

しかし、ゲーミングでもセキュリティの面では可能性があります。ラスベガスへ行くとわかりますが、入退場ゲートやテーブルゲームのモニタリングについては、目検だったり人が介在し精度はそれほど高くありません。要注意人物やギャンブル依存症の人もすり抜けてしまいますし、ゲーミングの不正も進化していくのですべての感知は難しい。

そうした要注意人物のチェックについては、生体認証はマカオでも導入事例がでてきています。AI導入をしたスマートカジノでは、プレーヤーの不正行為の発見、アルコール依存症へのアラートなどが組み込まれていますが、そうしたセキュリティのアップグレードに日本企業の技術を活かす余地はあります。他には、不動産会社が、IR施設やカジノのどこに、どういう設備が必要かというノウハウを身につけられれば、国内の他地域のIRでも使えるようになるでしょう。

ノンゲーミングでは5G、Roboticsなども活用し日本ならではのイベント効果を高める仕組みを提案できる企業があるでしょう。伝統文化、歌舞伎などをエンターテイメントとして、海外へ訴求力のある形で押し出すことが重要です、スポーツもNBAやNFLを連れてくるだけではない、日本発信のスポーツイベントを開催したい。また、VRを組み込んで聴衆と一体感を作るなどテクノロジーを使って観客を魅了できれば、一席あたり高額な代金が取れ、収益増になります。

※MICEとは、企業の会議(Meeting)、企業の行うインセンティブ旅行(Incentive Travel)、国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)、これらのビジネスイベントの総称。

――世界でも最新の大規模なIR施設となるので、ノンゲーミングでも日本独自のエンターテイメントを盛り込んでいくのですね。

 

コンソーシアムへの日本企業の参加。「おつきあい出資」ではなく、長期的価値を

――新しい市場が生まれる中、地域企業、都市開発企業、海外のIRオペレーターからなると思われるIR事業主体(コンソーシアム)への参加を検討したり周辺領域への進出を考えている企業も多いと思います。

上野 ゼネコンや不動産会社や設備系の企業だけではなく、広告代理店や電力・ガス・電鉄などインフラ企業、スマートシティやMaaSのプレーヤーなども可能性がありますね。多様な企業がIRに関心を持っていますが、IR関連の経験、実績に乏しいのが課題です。実績のない企業にIRオペレーターは発注しませんし、事業インパクトをもたらすことができる会社や、オペレーション改善等を通じてファイナンシャルにバリューを出せる企業としか組みたがりません。まずはIRやカジノでの実績を作らなくてはいけないでしょう。先端技術があるというだけでは駄目で、実際に現場で回していけるかが問われます。

コンソーシアムに入るという前提でいくと、お金を出せるかも課題です。大阪・夢洲の案件に必要な投資規模を約1兆円程度として、エクイティを最大5割、5000億円と見たとき、IRオペレーターが半分出すとして、残り2500億円を日本企業が負担できるでしょうか。これほど大きな意思決定は通常の企業では社内でも通すことは非常に難しい、オーナー企業などであればできるかもしれません、また、デットをつける上で、金融機関を巻き込みながら検討しなくてはいけません。

※IRオペレーターは、カジノ運営を行う企業でラスベガスやマカオにてカジノの運営実績がある外資企業。シーザーズエンターテイメント、ラスベガス・サンズ、メルコリゾーツ&エンターテインメント、MGMリゾーツ、ギャラクシー・エンターテインメント・グループなど

――コンソーシアムはどうあってほしいと考えていますか?

上野 個人の思いとしても日本企業が応分のリスクを負担して、IRに出資者として入っていってほしいですね。設備の受注や建設の一部負担では不十分で、特に、ノンゲーミング事業領域のオペレーションを日本企業が担わないと意味がありません。オペレーションから学び、産業のノウハウを蓄積していく、出資者としてリターンを得て、継続的に収益を確保していく。そうした意気込みがないような「おつきあい出資」では長期的価値を生みません。ただ、地元密着型の中小企業にとっては地産地消の文脈から、地元食材や備品などの調達先として別の可能性が出てくるでしょう。

 

ディズニーのマジックバンドやドバイパーク&リゾーツ、顧客体験の質高める仕組み作りを

――IR産業で、注目している事例はありますか?

上野 ラスベガス系のIRオペレーターは食品ロスへの取り組みとして、ラスベガスで捨てられる食品を飼料やバイオ燃料として再利用しています。廃棄料理を瞬間冷凍させてネバダ州の貧困層へ届ける取り組みもあります。大阪・夢洲でも医療やヘルスケア産業の育成の観点で、マリーナベイ・サンズのメディカル事業が参考例になるでしょう。診療所施設を24時間開いているほか、医療ツーリズムとして1週間ほどの医療ツアーや、連携病院での高度医療の提供をしています。

データ活用ではIRではありませんが、海外のディズニーワールドの「マジックバンド」も面白い事例です。2013年から提供され、既に1,100万人以上が利用しています。ディズニーワールドの来場者の自宅に、事前に個人情報(誕生日、クレジット情報など)を登録したバンドが届き、園内で手にはめると、すれ違うキャラクターが「誕生日おめでとう」と言ってくれたり、レストランで歌を歌ってくれたりする。キャッシュレスで買い物もできます。旅行中だけでなく、その前後の経験価値も高めることができるのです。マジックバンドそのものは、アクセンチュアがディズニーと一緒に開発しました。来場者の膨大なデータを蓄積、分析し、クロスセルやアップセルに活かしていく仕組みです。

――テクノロジーを利用して顧客体験を変えていく取り組みですね。

上野 キャッシュレス決済のほか、ホテルの部屋の鍵になったり、パーソナライズされたその人のためだけの演出をしたりという顧客体験につなげられます。

また、2016年にオープンしたドバイパーク&リゾーツでは、UAEの通信会社エティサラートとアクセンチュアが連携して来場者のデータを蓄積し、1回のみではなく継続的に来てもらう仕組みを構築しています。これはデジタルの仕組みというよりもカスタマージャーニーを通したコンセプト作りが肝です。

――こうした顧客体験向上については、テーマパークでの取り組みが進んでいるのですね。

上野 こうした仕組みを国内専門事業者と一緒に構築すると、国内IRのエリア内だけでなく、IR外の地域経済圏全体で使えれば価値が高まるでしょう。将来的にはバンドでなく、アプリや顔認証になる可能性もありますが、子供は物があったほうが喜ぶかもしれませんね。こうしたデータは蓄積し、分析しながら継続的に客に来てもらえる仕組みを作っています。日本の事業者やメーカーは、このような仕組み作りは得意ではないかもしれませんが、そこを克服しながらやっていくといいと思います。

 

記事作成:中山 佳子

プロフィール:

上野正雄 アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター

リテール・ホテル・空港/航空・物流・通信・PEファンド等の業界において、M&Aや、ターンアラウンドを数多く経験。航空会社やPEファンドの投資先に暫定経営陣として参画し、Value Creation/EBITDA改善を実現した経験多数。国内IRにおいては戦略的・包括的に民間企業を支援。近年はデジタルSCMやデジタル・トランスフォーメーション等も推進。BCG、 AlixPartners等を経て現職