【建設テック】繊維からIoTへ、生体情報をもとに建設現場の安全を次のレベルに 伊藤瑞喜 ミツフジ株式会社執行役員

2020.03.18 エキスパート

建設業界において、設計・施行・メンテナンスなどを含めた領域のテクノロジーやサービスの導入が進み、「建設テック」と言われ新しい潮流になっています。設計におけるCAD、測量におけるドローン、施工現場のロボット利用を始め、BIM(Building Information Modeling)ソフトなどの統合的なIT活用があり、米国を中心にスタートアップも目立っています。

日本の建設業界の市場規模は大きく、世界第3位の約50兆円と言われています。しかし、少子高齢化などの影響で労働者の減少が見込まれ、現場作業員の高齢化や多国籍化が進む中で、生産性をいかに上げていくかが大きな課題となっています。また、IT化の遅れが目立つほか、業界特有の体質でスタートアップによる建設テックの導入はなかなか進んでいません。

こうした中で、建設業界では新しいアプローチとして、ウェアラブル製品によって労働者の健康データを収集し、建設現場での安全管理などにつなぐ取り組みをしているミツフジの伊藤瑞喜氏に、今後の展望や課題等について伺いました。

 

西陣織からウェアラブルIoT製品開発へ

――現在はIoT、ウェアラブルに取り組まれていますが、御社はもともと繊維業から発展した歴史ある企業ですね。

伊藤 1956年に西陣織の帯工場として創業しました。着物産業の斜陽化に伴い帯が売れなくなる中、1990年代に機能性繊維に着目し、独自の技術で開発した銀の糸を使用した防臭や抗菌の効果のある靴下や、電波を通しにくい性質を生かしたマタニティ用のエプロンなどのコンシューマー向けのプロダクトを提供しておりましたが、2012年ごろからは銀の持つ導電性に着目し、ウェアラブルIoTの会社として事業転換をいたしました。心臓から得られるバイタルデータをリアルタイム且つ連続で集め分析することで、今まで数値化出来なかったストレスや熱による体調不良など、人間の様々な状態の変化を捉える挑戦をしています。将来的にはてんかんの発作なども予測することができると考えています。

バイタルデータを使ったサービスを提供するプラットフォーム「hamon」は、センシングの繊維・ウェア、トランスミッター、アプリ、クラウドを自社で手掛けており、ワンストップで提供しているからこそ様々な企業に適した提案ができています。

 

ウェアラブルにより、建設現場の体調リスクを検知

――ウェアラブル「hamon」については、実際にはどのような使われ方をされているのでしょうか。

伊藤 利用数が相対的に多いのは建設現場における労働者の見守りが目的です。特にここ最近では、暑熱環境下におけるリスク管理の需要が多いと感じています。作業者が着用したウェアを通じて生体情報を取得し、位置情報もあわせることにより、誰がどのようなコンディションなのかを監督者とともに把握することが可能です。

事故や体調不良が起こりやすい原因を特定するためのデータ蓄積を行っているのが現状です。これまで、ウェアラブルデバイスから得られる生体データにより、今まで見えなかったリスクを可視化させ、事前に事故防止策を講じることができるようになります。

その他、心拍から得られるデータからストレスを可視化し、これまで人の感覚に頼っていたストレスの評価を客観的に知る新しい取組みも行っています。

某航空会社はストレスによる退職・休職者を減らすという経営課題に対して、弊社のストレス可視化ソリューションを使った取組みを実践されました。

最近の事例では、保育園児の見守りとしての利用が始まり、保育園児の体調を継続的にチェックしています。うつ伏せになったらアラートが鳴る仕組みも提供して、これまで目視で行っていたうつ伏せチェックもデジタル運用を組み込むことで、ヒューマンエラーを防いだり、保育園のスタッフの作業負荷軽減にもつながると信じています。

 

医療機器としての可能性。高齢者や外国人が増える建設現場での拡大を見込む

――心拍データの傾向から健康状態の予測をするということですね。医療機器としての活用の可能性も感じますね。

伊藤 ウェアラブルデバイスから得られるデータを医療の現場でも活用する取り組みや挑戦は世界的に始まっています。ミツフジはAMED先端計測プログラム事業のメンバーとして、てんかん発作予測用ウェアラブル電極シャツの提供を行っています。

国内で100万人は患者がいるといわれるてんかんの発作への不安に苦しむ方に少しでも安心して暮らせることへの一助になることが我々の強い思いです。

――心臓のデータから様々な病気が分かる可能性があるのですね。

建設現場での提供については、今後どのように広がっていくとお考えですか?

 伊藤 確実に導入は広がっていくと思います。2020年の様々なイベントを契機として建設関連の増加、労働者の高齢化、外国人労働者など、働き手や働き方の多様化は需要を広げる背景の一つになると考えています。

体調不良になる条件や、安全管理基準の線引きがより複雑化することが予想される中で、リスク管理の多様化が必要になります。

まさに、個々人のバイタルデータを元にしたウェアラブルデバイスによるソリューションはリスク管理を次のレベルにすると信じています。

「労働者一人一人の価値」が高まっていく現在において、このような新たな管理をすることが企業価値に直結すると思います。

 

バイタルデータカンパニーとして生体情報サービスを展開

――ウェアラブルとしては、銀めっき導線性繊維を織り込んだ着衣型なので、現場での利用も促進しやすいですね。他企業との連携も進められていますが、御社のビジネスとしてはハードウェアの提供が中心になるのでしょうか。

 伊藤 我々はワンストップのウェアラブルIoTカンパニーとして、ハードウェアも重要視していますが、様々な企業に提供できる共創の価値として「連続した生体情報」及びそこから生み出される「アルゴリズム」に注力しています。

ハードに関しては、着心地が良いだけでなく、データが取りやすいウェアはもちろん、ウォッチタイプも含めて様々なデバイスと連携できる仕組みも準備しています。

また、ハード・ソフトなど我々が提供できるソリューションはどの部分でも、協力企業様が使っていただける「オープンプラットフォーマー」としてのスタンスを取っています。

――ちなみに、ウェアから心拍データが取れる銀めっき導線性繊維は御社しか作れないのですか?

伊藤 導電性に優れた銀の糸は世界でも数社しか作れません。弊社の糸は独自の技術により、100回洗濯をしても高い導電性を保つため、性能が落ちにくいことが特徴です。

繊維は我々のストロングポイントの一つではありますが、先に述べましたようにオープンな連携をできることを重視にしているので、仮に他に良い素材があれば、積極的に採用していくような柔軟性も大事にしています。

――繊維の製造からIoTのサービス提供まで一気通貫にビジネスを構築されている中では、どこが重要だとお考えですか。

伊藤 テクニカルなところでは、IoTプラットフォームを作る上でのシステムインテグレーションとサービスモデルの構築が重要だと思っています。我々がデータを吐き出すプレイヤーができることは、アラートを鳴らしたり、状況を知らせるところまでです。

リスクを察知した後のサービス提供のニーズは様々であり、顧客によって変わりますので、

ひとつのサービスを作り上げて広げるのでなく、様々な企業様と一緒にサービスをカスタマイズしながらつくりあげて提供していきたいと思っています。

――御社は建設テックというより、生体情報やウェアラブルなどが本流にみえますが、自社をどういった企業としてとらえていらっしゃいますか?

伊藤 繊維を祖業としていたミツフジですが、今は「バイタルデータカンパニー」と自らを定義しています。

生体情報のローデータや、それを元にした様々なリスク等を可視化する仕組みを必要な方に提供していくことで、世の中の不安や不具合などを少しでも減らし、様々な社会課題を解決することを目的としています。

 

バイタルデータ活用による市場拡大、課題は個人情報保護

――バイタルデータ活用における市場拡大の課題はどのようなことでしょうか。

伊藤 課題は個人情報の扱いです。バイタルデータの扱い方についてはセンシティブな領域であり、当然扱い方には細心の注意を払わなくてはいけないところですが、世界の動きは日本とは異なるスケールで動いているので、国や企業が手を取り合ってとり残されないようにチャレンジしなくてはいけません。

また、データ活用をすることで何ができるのかを、ユーザーも含めて正しく理解することが必要です。

流行り言葉なっていますが、ビッグデータやAIは万能薬ではないし、それだけでは意味を成しません。

当たり前の話ですが、どこに課題があって、その課題に対するアプローチの一つとして、データやテクノロジーがあるということを理解しなくていけません。

月並みですがもっとも大事なのは、ストーリーを作り、語れることが重要になってきます。

ミツフジのウェアを通じたIoTサービスで、これまで人類が体験したことがない24時間心臓などの「連続した生体データ」を取得できることが可能となりました。

そのデータから、見えないリスクを可視化したり、これまでにない事故などの防止策を提供することによって、生活者の安心を次の時代に移行する一役を担えればと思います。

世の中を変えるのは、政治でも法律でもなくて、「このような世の中をつくりたい」という思いと、ほんの少しのテクノロジーだと思っています。

記事作成:中山 佳子

 

プロフィール

伊藤瑞喜 ミツフジ株式会社執行役員

2006年 株式会社電通入社 2012年同社官公庁(財務省、文科省・スポーツ庁、内閣府)の事業コンサル及びマーケ領域を担当。2018年よりミツフジ株式会社に入社。経営企画・プロダクト/サービス開発に従事。