【クレジットスコア】所有の概念や資産の考え方も変わっていく。クレジットスコア普及のために必要な、オープンな「金融エコシステム」 長澤啓 メルカリ執行役員CFO

2020.02.07 エキスパート

近年、中国ではAlibabaが展開するAlipayの使用履歴などに基づくクレジットスコア「芝麻信用」が大きな社会的影響力を持ち始めています。また、米国では以前よりクレジットスコアがローンやクレジットカードの審査など以外でも活用されています。日本でも、主に金融機関向けサービスとして提供されてきた信用情報を、金融機関以外の各種サービスへ利用することで、新たなビジネス、サービスが拡大することを期待する声も高まっています。

2019年2月からスマホ決済サービス「メルペイ」開始により日本独自のクレジットスコアのスコアリング確立に取り組んでいる株式会社メルカリの長澤啓執行役員CFO。2020年1月23日、メルペイによるOrigamiの買収の発表を受け、さらなる競争激化や再編加速も予想されるキャッシュレス決済業界ですが、長澤氏に日本におけるクレジットスコアの普及の課題と展望をお伺いしました。

 

これまでは個人のクレジットスコアの必要性が低かった

―― 海外に比べて日本においてクレジットスコアが広がっていない理由は何でしょうか。

長澤 そうですね。やはり一般論になりますが、信用創造に対する個人レベルの意識が希薄だからだと思います。

日本では終身雇用制度が基本的に守られてきました。この制度の下で、例えばクレジットカードの審査を受ける場合は、勤務先の社名・社歴・事業内容と本人の勤続年数・年収などでクレジットスコアが測られてきました。この環境があったので、個人が信用を意識する必要はほとんどありませんでした。これは商品提供側も同じでした。

ところが転職の一般化での人材の流動化、会社員ではなくフリーランスや起業家の増加による職業多様化などにより、2010年頃から終身雇用制度が実質的に崩壊しました。

このため、勤務先の属性に替わるクレジットスコアが必要になっているのですが、消費者側にはそうした意識がまだほとんど芽生えていないので、両者のギャップの深さがクレジットスコアが普及していない要因になっているのではないでしょうか。

 

個人の「信用格付け」のようなスコアリングシステムは、日本にはなじまない

―― クレジットスコアに対する個人の意識喚起には何が重要だとお考えでしょうか。

長澤 3つあると思います。

1つは、個人情報収集に関する抵抗感の緩和です。日本人の場合は、これまで第三者から自分の信用をスコアリングされる習慣がなかったので、俄かにスコアリングされるとなると、抵抗感がものすごく強いと思います。ECサイトで商品を買う、メンバーシップの会員になると言った際、近年はサービス提供側が信用創造のために個人属性データをかなり詳しく集めます。そしてデータを活用して深くターゲティングといった傾向が強く、それが嫌でECサイトやメンバーシップなどの会員になるなどを嫌う一般消費者が多い現状があります。この抵抗感を和らげるためには、個人情報保護の法的範囲の明確化、特定の個人識別ができないように個人属性データを加工する「匿名加工データ」の法制化などが必要だと思います。

2つ目は、日本独自のソフトなクレジットスコアシステムの開発です。例えばアメリカのように、クレジットスコア=個人の「信用格付け」のようなスコアリングシステムは、日本の文化になじまないと思っています。日本では純粋に商品購入の信用創造となるソフトなクレジットスコアが必要だと思います。

3つ目は、消費行動データの不正使用防止です。一般消費者の購買履歴や消費行動データを第三者へ提供するレジットスコアモデルにおいては、例えば中国のアリババのスマホ決済サービス「アリペイ」のように、クレジットスコアの評価ポイントをあげるため購買履歴を水増しする、業者が本人に成りすましてスコアリング事業者のサイトにログインしてクレジットスコアの評価ポイントを底上げするなどの不正が横行し、社会問題化しています。このような不正行為を完璧に防止する仕組みが必要です。

 

クレジットスコア普及のためには、囲い込みではなくオープンなプラットフォームが必要

―― 今挙げられた3つの対策が日本で整備されたとして、日本の消費者がクレジットスコアを活用していくメリットは何でしょうか。

長澤 これについては一般論をお話しても具体性がありませんので、2019年2月からサービスを開始させていただいた弊社のメルペイに則してお話させていただきます。

メルペイの目的は、お客様がご自分の不要品を「メルカリ」でお売りになった売却金を「メルカリ」での商品購入はもとよりコンビニ、ドラッグストア、飲食店など全国のメルペイ加盟店さんでの代金支払いにシームレスにご利用いただくことにあります。

つまり、お客様がメルペイを持っておられたら、一般のペイメントシステムのように面倒な入金・チャージをしなくても、メルペイ残高の範囲内で購入のキャッシュレス決済ができます。換言すれば、仮に銀行口座の残高がなくとも、メルペイ残高が十分あればお買い物ができる訳です。

―― 「メルペイ」の拡大においても、フリーマーケットとしての「メルカリ」を運営していることが効果的に働くということですね。

長澤 「メルカリ」での不要品売却した会員様には、「メルカリ」でもっと不要品購入をしていただきたいですし、メルペイ加盟店さんの代金支払いにおいては「メルカリで不要品を売ってキャッシュレス決済をしよう」とのモチベーションが高まることで、会員様の信用創造が促進され、その結果としてキャッシュレス決済の普及を期待しています。

―― 今後、どのように促進されていくのでしょうか。

長澤 「メルカリ」は二次流通のプラットフォームで、ここでの会員様の履歴データを匿名加工してクレジットスコアのスコアリングが可能になります。ここにメルペイにより一次流通の購買履歴データも得られるようになります。このデータを含めてデイリーの消費活動に多面的に関わっていくことで、精緻な信用スコアリングが可能になります。さらに、こうして創造されたメルペイの匿名加工データをオープン化することで、加盟店さんは集客・売上拡大機会が増加し、そうしてさらにデータが蓄積されます。弊社はこのエコシステムを構築していくことで、世の中全体のクレジットスコア普及促進に貢献したいと考えているのです。

―― クレジットスコア普及促進のキーファクターは何でしょうか。

長澤 それは様々な業種業態の提携企業さんがWin-Winの関係で参加するオープンな「金融エコシステム」の構築だと思っています。

これまでは「○○経済圏」として、プラットフォーム上に自社商品やパートナー企業さんの商品を載せ、お客様にワンストップの利便性を提供することでプラットフォーマはパートナー企業との共存共栄を図ってきました。ただし、この取り組みは顧客囲込みの域を出ず、お客様主体のプラットフォームではないと考えています。

オープンなエコシステムを構築していくことで、お客様はいつでもどこでも買い物ができ、そこにクレジットスコアでの与信枠を活用できる。キャッシュレス決済が可能なだけではなく、口座にキャッシュがなくても信用で購入できるようになります。

これまでも、アパレル製品を買うにあたって、まずメルカリでの流通価格を調べてから購入するという人も増えています。メルカリで多く取引されているメーカーの一つがユニクロなのですが、メルカリでの二次流通の価格の情報を活用し、購入を決める。さらに、オンラインの加盟店では服を買った瞬間に、ワンタップ出品もできます。結果として二次流通での価値がわかることで、新品の購入を後押しすることにもなる。

二次流通がスムーズになることで、資産のとらえ方も変わっていく、物の所有の概念も変わっていきます。メルカリの中で信用を得られた人は、購入するようになるし、メルカリで売って返済していくようになる。クレジットスコアは、借り入れのためという枠組みを超えて活用が進み、家にあるものが資産として可視化されてクレジットにも反映されるような状態を目指したいです。

―― クレジットスコアの普及における課題は何でしょうか。

長澤 クレジットスコアの普及への課題はユースケースがあまりない、アプリケーションがないということが大きいと思います。信用データがオープン化されアプリケーションに実装していくプロダクトを作っていく必要があります。

ユースケースとして想像しやすい範囲でいうと、精緻な信用スコアリングが可能になると、金融以外では例えば広告ビジネスでもターゲティングで使っていけるようになり、より正確なリコメンドが可能になります。

 

メルペイが目指す金融エコシステムの構築。公共サービスもキャッシュレスで

―― 1月23日にOrigamiの買収を発表されました。メルペイの今後の展開について注目が集まっていますが、お考えを教えてください。

長澤 今後も、金融エコシステムのプラットフォームとしてのメルペイ基盤拡大を目指していきます。Origamiの買収については、発表にある通り、信用金庫のネットワークを活用して地域の中小事業者などに加盟店をひろげていきます。また、公共サービスへの導入にも注目しています。トラストバンクさんとの業務提携で、同社運営のふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」をメルペイでご利用いただけるようにします。これにより「メルカリ」会員様は「メルカリ」での不要品売却代金を使って、ご自分が応援したい自治体へふるさと納税ができるようになります。メルペイの公共サービスは今後、自然災害復旧等のための自治体への寄付、公共料金支払いなどの領域にも拡大してゆく計画です。

くわえて、信用創造においては分割払いのような与信提供サービスを更に推進していくことを考えています。メルペイを利用して買った一次流通の商品を「メルカリ」へ簡単に出品できる新サービス、「メルペイあと払い」の分割払い対応なども計画しています。

 

記事作成:福井 晋

プロフィール

三菱商事において金属資源分野における投資及び主にエネルギー、リテール、食品分野等の領域におけるM&Aを担当。シカゴ大学経営大学院を卒業の後、ゴールドマン・サックス証券にて、東京及びサンフランシスコにおいて主にテクノロジー領域におけるM&AやIPOを含む資金調達業務を担当。2015年CFOとして株式会社メルカリに参画