【デジタルバンク】フィンテック時代における銀行のありかた 森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士 増島雅和

2020.08.20 エキスパート

ITリテラシーが高いデジタルネイティブ世代は、日々の買物決済をスマホアプリで済ませるなど銀行の金融サービスを利用する機会は滅多にないと言われています。これらの世代との接点を持つため、欧米の銀行ではAI、ブロックチェーン、SNSなどを活用した「デジタルバンク」事業参入の動きが加速しています。

一方、日本でも多数の「インターネット専業銀行」が設立され、そうした世代の金融サービス需要を取り込もうという動きが見えています。
そこで今回は、金融庁での銀行監督実務を経験し、海外のデジタルバンク事業に詳しい増島雅和弁護士に、日本の都銀・地銀等既存銀行がデジタルバンク事業に参入する際の課題と展望、フィンテック時代における既存銀行の社会的役割やそのあり方についてお話をお伺いしました。

 

既存銀行によるデジタルバンク事業への参入の可能性

―― 日本の既存銀行がデジタルバンク事業に参入する余地はあるでしょうか。

増島 日本の既存銀行の場合、少子高齢化とこれに伴う人口減少を背景としたリテール部門における銀行サービスに対する需要減少という人口動態的な背景のほかに、銀行同士の統廃合が進まず市場に銀行の数が多すぎる(オーバーバンキング)という業界構造の問題があります。デジタルバンク事業への参入ということの意味が、銀行サービスのデジタル化ということを意味するのであれば、デジタルバンク事業への参入は、既存銀行の中長期的な生き残り策として検討せざるを得ない経営課題ということになると思います。

ただ、ここにいうデジタルバンク事業が、欧米で参入が相次いでいるような事業モデルを意味するとすると、まずはITのケイパビリティを大幅にアップデートしなければならないはずです。これには最新のITアーキテクチャを理解し、アジャイル開発などこれに合わせた開発手法を管理することができる人材が必要になるということはもちろん、企業文化のレベルでIT事業者としてのマインドセットを経営陣以下が共有していなければならないということも含まれます。DXに四苦八苦している現状からして、日本の既存銀行が欧米的な意味でのデジタルバンク事業に従事することができるようになるためには、もう少し時間がかかるかもしれません。

特に欧州でチャレンジャーバンクなどと言われるトレンドが日本にも訪れるのかということを考える際には、「銀行業」というビジネスの日本社会における位置づけや日本社会からの期待がどのようなものであるかということを考える必要があると思います。日本社会が「銀行業」に対して寄せている信頼やあり方というものがまずあって、銀行業ライセンスの付与政策やさらに大きくは銀行制度のデザインといったものが立案されていくという関係にあるためです。

デジタル化は銀行業のみでなく、貸金業や割賦販売業、電子マネーを取り扱う前払式支払手段や資金移動のビジネスを含む、すべての金融セクターに及んでいます。これらのビジネスはある意味もともと、銀行のビジネスをアンバンドルしたビジネスで、現在はこうしたアンバンドルされた多数のビジネスを、デジタル技術によってつないでいけば、従来の銀行が行っていたビジネスに近いビジネスを作れてしまうわけです。
そのようななかで、さらに銀行業について、デジタルバンクという既存銀行とは別の業態を観念して、人々が「銀行業」に対して抱く期待や社会の位置づけを動かしてまで、銀行ライセンスの付与政策や監督実務、さらには制度の変革を試行するのかどうかということだと思います。

 

―― デジタルバンクに対するライセンス付与は、今はどうなっているのでしょうか。

増島 日本ではデジタルバンクに特化した銀行業ライセンスやライセンス審査の枠組みがあるわけではなく、デジタルバンクを志向する事業者が銀行業免許を取得するためには、従来から銀行法に定められた要件を満たしたうえで、健全かつ持続可能なビジネスモデルであることを示していく必要があります。
先ほど触れた中長期的な需要減少とオーバーバンキングの状態のなかで、事業者から提案されるデジタルバンクが人々にどのような新しい価値を提供するのか、ということが免許の審査にあたって考慮されることになります。銀行免許の付与はすなわち、銀行業への新規参入許可であり、人々に新たな価値を提供するという意味で革新的な事業モデルを持つデジタルバンクの参入が、銀行間の競争を活性化させるということを、金融庁としても考えて免許の審査をしているということです。この点はローソンやLINEなど、非金融業からの参入についてもそうですし、ふくおかフィナンシャルグループの「みんなの銀行」など、既存の銀行業界からの参入についても同様だと思います。

これに対して海外では、デジタルバンクを意識して、従来とは異なるライセンス付与の枠組みを構想する国もあります。

例えば英国では、大手銀行による市場の寡占化が進んでおり、こうした市場環境に対して、銀行間の競争を促すため、新規参入者に対して銀行免許を付与するということを政策的に進めています。先ほど少し触れた「チャレンジャーバンク」というカテゴリーがこれにあたります。また、シンガポールのように実店舗を持たない銀行ライセンスを一定数付与するという政策決定のもと、これに応募してくる事業者とライセンス交渉をするという形態をとる国もあります。

 

デジタルバンク事業のビジネスモデル

―― 日本に欧米とは異なる市場環境のもとで、デジタルバンクに特化したライセンスという政策がとられるわけではないとすると、デジタルバンク事業普及のドライバーは何になるのでしょうか。

増島 デジタルバンク事業の将来像を考える場合、「銀行業のライセンスをどのように使うのか」ということを明確にして議論を進めるべきだと思います。

まず、デジタルバンク事業者が自らリテール顧客に対してサービスを提供するという形で、銀行業のライセンスを使うことを考えるケースがあります。これまでのお話は、主にこのケースを念頭に置いています。既存の銀行はどれも基本的に、自らリテールの顧客をもって、自分の顧客に銀行口座を開設し、様々な銀行サービスを提供しつつ、証券会社や保険会社などと提携して他の金融サービスを提供するということをしていますね。このモデルをデジタルのパラダイムでリプレースするというのが、これまでのお話の文脈でした。

こうした文脈では、ITに強みを持っていたり、市場の「面」をとっているという強みが差異化の要因となって、これまでの銀行が提供できなかった新たな価値を顧客に提供することができ、銀行業への新規参入を果たすことができるというわけです。したがって、この文脈のもとでのデジタルバンク事業は、非金融とりわけITに強みを持つ事業者グループに優位性があります。逆に既存の銀行がこうした領域を攻めようとするのであれば、大きな企業文化の転換を伴う必要があるでしょう。

現状のビジネスモデルを崩してまでデジタルバンク事業に参入するのは難しいということであれば、デジタルバンク事業に従事する専業の銀行を子会社などに持つことによって、デジタルバンク事業に参入することが考えられます。また、デジタルバンク事業に不可欠な先端テクノロジーや企業文化を自ら持ちえないとすれば、こうしたものを持っている事業者と組んで、すなわちジョイントベンチャーの方式でデジタルバンク事業に参入するということが考えられるでしょう。実際、先ほど触れたLINEの銀行業参入はみずほ銀行との合弁プロジェクトです。GMOの銀行業参入もあおぞら銀行との合弁によるものです。

日本において、既存銀行によるリテール顧客を相手とするデジタルバンク事業への参入ということを考える場合には、こうした子会社方式やジョイントベンチャー方式による参入がドライバーとなるでしょう。

 

―――なるほど。海外ではチャレンジャーバンクという形で新興企業が単独で銀行ライセンスを取得して展開するわけですが、日本ではIT事業者と既存銀行がタッグを組んで銀行ライセンスを取得するというわけですね。

増島 はい、その通りです。日本社会において銀行は、人々から強い信頼を勝ち得ていて、これは既存銀行が築いてきた大きな財産です。海外では銀行はもっと人々に嫌われているような面があり、新しいプレイヤーが社会の後押しを受けて既存の銀行をディスラプトするというナラティブが一定成り立つのですが、日本は必ずしもそうではないと考えています。これまでの銀行業界と金融当局の努力によって、日本の銀行は利用者に安定的な金融インフラと高い安心感を与えることに成功してきたといえます。これは本当に大きく重要な銀行業界のレガシーです。だからこそ、デジタルバンクという新たなパラダイムが訪れても、既存の銀行は単に淘汰されるのではなく、培ってきた安定性や業務に対する信頼感という、IT事業者には一朝一夕には得ることができない不可欠な機能を求めて、新規参入者が既存の銀行とタッグを組もうという流れになるのだと思います。そして金融行政も、このような協業モデルに日本のデジタルバンク事業のあり方の一端を見出しているのだと思います。

 

―― デジタルバンク事業普及のドライバーとして、ほかにどのようなモデルが構想されているのでしょうか。

増島 もうひとつのデジタルバンク事業のモデルとして、銀行は銀行にしかできないことに特化して、それ以外の部分はそれが得意な他の事業者に任せていくというモデルが構想されています。Banking as a Service略してBaaSなどと呼ばれているモデルはこれに当たります。

このモデルでは、銀行は口座提供や与信など、厳格な資本規制のもとで認められた銀行ならではの機能を発揮することに集中します。銀行は、これらの機能をAPIを通じて外部事業者が自らの顧客に提供することができるような仕組みを整えます。
外部事業者として典型的に想定されるのは、既にデジタルを接点としてユーザーを獲得しているアプリ事業者などです。アプリ事業者は、たとえば短期アルバイトのマッチングサービスであれば、大学生やフリーターなどのユーザーを多く抱えていますが、こうしたセグメント化されたユーザーに対して、自社サービスと相性の良い貸付サービスを提供したいと考えたとします。この場合、アプリ事業者は、銀行の口座開設機能や与信機能を「借り」て、自社アプリ上で手続きを完結させるバンキングサービスを提供することができます。ユーザーは、口座開設や借入れに当たって、アプリ事業者に対して、自身のアプリ上でのアルバイトのマッチング履歴や、給与の支払履歴など、アプリ事業者が収集したユーザーのデータを銀行に提供することを許可することができます。そうしますと、アプリ事業者の蓄積したユーザーデータが、APIを通じて銀行に連携され、銀行はこれらのデータをもとに口座開設や貸付の審査を行うことができます。銀行が取引を承認し、口座開設や貸付をすれば、これらの口座情報は銀行のAPIを通じてアプリ事業者に連携され、ユーザーはアプリの画面上で口座残高をみることができます。口座からの支払いも、アプリ業者の提供するマッチングアプリからできてしまいます。当然、アルバイト給与の振り込みもこの口座で受けられれば、さらにアプリとしての利便性も高まるでしょう。

こうしたモデルを構想して、たとえば口座開設に必要な犯収法上の取引時確認機能を銀行に対してAPI提供する事業者も現れています。与信に当たって行動データを分析してスコアリングするための機能を提供する事業者、デジタルな債権管理機能を提供する事業者といったものも想定されます。このように、銀行が、銀行ライセンスもとでのコア事業である預金受け入れ(預金口座開設)と貸付、為替取引という機能を提供し、ユーザーインタフェースやKYC、信用スコアリングや債権管理といった機能を外部の事業者から提供を受けて、これらをAPIを通じて連携することによって、エンドユーザーに対して摩擦のないデジタルな金融体験を提供することができます。こうしたモデルを期して、銀行のサービスや機能をデザインしていく、そのような銀行モデルは、もう一つの有望なデジタルバンク事業としての姿です。

銀行がコア業務に集中するという点で、既存の銀行が取り組みやすいモデルにも見えますが、他方で、これは銀行口座というデジタルマネーのウォレットをコア機能とした新たなエコシステムを構築していくというモデルです。APIを通じて多くの事業者と連携していくことが想定されており、事業者のオーケストレーションの能力が問われることになります。こうしたものを既存の銀行が自ら行うコンピテンシーがあるのかというと、やはりそのためにはDXがどうしても避けられないということになるのではないかと思います。もっとも、実はこのオーケストレーションを一つのレイヤーとみて専業に構える事業者も出てきており、こうした事業者と組むことによって、よりスムーズにデジタルバンク事業に入っていくというシナリオもあり得るのではないかと思っています。

 

デジタルバンキング需要に応える規制のキャッチアップ

―― そうすると、5年以内に銀行のデジタルバンキングが普及する可能性はあるのでしょうか。

増島 普及のスピードは需要面と規制面の双方を検討する必要がありますが、客観的に見てその可能性は十分にあると思っています。

まず需要面について、少なくとも日本のデジタルネイティブ世代の大半は、デジタルバンキングを抵抗感なく受け入れるだろうと思います。彼らはそもそもスマホを通じて欲しいものを簡単にすぐ欲しいという基本的な欲求がありますので、彼らにとって便利なデジタルバンキングのサービスがあれば、あえて伝統的な銀行サービスを使う理由は乏しいでしょう。

また、このユーザー層はこれから資産形成をしてゆかなければいけない層でもあるので、デジタルバンクに対する需要が本質的にあるとも思います。重要なのは、ユーザーインタフェースになりますので、彼らが普段利用しているサービス、特にアプリにどれだけアプローチすることができるかでしょう。

それからデジタルネイティブ世代よりも少し前世代も、例えば年金問題などの影響でライフスタイルの見直しやマネーに対するリテラシーの向上が必要といわれている層なので、特に資産防衛の観点から金融ソリューションが求められているといえます。デジタルのリテラシーが高い人も一定程度いますので、こうした人にも同様のアプローチをすることもありうると思います。

 

デジタルに疎い層やそれ以上の世代の層は、課題は同様であるものの別のアプローチが必要でしょう。これらの世代には特に、安心感が顧客価値の重要部分を占めるはずですので、オンラインとオフラインの接点を駆使してどのようにユーザーエクスペリエンスを高めていくかということが問われるでしょう。

いずれにしても、デジタルであること自体が価値なのではなく、良い顧客体験を提供することが価値であり、そのためにこれまでアナログに手間暇をかけて行ってきたことをデジタルとアナログの融合によってどのように実現し、これまで以上のWow体験をデザインするかという点が真の課題です。

次に規制面ですが、いくら構想があり需要があったとしても、銀行ビジネスは規制ビジネスですから、新しいモデルを許容するよう規制がアップデートされなければ、絵に描いた餅に終わってしまいます。その意味で、規制デザインが非常に重要なわけですが、幸いなことに規制のアップデートは、こうした構想を実現する方向で概ね見通しが立っています。まず開設した銀行口座の動きを顧客が他の事業者のアプリを介して見たり、また他の事業者のアプリを介して口座内の預金を動かしたりすることは、既にできるようになっています。そのためにアプリ事業者が取得する資格は、電子決済等代行業という資格で、これは2018年から施行されています。

また、ユーザーがアプリ事業者のアプリから銀行口座を開設したり、銀行借り入れをしたりできるためのアプリ事業者の資格として、2021年から金融サービス仲介業という資格が新設されます。この資格は、銀行のみならず証券会社や資産運用会社、貸金業者や保険会社が提供する金融・保険サービスを横断的に取り扱うことができる資格で、BaaSをはじめとするオープンなサービスとしての金融を展開する肝となる資格です。金融機関や保険会社のなかには、この資格が持つ大きなポテンシャルをまだ十分に理解できていないところもありますが、早くキャッチアップして対応を検討するべき規制パラダイムだと考えています。

 

―― 大都市圏以外の地域では人口減少問題がすでに深刻化しつつあるのですが、この地域の金融サービスを中心になって担っている地方銀行の場合、デジタルバンク事業参入はメリットになるでしょうか。

増島 地方銀行の課題は、いうまでもなく地域人口の減少に伴うものですが、個人向け分野では顧客の高齢化への対応、事業者向け分野では地域産業の活力低下への対応という形で課題が顕在化しています。既存の銀行サービス事業では収益確保がだんだんと厳しくなってきており、店舗統廃合などのリストラ実施で規模最適化の生き残りを模索している地方銀行が少なくない訳ですが、これが銀行サービスの質の低下要因になり、銀行利用頻度が低下するといった悪循環に入ってしまいます。

地方銀行の課題解決とデジタルバンキングというテーマをつなげて考えるとすれば、第一に、顧客接点をどのようにデザインし直すかということが挙げられます。これはすなわち、これまでの店舗に代わる顧客接点の開発のために他業態とどのようにコラボレーションするかということを意味します。これにはさらに、他業態の開発した顧客接点をどのように活用するかということと、銀行自身が開発した顧客接点をどのように他業態に開放していくことによって価値を高めていくかかという二つの視点から考える必要があるでしょう。

第二に、こうしてリデザインされた顧客接点において、どのような顧客体験をデザインするかということが挙げられます。金融業界における従来のマーケティング用語でいえば、第一がチャネルの課題であるとすると、第二はサービスの課題とも言い換えられるでしょう。サービスの設計という観点からもやはり重要なのは、どれだけ顧客目線で考えられるかということです。
金融において真の顧客目線を追求しようとすると、それは実は非金融のサービスとどのように連続的なものとして提供することができるかというところに行きつきます。深遠なことを言っているようですが、もともと金融は非金融の取引からお金まわりやリスクまわりの部分を切り取ってできているサービスですから、顧客が本当に欲しいのは何なのかということを突き詰めて考えたときに、非金融なソリューションに行きつくことはある意味当然なことであります。銀行の業務範囲規制が改正されて非金融のソリューションを提供することができる範囲が広がってきていますが、こうした規制の改革によって可能となった非金融のソリューションに地方銀行が取り組むことは、理にかなっています。

以上が顧客に提供するバリューの観点から地方銀行が取り組むべきことということになりますが、この2つのどちらについても、これにデジタルの要素をどのように組み合わせることでより大きな価値を顧客に提供することができるかという視点を持つことが必要です。
デジタルとアナログ、オンラインとオフラインをどのように融合して、顧客に提供できる価値を最大化するかというテーマは、先ほどから強調しているとおり、デジタルバンキングの要諦です。その意味で、地方銀行にとってのデジタルバンキングのテーマとは、現在地方銀行が抱えている課題を解決することと同一線上にあるということになります。

 

記事作成ː福井 晋

 

<参照資料>

  • 金融DXフロンティア/digital FIT

https://fit.nikkin.co.jp/post/detail/db0040

 

増島雅和 

森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士