【デジタルマーケティング】BtoBマーケ×AI活用の可能性は? 経験と勘頼みからの脱却へ DataRobot Japan・シバタアキラ 

2020.09.09 エキスパート

デジタルマーケティングのAI活用に取り組む企業が増加しています。AIを活用することで、収集した膨大なデータの分析を自動化し、複雑化する消費行動を的確に予測できるようになるからです。そこで今回は、AIを用いた顧客データのモデリングに詳しいDataRobot Japan チーフデータサイエンティストのシバタアキラ氏に、BtoBデジタルマーケティングにおけるAI活用の可能性とそのメリットをお伺いしました。

従来ツールの限界を突破した「AIマーケ」

――デジタルマーケティングのAI活用に取り組む企業が増えている背景は何でしょうか。

シバタアキラ氏(以下、シバタ)従来のマーケティングツールはデータ分析の粒度が粗いため、分析結果から消費行動の的確な予測をするには、RFM分析を始めとするデータ分析の専門知識と経験を持ったマーケターでなければほぼ不可能でした。しかし、このようなマーケターがいる企業はごく一部に限られています。

このため、例えば自社顧客の購買行動データから売上予測とそれを達成するためのマーケティング施策を策定する際、購買関連データの分析と属性データでクラスター分析をしても、その分析データをもとに売上計画を達成するための具体的な施策は、率直に申し上げてマーケターの経験と勘に頼っていたのが実情です。

正確な売上予測に必要な要素が実際の営業活動からは取得できないケースが大半で、変動要素が多いのが通例のため、従来のマーケティングツールではどうしてもデータ分析の粒度が粗くなってしまうのです。したがって、この粒度の粗さをマーケターの属人的スキルで補足していた訳です。ということは、売上予測に基づくマーケティング施策も属人的スキルに依存せざるを得ません。

このような背景があるので、従来のデジタルマーケティングでは「当たるも八卦、当たらぬも八卦」的なマーケティング施策にならざるを得なかったと言えます。

しかしAIを活用すれば、変動要素を採り入れたデータ分析ができ、分析の粒度が高まるため、データ分析から売上達成のためのマーケティング施策策定までの流れが一気通貫で可能になります。これにより、マーケターの属人的推測や憶測を排除できます。

その結果、現状の可視化やAI分析モデルを活用した未来予測、それを踏まえた施策整備などが可能になります。

これによりマーケティング施策の最適化と効果最大化も可能になります。これが様々なユーザー事例で実証されてきたことから、デジタルマーケティングのAI活用に取り組む企業が増えきたのだと思います。 

AIはデジタルマーケティングの予測ツールにしか過ぎない

――BtoBデジタルマーケティングにおけるAI活用は、今後5年間でどれだけ普及するでしょうか。

シバタ 私はマーケットリサーチャーではありませんが、大きく普及する可能性があると思います。

BtoCマーケティングと異なり、 BtoBの場合はマーケティングよりフィールド営業部門が行うターゲティングの方が重要になります。BtoBの場合、マーケティングは営業バックアップの販促部門などが行っているわけですから。

そしてターゲティングするために、例えば新規顧客開拓だったら、リードデータを集めるために自社Webサイトに「お問合せ欄」を作り、アクセス者からの資料請求の形で一次データを集めることになります。

このアクセスデータをCRMやMAで分析し、リードのコンバージョン率を判断するわけですが、成約率は低く、データ中の制約案件数が1桁台になってしまうこともあります。

これでは成約件数獲得計画の信頼性が低くなりますので、手前の案件化やPoC開始までアプローチできるリードをターゲットにして、フィールド営業のアプローチから見込み顧客の興味喚起までのモデルを販促部門などが作り、それをフィールド営業部門へ渡し、営業展開するのが新しいBtoBデジタルマーケティングのセオリーになりつつあると思います。

ところがこのセオリーでは、そもそもモデルをリードの一次データで作っているので、一次データとして取得しなかったデータ(例えば企業属性データなど)は反映されていません。

これを補足するため、そういった情報を専門的にデータベース化しているサードパーティ会社から購入したり、社内にある他の部門が所有するデータを追加したりすることで、意思決定の精度を挙げることが期待されています。データの次元数が増えれば増えるほど人間が正しい意思決定につなげていくための難易度は上がっていきますから、ソリューションとして、AI活用を考えるのは当然の流れだと思います。

その意味で、BtoBデジタルマーケティングにおけるAI活用が普及する可能性は十分あると私は考えています。

――AI活用によりターゲティング精度が上がるわけですね。

シバタ 間違いなく上がるでしょう。

ただ、法人営業では偶然的要素も多いのが特徴です。ターゲティング精度をあげて、リードにアプローチしても、ファーストコンタクトの相手が「たまたまその商品に興味を持っていた、たまたまそのソリューションを探していた」など、偶然的状況に依存するケースも多く、予測を難しくしています。

ですから「AIを活用すれば法人営業の悩みをすべて解決できる」という幻想は抱かないでいただきたいです。

営業活動の悩みを抱える企業は一考の価値あり

――BtoBデジタルマーケティングでAI活用に踏み切る可能性が高いのは、どんな企業でしょうか。

シバタ やはり、現状の法人営業活動の非効率性を解決し、成約率アップと既存顧客の解約防止に真剣に取り組んでおられる企業でしょうね。

特に自社商品の差別化ポイントが明確で、「こういうユーザー会社なら当社の自社商品に対するニーズがあるはず」と、ターゲットも明確な企業の場合では、フィット感が高いと考えます。既存の営業における知見をうまくAI活用に応用するために、現場を巻き込んだデータ活用が期待されます。

また、マーケティング一般論で申し上げますと、現在は新規顧客に自社商品を販売する営業活動より、商品を購入してくれた既存顧客の課題解決や企業価値向上を図るためのフォローをする営業活動が重要な時代になっています。

そこで後者の場合、どんなフォローが適切なのかの予測が必要になってきます。この予測に対してもAI活用が有効なのです。

少し関連した事例として、これは弊社顧客でコールセンター事業を展開されているトランスコスモス社の例です。コールセンターは社員のストレスが溜まりやすいのが一般で、トランスコスモス社も社員の定着率の低さに悩んでいました。離職者が出ると直ちに補充しなれば事業が回らないため、社員募集・採用コストの高さも同社の悩みの種でした。

この問題を解決するため、同社は弊社のAI活用プラットフォームを導入して離職予測モデルを作成、離職防止対策を実施しました。予測モデルの詳細はお話しできませんが、結果的に社員定着率は大きく上昇、社員募集・採用コストも激減したので財務改善にも繋がりました。

このように自社営業活動の悩みを抱えている企業は多いため、法人営業を展開する企業の大半がAI活用に踏み切る可能性が高いのではないでしょうか。

AI活用はカスタマーサクセス活動強化策にもなる

――最後に、BtoBデジタルマーケティングのAI活用に関心を持っている読者へメッセージをお願いします。

シバタ 弊社のようにAI活用プラットフォームを提供させていただている立場からは、BtoBデジタルマーケティングを行っていらっしゃる企業は、おしなべて営業イノベーションを求めていると拝察します。

また、現在は法人営業においてもインサイドセールスの重要性がハイライトされる時代ですから、カスタマーサクセスのハイタッチをいかにして強化するか、自社とユーザ企業の信頼関係をいかにして強化するか、ユーザ企業の企業価値向上にいかに貢献するかなどの活動が極めて重要になっています。

これらの活動を的確に、効率的に行うためにはまず予測が必要です。

この観点からBtoBデジタルマーケティングのAI活用をご検討いただければ幸いだと思っています。

記事作成:福井晋

シバタアキラ

DataRobot Japan チーフデータサイエンティスト・物理学博士