【EdTech】短い時間で高い学習効果、塾など民間から拡大するEdTech市場 atama plus株式会社代表取締役 稲田大輔

2020.01.15 エキスパート

教育分野でも徐々にイノベーションが起きています。テクノロジーを活用して教育に変革をもたらす「EdTech(エドテック、教育テック)」ビジネスが海外で急成長しています。

国内でも、経済産業省の「未来の教室」と EdTech 研究会の第1次提言では、EdTech を用いた民間教育発の教育イノベーションの公教育の現場への導入の必要性などが説かれています。

こうしたEdTechの潮流の中で、国内でもベンチャーが立ち上がり、大型の資金調達事例も生まれています。AI教材「atama+」を開発し、2019年5月に発表した15億円の大型資金調達でも話題のatama plus社。同社の稲田大輔社長にEdTechビジネスの展望を伺いました。

 

EdTechは「テクノロジーの活用で教育にイノベーションを巻き起こす」

―― 日本でもEdTechビジネスが話題になっています。国内でも新市場を開拓していくベンチャーとして、EdTechビジネスをどのようにとらえていらっしゃるでしょうか。

稲田 EdTechとは「EducationとTechnology」を掛け合わせた造語で、「AIを始めとする先端テクノロジーの活用による教育のイノベーション」の概念といえます。昨今この概念を具体化した様々な「EdTechビジネス」が開発され、海外では急速にEdTechビジネスが成長してきました。

eラーニングはデジタル教材、EdTechは学習のパーソナライゼーションを実現する

―― テクノロジーを活用した教育といえば、一般にはまず「eラーニング」が頭に浮かぶのですが、これとEdTechはどこが違うのでしょうか。

稲田 eラーニングは単に教材をデジタル化したものが一般的で、EdTechはそこからさらに高度なテクノロジーを活用したもので、eラーニングの進化形とも言えます。

eラーニングというと社員研修に使われるデジタル教材等が挙げられますが、EdTechでは生徒の学習データを分析しながらAIが自動的に学習カリキュラムを作成したり、オンラインで教師と生徒がリアルタイムにコミュニケーションを行ったり、教師が生徒データを分析しながら教務・校務管理を行ったりすることが可能になります。

 ―― EdTechは教育スキーム自体のイノベーションということですね。こうしたテクノロジーの導入によって、教育現場での取り組み方も変わるのでしょうか。

稲田 例えば、従来は全員に一律の授業を一方通行で提供するのが一般的でしたが、生徒の様々な学習データを分析して一人ひとりにあった教育を提供する、即ち「学習のパーソナライゼーション」を行うことが可能になりました。生徒個別の理解度にあわせた「ティーチング」をAIが行うことで、教師は生徒の学習意欲を引き出し、目標達成に向かって伴走したり、学習の仕方をアドバイスしたりするような「コーチング」に時間を割けるようになります。

AIと人のベストミックスを作ることで、効率的に基礎学力を習得することができるようになります。

 

日本のEdTechビジネスは海外に比べて発展途上、成長の突破口はどこに

―― この1、2年、日本でもEdTech事業者が急増して、EdTechビジネスが話題になることも増えています。業界としてやはり参入は増えているという印象をお持ちですか。

稲田 海外では多くのEdTech事業者が生まれておりユニコーンとなるような企業も出てきていますが、国内では、大手企業が新規事業として参入するケースはあるものの、私どものような専業はまだ少ないと思います。

―― 海外と日本の市場としての違いはどのような点があるのでしょうか。

稲田 世界の国別教育市場でみると、日本は米国、中国に次ぐ世界3位の市場規模の教育大国です。ただ、EdTechビジネスでみると、日本は海外市場に比べて規模が小さく、これから伸びていくと思います。

市場規模をみると、世界のEdTech市場は、2015年は5.2兆円規模で、2020年には11.2兆円、CAGR(年平均成長率)16.72%というペースで拡大すると予測されています。一方で、日本国内では、2016年実績で1,691億円、2023年には3,103億円にまで伸びると言われています(米国MarketsandMarkets社の調査)。

日本はEdTechビジネスの勃興が周回遅れだったせいか、海外との開きが大きすぎます。直近3年で10百万ドル以上資金調達したEdTechスタートアップはグローバルで35社。米国、中国、インドの会社がほとんどで日本はわずか1社です。世界第3位の教育市場大国とは思えないほどEdTechビジネスに関しては遅れています。

atama plusは7月31日、世界のEdTech(エドテック、教育テック)の最新動向やデータを提供する「atama+EdTech研究所」の設立を発表し、合わせてカオスマップを公開

 

K-12・高等教育系EdTech系カオスマップ

出典:atama plus EdTech研究所 (https://edtech-research.com/blog/vol1-about-edtech/)

 

様々な国で様々な教育イノベーションが推進され、従来とは比較にならないほど効率的で合理的な新しい教育スタイルが次々と生まれています。

ところが、黒板を背に一人の教師が何十人もの生徒を教える日本の教育スタイルは、明治時代から150年間変わっていません。テクノロジーの進化であらゆる産業が大きく変わっているのに、教育の現場だけ変わっていないのが、日本の不思議なところといえます。

―― では、日本のEdTechビジネスは海外のように大きく成長する可能性はどれほどあるのでしょうか。

稲田 日本のEdTechビジネスはこれから大きく成長すると思います。EdTechは民間から勃興しやすいのですが日本には塾・予備校という1兆円規模の民間市場があります。一般的に公教育でのイノベーションには時間がかかりますが、塾・予備校はイノベーションに積極的です。塾・予備校からイノベーションが起こり、そこから公教育にイノベーションが波及していくと思います。

塾業界で深刻化している「個別指導=講師不足」の悩みはEdTechが解決する

―― 日本の場合、EdTechビジネスによる教育イノベーションは塾などの民間市場から始まるとのシナリオですね。塾での導入は進んでいるのでしょうか。

稲田 実は塾の場合、EdTech導入ニーズがすでに顕在化しているのです。業界で深刻化している講師不足の解決が期待されています。

現在、一人の講師が何十人もの生徒を学習指導する昔ながらの塾業態は減り、塾全体の半分程度が「個別指導塾」へ業態転換しています。これは「講師1人対生徒2人ないし3人」の体制で生徒の学習指導をするスタイルです。生徒の個別指導をするためには大量の講師が必要になります。

実際、例えばある大手の個別指導塾の場合、生徒3万人に対して講師が1万人の体制になっています。このような大量の講師を抱える必要のある個別指導塾が増えてきた結果、顕在化してきたのが講師不足です。講師は大学生がアルバイトで行うことが多いのですが、地方の大学が少ない地域は特に講師不足が深刻です。

昨今は、質の高い大学生講師を集めることが難しくなってきている流れもあり、テクノロジーの活用で講師の質に依存せずに質の高い教育を一律に提供することが可能となるEdTechの導入機運が高まっているのです。

 

EdTechが教育現場で立証した「短い時間で高い学習効果」

―― 個別指導と講師不足解消の両立を図れるテクノロジーがEdTechということですね。では肝心の導入における効果は現状でどの程度なのでしょうか。

稲田 私どもの実例でお話させていただきます。私どもが開発したEdTechサービス「atama+」は、生徒一人ひとりの理解度、ミスの傾向、学習に対する集中力、学習履歴などをAIがリアルタイム分析し、AIがその生徒の学力増進に最適なカリキュラムを自動作成する仕組みになっています。

したがって講師はAIに「ティーチング」を任せることで、「コーチング」に専念できます。その結果、atama+の実績では講師一人でも10〜20名の生徒への個別指導ができています。

―― 講師不足の中、効率性の高い学習が可能ということですね、学習効果はいかがですか。

稲田 学習効果の方ですが、例えばatama+で数ⅠAを学習した長崎県の高校1年生男子の生徒さんは9時間40分の学習時間でセンター試験模試の点数が43点から83点へ、石川県の高校3年生の女子生徒さんは13時間の学習時間でセンター試験模試の点数が59点から81点へそれぞれ上がっています。また2018年センター試験本番でも、atama+で2週間の冬期講習を受けた生徒さんたちの得点伸び率が平均50%台に達しています。

このように従来の人海戦術のみに頼る個別指導塾より「短い時間で高い学習効果」も立証されています。学習時間の短縮は生徒さんの負担軽減にもなります。当然、EdTechを活用している塾の人気は高まるでしょう。

EdTechにより「教育理念に沿った本来の授業を実現できる」認知が広がりつつある

―― 稲田社長の見通しでは、日本のEdTechビジネス市場は後何年ぐらいで離陸しそうですか。

稲田 皆さんが考えていらっしゃるほど遠い先のことではなく、間もなくだと思います。

―― その理由は?

稲田 実は2020年4月から、私どものEdTechサービスを活用した授業を開始する塾・予備校が大幅に増える予定です。ですから来年度からEdTech活用が塾・予備校業界の授業スタイルの主流になり始め、これが最初の潮流になると思います。

最近は、教育改革意識の高い学校から、私どもへEdTech導入に関するお問合せも急増しています。

―― なぜ学校からの問合せが急増していると思いますか。

稲田 「とにかく教員が忙しい」というのが大きな理由といえるでしょう。

生徒全員に個別教育を提供したいし、「社会で生きる力」を身に着けるような教育もやりたい。できない生徒に合わせた授業をするのではなくて、できない生徒には時間をかけて懇切丁寧に教え、できる生徒には学力をもっと伸ばす教育を施したい。日本にはそんな考えや情熱のある学校も多いのです。

ところが今の、黒板を背にした旧来の授業スタイルではそれができない。教員はティーチングに忙殺されている。でも、EdTechを活用すれば学校の教育理念に沿った教育を実現できるとの認知が、この1、2年で急速に高まってきたのです。

私どもは、塾・予備校に絞ってサービスを提供していますが、日本の学校にEdTechサービスが普及するのもそれほどの時間がかからないと思っています。

―― EdTechの活用で学校が本来の教育を実現すれば、生徒の学力を従来以上に高められるのはもちろん、その学校の評価や信頼性も高まりますね。

稲田 はい。EdTech活用の流れは塾・予備校から始まり、学校にも波及していくと確信しています。

 

 

記事作成:福井 晋

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

稲田大輔 atama plus株式会社 代表取締役

2004年東京大学工学部卒。06年東京大学大学院情報理工学系研究科修了後、三井物産株式会社入社。主に教育事業を担当し、ベネッセブラジル執行役員、海外EdTech企業への投資責任者等を歴任。17年大学の同級生達と共にatama plus株式会社を創業