【EdTech】幼少期の“アダプティブラーニング”にニーズ 非認知能力を育成 ワンダーラボ・川島慶

2020.09.09 エキスパート

テクノロジーを活用した、教育に変革をもたらすサービスや技法を指す「EdTech(エドテック)」。これは「Education」と「Technology」を組み合わせた造語で、教育に関わるテクノロジーそのものを指すこともあります。蓄積された学習データをAIが解析し、個別最適化した学習プログラムの提供、講義や動画のオンラインサービス、学習塾や学校の校務や教材作成支援など、様々なサービスが生まれています。

親の学歴・所得によって生じる子どもの教育格差や、教師の過労などが社会問題となっている中で、エドテックによる教育機会の格差解消や、教育環境の向上が期待されています。

また、創造的な課題発見力・解決力が求められる傾向もあり、2020年度から小中学校教育の基準となる学習指導要領では、「学びに向かう力、人間性等」として非認知能力が目指すべき資質・能力として挙げられました。

海外ではこの能力育成にエドテックが活用されており、国内では2018年に経済産業省が有識者会議を設けて提言をまとめ、エドテックによる個性を重視した個別学習の必要性など、新しい教育のあり方が示されました。

こうした中で、子どもたちの「考える力」育成を目指すアプリなどを運営する「ワンダーラボ」の川島慶氏に、エドテックが持つ可能性や課題について伺いました。

保護者の意識が変容、教育アプリ普及に道筋

――アプリなどのデジタル教材に対して、高額の対価を支払う抵抗感はユーザー側にありますか?

川島 2015年頃にユーザーヒアリングをしたところ、弊社の教材に価値を感じてくれる保護者でも、それがアプリとなると、月額100円程度を払うことですら抵抗がある方も多かったですが、Netflixなどのサブスクリプションサービスの普及もあって状況が変わってきたように思います。ワンダーラボでも、月額数千円のアプリとキットを組み合わせた通信教育サービスから、数百円程度で、より多くの子どもに届くようなアプリ教材まで、幅広く展開しています。日本の教育は受験システムに影響されてきた歴史がありますが、大学入試制度自体が転換点を迎えていますし、教師1人で数十人を教えるシステムよりも、個々に合わせて学ぶ方がいいという考えも広がりつつあります。

――この先5年程度で、どのような変化があるでしょうか?

川島 公教育と私教育に分けて考えると、公教育の方は政治などにも大きく左右されるので、予測が難しい面もあります。私教育の方は、今回のコロナ渦で大きく状況が変化しました。もともと、リテラシーが高く、スマホ慣れした保護者が増えてきていましたが、日本中の家庭が、家庭学習を余儀なくされたことで、デジタル教材への抵抗感も減少し、一気にその普及が進みました。この流れはコロナ渦が落ち着いても続くものと考えており、実際に私たちのアプリ教材「シンクシンク」のアクティブユーザーも大きく増加しています。

――日本の公教育や塾でのエドテック導入の課題は?

川島 学校や塾にITの知見を有する人材がまだまだ少ないという状況があります。これにより、ただでさえ多忙を極める先生方に負担をかけてしまうのではないかという意識が根付いている印象です。この点に関しては、まずは我々エドテック事業者が、導入しやすく、分かりやすい製品・サービスを設計することが先決です。その上で、学校や塾に丁寧に説明していけば、状況は少しずつ改善すると考えています。

また、特に公立学校に関しては予算が非常に限られているという問題があります。エドテック導入のためには、パソコンやタブレット端末が普及することが前提となりますが、これまでは十分な予算が割り当てられず、普及がなかなか進まない状況でした。ただ、この点も、文科省が推進する「PC一人一台」政策により今年大きく端末の普及が進んでおり、加えて経産省により新設された「EdTech導入補助金」が、エドテックの導入促進を後押ししています。今後は、ハードとソフト一体での整備を、政府主導でどれだけ推進していけるかが、公教育分野でエドテックが普及する大きな鍵となるのではと考えています。

 

思考力や非認知能力を培う幼児期~小学校低学年に焦点

――学習テストの点数が伸びるという教育ビジネスはありますが、今は思考力や非認知能力が問われているようです。御社のアダプティブラーニングは、いわゆる学力よりも基礎的な力を養うものですか?

川島 私たちは年中から小学3年生くらいをメインターゲットにして、思考の土台を培うようなコンテンツを提供しています。学んだことを他の分野に応用できるような思考力や、粘り強さなどの「非認知能力」と呼ばれるような力を多様な経験の中で育むことが幼少期には大事だと考えていて、そのためにはある程度教材をアダプティブにする方が効果がある。最近はさらに、子どもの知的な躍動や好奇心をいかに引き出せるか、という観点で、マシンラーニングの活用にも取り組んでいます。

マシンラーニングは、「効率的な学習」という文脈で用いられることが多いですが、私たちの場合は少し違います。特に幼少期の子どもは間違いや遠回りなども含めて、多様な経験から螺旋的に色々なものを習得していきますから、効率を優先して最短距離で学習させるだけでいいのか、という疑問があり、私たちはいかに子どもたちの「知的なワクワク」を引き出すかに対して、そうしたテクノロジーを活用していきたいと挑戦しています。

米は公教育現場に裁量権 教師の意識にも違い

――エドテックを取り巻く海外の状況は?

川島 アメリカではインクルーシブ教育やソーシャルエモーショナルスキルなど、日本ではようやく出てきたキーワードがすでに浸透していて、かなり違いを感じます。アメリカは日本と比べると学校ごとに教育のやり方を決めていることが多いですし、国や州から補助金が出たりもします。地域格差は激しいのですが、先進層はどんどん新しいことに取り組んでいる。昨年6月にアメリカのカンファレンスへ行ってきましたが、そこで仕入れた新しい教材を新学期からすぐにやろうという先生ばかりが来ていて、すごく意識が高い印象を受けました。

――日米で差があるのは、何が要因ですか。

川島 学校教育の仕組みや歴史が違うからだと思います。アメリカは州によっても法律が違いますし、学校現場や教師に権限が与えられている印象です。日本は横並びの意識が非常に強いため、校長先生が積極的で新しい取り組みをされることもありますが、まだまだ稀なケースです。

幼児期の教育投資はデジタルにシフト

――御社の対象は幼児や児童ですが、大学生や予備校生は対象にしないのですか? また、少子化の中で、教育への投資は増えていますか?

川島 私たちが現在10歳までにフォーカスをしているのは、我々にはそこに強みがあるし、影響を与えやすい年代でもあるからです。幼少期教育への投資単価がすごく上がっているというわけではないですが、通信教育に代表されるような家庭学習への投資ニーズは根強く、それがデジタルに置き換わってきている感覚はあります。

IQテスト(知能テスト)、学力テスト、TIMSSという国際数学・理科教育動向調査のほか、非認知能力を測るアンケートベースのテストもあります。私たちはこうした目に見える数値の上昇を目的にしているわけではないですが、結果的にそういった部分にも効果がある、というのは、コンテンツの価値を伝える上で、重要な要素のひとつではあると考えています。

海外展開しやすい領域 子どもが夢中になるコンテンツ開発に注力

――海外展開はお考えですか?

川島 世界中の子どもに届けたいと思っているので、海外展開は視野に入れています。それもあって、言語による説明が不要な直感的なコンテンツを開発してきました。幼少期教育・STEAM教育領域は比較的ユニバーサルに届きやすいですが、教育業界は、一般的には受験や言語など、ローカルな文脈に依存するため、教育業界でグローバル展開を成功させている会社はほとんどないはずです。エドテック、特に幼少期のSTEAM領域の教育は、それができる可能性がある領域・マーケットだと思っています。

――ベンチマークしている会社などがあれば教えてください。

川島 インド発のByju’sという企業があります。「教育をエンターテインメント化する」というコンセプトで、コンテンツに投資していますね。インドには学校に通えない子どもがたくさんいるから、そういう子どもたちが遠隔で勉強できるようにするという理念が素晴らしい。途中から欧米資本も入り、インド国外への進出に向けて動いているはずです。コンテンツ自体に魅力があって面白くないと子どもたちはついてこないのですが、彼らはその点を重視し、教育とエンターテインメントを絡めていくことに注力しています。

――コンテンツの作成はクリエイティブの世界だと思いますが、どのようにしているのですか?

川島 私自身が算数オリンピックや世界算数の問題作成者を務めたり、三重県の数学的思考育成アドバイザーを行っていたりと、子ども向けコンテンツ作成のプロとしての知見があります。チームとしては、東大出身や現役の東大生などから成る問題作成チームがあり、彼らが思考力を問われるような問題の作成を担います。さらに、世界的なパズル選手権の入賞者や、子どもへの指導経験豊富な教育バックグラウンドのメンバーなど、子どもの特性を捉えた、高品質な教育コンテンツの作り手が集まってきており、かなりノウハウが蓄積されています。これからも、今の時代だからこそできる、子どもたちに徹底的に楽しんでもらえる教育コンテンツを作り続けていきたいと思います。私たちの取り組みから、学びをアップデートして、教育業界を盛り上げていければと思っています。

 

記事作成:中山 佳子

 

 

〈参考資料〉

  • EdTechとは何か?/Education Career

https://education-career.jp/magazine/career/2018/what-is-edtech/

  • アダプティブラーニングとは/ReseMom

https://resemom.jp/article/2016/04/19/30970.html

  • 世界で注目される非認知能力/NHKエデュケーショナル

https://www.sukusuku.com/contents/qa/143200

  • なぜ今?非認知能力/中日新聞

https://www.chunichi.co.jp/article/feature/kyouiku/list/CK2019011302000006.html

  • EdTechの先進国アメリカの教育トレンド/エドテックジン

https://edtechzine.jp/article/detail/2013

  • 令和の教育改革に向けた、「未来の教室ビジョン」/経済産業省

https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190625002/20190625002.html

  • TIMSS/国立教育政策研究所

http://www.nier.go.jp/timss/

 

川島慶

ワンダーラボ株式会社 代表取締役