【esports】日本の文化として育つ可能性に期待、地域と連携し盛り上げる 株式会社サードウェーブ取締役副社長 PC・eスポーツ事業担当 榎本一郎氏
電子機器を用いたゲーム競技「esports」が徐々に拡がってきました。
esportsは競技性のあるコンピューターゲームやテレビゲームで、2000年ごろから「esports」と呼ばれるようになりました。
現在では世界中で国際大会が開かれており、2020年には東京五輪に合わせ、ビデオゲームの腕前を競う大規模な世界大会が日本で開かれることになっています。
2018年に日本eスポーツ連合が設立され、プロライセンスが発行されるようになったことで関連報道や大会が増加、esportsのファン層はさらに拡大が見込まれます。
こうした中で、esportsはどのように展開していくのか、 株式会社サードウェーブ取締役副社長 PC・eスポーツ事業担当 榎本一郎氏に展望を伺いました。
甲子園のように感動を呼ぶ「スポーツ」に
――スポーツ産業として捉えた時、esportsの観客数は今後3年でどれくらいになると考えますか。野球やバスケットなどのスポーツ並みに増えるでしょうか。
榎本 当社としては爆発的に伸びるだろうと見ています。
ただし、環境整備が必要です。競技施設だけでなく、見る側の意識をどこまで高められるか。また文化として定着させられるかが課題です。
過去二回、毎日新聞社と共に高校選手権を開催したところ、親やスポンサー企業など、大勢の大人が観覧にみえて、「リアルなスポーツと同じように感動する」といってくれました。「このスポーツに関わる人達はかっこいい」と思われ、「競技として面白い」という認識が拡がり、野球の甲子園のように興味を持たれれば、スポーツ文化として定着していくと思います。
また、今後テレビも含めたメディアなどの対応で、状況はだいぶ変わってくるのではないかと思います。
障害、性差を問わずプレーできるのが一般のスポーツにない魅力
――esportsの拡大で、課題や障害になっているものはありますか?
榎本 「スポーツかスポーツじゃないか」という議論がいまだにあることです。他にも、ゲーム依存症といったネガティブな側面があること。依存症というのはesportsに限らず、多くの趣味嗜好にあるのですが、ゲームは特に目の敵にされてしまう(笑)。
しかし、esportsならではの良い点もたくさんあります。身体能力に関係なくプレーできますから、障がいや性差が問われません。実際にチームの中には、車いすの学生や、男女混合チームもあります。リアルスポーツではまずないことです。多様な人同士が闘う中で、互いをリスペクトし、理解し合う関係が生まれる、esportsの最も良いところだと思います。体格差もなく、運動の苦手な人も得意な人も一緒に楽しめる。そこに新しい関係性が生まれるチャンスがあるのです。そういった部分に光を当てて欲しいと思っています。
――誰もが当事者になって関わっていけることで、幅広い層にリーチできるのですね。産業としてesportsを捉えたときには、どんなところが重要ですか?
榎本 若い人たちが、もっとオープンに楽しんでくれること。自宅に籠もってやることではないという認識が拡がり、誰もが参加しやすい競技になることが重要です。
また、正しくesportsを見てくれる人が増えることも重要です。まだまだ理解されていませんが、チームワークの強さや、戦略・分析をチーム全員でする、そういった面をぜひ大人にみていただきたいです。そして親や学校の先生など、教育関係者が応援するようになれば、メディアのとらえ方が好意的になり、IPホルダーの協力も大きくなると思います。
――IPホルダーの動きは業界でどのように見られていますか?
榎本 IPホルダーにとっては、自分たちが開発した資産ですから、自ら大会を開くのがメインで、第三者に任せることはあまりありません。IPホルダーが啓蒙活動として協力してくれている「全国高校eスポーツ選手権」は珍しい例です。
一方で、大会を産業化しないと市場が拡がらないという課題もあります。
五輪競技採用を視野に前哨戦、一般市民の反応に関心
――この領域で注目している事例はありますか。
榎本 新型コロナウィルスの影響で延期になってしまいましたが、東京五輪の直前に「Intel World Open」esportsというタイトルが予定されていました。五輪採用に向けてのデモンストレーションであるこのイベントが、どのように一般の方々に映るのか、興味がありました。
我々は、esportsは五輪に採用されてもおかしくないものと考えていますし、五輪にesportsが加わることが今後あると思っています。
文化として、地域と連携してじっくり盛り上げたい
――今、esportsへの参入が増えてきているという実感はありますか。
榎本 地域活性化のためのミニイベントのようなものは圧倒的に増えていますね。当社が怖いのは、お客様が入らなかった場合に、すぐに「今後はやめておこう」となるのではないかという点です。
文化はじっくり育てていくものです。「今日投資をして明日リターンがないならやめる」ということでは困ります。地域とも連携しながら、じっくり盛り上げていきたいと思います。
――施設やイベント運営は事業として拡大していく考えですか。規模拡大を含めて、競技場を増やすことも考えていますか。
榎本 グループ会社に、私が社長を務めるE5イースポーツワークスという、esportsイベントの企画や運営、会場の設営、競技運営を請け負う会社があります。当社主催のイベント開催はもちろんのこと、様々な企業様からの依頼を受けて、多くの大会を運営していく方針です。
また、競技環境もさらに整えていきたいですね。今は東京で、『ルフス池袋イースポーツアリーナ』という、ハイエンドゲーミングPCを100台並べたesportsに特化した施設を運営しています。今後はハイエンドPCがあるカフェとの融合や、通常のスポーツも対応可能な施設があってもいいでしょう。
――御社はもともとゲーミングPCのマーケティングから事業が始まったと伺っていますが、ゲーミングPCをベースにするのではなく、esportsでのビジネスをしていく考えですか?
榎本 PC中心のハードウェアビジネスを中核として、企画運営ビジネスにもトライしていきます。施設運営、esports競技のコンサル、機器提供などもそうです。国内で、PCを作り、大会を運営し、施設も持っているという会社は他にないと思いますから、「esportsといえばサードウェーブ」と言われるようになりたいですね。
いまでも地方自治体などが見学に来ていますし、相談を受けることもあります。
まずは投資を 文化醸成で将来のリターンに期待
――ハイエンドPCやesportsの啓蒙活動はユーザーに寄り添って進化させるお考えですか。
榎本 PCは常に進化させることによって、末永く愛していただけると考えています。
esportsは、裾野をどうやって拡げるかが大事です。今はまだ、ゲーミングPCに触れたこともない若者も多い。先述のesports施設のような場所や大会が増えれば、それだけ接点が多くなる。そうすればプレー人口が増え、いずれ文化になる。esportsが若者の文化になれば、将来何らかの形でリターンがあるでしょう。
もともとゲームは日本が海外に先駆けて作ってきたのですから、esportsは間違いなく日本の良い文化になる。利益から入ると、文化を作り上げるのが難しくなるので、まずは投資から入ってほしい。
――投資とは、スポンサーに入ってもらうということですか。
榎本 スポンサーとして入って、単純な視聴者数ではなく、実際に高校生たちがどんな思いで取り組んでいるかを会場で観てほしいですね。そうすると、「自分たちは正しいことをやっているな」と思えます。引きこもりだった子がesportsをきっかけに高校へ進学し、生徒会長になったケースまであるんですよ。子供達の将来への影響を考えて、そこに投資しよう、応援しようとしてもらえたらありがたいです。
記事作成:中山 佳子
〈参考資料〉
・eスポーツとは/一般社団法人日本eスポーツ連合
https://jesu.or.jp/contents/about_esports/
・東京五輪でeスポーツ世界大会/日経電子版
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO39628230U9A100C1000000/
・日本国内eスポーツ市場動向/Gzブレイン
http://gzbrain.jp/pdf/release181211.pdf
・日本のeスポーツの市場規模と高額賞金大会/Esports world
https://esports-world.jp/column/44
・eスポーツの現状/JETRO
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2019/6839f3f2fbad8bc6/e_sports_08_2019.pdf
榎本一郎
株式会社サードウェーブ取締役副社長 PC・eスポーツ事業担当