【FoodTech】食のグローバル課題への取り組みをビジネスチャンスとして捉える NTTデータ・三竹瑞穂 氏

2021.02.19 エキスパート
【FoodTech】食のグローバル課題への取り組みをビジネスチャンスとして捉える NTTデータ・三竹瑞穂 氏

さまざまな産業でX-Tech(クロステック)が進む中、食品業界ではFoodTech(フードテック)の潮流が生まれています。健康意識の高まりに対応するための具体策、また、世界規模の食糧問題に対するソリューションとして、テクノロジーの活用が求められているのです。

今回は、グローバル食品・飲料製造業のDX動向調査を行いながら国内食品メーカー等のDX支援に取り組む、NTTデータの三竹瑞穂氏にフードテックのトレンドや課題感を伺いました。

 

なぜ今、フードテックが注目されるのか

―今、FoodTech(フードテックがどのような背景で盛り上がっているのか。トレンドの特徴についてご意見を聞かせてください。

三竹瑞穂氏(以下、三竹):数年前までは、食の業界は他の産業と比べるとIT支出が少なく、ITとの密接度が低い状態でした。業界の中の人たちと議論していても「自分たちとは関係ない」という温度感が大勢。

ただ「食」というのは社会や文化と密接な関係にあるものなので、いろいろなX-Tech(クロステック)が出てきた流れから、ここ1、2年でいよいよフードテックが生まれてきたと捉えています。

他のテックと違う特徴としては、食の場合はいわゆる「デジタルテクノロジー」だけではなく「バイオテクノロジー」も重要な要素であるということ。

「代替食」や「発酵技術」などがフードテックとして注目を集めていますが、それらはバイオテクノロジーの話です。

しかし、代替食の開発過程でデジタルテクノロジーを使うスタートアップの事例も出ています。そのような動きを見ていると、2つのテクノロジーを融合させた、バイオインフォマティクス(生命情報科学)への関心が急速に高まっているという見方もできると思います。

―日本でも関連書籍が出てくるなど、世の中にフードテックの概念が浸透してきた感覚があります。ビジネスの現場の変化はいかがでしょうか。

三竹:これまでは食品メーカーさんと話をしていても、なかなか一般的なものとしては捉えられていないなという感触でした。ただ、最近は世の中にもフードテックという言葉が広がってきたので、企業さまから「フードテックについて聞きたい」という話も増えてきています。

また先日、オンラインで開催された「Smart Kitchen Summit JAPAN 2020」 で味の素の西井社長が登壇されました。同日私も別講演で登壇したため、たまたま目の前で聴講させていただいたのですが、いよいよ日本の食品業界でもフードテックの取り組みが加速していくのだろう、と胸が高鳴りました。

 

日本のフード企業の現状と課題

―日本企業におけるフードテックの事例は生まれているのでしょうか。

三竹:一例を挙げると、代替食品を扱うインテグリカルチャー社、個別最適化されたサプリメントを提供するドリコス社などのスタートアップがあります。

ただ、フードテックに限ったことではありませんが、日本発のスタートアップは海外に比べると目立っていない印象です。その背景には、スタートアップが出てきにくい日本全体の社会的風土があるのではないかと思っています。

そのように、大企業が中心になってしまっている現状がありますが、大企業は大企業で、社内だけでやるのではなく、スタートアップと連携してオープンイノベーションを推進していく動きが加速してきています

―確かにスタートアップでは投資できるリソースが限られていて「食」そのものに取り組むのは難しく、局所的な領域になりますね。

三竹:海外のスタートアップにとってフードテックは、グローバルな社会課題の解決のためのテクノロジーということに加え、ビジネスチャンスだという意識も含まれています。だからこそ投資が集まっているのです。

たとえば、人口爆発によって食糧危機になるという話題があります。数週間前に海外で行われたカンファレンスでは、今後35年間で世界に必要となる食糧は、計算上、過去人類が1万年間にわたって必要とした量に匹敵すると打ち出されました。

本当にそうなるのかは定かではありませんが、それぐらい食料需要が今後伸びていくと見込まれています。海外のスタートアップでは、自社の事業が食糧危機に対するソリューションであるというプレゼンがよくあります。

つまり、日本企業も日本市場だけを見ていたら、なかなか世界規模の投資にはつながらない。これは我々IT業界も含めての課題感ではあります。

―今、日本のフード企業はそのようなグローバルの課題感は持っているのでしょうか。

三竹:実は日本の食料自給率は40%なので、世界で言われていることは他人事ではないという危機感を持たなければいけないと思います。今、フードテックの世界では、フードセキュリティというキーワードがかなり使われています。日本語でいうと「食糧安全保障」のことです。

コロナ禍で一時期、マスクや衣料資材が不足するなどサプライチェーンにレジリエンス(弾力性・強靭性)がないことが問題となりましたが、あの時期更に、世界的に食糧の輸出制限をかけるという話にもなっていました。

そうなったら日本はあっという間に干上がってしまう。これまで数十年後に食糧危機が来るという話だったものが、コロナによって似たような状況が急にやってきたというわけです。

ですが、日本ではあまり話題になっていない。先日行政の方と話をしたときにも「どうしたらいいんでしょうね」と。その方は、昔から食糧安全保障の問題を、もっと国民に認識してもらいたいという想いがおありですが、どのようにしたら国民の認識を高めていけるのか、答えが見つかっていない感じがあります。

食に限らず日本の特徴として、そこそこ国内のマーケットがあるので、グローバルマーケットの中での課題解決の商品を出していくという発想になかなかたどり着かないということもあります。

実際に、日本の食品メーカーの中期経営計画などを見ていると、一部の会社を除いて基本的には国内マーケットを前提とした戦略になっています。

ただ、食というのがそもそも地域特性や文化に根付いた特性が強い商材なので、地域に根付くということは否定することでもないと思うんですよね。

 

重要な考え方は“Duty & Opportunity”

―確かに、日本全体で健康意識の高まりはあっても、グローバルな社会課題とは切り離されているような気がします。

三竹:近年グローバルな社会課題に対して、先に述べた健康志向の高まりや、それらに伴い代替肉開発が加速している流れが来ている背景について、先日カーギル社でフードテックを牽引されている方と話したのですが、「消費者の内発的な動きではあるものの、ビジネス側もその動きに乗ることで加速しているのではないか」と。僕はここに差があると思っています。

日本でも「サステイナビリティに対する取り組み」と打ち出している企業はたくさんありますが、それはどちらかというと「道徳的に正しいことをしなくてはいけない」というポリティカルコレクトネスのような考え方が強い印象を感じます。

それに対して欧米では、道徳的な面がありつつ、あわせて「ビジネスチャンス」だと捉えている面が強い。ロンドンで行われた「The Future Food-Tech Summit」でマース社の方が言っていたのは、フードテックは“Duty& Opportunity”だということ。フードテックに取り組む意義について「次世代の子供たちに対して、今、食品産業にかかわる我々世代の責務である」という言葉は私自身の胸に刺さりました。日本の場合Duty(義務・責務)の意識も強くなく、Opportunity(機会)という発想も弱いのかなと思っています。これは私の個人的な感覚ですが。

海外企業でいうと、たとえばユニリーバ社では新商品を出すときに必ず既存の商品よりも環境負荷が低いものに置き換えていくかたちで、徐々に総環境負荷を落としていっています。

そしてその取り組み自体がユニリーバの競争優位につながるんだというOpportunityの意識が強い。そのためかなり経営もコミットしていて、いろいろなビジネス部門のリーダークラスを巻きこんで、形式的な世の中へのアピールだけではない形で推進されています。

慈善事業のようなものは持続性が難しく、ビジネスとして成立させることで持続的に社会課題を解決していく前向きの循環につなげていく仕組み、考え方が大事だと思っています。

 

NTTデータがフォーカスする3領域

―現在のフードテック業界の課題がある中で、NTTデータはどのような取り組みをしているのか。具体的にお聞かせください。

三竹:3つの領域にフォーカスしています。

1つ目はフード&ウェルネス(食と健康)の分野。食には「美味しいものを食べたい」という面と「健康や体を育むもの」という面があるので、この2つのバランスをどう取っていくかがテーマです。

「ウェルネス(wellness)」という言葉を使っているのは、単に体の健康だけでなく、食を通じた心身の健康や活き活きとした生活・人生につなげていきたいという想いが込められています。

医療費や社会保障費の高まりは海外でも同様で、とくに生活習慣病に起因した医療費が大半を占めています。テクノロジーの進化によってパーソナライズできる部分が増えていますので、健康問題、医療費問題に長期的に貢献できるような取り組みをしていきたいと思っています。

2つ目は食のサプライチェーンの効率化です。現在、物流や工場が人手不足に悩んでいるのですが、かたや消費者ニーズはどんどん多様化している。そんな中でコロナによって食のEC比率が高まってきました。

ECの強みはロングテールでニーズの多様化に対応できることなので、メーカーは、もともとマスで大量生産・大量消費していたところから転換しなくてはならないでしょう。消費者のニーズに対応しつつ、生産者側も利益を取って再投資できるような経済構造にしなければならない。そういった意味でデジタル技術の活用に注目しています。

フードテックとは、広義には上流のアグリテックという農業分野、あるいはアニマルテックという畜産の分野も入ってきます。その分野で私どもが実際に行なっているのは、日本ハムさんとのスマート養豚プロジェクトです。

畜産も人手不足に悩まれているので、事業の持続性が経営課題です。それを解決するために、畜産におけるAIやIoTを活用してより省人化を進め、労働者の負荷を下げていく取り組みをしています。

3つ目は商品開発です。レシピ開発においてAIを使う。たとえば過去にどういう配合をしたらどういう味になり、マーケットの評価はどうだったかといったデジタルデータをため込む。そして商品開発に生かすということです。

そこにはレシピ開発やバイオの専門家とデジタル技術・データ分析の専門家が必要なので、バイオテクノロジーやレシピ開発に強みを持つ食品メーカーさんと、私どものようなデジタルテクノロジーに強みを持つ会社でコラボレーションしていっています。

 

フリクションレスなデータ収集が浸透のカギ

三竹:3つの領域のうち、食と健康の領域はとくに注目度は高いけれどマネタイズできていないという弱点があります。たとえば、すでにいろいろな健康アプリや食事記録アプリなどが出ていますが、使う方としては継続が難しいところがありますよね。

これについて我々は「フリクションレステクノロジー」というものを考えています。

スマホにいちいち手入力をしたり、時間のかかる検査を受けたりといったところにはフリクション(ストレス)があります。そのフリクションレベルを落としていくかたちで、いかに無理のないデータ収集を実現できるか。

日常生活で意識せずに食と健康のテーマに役立つデータ収集するというところを技術でブレイクスルーできないかと取り組んでいるのです。

たとえば朝、身支度をしていて鏡を見たときや、トイレに行ったときに何らかのバイタルデータを取って分析するなどがそうです。これはけっこうハードルが高くチャレンジングですね。

―多くの人がスマホならiPhoneかandroid、あるいはAppleWatchなどの海外製品を使っている中で、日本企業がどこにビジネスチャンスを見出すのかは議論すべき点ではないでしょうか。

三竹:そういうところは握られている感じはありますね。ですがNTTデータは基本的にマルチベンダーで、ハードウェアに強いこだわりがあるわけではないので、世の中の一番いいものを持ってこられればいいと思っています。

日本でも面白い取り組みをしている会社はあります。体重計だとタニタさん、オムロンさんなどもありますね。今は体重を測るのに体重計に乗る必要がありますが、椅子に座っているだけで測ってくれたらもっといいですよね。それこそ1日1回ではなく、食事の前後で違いを測ってくれるとか。そういう発想がフリクションテクノロジーには求められると思っています。

―セキュリティの問題もより重要になってきますね。

三竹:もちろん匿名加工、暗号化などの技術も大事になってきます。それから、ヒューマンデジタルツインというキーワードがあります。食事、運動、基礎代謝などのバイタルデータを取ることで、仮想の人間の健康状態をバーチャル上で持つというものです。デジタルツインができると、たとえば今の生活習慣をあなたが続けたら、5年10年後にはあなたはこんな感じの体になりますよ、というのがビジュアルでわかる。

60キロの人が「80キロになります」と言われるだけでは聞き流せてしまいますが、本当にしわや白髪が増えて、かつお腹がポッコリ出たりして、不健康になった10年後の自分をVRを通して見ると、さすがに「夜食のラーメンをやめよう」といった行動変容につながる。将来のシミュレーションによって行動変容を起こすことができれば、健康への正の循環が回るのかなと思います。

―現時点の指標としては2030年を見据えていらっしゃるのですね。

三竹:最近5Gがスタートしましたが、2030年はきっと6Gの世界になっているんですよね。そうなると、通信インフラ側の処理能力は上がり、バーチャルの世界自体がよりフリクションレスでリアルと同居していくような世界観になると思います。

オンライン会議で回線が途切れて落ちるようなこともないでしょうし、動きもよりリアルで目の前に人がいるような感じになるでしょう。まさにデジタルツインですよね。そういった世界になってきたときには、食と健康についても解決する課題は出てくるのではないかと思っています。

 

(プロフィール)