【インタビュー】ベンチャーが開拓する小型人工衛星ビジネス アクセルスペース代表取締役 中村友哉(前編)

2018.05.28 エキスパート

超小型人工衛星の開発およびそのデータ提供をするベンチャー企業「Axelspace (アクセルスペース)」。同社は、世界初の民間商用超小型衛星を含む実用衛星開発を通し、民間による国内の小型衛星市場をリードしています。

2015年には19億円の資金調達を完了、宇宙ビジネスにおけるベンチャー企業の大型資金調達事例として注目を浴びました。この資金をもとに、超小型地球観測衛星「GRUS(グルース)」数十機で構成される衛星群によるデータプラットフォーム事業「AxelGlobe(アクセルグローブ)」を本格的にスタートしています。

2022年には世界のあらゆる場所を毎日観測することができるインフラ構築をめざすというアクセルスペース代表取締役・中村友哉氏に、小型人工衛星ビジネスの現状と可能性について伺いました。

 

東大航空宇宙工学の研究室から、小型衛星ベンチャー設立へ

川口荘史(以下、川口):まず、創業までの経緯を教えてください。

大学で宇宙工学を研究し、御社も大学発のベンチャーとしてスタートされていますね。

中村友哉(以下、中村):実は、もともと起業したかったわけではなく、そして宇宙が大好きというわけでもなかったんです。大学入学時は化学を学びたいと思っていました。ただ、化学への興味は入学後徐々に失われてしまい、そんな中でたまたま東京大学航空宇宙工学科助教授(当時)の中須賀真一先生と出会い、手作りの超小型衛星プロジェクトのことを教えてもらいました。

自分で人工衛星が開発できるということに興奮を覚えて中須賀先生の研究室に入り、博士課程修了までの合計6年間、研究室で3つのプロジェクトを経験しました。

卒業するにあたって超小型衛星開発を続けられる会社への就職を希望したのですが、衛星を作っているメーカーといえば、日本では三菱電機と日本電気(NEC)。しかもそこで作っているのはJAXAからの委託による、非常に大きな人工衛星ばかりです。つまり、小型衛星を作っている会社はどこにもなかった。

 

川口:民間ではまだどこも小型の衛星には取り組んでいなかったのですね。

中村:2003年に私もプロジェクトに参加していた世界初の超小型衛星キューブサットの打ち上げが東京大学と東京工業大学で成功して以降、世界で100を超える大学が小型衛星を作り始めていたため、米国ではそういった大学向けに通信機や太陽電池といったコンポーネントを売る会社はありました。

ただ、私が希望したのはそういった「衛星を作る人向け」の仕事ではなく、自分たちで衛星をつくりそれをユーザーとしてのお客さんに利用してもらうこと。当時そういうメーカーは世界中どこにもなかったのです。

そうした中、中須賀先生が大学発ベンチャー設立支援の助成金を得ていたので、「ぜひ参加させてください」と手を挙げました。会社がないなら作ればいいわけです。ただ、当時は会社を作るとはどういうことかまったくわかりませんでしたね。

 

「技術の押し売り」では難しい、大学発ベンチャーが陥る困難

川口:今でこそ産業としても注目され、資金調達の事例もみられる宇宙産業ですが、御社は2008年から取り組まれています。宇宙産業の大学発ベンチャーとしてどのように事業を進めてきたのでしょうか。

中村:お金が回らなければビジネスになりませんから、まずはお客様がみつからなければ設立自体をあきらめようと思っていました。そうした中で自社の衛星を所有して北極海航路を見たいという、気象情報会社のウェザーニューズさんとお会いする機会を得ました。この出会いが大きかった。

川口:ウェザーニューズと出会うまでは、いろいろな会社を回ってクライアントを探したのですか。

中村:そうですね。準備を始めてから1年半後に創業するまで、衛星を開発しながら顧客開拓を行っていました。

当初はメンバーがエンジニアだけだったので、営業はどうやってするものなのか、知識も経験もまったくなくて。大学発ベンチャーが陥りがちなのですが、技術はあっても営業やマーケティング、バックオフィスのことがわからず、顧客に合わせた提案ができない。我々も「衛星、いりませんか」という技術の押し売りになってしまってなかなかうまくいきませんでしたね。

ウェザーニューズさんとのお話が進んでからは、とにかくその衛星を打ち上げることに注力しました。というのも、顧客開拓をする中で「前例がないから」と断られるケースが多かったのです。だから、実績を作りたかった。

衛星を売るのではなく、衛星データを売る。データを提供する事業の立ち上げと資金調達へ

川口:技術からスタートしたために、ニーズがそもそもくみ取れず苦労されたのですね。その先の展開のためにもまずは最初の実績作りに集中されたと。実績ができてからはスムーズにいったのでしょうか。

中村:ところが、いざ打ち上げても、今度は「それはウェザーニューズさんだからできるんですよ」と言われてしまったのです。単純に実績があればいいわけではありませんでした。

日本の企業は、担当者レベルで興味を持っていただけても、上層部で止められてしまうことも多い。とにかくリスクを気にして、チャレンジングな意思決定はあまり起きません。「衛星なんて打ち上げてうまくいかなかったらどうする」、という感じなのかもしれません。

もちろん、ウェザーニューズのような企業は他にも存在するでしょうから、このままニッチな市場のみで生き残ることは無理ではないかもしれないけれど、それではもったいないという思いがありました。

川口:衛星に限らず、宇宙産業ではその時間軸が問題になりますね。大企業だと、社長の在任中に結果が出ないと、その先を見据えた意思決定はなかなかできないと。

中村:衛星は「打ち上げよう」と決めてから実際に打ち上がるまで何年もかかる、そして開発費が数億円もかかってしまうことがやはりネックになります。大型衛星は何百億円もするので、超小型衛星の登場によって格段にコストは下がりましたが、それでも一般企業からすると高額であることには変わりありません。

ただ考えてみると、企業にとっては衛星そのものを所有する必要は必ずしもなく、衛星からのデータやそのデータを解析した情報が得られれば、普通はそれで充分なのですよね。そこで、弊社が自ら衛星を所有し、データを提供する方が、利用が広がるのではないかと考え、「アクセルグローブ」のもととなる構想を立ち上げ、2014年末に資金調達に向けて動き出しました。

川口:衛星を売るのではなく、データを売るという方向へ舵をきったのですね。ちなみに、衛星の受託としてはウェザーニューズ以外にはどういう事例がありますか。

中村:専用衛星ではJAXAです。JAXAは三菱電機とNEC以外に衛星開発を発注した例はなく、ベンチャーに委託するのは初めてのこと。

すなわち国の所管する機関が我々の技術力を認めているということになります。これをうまくアピールして、国内だけでなく海外にも展開していきたいと考えています。新興国はこれからインフラを作り上げていく段階なので、そこに衛星を組み込める余地が大きいとみています。

 

当時の宇宙ベンチャーに対する厳しい資金調達環境の中、19億円の調達を実現

川口:2015年11月に19億円の資金調達を実現されました。当時、宇宙関係の国内ベンチャーでこの規模の資金調達というのは非常に珍しかったと思います。宇宙産業に対しての資金調達環境が整ってきたというわけでしょうか。

中村:資金調達の環境としてはまだまだだと思っています。2015年の調達の前年にエンジェル投資家にも投資いただいたのですが、本格的なベンチャーキャピタルが宇宙ベンチャーに大規模な投資をすることは、これまで日本にはありませんでした。

ベンチャーキャピタルの多くはITベンチャーを中心に投資していたのですが、それでも1社あたり1億円も出せば充分という規模。しかも、エグジットまでの期間も1、2年と短い。それに比べると衛星開発は必要な額も大きいですし、エグジットまでに5年はかかり、リスクも大きい。だから、興味があっても踏み出せる投資家が日本にはいなかったのです。

川口:ITベンチャーとは事業の評価はもちろん、投資回収の時間軸や調達金額も大きく異なるので、ベンチャーキャピタルも投資が難しいと。そうした中、どのようにして調達が実現できたのでしょうか。

中村:三菱電機で日本初の宇宙船「こうのとり」の開発に従事していた青木英剛さんが、ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインに参画され、「ここから新しい世界が生まれる」という確信のもと我々の計画に賛同していただき、一緒に他の投資家の説明に回ってくれました。

ちょうどアメリカでは宇宙ベンチャーが出資を受け始めていて、2014年にGoogleがSkybox Imagingを5億ドルで買収したことがニュースになりました。日本の投資家の中にも興味を持ち始めた方が一定数いたんですね。その上で、技術のバックグラウンドがある青木さんにサポートいただいたことは調達が実現できた大きな要因の一つになっていると思います。

川口:ベンチャーキャピタルだけではなく、事業会社も出資されていますね。

中村:事業会社はキャピタルゲインを狙っているのではなく、事業シナジーという点を重視して出資していただいています。世界中を毎日観測できるという新しい価値を、自社ビジネスに取り入れていける可能性を感じていただいたのだと思っています。

 

小型衛星は民間利用の可能性が高い。小型衛星の用途とメリット

川口:大型衛星と比べて小型衛星のメリットはどういうところでしょうか。

中村:一般的に衛星は大きいほうができることの幅が広く、性能も上がりますが、何百億円もするので現実的にビジネスに利用するのはかなり厳しい。それに比べて超小型衛星の最大のメリットは、コストが抑えられるということにほかなりません。市場が求めるものは「世界最高性能」ではなく、「支払えるコスト内で有益な業務の効率化が図れる性能」です。その点で、超小型衛星は民間利用の可能性が高いと思っています。

川口:通信衛星、観測衛星や測位衛星など、衛星でできることはいろいろとあると思いますが、超小型衛星ではどういった用途が多いのでしょうか?

中村:測位やブロードバンドインターネットは超小型衛星では難しいので、現時点では、地球観測が取り組みやすいエリアですね。

ただ、人ではなく機械同士が通信するM2M(機器間通信)だとデータ量が少なく済みますし、必ずしも常時接続が必要ではないので、超小型衛星でも可能になります。これは以前にはなかった需要です。

とはいえ、通信衛星の場合は、インフラを整備し終わってからサービスを提供しなければなりません。一方、地球観測の場合は完全に整備しなくても1機打ち上げた状態から撮影頻度は低くても画像を売るビジネスはできる。そういった意味でも、地球観測は取り組みやすいエリアといえます。

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記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

中村友哉:アクセルスペース代表取締役。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中に超小型人工衛星の開発に携わる。2002年には、学生が作った世界初の超小型人工衛星「CubeSat」が完成し、2003年に打ち上げ成功。研究室で3つの超小型人工衛星の開発に携わる。卒業後は、大学発ベンチャー創成事業参画を経て、2008年アクセルスペースを設立、代表取締役に就任。2015年より内閣府宇宙政策委員会宇宙産業・科学技術基盤部会委員。