【インタビュー】2022年までに50機の衛星を打ち上げ、地球観測プラットフォームを構築 アクセルスペース代表取締役 中村友哉(後編)

2018.05.29 エキスパート

超小型人工衛星の開発と、そのデータ提供を中心事業として2008年に設立した「Axelspace (アクセルスペース)」。企業が独自の衛星を持つ際の専用衛星開発を行いつつ、アクセルスペース自身も独自の衛星を打ち上げ、その観測データやデータを解析して得られる情報を提供するデータプラットフォーム事業「AxelGlobe(アクセルグローブ)」をスタートさせました。

後編では、アクセルグローブの構想について、アクセルスペース代表取締役・中村友哉氏に伺います。

前編はこちら

 

衛星画像の民間需要のポテンシャルは大きい、「アクセルグローブ」の構想

川口荘史(以下、川口):地球観測網「AxelGlobe(アクセルグローブ)」の構想について教えてください。

中村友哉(以下、中村):2018年にまず3機の衛星を打ち上げ、特定の地域を毎日観測するサービスを始めます。その後2020年までに10機以上を整備、2022年の50機体制完成を目標とし、全世界を毎日観測する地球観測プラットフォームを作ります。

現状では衛星画像というと政府の需要が大きいのですが、民間需要のポテンシャルも大きいとみています。衛星の配備は2022年に完成予定としていますが、それだけで市場が充分できあがるわけではなく、地道に事例を一つずつ積み重ねていくことで、数年後爆発的に需要が広がるとみています。

その為にも弊社ではただ画像を売るだけではなく、画像を解析して得られる情報をお客様にわかりやすい形で提供し、お客様が独自に持っている情報と組み合わせることにより、更にエンドユーザーにつなげていくという方法も含めてプラットフォーム作りをしています。

 

川口:対象となるマーケットは様々だと思いますが、御社ではどういう領域に応用していこうと考えていますか。衛星からのデータだからこその強みはどこにあるのでしょうか。

中村:今後、気象観測、農業、資源、都市計画、森林、それ以外でもさまざまな分野で衛星データが利用されると思います。特にアクセルグローブでは、最終的に全世界を毎日観測することで年間7ペタバイト以上のデータが蓄積されビッグデータとなりますので、「これは農業用です」など特定の分野に限定せずに応用できる領域は限りなく広げられると予想しています。

世の中、いろいろなセンサーが安価で作れるようになり、地上でもさまざまなデータが取得できるようになりましたが、すべてローカルな情報です。

衛星によって宇宙から見る俯瞰的な情報は、今のところほかに代替手段がありません。我々はそのマクロな視点を提供できることが大きな強み。世界中を毎日撮影し、そのデータを蓄積する、こうしたこれまでにないインフラを構築したいと思っています。

世界で見るとこの領域は米国に先行企業がありますが、まだ構築までには至っていません。日本だけでなく、たとえばインドなど発展途上国では人口を正しく把握するなどのニーズもありますし、さまざまなところでさまざまな衛星データの利用方法があるので、そのベースづくりが我々の目指しているところです。

川口:領域ごとのニーズの把握や衛星からのデータを活用し、どのように応用していくかは、連携していく企業も重要になりますね。

中村:はい。さまざまな業界の事業者さんとコラボレーションし、各業界からインテグレーターとしての役割を担う人にたくさん加わっていただく。そしてアクセルグローブのデータを使ってエンドユーザーに使っていただけるサービスを提供する、B2B2B、B2B2Cのようなビジネスの構築を狙っています。

そのために今から様々な業界の方と実証実験を行い、その業界でどのように使えるか事例を出し、横展開していければと考え準備を進めています。

 

小型衛星事業における課題とは

川口:小型衛星事業における課題は何でしょうか。

中村:打ち上げです。もちろんその他にも課題は大小たくさんありますが、いちばんのネックであり、我々のコントロール下で解決できない部分が打ち上げですね。

川口:やはり、宇宙産業では関係者の多くが大きな課題意識を持たれているのが打ち上げですね。御社では、2020年までに10機、2022年までに50機打ち上げるとのことですが。

中村:我々のような衛星事業者はたくさん出てきているのですが、打ち上げ供給が追いついていません。一般的に打ち上げ契約は1〜2年前に結ばなくてはならず、しかも、1年前に契約したのに、直前で「半年遅れます」ということもあり、遅れるとその分、こちらのコスト負担が多くなります。

川口:確かに、ベンチャーにとって半年や1年遅れるというのは事業スピードやコストとしても本当に厳しい。打ち上げは大きな不確定要素になってしまいますね。

中村:そもそも打ち上げ能力のある国が多くない。現時点ではロシア、インド、アメリカといった国が中心で、他は打ち上げ頻度や輸出管理といった点から選択肢が非常に少ない状況です。エアラインのように安定した打ち上げが定期的にできるサービスになるといいのですが。

 

多様なバックグラウンドの人材が参画。宇宙ビジネスにほしい人材とは

川口:御社の事業では衛星の開発だけではなく、データをどのように集めてどこにどう提供するかなど、さまざまな業務があります。どのような人材を必要としていますか。

中村:この事業は総合力が問われます。衛星を作れるだけではビジネスとしては不十分。

打ち上げの契約、海外の法律関連の知識も必要、打ち上げたあとの運用、データの抽出、それをどうやってエンドユーザーに届けるか、さまざまなスキルや能力が必要となり、多様な人材が求められます。

一方で、そういった点が衛星ビジネスの参入障壁になっている理由の一つともいえます。

川口:確かに、宇宙産業は様々なバックグラウンドの方々が参画されていますね。中村さんは宇宙工学出身ですが、必ずしもそうしたバックグラウンドが必要というわけではないということですね。

中村:宇宙工学のバックグラウンドを持っているほうがいい部分もありますが、宇宙の知識は後からプラスしても充分対応できると思います。

そもそも宇宙工学を前提とすると採用の母数が小さすぎます。組織としても多様性があるほうがこれまでにないアイデアも出ます。宇宙ビジネス全体を活性化させるためにも多様な人材のチームが必要だと思います。

IT系から採用された人は、「自分たちのスキルが宇宙に生かせると思っていなかった」と言っています。そういうまったく違う分野に携わっていた人が、宇宙ビジネスに生かせるスキルを持っているんです。

 

川口:多様な人材が求められる御社の事業ですが、業務ごとではどういった体制なのでしょうか。また現状、不足しているのはどういうスキルを持っている人ですか。

中村:今、弊社には衛星開発の担当者が最も多く、次に衛星の運用システムやデータ解析、さらにはUI、UXまで含めて行うチーム。他には、マーケティングや営業のチームとバックオフィスといった体制です。かなりのスピードで成長しており、昨年から人数は倍以上になっています。

あらゆる業務での人材が不足しているので、どんどん採用しているところですが、特にデータ解析、AIに詳しい人材がもっと必要ですね。また、グローバルに営業できる人材も必要ですし、グローバル展開のための法務の担当者も必要ですね。

川口:ちなみに、東大の宇宙工学の研究室からも入ってきたりするのでしょうか。

中村:東大生は意外と入ってきませんね。東大の宇宙工学の研究室は人気があるのですが、ベンチャーよりも大企業にいく傾向が強いように思います。

 

多様な業界から増える問い合わせ。小型衛星活用ビジネスの可能性

川口:宇宙産業も近年は世間的な注目度が上がってきたと思いますか。業界の内部の方として、その背景についてどのようにお考えでしょうか。

中村:まったく違う業界から「こういったことはできませんか」という問い合わせをいただくケースが急速に増えており、注目度が高まってきていると感じます。

その背景には現状に対する危機感があるのかもしれません。大企業では「ビジネスの方法を変えていかないとならない」と多くの人が認識し、スタートアップと協業しないとスピードに追いつかない、といった考えもあるではないでしょうか。

川口:確かに大企業でも最近の宇宙ベンチャーへの出資の事例も増えていますが、「乗り遅れないように接点を持っておきたい」といった意図もあるように聞きます。

問い合わせが増えているとのことですが、「まず何からやったらいいのか」「衛星で何ができるかわからない」という企業も多いと思います。

中村:はい。衛星をどう使ったらいいのだろうと考えるとイメージがわかず、なかなか次のステップにつながらないと思います。

弊社では、ひとまず衛星は置いておいて、事業を詳しく教えていただいた上で、「この部分に衛星データが使えるのではないでしょうか」とご提案します。

「宇宙なんて関係ない」と思っている企業でも使えるところは意外とあります。衛星画像だけで何かビジネスにしようと思うとアイデアが出てきませんが、既存の事業に衛星を使うことで効率化できるということもあります。

専用衛星ビジネスにおいても、お客様が「このスペックの衛星を作ってください」と発注するケースは基本的にありません。まずご要望を聞いて、どういう衛星を作れば解決できるかというスペックへの落とし込みが必要になります。それができる企業は弊社以外にはまだあまりないと思います。

川口:なるほど、依頼する企業はそこまで要件を固め過ぎなくても、御社とのディスカッションの中で活用法を見出していく形でもいいのですね。御社の今後の構想についてはいかがお考えでしょうか?

中村:やはりアクセルグローブによるインフラを実現したい。思わぬサービスで、「実は衛星データを利用している」という世界をつくりたいと思っています。

宇宙ビジネスはB2G(Business to Government)から始まってその歴史が長かったわけですが、いまようやくB2Bの扉が開き、急速にそちらに向かって動いているところです。そのなかで我々がイニシアチブを取り、B2Bの確立そしてその後のB2B2Cへと広がる展開に貢献していきたいと考えています。

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

中村友哉:アクセルスペース代表取締役。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中に超小型人工衛星の開発に携わる。2002年には、学生が作った世界初の超小型人工衛星「CubeSat」が完成し、2003年に打ち上げ成功。研究室で3つの超小型人工衛星の開発に携わる。卒業後は、大学発ベンチャー創成事業参画を経て、2008年アクセルスペースを設立、代表取締役に就任。2015年より内閣府宇宙政策委員会宇宙産業・科学技術基盤部会委員。