【インタビュー】ディズニーシーに「酔っ払って騒ぐ人」がいない理由。東京ディズニーランドの成功における「6つの鍵」とは 元東京ディズニーリゾート運営部長・安孫子薫(後編)

2018.04.17 エキスパート

東京ディズニーランドの立ち上げから関わり、カストーディアル部門の統括やパークの全体統括、運営責任者などさまざまなミッションと向き合ってきた安孫子薫さん。オリエンタルランドの後は、職業体験をテーマにした「キッザニア」の改革にも携わっています。

中編では、実際のディズニーリゾートのキャストの育成について、その根底に流れるホスピタリティの考え方や風土について伺いました。後編では、教育プログラムだけではない、ディズニーランド成功の背景を伺います。今後、ホスピタリティを必要とする領域は広がっていくという安孫子さん。元テレビ東京アナウンサーの白石小百合さんがお話をうかがいました。

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重要なのは育成だけではない。東京ディズニーランド成功の背景にある「6つの鍵」とは

白石小百合さん(以下、白石):大人も子どもも楽しめるパークを作り、キャストは「ハピネスの提供」に全力を尽くす。東京ディズニーランドもウォルト・ディズニーのそうした思想を受け継いでいるとのことですが、実際に安孫子さんはカストーディアル部門を改革していく中で、どのように手応えを感じましたか?

安孫子薫さん(以下、安孫子):事務所に行ってみると、キャストが本当に楽しそうな顔をしているんですよ。ゲストの前にいるとき、つまりオンステージのときにも、本当に楽しそうに仕事をしている。そんな姿を見て手応えを感じました。

お客さまを幸せにしてあげれば、自分たちも幸せになれる。そこに気づく人が増えていったということだと思います。もちろん、数多くのキャストが働く中では、ここに共感できない人もいました。そういう人は自然と去っていきましたね。

 

白石:このように理念やビジョンを浸透させていくために、教育に随分力を入れたということですか?

安孫子:それはよく聞かれるのですが、私自身としては、実は教育の効果だとはあまり考えていません。

白石:と言いますと、他にどんな理由があったのでしょうか?

安孫子:もちろん「ディズニーユニバーシティ」のように考え抜かれた教育システムはあるのですが、それはあくまでもディズニーの世界に入り込んでもらうための入り口。より大切なのは日々のマネジメントだと思っています。

現場を見て、良いところはちゃんと評価し、成長した部分は認めてあげる。それの繰り返しです。ディズニーは、そうしたマネジメントの仕組み作りがきちんとできているんですよ。

白石:教育そのものはもちろん、それを実践していくためのマネジメントが重要であると。

安孫子:はい。東京ディズニーランドが成功した背景には、6つの「重要な鍵」があります。

まずは①事業のビジョンを明らかにしたこと。そして、②ミッションを明確にし、③行動指針を示したこと。それを④現場での行動につなげるために教育プログラムを作り、⑤ES(従業員満足度)向上に努め、⑥マネジメントを回していく。

多くの日本の企業は、これができていません。一時的にできたとしても、その後は継続しなかったり妥協したりします。しかし、東京ディズニーランドはあきらめずにやり続けています、だからこそ成功したのです。

 

 

ディズニーシーに「酔っ払って騒ぐ人」がいない理由。「質の良いサービス」だけでは不十分

白石:確かに、教育プログラムを改善したからというだけではうまくいかないということですね。実際はビジョンやミッションの明確化から、マネジメントを継続的に回していくことが重要ですね。

安孫子さんのおっしゃる6つの鍵は、確かに業種を超えて多くの企業に必要とされる要素です。

安孫子:はい。東京ディズニーランドの成功の後、日本中に「雨後の筍」のようにたくさんのテーマパークができました。しかしそのほとんどは成功しなかった。理念やビジョンを形作るストーリーがなく、従業員がフィロソフィーへ共感することもなく、オペレーションの徹底もない。

多くの人が誤解しかちなのですが、ホスピタリティやおもてなしが重要とは言っても、単に「質の良いサービス」があるだけではダメなんです。これはディズニーシーの立ち上げのときにも感じました。

白石:ディズニーシーは、ディズニーランドとは異なる新たなコンセプトで企画されたわけですよね。

安孫子:はい。ビジネスとしてはターゲットを変え、対象年齢層を高くしました。アルコール類の提供を開始したのは大きなトピックスでしたね。実は私自身は、あそこでお酒を提供するのには反対だったんです。パーク内の雰囲気や美観、セキュリティの問題を懸念していました。

でも人間は不思議なもので、実際に蓋を開けてみると、「あの雰囲気の中では酔っ払って騒ぐ人はいない」ということが分かったんです。

白石:確かにディズニーシーで泥酔している人を見かけたことはありません(笑)。

安孫子:これはディズニーの理念やビジョンがゲストにも伝わっているからではないかと思っています。キャストが理念やビジョンを体現することで、ある意味では「変なことができない場所」になっているんですよね。開業当初はパーク内でタバコをポイ捨てする人もいましたが、今ではポップコーンをこぼしたゲストが、ご自身で片付けてくれるということも当たり前になりました。

掃除はカストーディアル部門のキャストがやるだけでなく、ゲストも進んで協力してくれる。従業員もお客さまも、ともにこの場所を大切にしているわけです。こんなパークはそうそうないでしょう。

 

6つの鍵」を下地にしたキッザニアでの改革

白石:安孫子さんはその後、職業体験型テーマパーク「キッザニア」の立ち上げにも関わっていらっしゃいます。ディズニーでのご経験を活かした形ですね。

安孫子:オリエンタルランドでは26年間、カストーディアルにはじまり、広告宣伝や法人営業、
アトラクション、ゲストリレーション、インフォメーションセンター、全体統括、ランド・シーそれぞれの運営部長など、さまざまな仕事を経験させてもらいました。その中で培ったディズニーの運営の中核にあるともいえる精神を新たな場所で発揮したいと考え、キッザニアへ移りました。

キッザニアのルーツはメキシコです。創業者は徹底的にフロリダのディズニーランドを勉強して独自のテーマパークを作り上げたんですよ。そうした意味では共通項もあったのでしょうね。

白石:キッザニアではどのような改革を進めたのですか?

安孫子:主だったものとしては「オペレーション改善」です。かつてのキッザニア東京は、お客さまの誘導が不十分だったり、一つひとつのアクティビティの精度が低かったりと、システマティックなオペレーションができていなかったんです。その結果、子どもがパークを楽しむ一方で、大人の中にストレスがたまっているような状況でした。

そこでメキシコ本国のパークを見に行ったところ、面白いことに保護者は子どもと一緒に行動していなかったんです。保護者はショッピングモールに行って、子どもが遊び終わった頃に帰ってくる。もちろん子どもの年齢にもよるでしょうが、「大人も子どもも楽しめるように」という観点でそれぞれ別の過ごし方が提案されていたわけです。

そこでキッザニア東京でも、保護者が自由に出入りできるようにしたり、くつろいで過ごせるスペースを確保したりといった改革を行いました。こうしたことができたのは、キッザニアに明確なビジョンがあり、「6つの鍵」をしっかりと持っていたからです。成功の条件や下地はやはり共通しているのだと感じました。

 

新たなテーマパークを作り、成功に導くのは至難の技

白石:観光立国を目指す日本において、テーマパークも観光産業の一つといえます。

そして同産業においてテーマパークに限らずこうしたサービス・クオリティやホスピタリティについての考え方は、今後ますます重要になっていくと思います。数多くの現場に携わってきた立場として、ビジネスとしてみたテーマパークは今後、どのように進化していくべきだとお考えですか?

安孫子:そもそもテーマパーク事業は、そう簡単には成功しないと思っています。

例えば、日本を代表するキャラクターに『ドラえもん』がありますね。世界的にも有名です。しかし、ドラえもんだけでテーマパークを作っても厳しいかもしれない。根底にコンテンツのストーリーがあることは大きな強みなのですが、「テーマパークありき」で先に作れるものではないと思うのです。

私のところには「テーマパーク作りをサポートしてほしい」という依頼も来ますが、ほとんどお断りしているのが現状です。

白石:なぜテーマパーク事業は難しいのでしょう?

安孫子:先ほど申し上げたような6つの鍵を実現しなければならないことに加え、「面白さ」という絶対的なポイントも重要だからです。

その昔、京都に「私の仕事館」という莫大なコストをかけた公立の施設がありました。中学生や高校生など、若者を対象にして職業体験の場を提供するというものです。しかし、お客さんは集まらず、公費の無駄遣いではないかとの批判が集まって閉館してしまいました。

コンセプトそのものはキッザニアと似ているかもしれませんが、決定的な違いが一つあります。教育という観点も重要ではありますが、キッザニアは「遊びを通して職業教育をする」という明確な理念を持っていて、「面白さ」を何よりも大切にしているんです。これはディズニーも同じで、面白くないものは決して続けません。

そう考えると新たなテーマパークを作り、成功に導くのは至難の技なのですが、とは言え現状のままでは日本の観光産業に限界が訪れてしまうのも事実です。独自の理念やビジョン、ストーリーを持ち、明確なフィロソフィーを掲げてお客さまを巻き込んでいくようなパーク作りに挑んでいくことも私の使命だと思っているので、これからも可能性を模索し続けたいと考えています。

 

サービス業だけではない、ホスピタリティの考え方を必要とする領域は広がっていく

白石:「ホスピタリティ」や「おもてなし」を言葉尻だけでとらえるのではなく、事業の根本から見つめ直していかなければ、成功は得られないということですね。

安孫子:そうですね。これはサービス業全般に言えるのはもちろん、他業界でも重要です。例えば警備業界など、一見するとホスピタリティには関係なさそうに思える業界でも重要となっていくでしょう。

最近では、私のもとにメーカーの工場から講演依頼をいただくことも増えてきています。工場でものづくりをしている人も、ただ寡黙に作業に向き合っているように見えるかもしれませんが、実際はエンドユーザーにハピネスを提供するための仕事をしています。企業としては、従業員にその気づきを与えたいという思いがあるのでしょう。ホスピタリティを必要とする領域はどんどん広がっています。

撮影:Masanori Naruse

<コメント>

白石:「6つの鍵」は、一度でもビジネス書を読むなりビジネスを実際にしている方なら、皆が、一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。全てに応用できる基本ですが、徹底できているかというと考えさせられる面があり、そこが改善点。さらにその鍵が他のテーマパークではどういう形で導入されているかが、活用例として参考になりました。加えて「面白さ」や「ハピネスを提供する」という「感性」が必要とされる仕事は、一筋縄ではいかないようです。誰もが一度は心を揺さぶられたであろうテーマパークには、考え抜いた大人の足跡がしっかりと見えました。話しているうちに、またディズニーランドに行きたくなりました!!

 

プロフィール

安孫子 薫:元東京ディズニーリゾート運営部長。報知新聞社を経て、1982年に株式会社オリエンタルランドに入社。カストーディアル部門(清掃)に配属、米国ディズニーランドにてパーク運営の考え方を学ぶ。1983年の東京ディズニーランド グランドオープンでは、カストーディアル部門を清掃専門集団からゲストサービス集団へ改革に努め成果を上げる。その後、ゼネラルサービス部長・カストーディアル部長を務め、ディズニーシー開業に向けた準備、2パーク運営体制の確立を行う。2006年に、東京ディズニーリゾート 運営部長として、「ディズニーアカデミー」事業、「インフォメーションセンター」「駐車場運営管理」業務を行う。2007年、株式会社キッズシティジャパンに入社。キッザニア東京副総支配人として、こどもの職業体験施設の運営、営業基盤の整備に努める。2008年、株式会社チャックスファミリー 設立

白石小百合:元テレビ東京アナウンサー。Whitte株式会社 代表取締役。法政大学国際文化学部在学中にスペインのバルセロナに留学し、ゼミでアートを学ぶ。2010年4月株式会社テレビ東京にアナウンサーとして入社。経済番組・情報番組・スポーツ番組・ナレーションなど、多岐にわたり担当し、2017年3月31日付でテレビ東京を退職。同年4月よりフリーとなり、かねてからの興味関心を形にした香りブランド『Whitte』(ウィッテ)創業。