【インタビュー】在宅医療で向き合う、死の現場とは。やまと診療所安井佑(後編)

2017.11.14 エキスパート

超高齢社会を迎えた日本。2030年には47万人もの人が “看取り難民”になるという予測があります。東京・板橋区にある「医療法人社団 焔(ほむら)やまと診療所」は、「自宅で自分らしく死ねる。そういう世の中をつくる。」という理念の下、在宅での看取りを推進しています。多死社会における地域医療のため、新しい病院経営のモデルの構築を目指して、看取り日本有数の規模の在宅医療の診療所を立ち上げた、安井佑院長。元テレビ東京アナウンサー白石小百合さんがお話を伺いました。今回は、意外と知られていない実際の死の現場について、そして看取りに従事する医療人として必要なスキルについてです。

前編はこちら

中編はこちら

実際の死の現場。重要なのは最期の「瞬間」ではない

白石:看取る医師の側としては在宅で亡くなる患者さんにどのような心情を以て対処しているのでしょうか?

安井:死を迎える状況については誤解があると思っています。テレビドラマなどでは、死の瞬間はわかりやすく表現されます。ピッ、ピッ、ピッと次第に弱まっていく電子音が、最後にピーと単調で連続的な音に変わる。深刻な顔をした医師が補聴器を外し、「ご臨終です」と宣告、遺族が嘆き悲しむ…あんなことは、現実にはあり得ません。

白石:死の瞬間というのは、確かにそういうイメージですね。でも実際には違うと。

安井:最期に逝くタイミングは不思議と本人が選ぶものです。寂しがりの人は、皆でわいわいご飯を食べているときにすっと息を引き取るかもしれないし、孤独を好む人は皆が寝ている間にスッと逝くかもしれません。息を引き取る瞬間に遺族を集めて大騒ぎしなければならない、なにかをしなければならないという発想そのものがまったく現実と違います。

 

白石:皆に囲まれて息を引き取るようなそういう瞬間をイメージしている人が多いですね。しかし皆そうした最期の瞬間を希望しているわけではない。

安井:こうした「瞬間」をどう迎えるかといったことを皆気にされるのかもしれませんが、様々な例に接しているうちにそうではないと感じています。実は、息を引き取る瞬間は重要ではない、それよりもそこまでの看取りの期間、それらを含めて死だと考えています。息を引き取る瞬間を過ごすのではなく、そうした看取りの数か月の期間そのものをどう過ごすか、それが死を迎えるということだという考えです。

白石:家族の方々も、在宅で看取ろうという覚悟が決まっている人ばかりなのでしょうか?

安井:基本的に最初から自宅で最期を迎えようと腹をくくっている家族はゼロです。最もよくあるケースは、在宅医療を進める中で「お父さんを最期はおうちで看取るという気持ちが一部でもあれば。とりあえずやってみましょう」という形で入っていくパターンですね。

 

「終活」が今一つ流行らない理由とは

白石:一部で流行している「終活」という言葉についてはどう思われますか?

安井:TVで取りざたされるような終活という概念は日本人の感覚にはそぐわないというのが私の意見です。体の衰えは医者ならずとも本人にも家族にもだいたいわかるものです。医者がタイミングを見て「万が一の場合には病院に帰りたいですか」と水を向けて、「二度と病院には帰りたくない」と仰る患者であれば、ご家族と話し合って在宅での看取りに向けて準備を進めれば良いのです。「終活」がもうひとつ流行らないのは、生き死にの問題に関して他人が口をはさむこと自体に無理があるからでしょう。

白石:なるほど…実際の現場からはそういった感覚なのですね。在宅医療の一般化にあたり、どんな対策がありそうでしょうか?

安井:Advanced Planningという一種の「終活」を推奨する人もいますが、効果的ではないと思います。ドラマや映画を通じて予備知識を入れていただければ、という程度です。個人的には在宅医療をテーマにしたドラマができればと思っています、こうしたフィクションが一般受けすれば、こうした在宅医療に対する理解や認識が大きく変わるでしょう。

多くの死に向き合う、在宅医療に関わる医療人として必要な能力とは

白石:いうまでもなく多くの死に立ち合うお仕事ですが、ご自身の精神や人生観に変化はありましたか?

安井:プロとして関わる以上、ある意味で客観的に対処しています。そもそも人間は必ず死ぬものであり、死に向かう患者の道程をサポートする活動自体はプラスでしかないという発想です。必要以上に感情移入してしまったり、ましてや多くの人の死を見て暗い気分になるとかいったことはありません。

白石:毎回喪失感を抱いたり、暗い気分になると大変ですね。死に向かう患者をサポートし、それ自体にポジティブに向き合う必要があるということですね。

安井:自分たちを生き死にの旅路を歩む患者さんとともに旅するシェルパだという見方をしており、PA達にもそう伝えています。

白石:人材開発企業としての側面もあるとおっしゃっていましたが、そうした側面での考え方やとらえ方も含めて育成されているのですね。

安井:技術的なことはきちんと教育プログラムを作って指導しています。個々の育成段階において自分がプロとして心構えがきちんとできているか、精神面の成熟も技術的な成長と併せてきちんと指導し、家族に寄り添える存在となるまで厳しく修行をさせていますね。

白石:在宅医療に関わる医療人として必要な能力は、医療技術のほかになにがあるのでしょうか?

安井:技術以外でいうと、「人が好きか」ということです。患者やご家族の心に分け入り、正解がない状況のなかで課題解決を進めていく仕事です。客観的に対処する部分もあれば人の心にあえて踏み込むこともあり、ここが非常に難しい。根底を支えるのは「人が好き」かどうかだと捉えています。

技術的なイノベーションの在宅医療への影響

白石:在宅医療における、IoTや遠隔診療を含む技術的なイノベーションによる現場への影響については、どのようにお考えでしょうか?

安井:IoTなどは医療現場としては大変見込みがあると個人的には考えています。ただし自分たち医師が何かを患者に勧めることは、患者にとっては絶対的な権威からものをいうことを意味します。そのため道義的にきわめて慎重になる必要があると思います。

白石:便利にはなるが、実際の現場での患者への提供については慎重になっているというお考えですね。

安井:むしろ、信頼できる在宅医療機関を見出すことが多くの人にとってキーになります。在宅医療にやまと診療所が介入した患者で、ご自宅で亡くなる人の数は7割です。IoTデバイスでこれが7割から8割になるか、あるいは9割になるかは本質的に大きな意味を持ちません。自分たちが医療人として看取りに関わることが重要であり、技術的イノベーションに自分たちの医療を本質的に変える力があるかどうかは、期待していないというのが正直なところです。

 

看取りについても、「今が頑張るべき時」と言ってあげる存在が必要

白石:在宅医療にかかわる医師やスタッフについては医療人として看取りにかかわることが重要とのことですね。患者の家族としては、どういったことを心がけておく必要があるのでしょうか、医療の知識などもある程度知っておいた方がいいなど。

安井:親が倒れたときに豊富な医学的知識が助けになるか、医療を受けるにあたって専門知識が必要かというと必要ありません。当事者意識をいかに持つかが重要だと思います。

白石:在宅医療が必要なタイミングは突然訪れます。そうした時にはどのように向き合うかは皆悩むのかもしれません。

安井:在宅診療と言いますと、どうしても「介護」のイメージで、仕事をやめるとか家族が共倒れとかそういう思い込みを持ってしまいます。しかし、仮に病気が癌であれば、カウントダウンが明確な病気でもあるので、極論3ヶ月有休をとれば済みます。であれば、当事者意識をもって、とにかく一緒にいろと、患者の家族にも強烈なメッセージを発して伝えるようにしています。

家族にとって大変なのは間違いありませんが、味わうべき大変さだと思います。

 

多死社会の到来は不可避、その中で「自分らしい最期」を迎えてもらうために

白石:看取りも皆が味わうべき大変さだと。

安井:死とはその瞬間ではなく、看取りの期間を含めて「死」だと説明しましたが、患者の家族としてもその時にどのように向き合ったかで、後悔することがないようにすることは大事です。子育てが大変だからといって子育てしないのは間違いでしょう。それと同様、看取りについても今がそのとき、今が頑張るべき時、と言ってあげる存在が必要と考えています。

白石:確かに、そのようにして最期の期間を一緒に過ごすことが家族にとっても重要ですね。実際にはどうすれば在宅医療をうけることができるのでしょうか。在宅診療を望む患者は、医師にそのことを申し出れば紹介されるものなのでしょうか。

安井:基本的にはそうですが、全国に在宅診療を行う病院がどのくらいあり、どのような品質の医療を提供しているかはとても調べにくいです。これは本当に課題です。

各地に地域包括ケアセンターという介護保険の相談窓口のようなものがあります。そこの相談員の方は各地の在宅診療に関してとても詳しいので、そういった窓口に相談してみたり、自分で知り得た診療所で実際に働いている人とお話をして相談してみるのが良いと思います。

白石:地域包括ケアセンターの相談窓口という公共施設にも調べる方法があるということですし、自分で選択肢を探して選ぶことができますね。大和診療所は、PAなど様々な新しい取組にも挑戦されていますし、社会的な課題解決という点でも、今後の展開に期待ですね。

安井:多死社会の到来は不可避であり、特に都市部では最期を過ごす場所が圧倒的に不足します。その背景の中で「自分らしい最期」を迎えてもらうために、医療のパラダイムシフトを進めたいと考えています。

<コメント>

白石:死ぬ瞬間だけではなく、死を迎えるまでの看取りの期間全てが「死」であるとおっしゃっていたこと。子育てと同じように向き合わなければならない期間であるということ。遠いようで近い存在の「死」がどんどんリアルになるインタビューでした。ドラマになったらいいなと思ってるんですよと言いながら、すでに出版された在宅医療の漫画を二冊手渡して下さいました。もう連載が終わってしまったそうですが、毎日いろいろあるので何話もできそうですと、日々の様々なドラマを連想させるような笑顔で話されます。パラダイムシフトには大きなエネルギーが必要ですが、お体ご自愛されながら、ますますのご発展を期待しております。

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

安井 佑:東京大学を卒業後、国保旭中央病院で初期研修を行う。その軍事政権下のミャンマーに渡り、国際医療支援、緊急災害支援に2年間従事する。帰国後は形成外科医として杏林大学病院、東京西徳洲会病院に勤務。2013年に東京都板橋区にて在宅医療専門のやまと診療所を開設。「自宅で自分らしく死ねる。そういう世の中をつくる」を理念に、地域連携を推進し、都内で有数の在宅看取りを行うクリニックに育てあげる。ミーミルのヘルスケア・クオリティエキスパート「終末期の在宅医療 第一人者」

白石小百合:元テレビ東京アナウンサー。Whitte株式会社 代表取締役。法政大学国際文化学部在学中にスペインのバルセロナに留学し、ゼミでアートを学ぶ。2010年4月株式会社テレビ東京にアナウンサーとして入社。経済番組・情報番組・スポーツ番組・ナレーションなど、多岐にわたり担当し、2017年3月31日付でテレビ東京を退職。同年4月よりフリーとなり、かねてからの興味関心を形にした香りブランド『Whitte』(ウィッテ)創業。