【インタビュー】人口減で病院経営が危ない。厳しい時代に求められる病院の経営に関する意識。メディヴァ取締役 小松大介(後編)

2017.12.21 エキスパート

診療所や病院の経営支援として、現場に踏み込んでいく取り組みをしている株式会社メディヴァの小松大介さん。少子高齢化、医療費抑制などによって、近年はさらに厳しさを増す診療所や病院の経営。100か所以上のクリニック新規開業・経営支援、200近い病院コンサルティングや最近では地域の病院の再生などを行ってきたメディヴァの小松さんに、今後業界はどのようになるのか。前編に引き続き、ミーミル代表の川口が伺いました。

前編はこちら

医師と患者の関係の変化など。医療業界でおきている変化

川口:医療業界全体を振り返り、近年どのような点が変わってきたと感じていらっしゃいますか。

小松:この業界に関わって17年。まずひとつは医師と患者さんの関係が大きく変わりました。インターネット上にいろいろな情報がありますし、患者さんが「ドクターにこういうことを聞いていいんだ」、むしろ「こういうことを聞かないといけないんだ」という意識を持ち、情報の非対称性が以前に比べると相当小さくなりました。ドクターも「何も知らないのだから言うことを聞きなさい」という立場から、「患者さんも知っている」ということを前提として、病気やケガを共通の課題として捉えてうまく解決していこうという関係になってきています。

川口:これまでは医師と患者の圧倒的な情報量の差がありましたが、情報獲得が容易になり、患者の意識が変わってきたと。医療費抑制というのも大きな課題になっています。小松さんの著書の中でも、病院経営が厳しくなった背景として、少子高齢化と国民皆保険を守るための財源の不足をあげられていますね。

小松:医療介護費を社会として支えることが難しくなり、医療費抑制のために10年ほど前から締め付けは強くなってきていることは現場でも感じています。例えば、新しい医療機器を購入しても、診療報酬を通じて病院は国に一定のフィーを請求できていて、こうした制度を利用して医療は発展し高度化してきたわけです。ところが、それも抑制傾向にありますし、ドクター、ナースを減らせば診療報酬も減る、古い医療機器を使えば保険点数も減らす……といった診療報酬の改定がなされ、病院にも現在の事業環境に応じた経営感覚を持つことが必要になりました。すべての医療機関が高度化することはできません。経営戦略を持って健全に経営していれば投資もできて発展可能ですが、時代の流れに追いつけない医療機関は投資もできず、事業としても厳しくなっていきます。

 

2025年が医療需要のピーク、あとは減る一方

川口:医療費の削減など、医療機関における事業環境が大きく変化しており、これまで以上に「経営」が意識される時代になってくる。医療需要について、高齢化の影響としてはいかがでしょうか。受診率が上がり、しばらくは患者さんが増え続けるのでしょうか。

小松:医療需要を見ると、 外来患者数としては2025年がピーク、その時に団塊世代が75歳になるためです。その後も入院患者数は増加するため、高齢者のための医療需要はそれなりにありますが、2040年以降は減る一方です。2040年以降は年間100万人ずつ人口が減っていくと言われ、医療需要が激減していきます。実は、地域によっては、今の段階ですでに高齢者が減り始めているところも少なくありません。おそらく10年もしたらドクターが余る時代になるでしょう。このままいくと病院数は2040年までに今の7割程度の数になる可能性もあります。これから医学部に入る学生も医師として働きだすときには環境が大きく変わっているということを認識しておいた方がいいと思います。

川口:団塊の世代が75歳以上に突入するという高齢化の影響を受けて、国も2025年をターゲットに様々な政策を進めているそうですね。このまま医師が増えていく一方で患者が減っていくと、今後は需給が逆転していく。医師あたりの患者数も減少し、医師の年収も減少傾向にあるとか。業界全体が厳しくマーケットがシュリンクしています。病院としても経営意識が求められる中でどういった施策が必要になりますか。

小松:一般的なことをいうと、厳しい状況のなかで生き残りたいのであれば、マーケットに合わせてダウンサイジングしながら、一方で多少伸びると思われる別の事業を始める、これが経営における常識です。当然、これは病院によっても変わります、例えば借入金が多い施設と、ない施設でも経営戦略が違います。病院を建設して間もない、もしくはこれから経営を始めるところと、既に開設してから何十年もたっている病院ですね。すでに投資していてあと30年かけて借金を返す必要があれば、ダウンサイジングすると返済ができなくなりますので、こうした病院の状況に応じて戦略を立てていく必要もあります。

 

厳しい事業環境の中、「地域の中核病院を守るというミッション

川口:より経営意識が必要になっていく病院や診療所の業界において、今後の展望をお聞かせください。

小松:まずはこれから増えてくる病院・診療所からの多様なニーズに応えるため、当社自身の生産性をあげていく必要があると思っています。コンサルティングでも業務の多くはシステム化ができます。たとえば、来院される患者さんの居場所のマッピング業務など、15年前なら手作業でまる2日かかりましたが、今ではアプリケーションを導入すれば5分で終わる。我々も、生産性をあげれば、時間の余裕を創って、コンサルティング事業としてもフィーを下げてキャパシティを広げることができるのと同時に、新しい提案、事業への展開を考えるなど、お客様の期待をいい意味で裏切れるようなプラスアルファの価値を提供できるようにしたいですね。ただ、そうはいっても最終的には現場で人を動かさなければなりませんから、これまで通り現場に深く入っていくことも続けて、多くの病院の経営再生を手がけていきたいと思っています。

川口:その中で、小松さんご自身の個人としての興味の方向性はいかがですか?

小松:個人としては、解決が本当に難しいとされる医療機関の再生を支援したいです。2017年6月、岐阜で約87億円の負債を抱えた病院が民事再生の適用となり、弊社が再生支援スポンサーとして関わることとなりました。全国的に病院経営は苦しい状況ですが、中でもこうした地域の中核病院は絶対になくしてはいけない。こうした支援は社会的にも非常に重要だと捉えています。あとは、もともとマッキンゼー時代から分析することが好きなので、今後も引き続き医療でも経営や業務の分析をし、生産性を高めていく、そのためのシステム構築なども興味があります。

 

医療現場でのテクノロジー活用など。業界全体として効率性は上がっている

川口:確かに、地域になくてはならない病院が失われるのは社会としても損失ですね。病院や診療所の業界は、お話を聞いていると見通しとして本当に厳しいことがわかります。著書でも、今後は技術の高度化を含めた医療密度を上げていく必要があるなど、おっしゃられていますが、新しいテクノロジーなどで期待しているところはありますか。

小松:AIとロボットには興味を持っています。将来、ドクターの業務のうち3〜4割はAIが代替するのではと思っています。特に診断領域はAIが確実に普及すると思いますが、このあたりは現場でも導入されつつあります、レントゲンやCTの画像診断は既にコンピュータがアシストしていますね。ロボットでいうと、手術でも細かい処置や臨機応変な対応は人間のほうが得意ですが、たとえば何か押さえているところを動かさずにずっと保持することはロボットが得意。ドクターはひとり、アシストはすべてロボットの手術ということも近い将来可能だと思います。こうした新しいテクノロジーを医療領域にもっていくところについては、これまで培った先進的な医師のネットワークなどを活用して支援できると思っています。

川口:かつて創業の際に小松さんが感じていた、「医療業界の非効率性」は17年関わってきた中で、どの程度改善できたと思いますか。

小松:道半ばで僕らができたことはわずかではありますが、業界全体として効率性は上がっていると感じています。例えば、現場では「クリニカルパス」(治療やケアのスケジュール表)の導入がメジャーになっています。かつてはいつ手術するか、術後なんの薬を飲むか、いつ退院するか、ドクターが患者さんの容態をみながら決めていたため患者としてもその先の医療のプロセスがみえませんでした。クリニカルパスによって標準的な医療のプロセスが可視化されているので、今後ドクターの主な仕事はどのクリニカルパスを適用するか決めることになるでしょう。一方で、ただ診断、治療するだけでなく、患者さんの希望や考えをきめ細やかに引き出すことがドクターに求められるようにもなると思います。たとえば、がんと診断された場合、患者さんによっては治療しないほうがQOLが上がるケースもある。患者さんの理解を仰ぎながら、一緒に治療法を決めていくようになると思います。

川口:事業環境の変化によって、病院経営の意識も変化していくのと同様に、テクノロジーなどの導入によって医師の価値も今後変わっていくのかもしれませんね。

 

プロフィール

小松大介:東京大学教養学部大学院修了。広域システム専攻。人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、株式会社メディヴァを創業。取締役就任、コンサルティング事業部長。100か所以上のクリニック新規開業・経営支援、200箇所近くの病院コンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。

著書:「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業経営を“最適化”させる36メソッド」

ミーミル・クオリティエキスパート「病院・診療所経営 第一人者」