【インタビュー】サービスを指揮する「メートル・ドテル」。世界一のサービスマンに求められる技術とは 宮崎辰(前編)

2018.04.10 エキスパート

ミシュランガイド東京で三ツ星を取り続ける、東京・恵比寿の「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」。宮崎辰さんは、そのようなグランメゾン(大規模高級レストラン)と呼ばれるこの名店でサービスを統括する「プルミエ・メートル・ドテル」として2017年まで活躍しました。2012年に開催されたサービス技量の世界一を決める大会「クープ ジョルジュ バティスト サービス世界コンクール」では日本人で初めて優勝し、世界一のサービスマンに。現在も都内の星付きレストランでサービスの最前線に立ちながら、そのノウハウをさまざまな場で伝えています。

このインタビューでは「おもてなしの最前線」の第一人者、宮崎さんのキャリアをお聞きしながら、サービスの本質とは何かをともに考えていきたいと思います。ミーミル代表の川口荘史がお話をうかがいました。NHKのプロフェッショナルの流儀でも取り上げられたその世界一のサービスの根底にある考えとはどのようなものでしょうか。

 

高級レストランの高品質サービスを可能とする組織構造と役割。レストラン全体の動きを把握する「メートル・ドテル」

川口荘史(以下、川口):まずは、宮崎さんがグランメゾンで務められていた「メートル・ドテル」の役割について教えていただけますか?

「メートル・ドテル」とは、フランス語ではもともと「ホテルの主人」を意味し、日本語で給仕長ともいわれる、給仕を含む接客全般について指揮をする立場とされています。

宮崎辰さん(以下、宮崎):高い技術でお客さまをもてなすのがメートル・ドテルです。その歴史は古く、中世ヨーロッパでは城主を引き立てるための側近として仕えていました。花を生けたり、大皿料理を切り分けたりといった仕事を任され、数百人という規模の部下を動かしてサービスを指揮していたポジションだと言われています。

 

川口:レストラン内での地位としては、料理長よりも上なのだとか。

宮崎:実際にヨーロッパでもそうですが、料理長よりもメートル・ドテルのほうが高い給料をもらっているというケースも少なからずありますね。今ではスターシェフがお客さまの前に出て料理の説明をすることもありますが、もともとは料理の構成を考えてシェフに意見や指示を出すのもメートル・ドテルの仕事でした。

川口:ついウェイターのような役割を想像してしまいますが、それとは責任や業務範囲も大きく異なりますね。グランメゾンにおいては、宮崎さんは「メートル・ドテル」として具体的にどのような役割を担っていたのですか?

宮崎:スタッフのそれぞれの技量に応じてどのポジションに置くかを日々考え、配置していました。お客さまとキッチンの状況をともに把握し、お客さまにその日をどう楽しんでもらうかを考える「レセプショニスト」としての役割ともいえます。

ちなみにメートル・ドテルは基本的にお客さまの前から決して離れず、オーダーテイクも必ず自身で行います。レストランにはメートル・ドテルの補佐である「シェフ・ド・ラン」や、ホールとキッチンをつないで料理を運ぶ「コミ・ド・ラン」などの役職がありますが、そうしたメンバーを統括するチームリーダーなのです。「ソムリエ」や「パティシエ」の仕事は、メートル・ドテルがオーダーを取ってから動き始めます。料理が決まったら、それに合うワインや、お客さまの好みに合わせたデザートを提供していきます。

川口:お客さまだけでなく、常にレストラン全体の動きを把握していなければならない。メートル・ドテルになること自体も非常に難しそうですね。メートル・ドテルになるためには、どのようにスキルを身に着けていけばよいのでしょうか。高級レストランでは、高い品質のサービス提供のための組織構造やその中でも様々な役割があるようですね。

宮崎:メートル・ドテルになるためにはピラミッド構造になっているレストラン組織の中で、下から少しずつ上がっていくという感じです。グランメゾンのような組織では高い技術が求められるので、おっしゃる通り、若く経験の浅い人材がすぐになれるものではないでしょう。

メートル・ドテルの上司は総支配人になりますが、グランメゾンのような大所帯では「総支配人」「支配人」「プルミエ・メートル・ドテル」といった階層になっていて、その下にメートル・ドテルが6人くらいいるという構造です。こうした組織によって、質の高いサービスを提供しています。

 

個人の力でお客さまを呼ぶことができる。それが一流のメートル・ドテル

川口:こうした仕組みで動いている高級レストランは、日本にどれくらいあるのでしょうか。

宮崎:日本では東京・大阪をメインに、それほどの店数はないと思います。ただ、メートル・ドテルの役割をホテルのキャプテンやチーフと呼ばれる人が担うケースも多いので、同じようなミッションを持つ人はたくさんいるかもしれません。

川口:もし三ツ星に輝くようなレストランを東京で開業しようと思うと、真のプロのメートル・ドテルを探さなければいけないということでしょうか。

宮崎:はい。ただ、一概には言えませんが、メートル・ドテルの活躍の場自体は減ってきているので、なかなか人材がいないという現状もあります。クラシックなデクパージュ(切り分ける演出)を提供するレストランが減り、最近ではいわゆる「インスタ映えする」華やかな料理が人気だったり、短時間のサービスを求めるお客さまが増えたりしている事情が背景にあります。

川口:確かに、一口に飲食といっても、短時間で効率的に食事ができたり、「インスタ映え」を求めたり、一方でメートル・ドテルによる「お客様をおもてなしする」高級レストランのサービスなど、その楽しみ方は多様化していっているように思います。客側としては、「どうサービスを楽しめばいいのか分からない」というケースもあるのかもしれません。宮崎さんは、そういった場合にどういった対応をされるのでしょう?

宮崎:お客さまからご予約をいただいたら、まずはシェフと相談してどんな料理を提供するか決めます。当日は来店されたお客さまの警戒心を解くため、こちらから積極的に話しかけ、打ち解けてもらうことを心がけています。何気ない会話の中から、相手のことをいかに知るか。これが大切です。

川口:さらっとおっしゃりましたが、なかなか難しそうですね。

宮崎:実は、そう難しいことでもないんです。お客さまは料理を食べに来られているわけですから、聞きたいことはたくさんあるはず。なので、お客さまの興味のありそうなことを質問していきます。例えばワインのテイスティングをしている姿を見て「この方はワインが大好きなんだな」と気づくこともあります。「フランスワインがお好きですか?」「私はボルドーで働いていたことがあるので、ぜひボルドーワインも……」といったように話しかけるのです。名刺をお渡しすることも忘れません。個人のメールアドレスを渡したり、最近ではご常連になって頂いたお客様とLINEのID を交換したりすることもあります。

川口:メールアドレス交換やLINEでお客さんとつながるのもアリなのですね。外でのつながりは通常はないものだと思いました。カジュアルにつながっていくこともあると。

宮崎:そこまでするとお客さまは「自分たちのためにここまで動いてくれるんだ」と感じてくださるようになります。私はいつも「24時間サービスマン」なのだという意識で動いています。

料理で人を惹きつけることはもちろん大切なのですが、「あそこに宮崎さんがいるから行こうか」「宮崎さんがいるから安心して行けるよね」と言われるのはとてもうれしいですし、この仕事の理想的な姿だとも思います。店のブランドだけでなく、個人の力でお客さまを呼ぶことができる。それが一流のメートル・ドテルでしょう。

川口:なるほど。確かに、サービスを受けに来るという意味では、メートル・ドテルによってお客さまを呼ぶことができるということもあっていいですね。「メートル・ドテル」の名前で集客にもつながる、そういったところも仕事の範疇ととらえるのですね。

 

世界の舞台で「コミュニケーションの機微」を発揮する

川口:宮崎さんはサービス技量の世界一を決める大会「クープ ジョルジュ バティスト サービス世界コンクール」で、日本人で初めて優勝しています。これをきっかけとしてメディアでも取り上げられ、世界一のサービスマンとして認知が広がりましたね、このコンクールに出た背景は何だったのでしょうか?

宮崎:直接的なきっかけは、かつての上司がその日本のサービスコンクールに出て優勝したことでした。私自身も、もっと広い世界で競い合いたいという気持ちを持つようになったためです。レストランという小さな箱の中で同年代の人と競い合っていても、やはり限界がありますから。

結果として、師匠のもとで長く基礎を教わり培った技術が、世界にも通用したのだと思います。

川口:コンクールではどんなことを問われるのでしょうか。

宮崎:技術課題が全部で9つあります。お客様の前で肉を切り分けたり、温かいデザートを目の前で演出をしながら提供したりするテクニックです。最も問われるのは「プロとしての姿勢」ですね。広範な知識を問われるとともに、課題への対応による接客技術も見られます。さらにアシスタントに的確な指示を出せるか、明確にコミュニケーションが取れるかといったスキルも重要です。

例えば 4 人のお客さまが来店されたときには、「誰がホストで、誰がメインゲストなのか」を会話の中身などから判断し、テーブルの席順を誘導します。こうしたセッティングもメートル・ドテルの責任です。

川口:事前情報があるわけではなく、その場の会話の様子だけで判断するということですか?

宮崎:はい。これを間違えてしまうとレストランへの期待値が大きく下がってしまうので、五感をフルに活用しなければいけません。サービスする順番も間違えるわけにはいかない。そうしてテーブルについていただいてからは、ホストに寄り添ってゲストを喜ばせるための戦略を伝えるのです。コンクールでも、こうした人間の洞察力は重要な審査ポイントでした。

もちろん料理に価値をつけるサービスの技術でゲストを魅了することが出来たのも勝因の一つです。

川口:お客さまとのコミュニケーションの機微が非常に重要であると。世界的なコンクールでは、日本語で会話をするというわけにはいきませんよね。言語の選択はどのように行うのでしょうか。

宮崎:母国語以外を選ばなければいけません。日本人の場合はフランス語か英語。私はフランス語を選びました。世界三大料理と言われるように、フランスには長い歴史の中で培ったレストラン文化があります。フランス語では「焼く」という言葉一つとっても、「どんなフライパンを使うか」「どんな状況で焼くか」など、こまかなニュアンスの違いで数種類ほどの表現があるのです。

そうした本場の流儀を学び、実際に世界のステージで評価を得られたことは、私のキャリアにとっても大きな意味を持つことでした。

後編に続く

 

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

宮崎辰:メートル・ドテル。1996年に辻調理師専門学校グループ 東京国立卒業後、同校フランス校へ進学。南仏での研修を経て、東京国分寺「シェ ジョルジュ・マルソー」に入社。その後、東京芝「クレッセント」を経て、六本木「グランドハイアット東京」開業に携わる。東京銀座「オストラル」、東京青山「ピエール・ガニエール東京」の後、2010年に東京恵比寿「ガストロノミー ジョエル ロブション」(ミシュラン3ツ星)に入社。2012年「クープ ジョルジュ バティスト」サーヴィス世界コンクールにて優勝し、日本人で初の「世界一のメートル・ドテル」に。その後ジョエルロブショングループを退職し、2017年Fantagista21を設立。現在は、ミシュラン星付きレストランにてメートル・ドテルとして勤務しつつ、サービス普及活動や企業研修 講演、セミナー、メートル・ドテル業発展の為にも活動中。辻調理師専門学校グループ 非常勤講師。フランス料理文化センター サービス講師。ホテル学校や大学にて講師を務める。NHK総合テレビ「プロフェッショナル 仕事の流儀」出演。著書多数