【インタビュー】海外のスタンダードを理解し、日本らしい「ちょっと過度なおせっかい」を。インバウンド需要をつかむ本当の「おもてなし」とは 宮崎辰(後編)

2018.04.11 エキスパート

三ツ星レストランの接客サービスを統括する「メートル・ドテル」として第一線で活躍し続け、2012年にはサービス技量を競う大会で世界一の栄冠にも輝いた宮崎辰さん。現在も都内のレストランでサービスの最前線に立ちながら、数多くの企業から依頼を受け、そのノウハウをさまざまな場で伝えています。

観光立国を目指す日本。近年のインバウンド需要に象徴されるように、「おもてなし」の技術を高いレベルで再現できることは、日本企業にとって大きな意味を持つはずです。業種・職種を超えて求められる宮崎さんのノウハウの真髄とは何なのか。ミーミル代表の川口荘史がお話をうかがいます。

前編では、メートル・ドテルの役割やサービスについての考え方について伺いました。インバウンド需要のためには、海外のスタンダードを理解しつつ、日本ならではのおもてなしを提供していく必要があります。後編では、「サービス」についての海外と日本の考え方の違いなど伺います。

前編はこちら

 

「引き算」でおもてなしをする日本、「足し算」でおもてなしをする海外

川口荘史(以下、川口):そもそも「おもてなし」とは何でしょうか。宮崎さんは、「単なるサービス」と「おもてなし」の違いをどのようにとらえていますか?

宮崎辰さん(以下、宮崎):サービスとは「目の前の収益を上げるためのもの」で、おもてなしは「その人からの収益を最大化すること」だと思っています。私自身、マーケティング理論のようなことは考えてやってきたわけではないのですが、接客の現場に立ち続けることで気づいてきたことですね。

川口:「その人からの収益を最大化すること」が「おもてなし」であると。例えばお客様がそのお店のファンになってリピートしてくれるなど積極的な利用につながったり、単価が上がったりといったことにつながるようなイメージでしょうか。そういった意味では、日本で盛んに言われるようになった「おもてなし」という言葉は、むしろ収益についてあまり意識せずに使われているケースも多い印象を受けますね。

海外と日本のサービスにおける違いはどういったものがあるでしょうか。例えば海外にはチップ文化というものがありますが、日本ではないですよね。

宮崎:海外では、隣のテーブルの客がウェイターを呼んでも対応してくれないことが多いのですよね。同じ店舗の中でも「自分が担当するのはこのテーブルだけ」と明確に線引きをしていることが多い。

誰が「私たちのテーブル担当」なのかを明確にすることが必要なのです。これはある意味、プロのサービス意識の表れだと言うこともできるかもしれません。チップをもらう意味でも、担当は切り分けたほうがよいということになります。

でも、隣のテーブルのウェイターにも、先にチップを渡しておくことでそうした範囲を超えて頑張ってくれることがあります。海外は基本給が安いので、働く人はチップで稼いでいるような面もある。だからみんな頑張るわけです。

日本では、それを「サービス料」という形でいただきますね。ユニフォームやテーブルクロスをきれいに維持するために手間をかけているのがサービス料なので、サービス料も大切だと思います。

川口:チップがあるからこそ、そうしたテーブル担当という強い意識ができるということですね。サービスという点では特にこうした文化の違いは大きいようですね。日本でも時折、チップを払う人を見かけますが。

宮崎:そうしたことに慣れていらっしゃる方は、絶妙なタイミングでこっそりチップを渡してくれますね。もちろん基本的には高い値段をいただいているので、チップのありなしに関わらず最高の場所を演出するために努力します。しかしチップがあれば、当然サービスマンのモチベーションは変わってきますよね。サービスには、ちゃんと対価が存在するわけです。

川口:考えると当たり前ですが、「サービスの対価」を感じる機会は意外と少ないですね。そう考えると、海外と日本のサービスの考え方には根本的に違う部分もありそうですね。

宮崎:日本の場合は引いて引いて物事を削いでいく「引き算」の感覚に近いですね。「あまり話しかけない」「気づいたら用意されている」などの引いたサービスが有効なのではないかと思います。欧米の場合は逆で、料理でもサービスでも「足し算」をしていきます。良い客だと思えばどんどん話しかけるし、目に見える形でのサービスをしていく。それが決定的な違いかもしれません。

川口:チップの文化というのもそうした考えに影響があるのかもしれませんね。

 

海外のスタンダードを理解した上で接客し、さらに日本ならではの「おもてなし」を

川口:近年ではインバウンド需要の盛り上がりもあって、海外からの観光客へいかに「おもてなし」を提供していくかが問われています。日本人への接客と外国人への接客では、どのような違いを意識するべきなのでしょうか。

宮崎:私の場合は積極的に、ダイナミックに話しかけるようにしています。例えば海外の人は、食事中に「おいしいですか?」と話しかけられることを喜んでくれます。「その瞬間の喜びを、サービスマンと一緒になって分かち合いたい」と考える人が多い印象ですね。以前にフランスのロブションで働いていたときは、サービスマンもお客さまも積極的にコミュニケーションを取っていました。

一方で、日本の旅館などでは従来の対応を変えたほうが良いのではないかと感じる場面もあります。外国の場合は「ホテルの部屋は自分の家と同じプライベート空間だ」という意識が強い。日本の旅館で「失礼します」といきなりふすまを開けられることに戸惑う外国人もいますね。

川口:サービスの受け取り方はその人の文化や背景によっても異なる部分がある。日本ならではのサービスの要素も取り入れつつ、海外でも受け入れられやすいようにうまくバランスをとっていく必要があるのかもしれません。宮崎さんご自身は、今後のインバウンド対応で何が大切だと考えていますか?

宮崎:日本らしい「ちょっと過度なおせっかい」のようなものを、どんどん出してあげればいいと思います。例えば海外には左利きの人が多いのですが、我々はでそれを察知し、ナイフとフォークのセッティングをそっと入れ替えることもあります。更にお料理そのものも、左利きの方に合わせて盛り付けを変えたりもします。そういった海外にはない気遣いを押し出すのも大切でしょうね。

海外のスタンダードを理解した上で接客し、さらに日本ならではの「おもてなし」ができれば、真の意味でインバウンド対応の成功と言えるのではないでしょうか。私はフランス式のサービスからの視点で日本流のサービスの良さを語れるので、そういう意味ではレアな存在なのかもしれません。

川口:そうですね。いろいろとお話をうかがっていく中で、メートル・ドテルのようにコミュニケーションの機微も大切にしつつ、全体を見てマネジメントをしていく仕事のノウハウは、他業種にも通じるものがあるように感じました。

宮崎:おっしゃる通り、業界・業種を超えて共通するスキルがたくさんあると思います。メートル・ドテルは、相手がどんな業界の人であってもその立ち位置に合わせ、接客のプロとして相手が求めることを瞬時に見抜かなければいけない。例えば予約をいただいている場合はその経路や内容、電話での声のトーンなどで、相手がどんな人なのかをある程度予測しておきます。予約がないときでも、来店された際のその人の歩き方や佇まいなどで察していくわけです。

将来の利益のための戦略が「おもてなし」です。これは言い換えれば、これからの企業に不可欠な要素でもあると思います。その場の満足度を最大限に高めて、リピートしていただくために何ができるかを考えることなどは他にも通じるといえます。

 

AI時代にも必要とされる「サービス業の真の価値」とは

川口:一方ではサービス業の一つの流れとして、「自動化」というものがあります。これまで人が担ってきたサービスの仕事を機械が担うようになっていくといった議論も最近はよく耳にしますね。

宮崎:確かにそういった流れはあると思いますが、一方では「サービス業の真の価値」という揺るぎないものもあります。効率化されることでなくなる仕事や役割は出てくるでしょうが、人間にしかできないプロフェッショナルな仕事は「なくならないもの」だと思っています。私がさまざまな業界から講演を依頼される背景にも、それを考えるためのヒントを得たいという思いがあるようです。

川口:宮崎さんは独立後、サービスマン育成のための組織を作られていますね。これは自動化では得られない「ハイエンドなサービスを学べる」というイメージでしょうか?

宮崎:そんなに特別なものではないんです。人間を相手に、人間が提供しているサービスなので、そんなに特別視してもらう必要はありません。例えば、伝えていることは、お客さまにちゃんと「さま」を付けて呼ぶなど、ごくごく当たり前のこともあります。

ただ一つ上げるとすれば、「お客さまの目線にしっかり合わせる」ということは特に大切にしていますね。例えばコールセンターであれば、声の質一つで相手の印象がガラリと変わります。「笑声」(えごえ)と呼ばれますが、にこやかに対応しているかどうかは電話越しにも伝わるものです。そうした一つひとつの姿勢もおろそかにしないよう意識しています。

 

プロのサービスマンとして、「店」「お客様」「サービスマン」の三方良しの働き方を実現

川口:現在は、メートル・ドテルとしてサービスの最前線で活動している以外にも活躍の場を広げられています。今後はどのような展望を描いていますか?

宮崎:講演やセミナーを通じてサービスの考えを普及させつつ、レストランをもっと身近で楽しい場所にしたいと思っています。さらに、サービスマンの地位向上に向けた待遇改善にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。

私は今、独立して、プロのサービスマンとしてさまざまな店で活動しています。店にとっては「お客さまが増える」、お客さまは私を通して「いろいろなお店を知ることができる」、そして私は「活躍のフィールドが増える」という、三方良しの働き方になっていると思っています。

この活動によって「サービスマンはお客さまを連れてきてくれる存在なんだ」という認識を広げ、将来的には自社でプロのサービスマンを育成し、その力を必要とする店舗を手伝っていくような事業に挑戦していきたいと考えているところです。

そうやって誰かのために生きていれば、必ず自分にも返ってくる。これがサービスという仕事の本質的な意味だと思います。

川口:なるほど。サービスマンは一つの店に所属しているというより、独立して複数の店舗にサービスを提供するようなプロのサービスマンが増えていくのかもしれません。最近はパラレルワークなども増えていますが、本当の価値のあるサービスができているサービスマンであれば、独立していくことのメリットもありそうです。

意外とサービスの付加価値は見過ごされがちだと思いますが、そうしたサービスの価値の認識を広げていくことがサービスマンの地位向上にもつながりますね。

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

宮崎辰:メートル・ドテル。1996年に辻調理師専門学校グループ 東京国立卒業後、同校フランス校へ進学。南仏での研修を経て、東京国分寺「シェ ジョルジュ・マルソー」に入社。その後、東京芝「クレッセント」を経て、六本木「グランドハイアット東京」開業に携わる。東京銀座「オストラル」、東京青山「ピエール・ガニエール東京」の後、2010年に東京恵比寿「ガストロノミー ジョエル ロブション」(ミシュラン3ツ星)に入社。2012年「クープ ジョルジュ バティスト」サーヴィス世界コンクールにて優勝し、日本人で初の「世界一のメートル・ドテル」に。その後ジョエルロブショングループを退職し、2017年Fantagista21を設立。現在は、ミシュラン星付きレストランにてメートル・ドテルとして勤務しつつ、サービス普及活動や企業研修 講演、セミナー、メートル・ドテル業発展の為にも活動中。辻調理師専門学校グループ 非常勤講師。フランス料理文化センター サービス講師。ホテル学校や大学にて講師を務める。NHK総合テレビ「プロフェッショナル 仕事の流儀」出演。著書多数