【対談】アパレル店頭から、事業再生におけるEC改革プロフェッショナルへ 中島 郁×川添 隆(第2回)

2018.11.09 エキスパート

経済産業省の調査によると、2017年の日本国内におけるBtoCのEC市場規模は16.5兆円。前年の15.1兆円から9.1%増と、年々拡大しています。大きな変革期にある小売業界で生き残るために求められるものは? トイザらス、ジュピターショップチャンネル、三越伊勢丹において、EC事業責任者を務めてきた中島 郁氏と、ガールズアパレルではEC事業全体を2年で2倍、メガネスーパーでは5年間で4.4倍に拡大させた“ECエバンジェリスト”川添 隆氏が語り合いました。

第2回は、アパレルの店頭を皮切りに、アパレルや小売業の事業再生におけるEC改革を担当されてきた川添氏のキャリアについて伺いました。

第1回はこちらから

 

アパレルの店頭から、ベンチャーへ。180点商品のコメントを書くなんでも屋

中島:川添さんもさまざまな経験をしていますよね。

川添:僕ら30代中盤の世代は、ECがあることが大前提のなかで小売りが動いている時代。まさに中島さんの世代が作られてきた基盤の上で仕事をしています。

僕は新卒でMDになりたくてサンエー・インターナショナルに入社しました。大学では建築を学びましたが、建築業界はヒエラルキーがしっかりしているので、若いうちはなかなか自由に仕事ができないのではないかと考えたんです。ファッションにも関心があったので、それならアパレルに行こう、と。

 

川添:まず20代メインのレディースブランド担当になり、それこそ伊勢丹本店の店頭に入ることになりました。店頭はおもしろいですね。赤文字系ファッション誌全盛期、「CanCam」がたしか80万部売れているときに出稿していたブランドだったので、年商60億円くらいの規模の売上がありました。スタッフは20代後半くらいまでで7人ほど。ストック整理、顧客台帳の整理などをしながら時には販売もしていました。伊勢丹のなかでもショップごとに違いがあるのかとよく観察していました。そして、私も販売はできなくはなかったですが、そこは女性スタッフに任せたほうがよいなと考えていました。店長や他のスタッフが高いパフォーマンスを出せるように、バックヤードからお店を盛り上げていきたい、売れるような状況を作りたいと思って、自分でも接客しながら、お客様から商品の問い合わせがあればPOSを触らなくても在庫のありかを覚えていたり、取り置きの状況を把握するようにしていました。バックヤードを整備しながら、盛り上げる時は盛り上げる、奔走していたらお店に一体感が出てきたんです。

その後、別のブランドに移ったときはちょうどベンチャーブーム。自分が考えたことをスピーディに具現化できそうなベンチャーに関心を持ち、当時サイバーエージェントの子会社だったクラウンジュエル(現ZOZOUSED)に入社。ファッションブランドのリユース事業、かつBtoCでインターネットで完結させるビジネスでした。リユースは一点一点商品の状態をチェックして管理しないといけませんが、まだ創業2年目で10人ほどの組織。僕は接客しか経験がなかったので、商品コメント書きから担当になりました。1日80点くらいコメントを書いていましたね。

そのうち「川添くん、メルマガ書いてよ」とメルマガ担当になり、当時グループ会社で通販サイトのネットプライスにメルマガの書き方、配信方法を教わりに行ったり、たまたまみつけたブランドに声をかけて自分で商品を企画していたりしました。その後、バイイングのチームを強化するということで、異動をして買取の担当になりましたが、日々、小さくても自分の考えを改善につなげたり自由に仕事をしていました。さらにその後は、ブランド事業が始まり、それが子会社として独立することになり、卸営業や請求・入金管理、経理情報のまとめ、広報業務などをして、結果的にクラウンジュエルと子会社で計3年ほど勤務。そこでだいたい今の基礎となる「何でもやる」部分をある程度学びました。

中島:僕もそうだけど、ベンチャーで広い範囲を見ているから、今なんでも引き受けられる。それがバリューになっているわけですね。

川添:でも、当時僕はシステムのことはあまりわかってなかったんです。WEB広告も知らなかった。ただ、「こうやったら登録がはやくなるな」と考えたら、それがどんな要件なのかを伝えて、実現するにはどういう風にシステムとして実装するかといったことをシステム担当者とやりとりすることで、システムそのものに詳しくなるというよりも、どのようにコミュニケーションをとれば描いたものが実現できるかということがどんどんわかりました。考えていると、その下地は、その数年後に自社ECシステムを初めてリニューアルするときの要件定義にいきていますね。

ファンド投資先のアパレル会社にて、ECによる成長戦略を描く

中島:ECに深く関わりだしたのはいつですか?

川添:個人としての影響が及ぶ中規模の企業で、なおかつ事業としても直接成果につながるようなECにフォーカスしたいと、当時で言うマルキュー(SHIBUYA109)系のガールズアパレル会社にEC担当者として入社した2010年からです。そこは年商70億円ほど、当時のアパレルとしては珍しくファンドが100%出資している会社。経営陣はECを強化したい、かつ色々とできる幅があるだろうということで、ベンチャーで走り回った経験を買ってもらったと捉えています。卸事業部のウェブチーム3人の部署で、自社ECとSHIBUYA109のECサイトをどうやって上げていくかというところからスタートしました。

中島:ファンドが出資している影響はありましたか。

川添:もともとはオーナーが古着&セレクトショップからスタートした会社だったのですが、ファンドがバイアウトしました。

アパレルブランドのビジネス、特にマルキュー系に顕著な一つのパターンなんですが、ひとりの人がブランドを立ち上げ、その人の頭の中にすべてのイメージがあって、その人が企画や仕入れをしたものが売れる、そうしてファンが付く、スタッフもその人のビジュアルやライフスタイルをコピーする、だからスタッフにもファンが付くということがあるんです。

ただ、このパターンでは成長規模に限界があり、もともとのカバーできる範囲にもよりますが、小さければ20~30憶、もう少し広ければ50~60億円ごろに頭打ちになります。大手総合アパレルでも同様ですよね。もう少し広く訴求するように「ブランド化」することで、客層を広げたり、それに伴うプロモーションを拡大するなどの取り組みが必要なフェーズになる。僕が入社した会社も基幹ブランドがそのフェーズにあり、競合ブランドが成長している中、ここから先どうしようかというところでした。

だから、ブランドとしてのそれなりのプライドもあり、店頭の売上が減ることに対して敏感で、真顔で「ECはそんなに頑張らなくていいから。店頭の売り上げが減っちゃうじゃん。」と言われていました。

ECのことはベンダーに聞いてほしい」ではなく自社でコントロールできる体制に

川添:会社としてはECの成長に何かしら可能性を感じているが、ブランドとの調整がうまく行っていないこと、他にもできることがあるだろうというところまでは理解していたようです。

僕は1スタッフの立場として、その辺を考えたり、実行するために中途で入りました。僕個人でも、この転職では、「何でも屋からECの分野にフォーカスできるようになること」、「アパレルビジネスをデジタルやECから変革を起こし、店頭スタッフが自信をもてるようにすること」、それを実現するまでは引かないつもりでした。

EC事業の状況としては、自社ECとそれと連携した楽天市場店をフルアウトソースしていて、SHIYA109が運営しているモールEC、3店舗で4ブランド補と展開しており、それを僕ら1つのウェブチームで担当していて、自社ECサイトはアウトソースして3ヶ月ほど経ったところ。その他にも10以上のモールECサイトで展開していましたが、それは同じ事業部の卸チームが担当していました。

ECの運営状況としては、自社ECを代行するベンダーとのコミュニケーションが十分とは言えませんでした。「モバイルの比率はどれくらいですか」と上司に聞いても「それはベンダーに聞いてほしい」と言われるような状況です。

中島:「ECのことはベンダーに聞いてほしい」という会社は山のようにありますね。

川添:そうですね。僕はベンダーまかせではなく、売りたい我々から指示を出す方針に変えていきました。EC独自キャンペーンの企画、自分なりにつくったバナーやページ制作のイメージをつけた指示書作成から、メルマガの修正、サイト内導線の改善の立案・優先順位付け、分析からアクションの方向づけを行う定例ミーティングの開催などを実施しました。

それはECの領域だけでなく、店頭のお客様向けのメルマガに関しても、リライトから配信までを任せてもらい、僕が撮影して夜遅くまで画像加工して載せて配信設定して……。そうして、意志を持ってよりよくしたいと行動をしていったことで、店頭の販促担当と信頼関係ができてきました。僕の入社前までは、ブランド事業部の販促担当者がメルマガのコメントを書いて、我々のチームはただ配信設定するだけ。僕は「デジタルコミュニケーションのプロである我々の部門が最適化すべき」と考えたのと、販促担当者の負担を減らすために「僕が書くので、何を掲載したいか教えてください」と頼んだりもして、他のブランドでも同様に信頼関係を作っていきました。

メガネスーパーの企業再生にむけて、EC改革を推進

川添:ところが、会社全体の売上・利益の状況は下降気味。さらに、東日本大震災が起こったことで、さらに低下。都内のインフラや生活環境が戻ってきても、売上が戻らず、会社の経営は悪化していきました。そして、2011年10月に社長が交代。ファンドや社内のメンバーがEC部門のヒアリングメンバーとして僕を推薦してくれて、新社長と面談。その後2回のプレゼンを通じて、部長代理に大抜擢されました。これがこの会社のなかでの第二のスタートです。

新社長のオーダーはシンプル。「やり方は任せるから、今期中にECの売上を2倍にせよ!ポジション、権限も必要な武器も全て渡す!その代わり、会社が目標の利益を達成するまでは1円も給与を上げない。だけど、絶対にできるはずだから、一緒に達成しよう。」

どのアパレル企業もマーケティングの概念がないことはわかっていて、将来的にECがマーケティングの領域にもかかわるだろうなと考え、マーケティング・EC事業部を設立。人材採用や、自社ECの部分的な内製、店頭との販売施策の連動、EC在庫の仕入れ管理などを苦悩しながら実行し、部門売上は2倍を達成しました。会社全体としても目標の利益を達成しています。

さらに、次の年度は分断しているモールECを統合して管理したい、全ブランドのデジタルコミュニケーションは全て当部門で行いたいと申し入れ、部門の事業規模と権限が大きくなりました。そして、自社ECの内製化・リニューアル、LINE@の成功事例になるほどの積極的な活用、ショールーミング店舗の出店などをやりました。今のアパレルが行おうとしているECの取り組み、オムニチャネルの構想はほとんどそのときに経験しました。

中島:メガネスーパーに入社したきっかけは?

川添:その会社を再生に導いた社長がメガネスーパーに入社することになり、自分自身のキャリアとしての拡張と、彼ともっと仕事を通じて学びたかったので僕も入社しました。その社長こそ、あの星﨑(星﨑 尚彦 氏)です。

メガネスーパーの企業再生にコミットし、EC、デジタルマーケティングの改革は僕が、星﨑社長は店舗改革をメインに行いつつ、適宜彼のサポートや店舗の支援をやっていきました。当時、メガネスーパーは前期の営業利益は-16憶円、最大で21憶円の赤字。この赤字を解消するためにどうすればいいか。まずみんなのマインドと行動を変えながらも、とにかくスピードをもって実行をしていかなければならない。

経営状況が悪い会社は、はしごをはずされるんじゃないかと疑心暗鬼だったり、トップの言うことをとりあえず聞いておくだけの指示待ちだったり、「自分で考えて行動する集団」ではないんです。「大丈夫、必ず結果は出る」と星﨑社長が言う、改革を指揮し、自らが行動をする。それでも、「本当にそんな結果がでるのか?結果が出ると自分たちにリターンがあるのか?」という不安もあります。僕はクレッジ時代にV字回復の実現と、リターンを得た人間なんで、「社長が言っていることは本当だし、絶対に実現できる」と色んなスタッフに、特に中枢となるメンバーに伝えていくのも僕の役割だと思ってやっていました。

ECやデジタルマーケティング領域を手がけてはいましたが、そこを上げたとしても会社全体へのインパクトは小さいので、自分の部署の成果を出すのは最低レベルの話で、それ以上に、会社の利益向上、店舗事業に貢献することに重きを置いていました。

中島:やると決めたことを間違えていないと言い続けることは大事なことだと思います。

 

第3回「Amazonなどのプラットフォーマーと同じことをしようとしてうまくいかない。EC化で失敗する大きな理由」に続く

総括(川添)

川添:第一回の中島さんと、やってきたキャリアの内容や、企業の規模感は全くことなります。ただし、中島さんのご経験と、私が共通するのは、①早期にベンチャーでキャリアを積んでいること、②目的達成のためには「何でもやる」という行動指針を持っていること、③外様として社内改革を進めてきたことだと捉えています。

私個人としては、確かにデジタルやテクノロジー関連の話は興味はありますが、最も興味があるのは「人間そのもの」。お客様が何を考え行動をするのかを観察し、自信がお客様になりきり、改善や新しいサービスをつくっていったりしています。最初から、大きな戦略を考えてから、それに沿ってアクションしてくタイプではありません。そういう、目の前の課題をクリアしていって、大きな課題にぶつかったときに、戦略を作り直しというのが特徴とも言えます。すべては行動できることから始めるということです。

小売業のデジタルシフトでは、戦略部分を外部のコンサルティングに一任する企業も多いと聞きます。しかし、私のように、実行から全社の戦略に入っていくパターンもありますし、他の事例をきいても、現場からの改革でスタートしているほうがうまくいっていると感じます。

まずは考えるではなく、まずはアクションしてみると何かしらの結果が出る。これが本来の小売業の良さではないでしょうか。

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

中島 郁:ベンチャーなど数社で新規事業、経営企画を経験後、トイザらスでマーケティング部門を立上げ、2000年、トイザらス・ドット・コム ジャパンをEC専業法人として設立。2002年ジュピターショップチャンネル執行役員EC・番組編成・マーケティング本部長。2010年、世界最大のECサービス企業GSI Commerce(eBay Enterprise)アジア太平洋代表兼日本法人社長。2013年から2017年まで、三越伊勢丹ホールディングス 役員兼WEB事業部長として、EC、情報メディア等の構築、オムニチャネル推進を担当。現在は2012年に設立のネクトラスで経営コンサルティングを行う。

川添 隆:販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志し当時サイバーエージェントグループだったクラウンジュエル(現ZOZOUSED)へ。ささげ業務(ECサイトで販売する商品の情報制作業務)から企画、PR、営業まで携わり2010年にクレッジ(現オルケス)に転じ、EC事業の責任者として自社サイトの売上を2倍以上、EC全体を2年で2倍に拡大。LINEを活用した事例でも成功を収める。2013年、メガネスーパー入社、デジタル・コマースグループ ジェネラルマャー就任。2017年からビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を兼務。2018年5月、執行役員に就任。