【対談】Amazonなどのプラットフォーマーと同じことをしようとしてうまくいかない。EC化で失敗する大きな理由 中島 郁×川添 隆(第3回)

2018.11.19 エキスパート

経済産業省の調査によると、2017年の日本国内におけるBtoCのEC市場規模は16.5兆円。前年の15.1兆円から9.1%増と、年々拡大しています。大きな変革期にある小売業界で生き残るために求められるものは? トイザらス、ジュピターショップチャンネル、三越伊勢丹において、EC事業責任者を務めてきた中島 郁氏と、ガールズアパレルではEC事業全体を2年で2倍、メガネスーパーでは5年間で4.4倍に拡大させた“ECエバンジェリスト”川添 隆氏の対談。

第1回、2回はそれぞれ中島氏、川添氏のキャリアを振り返っていただきました。第3回は小売りのEC化で陥りがちな失敗点を語り合いました。

第2回「アパレル店頭から、事業再生におけるEC改革プロフェッショナルへ」はこちらから

 

EC立ち上げのプロフェッショナルはほとんどいない

川添:ECが成功するかしないかは、企業規模には依存しないと思います。いろいろな人から話を聞きますが、「ECがうまくいっている」と聞いている企業でも、実態は企業全体の中ではEC部門が評価されてない、成果のインパクトが出ていないという話もあります。小売りもそうですが、特にメーカーの場合、「顧客の立場での視点」が完全に抜けている企業も少なくない。お客様がどう思っているかということが、ビジネスのプロセスに入っていないんです。

中島:コンセプトを練らないまま思いつきで始めると、会社もお客さんも不幸なことになります。僕と川添さんは、入った会社のECがマイナスかゼロのときから始めているので、体制作り、基礎作りから手がけていいます。

EC関連の経験者も、基礎がある程度できてから加わった人や一社しか経験がない人が少なくない。複数社を在庫がどうこうというところから自身で手がけてきた人で、外向きに活動している人は、逸見光次郎さん(元キタムラ 執行役員)と、川添さんしか知らない。他にこういう人が出てこない。みんな会社を辞めてない。

川添:ビームスの矢嶋正明さん、コメ兵 の藤原義昭さん、丸井のECの前任だった臼井毅さん、パルコの林 直孝さんのような生え抜きの方々がいらっしゃいます。生え抜きで、デジタルシフトの変革を起こせるというのは、会社としては恵まれている環境だと思います。

一方で中途で入り、企業文化になじみながら穴を掘って来た人は、確かに逸見さん、中島さん、私の3人以外は聞いたことがないですね。

 

複数社経験したからこそわかる、EC立ち上げプロフェッショナルの強み

中島:新卒から入っている人は誰がどんな情報を持っていて、誰に何を言えばいいか知っているけれど、中途はそうじゃない中で、仕組みを作っていかなければならない。それを複数社で経験すると、ある程度共通項を見えてモデル化できる。それが我々の強みです。

川添:いろいろ経験をしてきて、「目標達成のためには何でもする精神」があるんですよね。部門の中途採用や、当社の中途採用の印象としては、華やかなキャリアを持っている人を採用してもそこでつまずいてしまう。何かしら、我々の不備があることは大前提ですが、「こんなことをやるためにこの会社に入ったんじゃない」と言って辞める方もいらっしゃいました。

中島:上澄みのカッコいいところだけを目指す人ですね。トイザらス時代、マーケティングスタッフの応募者はみんな「マーケティングとは……」とカッコいいこと言っていたけど、僕に言わせれば「雑用のかたまり」。

川添:(笑)

中島:プランはもちろん描くけれど、考えたことを実行するために必要なこと、誰がやるのか明確でない三遊間ゴロのようなものを全部拾ってやらなければならない。拾った人が認められて大きな仕事を任される。マーケティングは特にそう。

川添:ECやウェブの部門も同様、球拾いですね。

中島:新しく部門をつくったら、誰がこの業務を担当するのかグレーのところが出てきます。既存部署は基本的にやってくれません。新規事業は既存事業部門に新しい負荷を増やす、はっきり言って迷惑な部署でもあるんです。経営者の方に言っているのは、新規事業にリソースを投入するだけではなく、関連する既存部門にも投入してほしいということ。事業は完全に独立しているわけではないから、そうしないと全体として伸びない。ここ大事です。関連部署の人からは、ECの売上は全体の3%ほどなのに、手間は30%かかるといわれることもありますから。

川添:確かにそうですね。

中島:会社としてやらなければいけない方向であり、社長が本気なのであれば、売上がまだ伸びていなくてもみんなが協力してくれます。

 

ロジカルではない業務プロセスに全社が最適化され、ひずみが生じている。日本の小売業の課題

川添:デジタルシフトについて、小売りの業界全体としての現状と課題はどのように考えていますか。

中島:目新しいテクノロジーの話ばかりが蔓延しているのですが、そうではなく基本コンセプトと実行するまでの体制作りなど基盤となるインフラができてないところがすごく多いですね。僕はよく言っているのですが、日本の小売業の業務プロセスはロジカルではない。そのロジカルではない業務プロセスに全社が最適化されていて、生じたひずみに最後の“販売員さん”、すなわち人間という素晴らしいソフトウェアが吸収しているような状況です。当日納品されても、人間は現物を見ながら売れるんです。

しかし、ECとかオムニチャネルは、まず、商品情報などをデジタル化しなければなりません。デジタル化には、文字などにして入力するようなリードタイムが必要。当日納品されてもできません。

全体の少しだけECをやっているうちはこの業務プロセスも力技で解決できますが、規模が大きくなると、本体の基幹業務に切り込まないとならない。リードタイムを確保するために、「発売日の2週間前に納品してくれ」ということをECだけでなく、店舗も合わせてやってもらう。本業の業務プロセスが変わらないとならない。そのときに、新規事業担当者がいくらがんばっても動かない、トップが動かなければ全体は動かない。場合によっては一度売上が落ちることもあるかもしれないが、成し遂げることが大変なのです。

新卒から入った生え抜きの社員が本業に切り込もうとすると、お世話になった元上司や先輩がいる場合があって軋轢になるからやれない。だから、自分の部署と外部で解決できるツールを入れて売上を取ろうとする。しかし外付けのソリューションでは売上は数%程度しか伸びないと思います。本業に切り込めば何割単位で伸びるはず。新しいテクノロジーも大事だけど、この点を残したままでは意味がないというのが僕の持論です。

プラットフォーマーと同じことをしようとしてうまくいかない

中島:「よくわからないから」「自分たちでは売れないから」と言ってZOZOTOWNやAmazonで売るほうに流れたら、よけい自社では売れなくなる。

きちんと会社としてのECサイトを作って、外部にまかせっきりではなく、内部でわかって人が的確に指示を出し、進めていけば、どんな新しいテクノロジーが出てきても適切に運営できるし、伸びる。

Amazonを凌駕しようと考える必要はありません。充分、自社で存在感をもってビジネスにしていくことは、どこの会社でもできます。

川添:小売りのデジタルシフトの前に、すでにユーザーがデジタルシフトしているんですよね。デジタルの世界はプッシュ型というより基本的にプル型。店頭はそこにあるだけで情報を投げかけることができます。接客も含めて飛び込んでいけるので、企業主導で考えてもある程度成立しますが、ECは、基本的にユーザーに主導権があって、ユーザーが能動的に探す場所だから、企業側からするとプッシュが弱くなる環境。そのため自社のお客様がどう動いているか、どういうニーズがあるかを考えないとならない。その取り組みをすればするほど、自分たちにはどんな特徴があるか、それをどう伝えたいのか、禅問答のように問われる。そういうことを多くの企業が考えていない。

お店があって流通があれば売れる、企業主導で売れるという考えが根深くあるように思います。デジタルシフトの前に、「自分たちは何屋で何者か」という問いに答えること。それができれば、あとはテクニカルな話でデジタルシフトをどんどん進めていける。答えられなければ、デジタル化を整備しても売上には貢献しないと考えています。

 

まず、自分たちの「特徴」を認識すること。デジタルシフトのための一歩とは

中島:お客様がたまたまサイトに来たとして、そのサイトに特徴があれば次に買いたいものを探すときに「また来よう」と想起するよう刷り込みができるけれど、いろんな商品がただ漫然と置いてあるだけなら何も記憶に残らない。特徴をお客さんに刷り込むことが一番大事。そのためには自分たちが特徴をはっきり認識しないと。

川添:経営者に気づいてほしいのはそこです。「デジタルシフトをしたいですか」と聞くと、「イエス」と言う経営者が多いけれども、現場の担当者は会社が何をしたいのかわからず、どんどん追い詰められてしまう。

中島:基本コンセプトを決めていないパターンと、もう一つ別のパターンもあります。生え抜きのオーナー社長に多いのですが、自分たちの商品やサービスがわかりすぎていて、考えを言語化できていないパターン。

川添:なるほど。

中島:そういう場合、「頭のなかを整理整頓しましょう。特徴を書き出して言語化しましょう」と勧めています。最近は起業家のメンターもしているのですが、自分の商品やビジネスモデルがわかりすぎていて、いつもならわかっているマーケティングの教科書に載っているような4P(マーケティングミックス)や戦略づくりみたいなことが見えなくなってしまっている。そこで「まずは言語化しましょう」と。

川添:それは見落としていました!社歴が長いほど起こりやすそうですね。社内でわかっていることはお客様もわかっているはず、と。

中島:僕がさまざまな会社で期待されることが多いのは組織と人材。「こういう組織で新規事業を行うといいですよ」「そこにはこんな人がいるといいですよ」という提案が求められています。しかし、やはりその際、「まずおたくの会社の特徴はなんですか」「どんな人に、どういうものを、どのようなバリューで、どう売るんですか」と聞いています。すべてこのコンセプトに基づいて組織、人材、サイトづくりをしなければならないからです。

第4回「EC化も必要だが実店舗のニーズはまだある。小売りのほとんどはオムニチャネルの意味をわかっていない」に続く

 

総括(川添)

川添:Amazonのようなオンライン企業が、オンラインの素晴らしい買物体験を実店舗で実現しようとしてきています。実店舗がメインの企業からするとデジタルシフトですが、オイシックス・ラ・大地の奥谷氏の言葉を借りると「チャネルシフト」が起きているということです。これに取り組もうとしたときに、どうしても目が行ってしまうのはAmazonや中国であったり、日本での先進的な取り組みです。

大切なのは、「先進的な取り組み」「デジタルにシフトしていない」ことに目を向けるのではなく、「自分たちの特徴を理解する」ことです。これからの取り組みは、ECやオムニチャネル担当部門だけでできることではありません。企業の各部門が、自社の強みと顧客との付き合い方を真剣に考え、それぞれが動いていくことが求められます。その一方で、一定規模の組織であれば簡単に動くわけではない。それがトップダウンであってもです。

デジタルシフトを推進するための新たな取り組みを動かしていくには、既存部門の間にできた業務の隙間を、デジタルシフト推進者がオーナーシップをもって埋めに行かねばならないでしょう。それが打合せだけで済むかもしれませんし、安定稼働までは自分自身で処理する必要があるかもしれません。注目が集まっている領域ですが、実務は決して華やかではなく、戦略をつくり微調整しながら、球拾いに徹するくらいに思っておいたほうがちょうどよいのではないでしょうか。

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

中島 郁:ベンチャーなど数社で新規事業、経営企画を経験後、トイザらスでマーケティング部門を立上げ、2000年、トイザらス・ドット・コム ジャパンをEC専業法人として設立。2002年ジュピターショップチャンネル執行役員EC・番組編成・マーケティング本部長。2010年、世界最大のECサービス企業GSI Commerce(eBay Enterprise)アジア太平洋代表兼日本法人社長。2013年から2017年まで、三越伊勢丹ホールディングス 役員兼WEB事業部長として、EC、情報メディア等の構築、オムニチャネル推進を担当。現在は2012年に設立のネクトラスで経営コンサルティングを行う。米国バブソン大学経営大学院MBA。

川添 隆:販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志し当時サイバーエージェントグループだったクラウンジュエル(現ZOZOUSED)へ。ささげ業務(ECサイトで販売する商品の情報制作業務)から企画、PR、営業まで携わり2010年にクレッジ(現オルケス)に転じ、EC事業の責任者として自社サイトの売上を2倍以上、EC全体を2年で2倍に拡大。LINEを活用した事例でも成功を収める。2013年、メガネスーパー入社、デジタル・コマースグループ ジェネラルマャー就任。2017年からビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を兼務。2018年5月、執行役員に就任。