【インタビュー】「コミュニティリーダー」を巻き込み、ファンを増やしていく――小島英揮(後編)

2018.12.11 エキスパート

「自社の商品・サービスにファンがいること」「既存のマスマーケティングに限界を感じていること」――。AWSの成功を経て、コミュニティマーケティングの第一人者として知られる小島英揮さんは、これらがコミュニティマーケティングを始めるための前提条件であると話します。

マーケティングの潮流が大きく変わりつつある今、企業がファンを増やしていくために必要な体制もまた、変革が求められています。後編では、コミュニティリーダーの見分け方など、運営のノウハウについて、そして、コミュニティマーケティングを成功させたいと考える企業は、何を準備し、何に投資するべきなのか、お話をうかがいました。

前編 「コミュニティ」には、マスマーケティングの限界を打破する力がある はこちら

 

東京は、世界でもコミュニティマーケティングをしやすい場所。コミュニティにおけるオフラインの重要性

―実際にコミュニティ運営をしていく上でのノウハウについてお伺いできればと思います。コミュニティの運営においてはどういったことが重要でしょうか。

小島英揮氏(以下、小島):例えば、メンバーの新陳代謝も重要になってきます。いつも同じ人が話しているとその人の講演会になってしまい、コミュニティとしては衰退してしまいます。

―そうした観点では、コミュニティに新しい話し手を生み出す工夫も必要になりそうですね。企業としてはどのような手を打っていくべきなのでしょうか。

小島:まずはアウトプットですね、例えば「質問してもらうこと」は最初の一歩として重要です。。IT系のサービスなら、Twitterのハッシュタグでどんどんコメントや質問を出してもらい、企業も反応してみる。そのうち、「これいいな」「そうだよね」だけだったツイートに、「お客さんがこうしているよ」「うちはこうしているよ」という情報が付加されてコンテンツが生み出されていきます。

―情報を発信できる人も見つかっていく?

小島:そうですね。誰でもアウトプットしてリターンが返ってくれば気持ちいいものなので、そうした発信者にコミュニティでの話し手となってもらうことはそんなに難しくはありません。いきなり30分話すのはしんどいので、はじめは3分とか5分とか、負担のない範囲で少しだけ話してもらう。後に懇親会の場などで「面白かったよ」と言われれば話し手もうれしくなりますし、またやってみようと思う。そうした「フィードバックループ」が、話し手のモチベーションを高めていきます。

―いろんなバーを下げて、オフラインでのアウトプットを促すということですね。

小島:はい、オフラインは重要です。私の場合は、実際のイベントで「まずはTwitterのハッシュタグで何かつぶやいてください」と参加者にお願いします。そして進行を止めます、ある程度ツイートが集まるまでは次へ進みません(笑)。

そういった状況を創ると、日本人はみんな空気を読んでくれるので、結構ツイートしてくれるんです。一旦投稿してみると、みんなハッシュタグの続きが気になり始めるんですね。そうしてビューや発信が増えていくきっかけになっていきます。

このように体験化していく場としては、やはりオフラインが重要な意味を持ちます。その場でのやり取りはオンラインに残り、それを見て面白そうだと感じた人は次のオフラインへ来てくれるようになります。沢山の人がオフラインで集まりやすい東京などは、世界でも最もコミュニティマーケティングをしやすい場所だと言えるでしょう。

社外のエバンジェリスト、「コミュニティリーダー」に向いている人とは。コミュニティ活性化の施策

―その他コミュニティを活性化していくためにはどういった施策が重要でしょうか。体制としては社内だけではなく、社外のエバンジェリストなどの協力も必要ですね。

小島:AWSのときには「コミュニティリーダー」と呼ぶ社外エバンジェリスト的な人たちの協力を得ていました。社内の人間だけでコミュニティを運営すると、どうしてもセールス的な側面が前面に出すぎてしまいますからね。他のコミュニティでも同じですが、ファシリテーター役はコミュニティリーダーに務めてもらっています。

―どのような人をコミュニティリーダーとして選ぶのですか?

小島:気をつけるべきは、「商品に詳しいからといってファシリテーターに向いているかどうかは分からない」ということです。知識があって、懇親会などで周囲に人だかりができる人はコミュニティリーダーの素質があるのですが、ずっと自分の話をしているだけの人は向いていません。向いているのは、自分が話しているときにも人のビールグラスが空いていることに気づくような視野の広い人です。周りをファシリテートできるのはとても大切な資質なので、そうした人を正しく「採用」することが重要です。

―社外の人材だけに、そうした人を探したりモニタリングしたりするのは難しそうですね。

小島:モニタリングとしては、SNSを見れば、その人の情報発信の度合いや、攻撃的な人かどうかといったことも分かります。コミュニティリーダーに選んだ後で何か問題が起きたり、「協力してやっているのにこまかいことを言われたくない」と言われたりしたらアウト。ここは慎重に選ぶ必要があります。継続的に見ていく必要もあるので、コミュニティ運営についての社内担当者は(判断基準がぶれないように)当面は一人で固定する方がいいと思います。

―コミュニティリーダーといっても、インフルエンサーではないので企業から金銭的な報酬を得られるわけではないですよね。どうやってモチベーションを維持してもらうのでしょうか。

小島:一つのコミュニティで存在感を発揮することが、その人自身のキャリアアップにつながるケースがあります。例えばAWSの場合は、参加してくれていたエンジニアが「AWSに詳しい人材」と評価されて大型イベント登壇機会を得たり、転職などの新しいステージへ進んでいったこともありました。コミュニティでアウトプットし、存在感が高まれば、自身の人材価値向上につながる。そんなモチベートの方法も有効だと思います。

「集客イベント」ではなく、「コミュニティ」を創る場を意識する

 ―先ほどは社外のエバンジェリストであるコミュニティリーダーについて伺いました。コミュニティマーケティングを円滑に進めていくためには、こうした社外の人を適切に巻き込んでいく「社内担当者」の存在が重要ということですが、こうした社内担当者にはどのような資質が求められると考えていますか?

小島:「マーケターとしての考え方を持っている」ということですね。マーケティング的な資質がない人、あるいは興味がない人だと、イベントを開催しても「その場を楽しくすること」に振れすぎてしまうんです。

よく見かける失敗例としては、集客に気を取られすぎて、場所や懇親会の内容、更にはテーマに関係のない「客寄せ」的なゲストスピーカーを呼ぶことにフォーカスしすぎて、結果的に「何の集まりなのか」がぼやけてしまうというパターンです。これは「集客イベント」の作り方としては有りかもしれませんが、「コミュニティ」を作る活動になりません。コミュニティでは「共通のテーマ」に関心がある人が集まり、情報を「発信」してもらう場づくりが最も大事なので、集客数ではなく、情報発信を促す場として企画、運営する姿勢や評価軸が重要になります。

マーケティングのゴールであるコミュニティを通じた情報発信が起こるためのステップとして、イベントを企画するべきであり、気持ち良い場を作ることが目的ではありません。

―マーケターとしての経験値も求められるのでしょうか?

小島:そうですね。決して若い人がダメというわけではないのですが、コミュニティのマーケティング・マネジメントはとても複合的で、社外だけではなく社内のさまざまな部署に協力を依頼する必要もあります。会社が意志を持って、適切な担当者をアサインすることも大切でしょう。社内的なコストは高まるとしても、それなりの人を送り込むべきです。

―今後、コミュニティマーケティングがより一般化していく中で、コミュニティリーダーとして活躍する社外人材や、そうした人をマネジメントする社内人材も増えていくのでしょうね。

小島:今はどうしても兼務で取り組まなければならない人が多い状況にありますが、規模が拡大していくことで専業化/分業化も適切に進んでいくはずです。コミュニティマーケティングを専門とするチームが組めるようになれば、企業の体制も進化していくのではないでしょうか。リソースは有限なので、どこかで削られるところも出てくるはずです。

コミュニティが盛り上がっていない段階で広告に頼るのは、砂漠で水をまくようなもの

―企業が新たにコミュニティマーケティングを始めるにあたっては、人材のアサインのほかに、どのようなことを確認しておくべきですか?

小島:まずは「自社の商品・サービスにファンがいる」こと。そして、「既存のマスマーケティングに限界が来ていると感じている、あるいはコストが見合わないことへの理解がある」ということです。この2つはコミュニティマーケティングを進めていくための前提条件です。

―最初の段階でマスマーケティングとの連動を考えておく必要もあるのでしょうか?

小島:ゆくゆくは、という感じでしょうか。もちろんコミュニティだけで広げていくことにも限界があります。イベントからの拡散で情報が届かない人には強制的に見せることも必要で、ここで初めて広告が必要となります。広告で初めて知った人に「周囲の人も結構このサービスを使っているんだな」と知ってもらうイメージですね。逆のパターン、コミュニティが盛り上がっていない段階で広告に頼るのは、砂漠で水をまくようなものだと考えています。

 

コミュニティマーケティングの今後

―今後は、コミュニティマーケティングを組み込みつつ、マーケティングについての既存の体制や仕組みを見直し、全体的に手法や投資の配分を含めて最適化していく必要もありますね。

小島:はい。広告をはじめとしたマスマーケティングはなくならないし、相変わらず必要なシーンがあることは疑いませんが、「そこだけに投資し過ぎていないか」という見直しを迫られるタイミングは、遅かれ早かれ訪れると思っています。

従来のマスマーケティングでは、リーチすることはできても「自分ゴト化」は難しい。「自分ゴト化」ができ、一度コミュニティをつくることができたら、他社に簡単にコピーされない強固な資産となる、そうしたコミュニティマーケティングの価値は今後さらに広く認められていくと思います。

―今では個人が知人・友人に対して、SNSでおすすめの商品やサービスを聞くことが当たり前になっています。コミュニティマーケティングは、そうやって得る情報量を拡大させていくことにつながるように感じます。

小島:コミュニティマーケティングという言葉が定着していくかどうかは分かりませんが、「お客さまにお客さまを紹介してもらう」ことはマーケティングの王道だと思います。SEO最適化やリーチ拡大はあくまでも手法論であり、マーケティングの一部分にすぎない。「お客さまにどう使ってもらうか」というマーケティングの本質をつく方法として、コミュニティマーケティングは今後も拡大していくのではないでしょうか。

パラレルマーケターとして働くメリットとは

―小島さんは現在、「パラレルマーケター/エバンジェリスト」という肩書きで認知される機会も増えていると思います、複数社に同時に関わることでどのようなメリットがあるのでしょうか。こうしたパラレルワーク、複業的な取り組み自体も、働き方改革の流れの中で注目されていますね。

小島:1社だけに関わるよりも幅広いことを見聞きでき、インプットが増えてアウトプットが増える。これがパラレルで活動することのメリットだと思います。私の場合はBtoBにとどまらず、toC領域の企業の話が聞けたり、同じような商材を扱っているスタートアップと大企業、国内企業と外資に同時に関わったりという形で知見を広げています。業種やプロダクトを問わず、「自社でコミュニティマーケティングを展開したい」と考える企業からお声がけいただいている状況です。

―コミュニティマーケティングのノウハウを伝える「CMC_Meetup」も主催されていますね。この運営はどのように進めているのですか?

小島:「コミュニティマーケティングを知りたい人が集まるコミュニティ」として、運営チームが手弁当でやってくれています。AWSを退職した後、いろいろな会社に呼ばれて同じような話をする機会が続きました。そこで、本当に聞きたい人だけを対象にして、当初はクローズドのイベントを作ったんです。運営チームの人たちは、その頃から参加して手伝ってくれているコアな人たちです。

 

「クラウドの次」の大きな波をとらえるためにパラレルに働く

―そうした現状を踏まえて、小島さんご自身は今後どのような展望を描いているのですか?

小島:当面は「パラレルマーケター」として、引き続きさまざまな領域の企業に関わっていきたいと考えています。個人的にはAIや決済など、クラウド分野で次に大きな波が来る領域で活動していきたい。それを実現するためにはパラレルであることが必要なんですよね。

―1社に所属するだけでは、自分のやりたいことをすべて実現できないということですね。

小島:はい。複数のルートからインプットできるということもメリットに感じています。インプットが枯れていくと、アウトプットの質も下がっていってしまう。私の場合はマーケティングという大きな軸を持ちつつ、AIと決済を中心に最新情報をインプット、アウトプットし続けていくつもりです。

―かかわっていく企業の選択肢の幅も広がっている中、積極的にかかわっていきたいのはどんな企業ですか?

小島:スタートアップと外資系には常に絡んでいたいと思っています。新たなトレンドを生み出す現場に身を置くことが大切なので。現状では6社の名刺を持っていますが、それ以外にもアドバイザリーを行っている企業も含め、常時10社程度と関わっています。今後もこの幅を広げていきたいですね。コミュニティマーケティングはまだまだ人や知見が足りない領域です。ここで専門性を生かし、クライアント側の視点を理解しながら、最適なマーケティングを展開していきたいと考えています。

記事作成:多田慎介

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

小島英揮:明治大学卒業後、電子フォーム/XML関連ソフトを扱うマーケティング責任者や、アドビシステムズ株式会社でのPDF、RIAでのエンタープライズ、デベロッパーマーケティング、AWS(アマゾンウェブサービスジャパン株式会社)でのマーケティング本部長など、一貫してIT分野におけるマーケティングを経験。アドビシステムズ在籍時にはFxUG(Flex User Group)、AWSではJAWS-UG(Japan AWS User Group)という全国規模のデベロッパーコミュティを立ち上げ、運用を進めた経験を持つ。2016年8月のAWS退職後はパラレルマーケターとして複数の企業を支援しつつ、コミュニティマーケティングの知見を言語化するコミュニティとして「CMC_Meetup」を主催している。