【インタビュー】特許300件の音響技術者が挑む新しい音の市場。サウンドファン宮原信弘、坂本良雄(前編)

2017.10.02 エキスパート

いまや、現代日本人の9人に1人が聴覚に不安を感じていると言われています。そのような中、音のバリアフリースピーカー「MIRAI SPEAKER(ミライスピーカー)」を世に打ち出した株式会社サウンドファン。距離が離れるほど音が弱くなりやすい特徴がある従来のスピーカーに対し、ミライスピーカーの「曲面サウンド」は難聴者でも聴きやすく、距離による音の弱まりが少ないため、大きくない音でも遠くまでクリアに聴こえるという特徴があります。

サウンドファンの社長の佐藤和則氏と共に同社を立ち上げた取締役の宮原信弘さん、宮原さんに誘われて執行役員としてミライスピーカーの研究開発に携わり、同社の技術面の責任者でもある坂本良雄さん。坂本さんはJVCケンウッド時代には300件を超える特許を取得し、音響領域の技術者としては第一人者といわれています。JVSケンウッドでの開発経験を経て、ベンチャーという環境で新しい技術に挑戦を続ける両氏に元テレビ東京アナウンサー白石小百合さんがお話を伺いました。

今回は、サウンドファンの事業に参画された経緯や同社の製品の特徴、開発の動向についてです。

 

蓄音機の機構をもとにした試作品の開発

白石小百合さん(以下、白石): サウンドファンの製品「MIRAI SPEAKER(ミライスピーカー)」は「音のバリアフリー」を実現するスピーカーとして注目を浴びつつあります。本日はミライスピーカーの特徴や開発の経緯などを切り口に、サウンドファンの事業活動についてお伺いしたいと思います。

宮原信弘さん(以下、宮原):サウンドファンでは、ミライスピーカーの開発と製造を行っています。製造は、埼玉の協力工場がメインです。本格的な量産化はまだ様子見というところですが、国内の大手証券会社や航空会社など、試験的に活用して頂いた企業では好評で、少しずつ知名度も高まっていることを実感しています。

ミライスピーカーは、聴覚に障害があっても聴こえるスピーカーという新しい商品です。メインユーザーが比較的高齢の方だからか情報の広がり方もゆっくりではありますけれども、着実に広がっています。

白石:宮原さん、坂本さんは、お二人ともJVCケンウッドにて、音響機器の領域で豊富な経験と実績を積まれています。坂本さんは技術者として特許を300件もお持ちですね。これまでこうした音響機器の大手企業にて一線で開発に従事されていたお二人が、ベンチャーに参画された経緯はいかがだったのでしょうか?

宮原:これまでのキャリアでは、自分はオーディオ、坂本さんはスピーカー一筋です。
坂本良雄さん(以下、坂本):私は社会人人生のすべてをスピーカーに捧げてきたと言っても過言ではありません。ですが、こうしたベンチャーに参画して、未だに仕事の中で新しい発見があります。それにしても最初に宮原から誘われたときは、手伝うことに決めたものの、スピーカーをみてそもそも「こんなもの本当に鳴るのかな?」という疑問で一杯でした。

白石:ミライスピーカーは難聴者でも聴こえやすいというスピーカーです。音響機器での開発経験豊富なお二人でも不思議な原理のスピーカーだったのですね。

宮原:高齢による難聴の場合、ふつうのスピーカーだと当然音が聞こえにくいです。それが不思議なことに蓄音機だと聞こえやすい、という話を当時聞きました。であれば、構造的に蓄音機に近いものなら難聴の人でも音が聞こえるのではないかというのが最初の着想でした。

そこで蓄音機の機構をもとに、こういうもの(折り曲げた薄いプラスチックの板とオルゴールを組み合わせた試作品)を作ってみました。これであれば難聴の方の中にも聞こえる方がいらっしゃるし、音の減衰も少ないと考えました。

坂本:私は半信半疑でしたが、とにかくこの原理によるシステムを作って納品しました。その後、たまたまシアトルから来られていた難聴の方による試聴に立ち会う機会がありました。

その時、難聴の方が「普通のスピーカーでは聞こえないが、このスピーカーであれば聞こえる」とおっしゃったのです。こうした実際の難聴者の方の体験をもって、この難聴者向けのスピーカーというものが、どうやら実現可能なのではとの考えに切り替え、本気になって取り掛かりましたね。

 

実際に「聴こえる」という難聴者の声が開発を後押し

白石:試作品で、難聴の方が実際に聴こえる、と。そこからミライスピーカーの開発が始まったということですね。実際に難聴者の方でも、どの程度聴こえるものなのでしょうか?
宮原:改良を進めていきますと、難聴者の方でも特に女性の反応が良かったですね。また、聴覚障害には程度に応じた等級(身体障害者福祉法によって定められている身体障害者等級)があるのですが、二等級の方、これは聞こえにくいなどというようなものではなく、轟音レベルの音でもほとんど聞こえないレベルです。そんな二等級の方の中にも、例えばこのスピーカーで歌を聞くと「歌詞が分かる」と言われる方がいるのです。

ミライスピーカーを重度から軽度難聴の方に聞いていただいてみたところ7~8割の方が「聞こえるようになった」と回答されている感触です。

余談ですが、当時開発に利用していた測定器を納品いただいていた会社の社長の奥様が難聴だったのですが、ミライスピーカーをお使いになられたところ「前より良く聞こえるようになった」とありがたい感想を頂きました。一方、息子さんからは「母さんのテレビの音がこの間より大きくなった」というクレームがありました(笑)。実際は音が大きくなったのではなく、減衰率が下がったために、遠くでも届くようになったためのようです。その社長からはその後も出資をして頂くなど、本当にお世話になっています。

白石: 蓄音機の原理を応用してみたら効果があったというのは面白いですね。そこから製品化に至るまでは様々な苦労があったと思いますが、どのような点に工夫を凝らされたのか教えて頂けますか?
宮原:とにかく振動板の材質が命です。技術用語ですが適度に内部損失があることなど、いくつかの条件を調整する必要がありました。試作品を作る場所として、音をいくらでも出してよい施設でなければということで、カラオケボックスに通ってアクリル板や竹など様々な試作品を何回も試しました。極端に言えばA4の紙を曲げても先ほどの原理は達成できるのですが、コストと品質のバランスをどこに見出すかですね。現在はCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics、炭素繊維強化プラスチック)というカーボン板の一種を使っています。

 

原理がまだ不明。シニアベンチャーならではの外部研究者との研究開発

白石: 宮原さんと坂本さんなど経験豊富な開発者が参画され、開発が加速化したミライスピーカー。ベンチャー企業では人とのつながりが本当に重要ですね。

坂本:偶然の出会いは多いですね。ノーベル化学賞受賞者の白川英樹先生にもご協力をいただいております。開発を進める上で必要な素材があったのですが、応急処置としてむかし白川先生から頂いた物を使ってみました。すると、どういうわけか既存の製品よりもかなり良く聞こえるということがありました。もともとケンウッド時代から白川先生とはお付き合いがあったのですが、これがきっかけで、また連絡が再開し、ご協力いただいています。

宮原:このミライスピーカーの原理はまだわかっていません。難聴者でもなぜ聞こえるかを理論的に裏付けするのに困っているのです(笑)。

白川先生も「なぜよく聞こえるのかは僕にはよくわからない」と。「ただ僕は日本の研究者がどのような研究をしているのかは大体知っている」(白川先生)ということで、サウンドファンの事業に関わる研究者を紹介頂いています。さすがに白川先生のお力添えは大変なもので、たくさんの研究者、先生方に来て頂いています。

白石:人やリソースが不足しがちなベンチャー企業にはなかなかできないことですね。
宮原:我々はシニアベンチャーなので、図々しいのかも知れません(笑)。

 従来のスピーカーに関する知識が豊富であるほど、殻を破れない

白石:こうした過去のネットワークを活かした協力体制などはシニアベンチャーならではですね。

宮原:おかげさまで、サウンドファンの事業に共感して、協力したいと言ってくれる方も増えています。もっとも、現状はシニアの方が中心ですが(笑)。若い方にもこれからどんどん来てもらえると考えているし、暖かく迎えたいという気持ちも強いです。

白石:サウンドファンは、富士ゼロックス、サン・マイクロシステムズ、デルなどを渡り歩いた代表の佐藤和則氏を含めて、既にご実績のあるシニア世代のメンバーで構成されていることも特徴です。若い技術者にもどんどん来てもらいたいということですね。
坂本:何かに凝り固まったプロの技術者よりも、逆にまっさらで、既存の常識があまり入っていない方のほうが良い側面もあります。従来のスピーカーに関する知識が豊富であればあるほど、サウンドファンのスピーカーに関する理解が遅かったり、殻を破れなかったりします。逆に型破りな方のほうがコンセプト理解や製品試作もはかどります。
とはいえ、凝り固まった方もこうした実物を見てみると考え方も変わると思います。画期的な技術やいままでになかったものに触れる機会があれば人は心を動かされるのでしょう。

 

<コメント>

白石:ベンチャーというと、近年のIT企業のような若いイメージもありますが、ソニーの井深さんは38歳、ホンダの本田さんは42歳、KFCのカーネルサンダースが前身となったビジネスを始めたのは40歳からでフランチャイズにしたのはなんと62歳など、ある程度キャリアを重ねてからの独立や創業で成功する例がたくさんあるんですよね。これまでの知識や人脈をフル活用して、新しくチャレンジなさっている姿に、私まで元気をもらいました。シニアベンチャーは図々しいんですよ(笑)と高笑いしている二人がなんとも眩しいインタビュー。次回は、「音」について、より詳しく伺います!!

 

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

宮原信弘:株式会社サウンドファン取締役。JVCケンウッド、コバテルを経て、サウンドファン参画。CDプレイヤー1号機開発、ハイエンドオーディオ機器、 デジタルコードレス電話、携帯電話、F1自動車レース無線通信、FMトランスミッタ、光マイク等イスラエル企業との共同開発など、開発実績多数。 WBSトレたま3回出演。

坂本良雄:株式会社サウンドファン執行役員。JVCケンウッドでスピーカ生産技術担当、スピーカ開発担当及びデバイス開発を担当。取得特許:約300件。

白石小百合:元テレビ東京アナウンサー。Whitte株式会社 代表取締役。法政大学国際文化学部在学中にスペインのバルセロナに留学し、ゼミでアートを学ぶ。2010年4月株式会社テレビ東京にアナウンサーとして入社。経済番組・情報番組・スポーツ番組・ナレーションなど、多岐にわたり担当し、2017年3月31日付でテレビ東京を退職。同年4月よりフリーとなり、かねてからの興味関心を形にした香りブランド『Whitte』(ウィッテ)創業。