【インタビュー】 JAXAとベンチャー企業、プレーヤー拡大のため人材の行き来も活発に。JAXA新事業促進部部長 松浦直人(後編)

2018.06.28 エキスパート

宇宙航空研究開発機構(JAXA)において、民間企業に向けた活動窓口として、産業振興に取り組んでいる新事業促進部。New Spaceなどの新しいトレンドや宇宙産業における競争の激化によって、JAXAでも民間との連携や産業振興の方法が変化しているといいます。現在は、民間企業のスピードに合わせるため、構想段階から協業して議論を重ね、早い段階でビジネスとして成立するような研究開発方法に。

JAXAと民間企業のコラボレーションでは、具体的にはどのような事業が創出されているのでしょうか。JAXA新事業促進部 部長の松浦直人氏に、宇宙産業振興の現在と今後について聞きました。

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ビジネスの問い合わせは年間300件!新規事業促進部の取組とは

川口荘史(以下、川口):宇宙産業への注目度も最近ではかなり高まってきた印象はありますね。2015年から新規事業促進部に携われきて、この数年で変化はありますか。

松浦直人(以下、松浦):新規事業促進部でも最初の1年は産業振興が思ったよりも進まず、やはり「いいものを作れば売れる」といった考えのなかに留まっていたように思います。それが、ここ2年弱ほどで、宇宙産業でも様々なベンチャーが立ち上がるようになり、JAXAと協力関係を築くことも増えてきました。

はじめは「公的機関として一社と組んでいいのだろうか」という意見もありましたが、今は風向きがずいぶん変わり、当たり前のように協同していますね。JAXAの2018年度からの第4期中期計画でも産業振興が謳われており、いい流れになってきたと思います。

 

川口:2015年に松浦さんが新規事業促進部に携われてから、これまでどういった問い合わせがあったでしょうか。

松浦:正式な問い合わせだけで年間300件程度あります。「こういう技術を使いたい」という明確な問い合わせもあれば、「なにかやりたいけど、なにをやればいいでしょうか」という曖昧なものまで千差万別です。中小企業の方からの連携を希望される問い合わせも多いですね。

2015年には、さまざまな分野の人材・知識を集めた組織を構築し、これまでにない新しい体制や取組みを行うことを目指した「宇宙探査イノベーションハブ」というしくみをJAXAで作りました。地球で使っている技術、民間企業が持っている技術を宇宙と地上両方で使いませんか、といったプロジェクトです。

たとえば月面基地構想が盛り上がっていますが、実現するのは10年後かもっと先になるでしょう。それだけでは事業にはならないけれども、その研究開発の成果を地球上でも利用する想定で行っていけばビジネスとしてWin-Winとして成り立つ。宇宙の15年後に投資するのではなく、そこで研究している成果を地球上で生かすといういいアイデアです。

川口:問い合わせが多数ある中、宇宙産業に関するよくある誤解や課題はありますか。

松浦:過大に期待されている部分が多いと感じます。宇宙は万能だ、極端に言うと宇宙から見るとどこでも見える、位置の精度も高いなど誤解されているところも大きいようです。

 

宇宙村”に閉じこもらず、従来の関係者以外へと広げるための取組とは

川口:進め方としては、基本的に企業からの問い合わせを受けて個別に検討していくという形ですか。

松浦:こちらから仕掛けることもあります。宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)と言って、企業と共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新しい事業を創出するプログラムを開始しました。

これまでも公募はしてきましたが、情報を見ている人は宇宙に興味がある人に限られていて、なかなか新しい企業に参入してもらえませんでした。プレーヤーが広がることで、新しい技術が入ってくるいい流れができると思います。

川口:これまでそうしたつながりが十分に広げられなかったのはなぜでしょうか。

松浦:いくつか理由があるのですが、“宇宙村”に知らず知らずに閉じこもっていたのだと思います。もちろん、「そんなことはない」と自分たちでは思っていますが(笑)。公募にしても、大学や従来の協力関係にある企業以外の企業が入るには高い壁があったのでしょう。

確かに、セミナーを開いても、以前は半分以上が決まったメンバーでした。最近は新しいメンバーがどんどん入ってきて、盛り上がってきていると感じます。

 

川口:さまざまな企業と接点を持つために「JAXA COSMODE」や「JAXAオープンラボ」などの取組も進められていますね。

松浦:「JAXA COSMODE」は、JAXAが保有する技術や画像、企業とJAXAのコラボレーションなどから生まれた商品のブランドです。技術を使っているものだけでなく、たとえばですとか、種子島で汲み上げられ宇宙ステーション補給機「こうのとり」により国際宇宙ステーション(ISS)へ輸送する「宇宙の種水」など、JAXA関連の製品やJAXAが保有する宇宙や地球の美しい画像・映像を使った商品も該当しています。2008年に創設され、すでにブランドとして定着したように思います。

「JAXAオープンラボ公募」は、企業・大学等が、宇宙航空に関連する製品・サービスやJAXA技術を活用した製品・サービスの創出を目指す研究を促進するための公募型共同研究制度です。

これをJAXAの研究開発成果を活用しなくてもよく、かつコンセプト段階から事業を共創しようとするのが「J-SPARC」になります。JAXAは、宇宙環境や持ちうる宇宙機、設備、データに加え、これまで培ってきた技術力、経験、多様な国内外ネットワークなどを総動員して事業化に向けた技術開発・実証を先導し取り組みたいと思っています。

こうした取組を通して、我々としては宇宙産業をさらに大きな産業に育てたいと思っていますが、そうすると国として行うべき研究開発の課題もたくさん出てきます。それらと民間企業がうまくマッチできればいいのですが、実際には国民の生活と離れてしまう場合もある。そのバランスをどのようにとるかを考えながら進めています。

 

川口:企業との連携でJAXAが求められているものはなんだと思いますか。

松浦:やはり技術でしょうか。JAXAは世界に冠たる技術を間違いなく持っていますし、それに付随した研究もたくさん行っています。ロケットや衛星は、エネルギーや材料などサブシステムの集合体ですから、一見、日常生活には関係がないように見えても、実は役に立つ技術もたくさんあります。

たとえば、衛星は自律して動かないとなりません。それには太陽光パネルのエネルギーを使い、姿勢や位置を制御し、通信や観測のミッションを行うのですが、それも自律判断しなければならない。こうした技術や衛星を使ったサービスが地球上でも利用できるのではないかと考えられています。他にも、宇宙で使われている技術が地球上でビジネスとして、今すぐでなくても将来成り立つ、と関心を持っていただいている方も多いですね。

2017年5月には日本政策投資銀行と協定を結び、宇宙への投資の技術的知見を提供しています。2018年3月には、政府から宇宙ベンチャー支援パッケージが発表され、1000億円のリスクマネー供給が決まりました。宇宙の研究には億単位のお金がかかるので、この規模での投資はチャンス。大きなジャンプアップができると見込んでいます。

 

企業からJAXAへの出向のみならず、JAXA発の人材の流れもつくりたい

川口:業界関係者が“宇宙村”という閉じたネットワークになっているというのは他の有識者からもよく伺う課題ですね。業界における人材の流れに対する取組についていかがお考えですか。

松浦:まだこれからではありますが、JAXAと民間企業、どちらにも出入りができるような人的基盤づくりを強化していくつもりです。JAXAは現在約1,500人の組織です。人的基盤が弱いところは企業からJAXAへ出向していただいているのですが、逆に出ていく方向も増やしていくことを検討しています。

また、これまでの行き来は大企業がメインでしたが、そのループをベンチャー企業においてもつくりたい。ベンチャー企業のスピードや知見を学ばせていただき、JAXAの研究開発に役立てていきたいですね。

川口:JAXAから起業したり、民間企業に行くこともいい意味で今後もっと増えていくかもしれませんね。

松浦:JAXAから巣立っていくことも後押ししたいですね。外にプレーヤーがいて裾野が広がるようサポートすることも我々の大きな役割のひとつです。現在、JAXAに所属したままでベンチャー企業を立ち上げられる制度があり、オリガミ・イーティーエス合同会社と合同会社パッチドコニックスの2社が立ち上げられています。また、元JAXAの職員が立ち上げた会社、ウミトロン社は、衛星による海表面温度や植物プランクトン分布データを利用して、海洋環境保全と給餌の量とタイミングを最適化する事業を行っています。

米国と欧州でも大きく異なる宇宙産業における国のスタンス

川口:宇宙産業において官需が大きな割合を占めますが、宇宙関係の予算はそれほど大きくなっていませんね。

松浦:世界的に見ても、国が主導しての研究開発がスタンダードです。それは今でも崩れていません。ただ、各国とも予算の差はありますが、どこもそれほど伸びていない。そこで民間と協業する方法が取られてきているのですが、それもさまざまなスタイルがあり、アメリカとヨーロッパでもかなり違います。

アメリカは技術のリソースを公開すると数億ドル単位の投資がなされます。宇宙ステーションも含めて、地球周辺の宇宙事業は民間会社に開発してもらって、NASAはその先の研究を進めようという考え方です。民間が支える土壌があり、ベンチャーへの投資熱が根本的に違う。NASA側も商業支援プログラムを用意し、民間の開発を勧めていますし、NASAの従業員が民間に転職するケースも多い。その点が日本と大きく違いますね。

ヨーロッパは日本と近い。国の事業がベースにあって、そこにプラスとしていかに産業界から投資してもらい、ビジネスにつなげていくかという形。産業界のお金を生かしつつ、なおかつ宇宙開発全体が国としても進んでいくスタイルを組もうとしています。

 

国際協力への取り組み、増加していく海外企業との連携

川口:国際協力は重要なテーマですが、JAXAとしてどのように取り組まれているでしょうか。

松浦:日本国内の企業だけでなく、海外からも「JAXAと組みたい」という声をたくさんいただいています。実際に組んでいるところも、数は多くはありませんが存在します。また、JAXAは無理でも日本企業を紹介してほしいという、海外からの要望もかなりたくさんあります。

地球観測衛星ですと地球全体が見えますし、準天頂衛星もアジア太平洋地域の測位情報が出るので、グローバルでの対応は可能です。だから、海外企業と組むことも視野に入れなければならないのですが、技術情報がどこまで提供できるか、その国と組んで問題ないか、ということについては難しい問題です。

 

NASAや欧州宇宙機関(ESA)など公的機関同士で組むのは構わないのですが、直接やりとりするとなると、日本としてなにを維持してどういうふうに組まなくてはならないか、慎重に考える必要がありますね。複雑でスピードが速い時代、今後も日本が宇宙開発をリードしていけるように、産業振興に務めていきたいと思います。

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

松浦直人

宇宙航空研究開発機構(JAXA)新事業促進部長。1986年慶應義塾大学工学研究科(電気工学専攻)修了後、同年、宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)へ入社。人工衛星の追跡管制、地球資源衛星1号(ふよう1号)の開発業務を経て、世界気象機関(WMO)へ派遣。その後、地球観測研究センターの計画マネージャなど20年近く地球観測関連業務に従事。2013年4月から衛星利用推進センター長として、地球観測衛星、通信・放送衛星に関する企画、立案、調整を実施するとともに、2014年4月から地球観測研究センター長も兼務し、衛星データの解析研究に携わる。2015年4月から現職。