【インタビュー】宇宙産業の発展に重要な法整備。民間の宇宙ビジネスの本格化と、宇宙2法の成立 西村あさひ法律事務所 水島 淳 (前編)

2018.05.17 エキスパート

日本においては長らく官需がほとんどだった宇宙産業。高い技術を持っていながらも、民間の参入は宇宙先進国から大きく遅れをとっていました。そんななか、ようやく2016年11月に、宇宙ビジネスに関する2つの法律(人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律=通称:「宇宙活動法」、衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律=通称:「衛星リモセン法」)が成立しました。

これにより民間の本格的な宇宙産業参入、市場拡大が期待されています。宇宙産業の発展に不可欠な法整備について。元テレビ東京のアナウンサー白石小百合さんが、宇宙法の専門家である西村あさひ法律事務所の水島 淳パートナー弁護士に、現状を伺いました。

 

宇宙法のエキスパートとして、産業の転換点を法律の面から支える

白石小百合(以下、白石):水島さんは、現在は大手法律事務所のパートナーですが海外でロースクールではなくMBAを取得し、その後スタートアップの立ち上げにも参画されています。宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDEの立ち上げにも参画されているという異色の経歴ですね。水島さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

水島 淳(以下、水島):大学卒業後、西村あさひ法律事務所に6年間在籍し、クロスボーダーあるいは国内のM&Aを手がけました。その後、スタンフォード大学のビジネススクールに入学し、友人とベンチャー企業を立ち上げてシリコンバレーで2年ほどプロダクト作り、資金調達、事業開発を行いました。ベンチャー企業では2ラウンド合計約1,300万ドルの資金調達を成功させたあと、帰国して法律事務所に復帰、現在に至ります。

変わった経歴ですが、いわゆるコーポレートローに携わった経験と、実際に事業を起こして国際的にビジネスを展開した経験を生かして、大企業やスタートアップに対して戦略を含めてアドバイスをする活動をしています。

白石:法律家としてはもちろん、事業家としても経験をされているのですね。そうした中、宇宙の領域に興味を持たれたのはなぜでしょうか。

水島:事務所で宇宙法を研究しており、その研究会のメンバーとして加わったのがきっかけです。

技術だけではなく、法律制度、人材など、それぞれ複合的な要素が宇宙ビジネスの発展には必要であり、法的な側面からこうした産業の大きな転換点を支えることに意義を感じています。

個人的にも、単純に子どものころから「スターウォーズ」が好きだったので自然と興味は持てましたね。

白石:今注目されている分野とはいえ実感が薄くまだまだ映画の世界で未来の話のように感じてしまうのですが、実際に宇宙産業の市場の可能性を感じたのは、どういったところからですか。

水島:ひとつの指標は資金調達のトレンドです。例えば、ウーバーや、医療保険のオスカー・ヘルス・インシュランスなどの巨額の資金調達が近年話題になっています。

それらと同じ規模の投資が宇宙ビジネスでも起きつつあります。このように投資先として資本が動いているということは、宇宙ビジネスが伸びると見ている投資家がいて、投資家を説得できる起業家がいて、プロダクトを創るエンジニアがいる。宇宙ビジネスにおいてこうした動きが起きていることは非常に興味深いと感じています。

 

宇宙条約からはじまる宇宙における法律の現状

白石:宇宙産業に関する法律についてですが、そもそもどういった法律なのでしょうか。

水島:宇宙における法律が通常の法律と異なるところは、「宇宙はどの国にも属していない」という点です。法律は国ごとに定められるものですが、宇宙においては法律を決める政府、議員が存在しません。

そこで、国と国との間で「宇宙はこのように使いましょう」という条約を結んでいます。それが、国連宇宙平和利用委員会という国連の部署において1967年に発効した「宇宙条約」です。その後、1980年代までに5つほど条約が結ばれましたが、以来、条約ができていません。

なぜなら、国連宇宙平和利用委員会の議決はコンセンサス方式。その場にいる全員が賛成して初めて条約が成立するのです。そうなると、宇宙先進国から途上国まで幅広く参加しているので、各国の意見がなかなか擦り合わない。

白石:一国でも反対したら成立しないコンセンサス方式のため、結果として法整備が遅れていると。

水島:そうです。そこで、法律や条約といったカッチリした法ではなく、だいたいこういうルールにしようというソフトローが補っている形になっています。

また、ハードローにおいても、条約に書いてあることに違反したからといって、損害賠償を請求することはできません。そこで、条約の下に国内法を定めることになります。米国では30年以上前から商業ロケットの打ち上げに関する法律ができ、地球を衛星で観測するリモートセンシングに関する法律もできました。一方で、日本でも2008年に宇宙基本法が定められています。

※「ソフトロー」とは、条約や国際慣習法のように法的な拘束力があるとはいえないまでも国家間合意の存在する証拠となるもの。「ハードロー」とは、法的な拘束力があり、国家によって強制力を持つ法規範

 

民間の宇宙ビジネスの本格化と、宇宙2法(宇宙活動法と衛星リモセン法)の成立

白石:日本での宇宙基本法の成立が、2008年というのは、ずいぶん最近ですね。

水島:それまでも宇宙開発事業団法はありましたが、宇宙開発事業団(現在のJAXA)はあくまで公的機関。民間による民間のためのロケット打ち上げはなかったので、そもそも法律をつくる必要がなかったのです。

しかし、2000年代後半、ロケット打ち上げやサブオービタルフライト(軌道に到達しない準軌道飛行)などに着手する企業が出てきて、ようやく2016年に宇宙ビジネスに関する2つの法律(「宇宙活動法」:人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律、「衛星リモセン法」:衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律)ができました。

白石:民間の宇宙ビジネスがやっと本格化し始めたということですね。今後、資本も集まり、スタートアップも増えてきたら、さらに厳しく規制する方向に行くのか、もしくは緩和していくのか、どういった方向性でしょうか。

水島:2016年にできた2つの法律は今、一部施行中です。締め付けすぎだった、あるいは緩すぎたなどPDCAが回るのがこれからですね。

政府は民間ビジネスの推進を不用意に邪魔しない運用を目指していると思います。とはいえ規制が緩すぎていいかげんな企業によって事故が発生してはならないので、どうバランスを取っていくか注視しなくてはなりません。

世界的にも宇宙産業に関わる企業は今後どんどん増えていきます。日本としては他国とルール決めの歩調を合わせていくのか、戦略をどうとっていくのかも気になります。法整備として気になる分野のひとつに、2017年に100億円規模の資金調達をしたispace社(アイスペース)の惑星探査、資源開発があります。月や小惑星の岩、氷を資源として商業利用しようというビジネスです。

白石:先ほど「宇宙はどこの国にも属していない」とおっしゃっていましたが、資源を利用することができるのですか。

水島:宇宙の天体自体は所有権を主張してはいけませんが、採取した物質については宇宙条約では決まりはありません。

海の例えがわかりやすいのでよく使われますが、例えば公海はどこの国にも属していませんが、そこで釣り上げた魚は漁師のものとして市場で売られています。これと同じだという考え方です。

資源がどこに属するかということについて、世界でいちばん権威ある国際宇宙法学会でも私人が宇宙資源を所有することは宇宙条約上禁止されていないとの見解を公式に発表しています。その上で、どのような国際的ルールの枠組みを作っていくかについて各国ごとに様々な意見があり激しい議論になっています。

白石:なるほど、この領域は法的な整備によってビジネスに大きなインパクトがありますね。宇宙資源がどのように活用されるのかは気になります。

 

法律によって後押しされた宇宙資源開発。政府に対しての働きかけも重要

白石:宇宙産業は設備投資や研究開発含めて莫大なお金が必要ですね。まだまだマネタイズされてビジネスになる状況まで来ていないように思われます。宇宙産業のベンチャー企業などにはどのようなアドバイスをされているのでしょうか?

水島:そうですね。例えば、ベンチャー企業でもすぐにお金になるビジネスであれば、売り上げなどわかりやすい指標で「伸びています」と言えますが、宇宙産業の場合、結果が出るのが数年後、あるいはもっと先ですね。一方で、その間も事業の進捗に応じて実際は少しずつ事業価値が上がっているはずですので、単純な売上や利益の指標でない指標をマイルストーンとして設定し「小刻みにマイルストーンを刻むべき」と経営者の方にお話しています。

「大企業と共同研究した」、「事業提携した」、「技術の実現性が高まった」などのマイルストーンは、投資家へのアピールになると同時に、社会に対してのメッセージにもなります。産業振興のためにそうしたメッセージを送ることも重要です。

もうひとつ、企業は自分の会社だけを伸ばそうとするだけでなく、政府に対して「こうすることで日本にドミナント産業ができます」「雇用につながります」「税収につながります」「こういうルールにすれば安全です」と働きかけることも必要だと思っています。我々はそういった側面からも企業様をお手伝いさせていただいています。

白石:実際にお手伝いしている企業で法律整備によって事業が後押しされた事例はありますか。

水島:前述したispaceさんの宇宙資源開発事業については、2016年以前は法律も政府の文書でもほとんど触れられていませんでした。しかし、ispaceさんが実際に技術的な進歩を遂げ、「資源開発のルールをつくれば社会安全を守りつつ開発できる」と発信したことで、政府は「宇宙資源開発をめぐる国際的な動向の把握に努めるとともに、関連産業の振興に向けた必要な措置について検討する」という附帯決議を出したんです。

当時の内閣府特命担当大臣(宇宙政策)の鶴保庸介氏も「宇宙資源の所有権の問題にも我々は積極的に取り組んでいかなければならない」と語っていました。そういう政府の積極的な姿勢もあり、ispaceさんは2017年12月に101.5億円を調達できました。

もちろん政府の発言だけが影響しているわけではありませんが、大きな後押しになっているのは事実です。こうした点は宇宙産業など全く新しいタイプの産業では特に顕著ですね。

 

コメント

白石:とても夢のある分野で注目している「宇宙」ですが、法律の観点からは考えさせられることが多く興味深いインタビューでした。国をまたいで地球規模そして宇宙規模で考えるのでスケールが大きくワクワクします。それと同時に、法整備が整っていないということはその隙間にビジネスが生まれては消えていく危うさも感じます。後編では、具体的にはどんな相談と議論がされているのか?宇宙法の今に迫ります!

 

後編に続く

 

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール:

水島 淳:2002年司法試験合格。2004年東京大学法学部卒業、2005年司法修習終了(58期)。同年西村あさひ法律事務所(当時西村ときわ法律事務所)入所。2013年スタンフォード大学ビジネススクール(MBA)卒業、2012年〜2014年米国WHILL,Inc.ビジネスディレクター、2007年〜2010年および2015年成蹊大学法科大学院非常勤講師を務める。2014年西村あさひ法律事務所復職。2016年一般社団法人SPACETIDE創業者兼理事を務める。主な著書に、『租税法概説(第2版)』(共著、有斐閣)、『企業取引と税務否認の実務』(共著、大蔵財務協会)、『ビジネスパーソンのための企業法務の教科書』(共著、文藝春秋)など。

白石小百合:元テレビ東京アナウンサー。Whitte株式会社 代表取締役。法政大学国際文化学部在学中にスペインのバルセロナに留学し、ゼミでアートを学ぶ。2010年4月株式会社テレビ東京にアナウンサーとして入社。経済番組・情報番組・スポーツ番組・ナレーションなど、多岐にわたり担当し、2017年3月31日付でテレビ東京を退職。同年4月よりフリーとなり、かねてからの興味関心を形にした香りブランド『Whitte』(ウィッテ)創業。