【インタビュー】宇宙産業の発展のためには、「政府まかせ」ではなく企業も法整備への働きかけが必要 西村あさひ法律事務所 水島 淳 (後編)

2018.05.18 エキスパート

2016年には宇宙2法(宇宙活動法と衛星リモセン法)も成立し、日本においても民間企業の宇宙産業参入が活発に行われるようになりました。しかし、まだ充分とはいえない宇宙に関する法整備。今後企業に求められることはなんでしょうか。

前編では、宇宙の法律の成り立ちや考え方について、そして法整備が宇宙産業に与えるインパクトの大きさについてお話しいただきました。後編では、宇宙法の専門家に寄せられる相談の内容や、日米における法整備についての政府や民間の姿勢の違いなどについてです。

元テレビ東京のアナウンサー白石小百合さんが、宇宙法の専門家であり、日本初の民間による宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDEの理事でもある西村あさひ法律事務所の水島 淳パートナー弁護士に、お話しを伺いました。

前編はこちら

 

宇宙ビジネスに関する法的な相談、大手だけでなくベンチャーからの問い合わせも増加

白石小百合(以下、白石):法律家としても、事業のアドバイザーとしても宇宙産業に関わられている水島さんですが、宇宙ビジネスに関わる企業からはどのような問い合わせが多いでしょうか。

水島 淳(以下、水島):多いのは、「こういう会社と提携したい」「資金を集めたい」ということですね。これまで宇宙事業と関わりがなかった会社が宇宙のプレーヤーと組むときに「契約を見てほしい」という話もありますし、「この制度は本当にこのままいくのか」「政府の動向を知りたい」「世界の動向を知りたい」といった法制度に関する話もあります。大手だけでなく宇宙系のベンチャーからの相談、依頼も増えています。

 

 

白石:幅広い内容の相談が寄せられていますね。訴訟や権利を守るといった相談などはいかがでしょうか。

水島 そういった相談もあります。

論点としてあるのは、例えば打ち上げに関して。打ち上げは費用が高いですし、どんなに高性能のロケットでも失敗する可能性がゼロではありません。打ち上げに失敗した、あるいは天候の都合で飛べないという場合、飛行機と違って次の便に載せてくれるわけではありません。

失敗すると、次の便をもう一度契約することになりますが、打ち上げ業者もハイリスクなビジネスなので、契約書にノーリファンド(払い戻し不可)の条項を入れています。しかし、いくら契約書にノーリファンドとあっても、明らかに相手に非があれば場合によっては返金するよう交渉することもないわけではありません。また、契約交渉の段階でも、実務上可能な範囲で自社の収益を守るための権利を確保しておく、もめたときにバックアップになる情報を埋めておく、相手の強すぎるバックアップは崩しておく、といったことを戦略的に行っていく必要があります。

白石:相手は外国の企業が多いでしょうから、交渉はたいへんですね。

 

法律的なエアポケットにある準軌道飛行による宇宙旅行、サブオービタルフライト

白石:ところで、宇宙産業にはさまざまなジャンルがありますが、業界で今注目されているのはどんな分野ですか。

水島:前述した打ち上げ、輸送系は注目されています。どれだけいい衛星やロボットアームがあっても、宇宙に持っていけないと意味がありません。ロケット需要がどんどん増えているのに、今は“待ち”の状態が多いんです。打ち上げの頻度が上がってくれば、先ほどの話でも次の便には載せるなどの対処ができるようになると思います。

また、軌道上のサービスも注目されています。今、小型衛星がたくさん上げられているのですが、衛星にも寿命があります。

これまでは1回上げたら燃料が切れるまで働いて、切れたら落ちるということになっていました。そこをもっと長く使うために、燃料補給したり技術的なメンテナンスを施したりといった軌道上サービスをしようという会社が出てきています。

白石 水島さんご自身が個人的に興味ある領域、今後手がけたいというテーマは?

水島:個人的に興味があるのはサブオービタルフライトです。一般向けの宇宙旅行ともいえる、人や器材を乗せて、宇宙へ行き数分間、無重力状態を体験出来る弾道飛行ですね。

この領域では、ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)などが手がけており、飛行テストも重ねています。軌道に到達しない準軌道飛行なのですが、数分間、宇宙からの地球の姿が見られます。これは夢がありますね。僕も早く乗りたいです。法律的にも興味深い領域です。サブオービタルフライトは、宇宙活動法の対象外なんです。

白石 対象外とは、なぜでしょうか。

水島 宇宙活動法は軌道またはその外に投入する物体を対象としており、軌道に達しないものは対象外なのです。では、航空法でカバーしているかというと、それも意識的にカバーしていない。そもそも「宇宙」の定義は、一般に地上から100キロ以上と言われていますが、それも法律や条約で明確に定義されているわけではありません。サブオービタルは宇宙活動法も航空法も適用外という、法律的なエアポケットにあるのです。

航空法が適用された場合は、耐空証明がない機体は飛ばせないのですが、この審査がとても厳しく証明を得るのが難しい。今、サブオービタルフライトにその条件を求めたら、何倍も資金と時間が必要になり、産業の成長が相当程度遅れてしまいます。そのため、航空法の適用外、なるべく飛行機に該当しない整備が望ましいと言われていますが、これらは国際機関でもまだ議論がなされている途中です。

 

法律で定義されていない領域はビジネスにはならない?法整備と新しいビジネスの関係

白石:法律で定義されていない領域はビジネスにはならない、ということはありませんか。

水島 むしろ、法律がないということは法律家の立場でいうと、「禁止されていない」=「できる」ということになります。

ただ、本当に強い競争力のあるビジネスをつくろうとすると、資金調達できて、ベンダーサプライヤービジネスパートナーがついてきて、従業員も安心して働けないとならない。経営者の立場に立つと、法律がない分野はビジネスにしにくいですね。

宇宙条約は特殊で、締約国の民間企業や非政府団体が行った活動で事故や損害が出たら、その国が責任を負うことになっています。すなわち民間の失敗は、その国の財政に影響する。だから、国は法律がない場合、なるべく止めようという方向に傾いてしまう。

米国は日本よりも進んでいて、サブオービタルフライトの法律が徐々にできつつあります。

白石:サブオービタルの領域でも、やはり米国が進んでいるのですね。

水島:そうですね。日本は米国など各国の状況を適時にとらえつつも、国際協調を重視しているので国連などの動きもウォッチしていて、これまで必ずしもスピーディではありません。

 

日米における新しいビジネスにおける法整備についての政府と民間の姿勢の違い

水島:僕は米国政府の人とも日本政府の人とも意見交換することがあるのですが、そこで感じるのは、日本政府の人はとても勉強熱心。誰に頼まれなくても、さまざまな企業にヒアリングに行きます。一方、米国政府はそこまでではない。むしろ日本よりも受動的な印象があります。これは民間の動き方も要因の一つといえ、米国では民間が元気で政府に対する働きかけが多いんです。逆に日本では民間からの政府への働きかけはそれほどでもない。

白石:日米の違いとして、新しい法整備について政府の動きが受動的か積極的かというのは、民間の政府への働きかけの違いによる部分もあるのですね。

水島:米国も、日本が考えるほど簡単に法律ができるわけではありませんが、プレーヤーがたくさんいて、経営者が政府に働きかけ、法律が整備され、投資が増えて政府も応援し、プレーヤーがさらに強くなるという好循環になっています。

日本の企業も「政府、がんばれ」と言うだけでなく、知財戦略、資金調達戦略、外国企業とのパートナリングのみならず、政府への働きかけもより積極化していけば、うまく回転するのではないでしょうか。

 

宇宙開発と法整備、両輪で進めたほうがいい

白石 日本も、企業側が法律家を通して法整備の働きかけをしたほうがいいですか。

水島 そのほうがいいですね。ただ、そのノウハウがある法律事務所は日本にほとんどありません。法整備の働きかけのみならず、国際的なトランザクションなども含め、そういった攻めの法律の部分を事業開発の肝だと捉えるかは、その企業の理念やタイプによりますし、事業の状況によっても違います。

ただ、弁護士の一意見としては、やはり宇宙産業のように状況が刻々と変化し、自社も周りも成長している産業の転換期ともいうべきときは、事業開発に欠かせない要素として企業も法整備を推進していく姿勢をもつことが必要だと思います。

白石:一般に、ベンチャーはマーケットができていないところにいち早く入り、後から法整備が追い付くという場合がよくありますが、宇宙の場合は、宇宙条約によって民間の損失は国が責任を持たなければならないとなると、むしろ先に法整備を整えてもらって、その上で参入したいという意向が強いのでは?

水島:どちらが先がいいというより両方ですね。いずれにしても早く、というのがベンチャーのリアルな思いだと思います。法整備と開発、両方からみあっているので、同時に進めることが大切ではないでしょうか。

白石:早く市場が拡大し、民間の私たちにもその恩恵がわかりやすく見えるといいですね。

水島:実は身近にも宇宙利用の恩恵を受けている例はあるんですね。

例えば、「ポケモンGO」、GPSを使ったゲームも宇宙産業のひとつといえます。ただ、一般的には宇宙ビジネスというとBtoBがメインなのでみなさんがすぐわかるようなものはなかなかありません。それでも、一般の方々にも宇宙産業の恩恵は徐々に見えてくるようになると思っています。

 

コメント

白石:宇宙産業の幅広さにこれまでの宇宙に対する憧れが現実になるような感覚を覚えました。巨大資本が今宇宙産業に投資している流れをみるとかなりの規模に成長しそうな予感がします。国を跨ぎ地球としてどうしていくかという話し合いをしなければならないので、政治的な動きも必要な分野で、弁護士の手腕が発揮されていそうです。今は「グローバル視点を持て!」なんて言われていますが、今後は「ユニバース視点を持て!!」と言われるのが当たり前になるのでしょうか。楽しみです。

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

水島 淳:2002年司法試験合格。2004年東京大学法学部卒業、2005年司法修習終了(58期)。同年西村あさひ法律事務所(当時西村ときわ法律事務所)入所。2013年スタンフォード大学ビジネススクール(MBA)卒業、2012年〜2014年米国WHILL,Inc.ビジネスディレクター、2007年〜2010年および2015年成蹊大学法科大学院非常勤講師を務める。2014年西村あさひ法律事務所復職。2016年一般社団法人SPACETIDE創業者兼理事を務める。主な著書に、『租税法概説(第2版)』(共著、有斐閣)、『企業取引と税務否認の実務』(共著、大蔵財務協会)、『ビジネスパーソンのための企業法務の教科書』(共著、文藝春秋)など。

 

白石小百合:元テレビ東京アナウンサー。Whitte株式会社 代表取締役。法政大学国際文化学部在学中にスペインのバルセロナに留学し、ゼミでアートを学ぶ。2010年4月株式会社テレビ東京にアナウンサーとして入社。経済番組・情報番組・スポーツ番組・ナレーションなど、多岐にわたり担当し、2017年3月31日付でテレビ東京を退職。同年4月よりフリーとなり、かねてからの興味関心を形にした香りブランド『Whitte』(ウィッテ)創業。