【インタビュー】超小型衛星の分野では世界でも競争力がある。日本の宇宙産業の発展のため必要なこととは 東京大学 航空宇宙工学教授 中須賀真一(後編)

2018.05.14 エキスパート

1999年から学生たちとともに飲料缶サイズの衛星を打ち上げる実験をスタートし、これまでに8機の超小型衛星を学生とともに開発、打ち上げを成功させてきた、東京大学の中須賀真一教授。世界でも超小型衛星の分野を開拓した第一人者であり、内閣府宇宙政策委員会委員として日本の宇宙開発計画にも関わられています。

前編では、超小型衛星開発プロジェクトによる人材育成などの取組や、宇宙産業における大学の役割について伺いました。後編では、小型衛星が量産されることにより、これからの宇宙産業はどのように変わっていくのか。そして、日本の宇宙開発の課題は何か。ミーミル代表の川口が伺いました。

前編はこちらから

 

ソーラーセイル技術やふろしき衛星など。現在注目されている宇宙の研究テーマ

川口荘史(以下、川口):今度は、研究者としてのお立場からご意見を頂きたいと思います。世界の宇宙研究においては、どのようなテーマが今注目されているのでしょうか。

中須賀真一(以下、中須賀):制御の世界であれば、大きな幕を広げて太陽光の光子の圧力を推進力にして進むソーラーセイル技術の制御ですね。100m四方もの大きさになりますから、その姿勢をどう変えるか。太陽光の当たり方に応じて軌道を変えるためのアルゴリズムをどう設計するかなどの技術が研究されています。

また、壊れた衛星を修理するチェイサー衛星が相手に近づくためのランデブドッキング技術、壊れた衛星を捕まえたあとに修理するマニピュレーション技術も注目されています。

宇宙で数km四方の巨大な膜を広げて超大型太陽発電衛星や巨大通信アンテナに利用する宇宙システム「ふろしき衛星」も将来的な実用に向けて研究中です。

現在位置を測定するシステム「GPS」は4つの衛星からの信号を組み合わせることで位置がわかるのですが、大気中の水蒸気量によってそれぞれの信号の速度が少し違います。これを計測することで大気のどこに水蒸気があるかがわかり、ゲリラ豪雨の予測につながる。GPSの本来の使い方とは違いますが、このように衛星システムを別の用途に利用する研究も行われています。

 

国内の宇宙産業の発展のためには、民間の投資促進と、海外へのPR強化が必要

川口:日本の宇宙関係予算は少しずつ増加しているもののほぼ横ばいのようですが、研究についてもここ最近で変化はあるのでしょうか。

中須賀:世界的にも予算は増えておらず、どの国も資金難で苦しんでいます。アメリカは日本の25倍ほど予算がありますが、総額は目減りしてきています。今は国よりも民間からお金が出てきているので、その点はだいぶ救われています。また、大学間協働、企業との協働、JAXAとの協働による研究が増えてきています。

川口:内閣府の宇宙政策委員としても2012年から活動されています。宇宙産業において、世界のなかで日本がポジションを築くためにはどのようにしていけばよいでしょうか。

中須賀:日本の2017年度の宇宙関係予算は約3,400億円、2018年度も約3,500億円と見られています。これを5,000億円まで引き上げたい。しかし、国からは出ないでしょうから民間から調達しないとならない。

国内の民間の投資促進と、海外へのPRの2つを強化していきたいと考えています。

川口:海外展開も強化していくべきということですね。

 中須賀:「宇宙システム海外展開タスクフォース」が2015年にスタートしました。市場開拓、あるいは連携、それぞれの国ごとにチームを組んで対応していく予定です。僕も一昨年は14カ国、昨年は10カ国回ってみて、海外の宇宙事業に日本の入る余地があることがわかりました。

UAE(アラブ首長国連邦)は2020年に、中東初となる無人探査機を火星に向けて打ち上げる予定ですが、その打ち上げを三菱重工業が受注しました。このようにしっかり日本の技術力をアピールすれば売れることがわかってきました。

超小型衛星も「作り方を教えてほしい」という依頼が日本に来ています。まだまだ市場は広げられる。

世界約200カ国あるうち衛星を持っている国は50ほどしかありません。他国に衛星を売るビジネスを、超小型衛星からスタートさせたいですね。

川口:超小型衛星では日本は世界でも競争力があるのですね。一方で、日本の宇宙開発、研究における課題は何でしょうか?

中須賀:日本の大きな問題点はなんでもやっているところです。これはメリットのようだけど、限られた予算のなかではトゥーマッチです。

日本の“お家芸”となるものをしぼり、世界で一番となるものを確立させたほうがいい。

しぼった上で、他の分野は他国と連携し、お互いお金を出し合えばいい。一カ国あたりの予算が少ないヨーロッパ諸国は連携することで日本の2〜3倍の予算を使っています。

人材育成も必要です。日本人は研究熱心だけど、他国との交渉はうまくない。技術者をマネージしてさまざまな国と組んで動かせる人材が必要です。

 

農業から金融まで。宇宙からの情報をビジネスに生かす時代が到来

川口:超小型衛星の産業の可能性についてお伺いします。今後、宇宙が社会インフラとなっていく上でどういった可能性があるのでしょうか。

中須賀:まず、宇宙は、広い範囲の地上を見られるという、他に真似できないメリットがあります。災害状況、土地利用、将来的には渋滞監視など、社会のクオリティを向上させる情報を宇宙から取ることができます。

特に最近はAIブームで、ビッグデータ解析が進んでいますが、宇宙からのデータとAIを組み合わせれば、宇宙からの情報に付加価値ができます。

川口:研究室にも多くの相談が寄せられているかと思います。どういった業界からの相談が多いのでしょうか。

中須賀:都市計画、農業利用、建築、船、海関連の会社など、様々な業界からの相談を受けています。大手企業もあればベンチャーもあります。

たとえば農業利用は、衛星リモートセンシング技術(衛星に搭載した観測機器により地球表面を観測する技術)により、土壌水分量、地表面温度などがわかりますので、ディープラーニングによってデータを解析することで収量の先読みができるようになると思います。。他にも、僕らが想像しないようなアイデアをたくさん聞いています。経産省も「政府衛星データのオープン&フリー化」を検討しているので、AIと組み合わせることで将来の予測などができるようになるでしょう。

川口:個人的に興味を持たれている産業領域はありますか。

中須賀:保険業界など面白いと思います。損保ジャパン日本興亜が2014年からミャンマーで「天候インデックス保険」を始めています。

衛星によって雨量を観測し、雨量があらかじめ定めた条件よりも少なかった場合に保険料を支払うというもの。保険の支払いを判断する指標として、リモートセンシングによるデータを活用して評価するのは、世界に広がると思います。

衛星産業さらなる発展のための課題

川口:衛星データの産業活用をもっと増やしていくにあたっての課題はありますか。

中須賀:衛星を安くすること。僕らもがんばって50kgの衛星にかかるコストを従来よりも2桁ほど下げ、2、3億円まで安くなりました。それでも億単位。もっと安くなれば打ち上げる数を増やすことができ、時間分解能が上がります。誤解されがちなのですが、小型衛星は低軌道(高度2000km以下)の衛星なので、ある箇所を撮影してまだ同じところに戻るには、何回も回って自転とタイミングが合うまで20、30日かかります。

川口:小型衛星は時間分解能が低いので、たくさん上げる必要があるのですね。

中須賀:小型衛星1機あたり、20、30日に1回しか撮影できませんので、それだと時間がかかりすぎて、日々の変化がわからない。できれば1日1回は撮影したい。となると、たくさん衛星を打ち上げる必要がある。ロケットの打ち上げ費用は重さに比例しますから、サイズを小さくして打ち上げ費を安く抑えるのと同時に、衛星自体のコストを下げることが必要です。

ただし、僕は低軌道衛星には限界があると思っています。どんなにたくさん上げても、10分1回までにはならない。がんばっても50機で1日1回程度。しかし、災害監視を行うとしたら、もっと高い時間分解能が必要。であれば、静止衛星で空間分解能を上げるほうがいいのではないか。その研究もしています。

川口:災害監視などの時間分解能をあげていく必要がある用途であれば、静止衛星が向いていると。

中須賀:気象衛星ひまわりのようにずっと監視できるのは静止衛星です。静止衛星は高度約36,000kmのところで、地球の自転周期と同じ周期で回っています。ただ、高度が高い分、空間分解能も悪い。そして打ち上げ費用も高い。

 

宇宙産業への新規参入を増やすため、「宇宙開発」をもっと身近に

川口:衛星データの活用は、宇宙利用の第一歩としては比較的ビジネスとしても取り組みやすいのではと思いますが、まだまだ宇宙というと遠い話のように感じる人も多いと思います。

中須賀:一般にはやはり「宇宙開発」というとJAXAのイメージがあり、その衛星のデータを利用するなんてハードルが高いように感じられると思います。

地上と同じレベルでもっと気軽に安くデータが取れるようにしたいですね。前述のように1日1回データが取れるようになれば、だいぶ変わると思います。ディープラーニングの活用含めていろいろな条件が整いつつある時期なので、関心がある会社はいま試してみるチャンスだと思います。

川口:中須賀教授は様々なところで講演もたくさん行われています。大学での研究や人材育成といった役割のほかにも、政府や産業との接点も持ちつつ、そうした講演などを通じて一般の方々にも宇宙や衛星について解説されています。

中須賀:小中学校、市民講座など年間40〜50ほど講演を行っています。これがきっかけでそこで衛星プロジェクトが始まることもあります。

例えば、福井では2回ほど講演したことが一つのきっかけとなって、「福井県民衛星」の開発につながりました。カザフスタンでも2016年から講演していますが、大学に宇宙学科ができて衛星を開発、いよいよ打ち上げというところまできました。日本国内でも衛星づくりが始まった大学があります。

僕自身、衛星開発、宇宙産業に多くの人が参入するためのエバンジェリスト的な役割も担っていると考えています。

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

 

プロフィール:

中須賀真一

東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授。1983年東京大学工学部航空学科を卒業後、1988年に同大大学院博士課程を修了。その後、日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所研究員となり、人工知能や工場の自動化についての研究を行う。1993年より、東京大学航空学科講師。1994年に東京大学先端科学技術研究センター助教授。1998年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻助教授、2005年に同教授。専門分野は、宇宙システム工学、航法誘導制御、人工知能の宇宙応用など、「超小型衛星」や「ふろしき衛星」と称する衛星の研究、衛星やロボットなど宇宙で活躍する物体の知能化技術の研究を行っている。2012年より 内閣府宇宙政策委員会委員。著書は『宇宙ステーション入門』『国家としての宇宙戦略論』『図説 50年後の日本―たとえば「空中を飛ぶクルマ」が実現!』