【インタビュー:鈴木啓太】腸内フローラ解析事業を通じてアスリートを支援(前編)

2017.08.07 エキスパート

2017年7月17日に引退試合を終えたサッカー元日本代表の鈴木啓太氏。同氏は、アスリートの次のキャリアとしてビジネスの世界に入ることを表明しています。本インタビューでは、元テレビ東京のアナウンサーの白石小百合さんが、AuB(オーブ)株式会社の代表取締役という立場から、ヘルスケアビジネスを通じて日本人アスリートを支援していく鈴木啓太氏にアスリートではなく経営者として、その思いや事業の展望について伺いました。

 

腸内細菌でアスリートのパフォーマンスを引き出す。AuB株式会社の目指すもの

白石:まずは、代表取締役を務めていらっしゃるAuB株式会社の事業内容について教えて頂けますか?

鈴木:AuB(オーブ)という社名は「Athlete micro-biome Bank」の略語です。アスリートの腸内細菌を解析することで、アスリートのパフォーマンスや体調管理を支援していくというのが目的で、そのために、そのアスリートの腸内細菌に関する研究成果をもとに様々な事業をしていきます。

試合で良いパフォーマンスを出すためには、「体調管理=コンディショニング」が非常に重要です。コンディションが良い状態で練習に臨むことで、ようやく昨日より少しだけ上達することができて、その積み重ねで少しずつパフォーマンスが上がっていき、本番で力を発揮することができます。

鈴木:つまり、試合当日だけでなく、日々のコンディショニングがアスリートにとっては重要なのです。そして個人的には、腸内の環境を整えることが、コンディショニングのために重要であると感じていて、現役時代から腸内環境については意識をしていました。そのメカニズムや方法論をもっと科学的に解明して、全てのアスリートのコンディショニングに貢献したいというのが事業の目的です。

また、そうやってアスリートの腸内細菌について研究する過程で得られる知見を生かし、例えば一般人の体内でもアスリートの腸内細菌と同じような環境が再現できれば、ヘルスケアや体質改善に活用できるのではないかと考えています。そういったことを究明し、サービス化していこうとしています。

そうすれば、アスリートは試合で最高のパフォーマンスを発揮して、サポーターたちはいつまでも元気にスタジアムに応援に行ける。AuBの事業を通して、そういう世界を実現したいと思っています。

白石:腸内細菌でビジネスを創ろうと思い立ったきっかけは何だったのでしょうか?

鈴木:2015年にウンログ株式会社代表の田口さんとお会いする機会がありました。トレーナーから「大便の記録アプリという面白いことをやっている人がいる」との話を聞いて、是非お会いしてみたいと。

実際に会ってお話をしてみたところ、「同じことをアスリートでやったら面白いんじゃないか」という話に発展し、田口さんと一緒に事業化に着手したのが始まりです。同時期に、次世代シーケンサと呼ばれる、個人個人の腸内細菌の構成について比較的簡単に調べることができる技術が発達してきたことにも、この事業の後押しになりました。

白石:そういったきっかけだったのですね。AuBについてはご自身で会社を設立し、仲間を集めて、代表取締役に就任しています。会社や事業を支援しているといった程度の立場ではなく、かかわり方として本気度が違う印象を受けますね。

鈴木:そうですね。実際に事業を創っていこうとすると、自分には圧倒的にいろいろな能力が不足していました。それでも足りないなりに無我夢中で頑張っていると、やがていろいろな方が助けてくれるようになり徐々に大きくなってきた、というのが実態です(笑)。

 

アスリートと一般人を比較すると「菌種の数が違う」

白石:現在は研究や分析を進めているAuB社ですが、アスリートの腸内細菌の研究・分析を通じてどのような事がわかってきましたか?

鈴木:企業秘密です(笑)。お話しできる範囲で言いますと、アスリートの体がスポーツのパフォーマンスの観点で優れているのは事実ですが、その体を形成する上で腸内細菌がどのくらい貢献しているのかは未知数です。色々なデータは上がってくるのですが、それをどう扱うかはまだまだこれから詰めていかなければならない部分が正直大きいです。

既に発表されている論文から例を挙げると、アスリートと一般人を比較すると「菌種の数が違う」という明確なデータが出ています。菌種の数は病気の人と一般人とでは一般人のほうが多く、アスリートは一般人よりもさらに多い。

それなら「菌種数の違い」が実際に長生きとか抵抗力の向上につながるかというと、その因果関係は科学的に立証できていない、というような状況です。

試合前になると少なくなる菌種も。腸内細菌研究での発見

白石:研究を進める上で判明した意外な事実の発見などはありましたか?

鈴木:興味深いと感じたのは、大事な試合前に、ある競技の選手たちのある特定の腸内細菌の数が大きく変化するという研究結果が得られたときです。

白石:試合前になるとアスリートの腸内細菌の中で、ある特定の菌種に変化が生じるというのは大変興味深いですね。これは何を意味しているのでしょうか?

鈴木:おそらく、ストレスの影響ではないかと思われます。食事や運動の影響も考慮したのですが、メンタルの変化が影響しているのではないかというのが今時点での結論です。ストレスが、どういうメカニズムでこの腸内細菌の増減に影響しているのか、さらに、その変化がアスリートのパフォーマンスにとって好ましいことなのかどうか、これから追究していきたいと思います。

こういった研究は、公表されている論文を調べても未だに調べられていないことが多く、特に人間の腸内細菌の研究については、まだまだ未開拓の領域なのだなと感じています。

白石:今はどのくらいのアスリートを対象にデータを取っていらっしゃいますか?

鈴木:アスリートに関しては300人、競技数で言うと15競技についてサンプルを頂いて、腸内細菌の解析をしました。どういう競技のどういうアスリートに、どういう腸内細菌がどの程度の割合でいるのか、データベースができてきました。世界的に見ても非常に貴重で価値のあるデータではないかと思っています。

 

インタビュアーコメント(白石小百合)

第一回は鈴木啓太さん。私も会社を卒業したこの時期に啓太さんも引退というタイミングで、揃って会社の代表となり再会し、インタビューすることになるとは…何かご縁も感じます。啓太さんなら様々なお仕事のご依頼もある中、次に本格的に取り組む分野は「腸内細菌」。しかも、この二年弱を研究のみに費やしてきたという本腰の入れ方です。その思いに多くの人が集まっているのは、運がいいんですよ~と笑います。啓太さん自身、サッカー選手のキャリアの中でも「どこだったら出られるか」を常に考え続け、リポジショニングしていたと言います。引退後、自分が貢献できる場所を模索した結果の選択、大変興味深く伺いました。

中編では、その事業内容に詳しく迫ります!

 

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撮影:Masanori Naruse

鈴木啓太プロフィール

元サッカー日本代表。AuB(オーブ)株式会社代表取締役。静岡県に生まれ育ち、小学校時代は全国準優勝。中学校時代は全国優勝を成し遂げ、高校は東海大翔洋高校へ進学。その後、Jリーグ浦和レッズに入団。その年にレギュラーを勝ち取ると2015年シーズンで引退するまで浦和レッズにとって欠かせない選手として活躍 。2006年にオシム監督が日本代表監督に就任すると、日本代表に選出され、初戦でスタメン出場。以後、オシムジャパンとしては唯一全試合先発出場を果たす。

白石小百合プロフィール

元テレビ東京アナウンサー。Whitte株式会社 代表取締役。法政大学国際文化学部在学中にスペインのバルセロナに留学し、ゼミでアートを学ぶ。2010年4月株式会社テレビ東京にアナウンサーとして入社。経済番組・情報番組・スポーツ番組・ナレーションなど、多岐にわたり担当し、2017年3月31日付でテレビ東京を退職。同年4月よりフリーとなり、かねてからの興味関心を形にした香りブランド『Whitte』(ウィッテ)創業。