【インタビュー:鈴木啓太】腸内細菌研究を通じて、アスリートの健康管理に新しい基準を(中編)

2017.08.08 エキスパート

サッカーの日本代表として活躍された後、AuB株式会社の代表取締役として腸内細菌事業に取り組む鈴木啓太氏。前回は会社設立の経緯と、腸内細菌事業の進捗についてお伺いいたしました。元テレビ東京アナウンサーの白石さんによるインタビュー、今回は経営者としての挑戦についてお伺いいたします。

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事業の方向性は当初から大きく転換。会社設立から現在まで

白石小百合さん(以下、白石):会社設立からすでに約2年が経過していますね。設立当初の計画からの方針変更や現状とのギャップはありましたか?

鈴木啓太さん(以下、鈴木):方向性は270度くらい変わった、というのが率直なところです(笑)。

この事業はデータがないと話にならないので、最初は「とにかくアスリートの腸内細菌を調べよう」というところからスタートしました。ただし実際に調査を進めていくと、事業会社という仕組みの中で出来ること・出来ないことや調査の方法、調査の対象といった各論の事象についてまるで理解が足りず、厳しい言い方ですが会社の体をなしていませんでした。

白石:大きな方向転換があったのですね。会社が変わるきっかけは何だったのでしょうか?

鈴木:抽象的な言い方になりますが、「自分たちが資材や労力を投入していたポイントが、実際には全く的を射ていない」という事実に気づいたのが、迷走状態から脱却できたきっかけでした。「アスリートの腸内細菌を研究する」と一口に言っても、いろんな段階があります。

頭を使うところ、作業だけのところ、外注すべきところ、他社が既にやっているところ、など。アスリートの腸内細菌をどう分析して役立てるか、という点に向けて本当に必要なこと、やるべきことを改めて整理した結果、色々なことがガラッと変わり会社として周り始めた印象です。

 

白石:これまでリソースを投入していたポイントを変えたのですね。どのように変えたのでしょうか?

鈴木:全ての研究活動を自社で推進できる体制を構築しておくことが必要、と思い込んでいたのが、実は研究は他のいろいろな機関にアウトソースしていく形でも問題ないのでは、ということに気づきました。引き続き研究は事業にとって重要ではあるものの、何もかも自社でやる必要はない。

そうして、改めてやるべきことと活用すべきリソースを再定義し、不要なものをそぎ落とすことで状況を収拾することができました。

白石:なるほど、新しいメンバーと話しているうちに事業の方向性も固まってきたのですね。いいパートナーを見出すことは重要ですね。

鈴木:自分の場合、助けてくれる人がいつもいるので凄くありがたいと思っています。私自身が頼りないのか(笑)、「全く、だめだなあ」という感じで色々な方が助けに来てくれて、結果すごくいいメンバーが集まっています。

 

アスリートに特化した腸内細菌の研究・分析がAuB社の強み

白石:いいメンバーが集まってチームができたのですね。次に、AuB社の事業の強み、特徴はどのあたりにあるとお考えですか?

鈴木:アスリートのコンディショニングを事業の目的としている点、そしてアスリートにアクセスできるという点が一番の強みと思っています。アスリートは体のことについてはプロフェッショナルであり、時間と労力をかけて、とても価値のある体を形作っている人ばかりです。そうした方を対象に腸内細菌の研究・分析ができるというのはAuBにしかできないことで、非常に価値があることだと思っています。

白石:アスリートにアクセスできることは強みですね。海外では同じく腸内細菌解析を個人向けに提供する米国のスタートアップuBiomeなど、腸内細菌は市場としての注目度も高まっていると思います。その中でもアスリートのパフォーマンスのために事業を創っていくということですね。

鈴木:腸内細菌市場については、アメリカや中国でも研究開発は進んでいますが、AuBでは日本人がどうすればフィジカル的にも海外と戦っていけるのか、良いパフォーマンスを出せるのかを追究していきたいと思っています。

2020年のオリンピックに向けて日本人アスリートが活躍できる環境を作っていきたいという思いは常に強く持っています。

白石:2020年のオリンピックで、腸内細菌解析の威力が発揮されるといいですね。

鈴木:そこに到達できるかは正直わかりません(笑)。とにかく一番重要なのは、アスリートがパフォーマンスを発揮するということに尽きます。

 

現役時代。中東で腸内細菌のパフォーマンスにおける重要度を実感

白石:腸内細菌がスポーツのパフォーマンスに重要というのは、ご自身の経験としても実感されていると伺いました。

鈴木:現役時代の話になりますが、サッカーのオリンピック予選で中東に行ったときに、代表メンバー23人中15、6人が下痢で試合の直前までトイレにこもっていたことがありました。私は大丈夫だったのですが、腸内細菌も含めてコンディショニングの大事さを痛感した出来事です。今にして思えば、何かそのときにピンときていたのかもしれません。

白石:選手時代にはどのようなコンディショニングを行っていましたか?

鈴木:サプリメントやヨーグルト、食物繊維などの摂取を通じてお腹の調子を整えることは必ず行っていましたし、お灸を試してみたりもしました。サッカー選手は夏場にとても冷たいものを摂取しますが、そうするとおなかが固くなってしまうので、きちんと温めて筋肉を柔らかくするよう心掛けていました。

白石:おなかを温めることで、筋肉を柔らかくするようなイメージだったのですね。

鈴木:筋肉が固いか柔らかいかというイメージは大事にしていました。筋肉というのは柔らかい状態から収縮することにより力を発揮します。常にふわっと柔らかく広がっているような感覚を保つようにしていました。

 

アスリートの健康管理に新しい基準を

白石:腸内細菌もそうですが、アスリートの健康管理には今後もいろいろな可能性が考えられますね。

鈴木:あるプロサッカーチームでは毎日尿検査を行い、尿の比重を測られ、足りない選手は水分を積極的に摂取するよう指導されます。重要なのは数字の遷移そのものではなく、毎日水分を摂り体調管理をするという習慣づけです。

腸内細菌の解析により得られるデータは、自己管理の指標として役立ててほしいと思っています。選手の側からみると、何も基準がない状態では何に基づいて体調管理していいかわからないじゃないですか。その基準を提供したいと思います。

白石:確かに、コンディションの基準を提供していくことで、体調管理の習慣づけが期待できますね。

鈴木:アスリートが摂取する食事の評価にもつながります。パフォーマンス発揮のために良いといわれる食品やサプリが本当に体に良いか、個人差もありますし実際のところはよく分かりません。しかし腸内細菌を解析することで、客観的に良い悪いというのは判定できるようになります。

白石:個人差もあって評価が難しい食事やサプリメントなどの効果が判定できるのはいいですね。

鈴木:日本人はパンよりご飯を食べたほうが力を出せるといわれるが、もしかしたら人によっては日本人でもパンを食べたほうが良いかもしれない。そういうことも客観的、科学的に把握できるようになれたら良いですね。

 

インタビュアーコメント(白石小百合)

啓太さんから「ヘルスケアの会社をやりたいんだ」というような話は、数年前にチラッと聞いたことがありました。その後、言葉通り会社を作り、研究していく中で、葛藤した事柄を素直に話してくださいました。今、ブームにもなっている腸内細菌を、子供の頃から意識していたというから驚きです。実際に選手だった頃のエピソードを伺うと、楽しそうに話す姿が印象的でした。啓太さんの経験から生まれる未来予想図は、研究によってどのように形になるのでしょうか?

 

後編では、これから啓太さんが実現したい夢について、より詳しく伺います!

 

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撮影:Masanori Naruse

鈴木啓太 プロフィール

元サッカー日本代表。AuB(オーブ)株式会社代表取締役。静岡県に生まれ育ち、小学校時代は全国準優勝。中学校時代は全国優勝を成し遂げ、高校は東海大翔洋高校へ進学。その後、Jリーグ浦和レッズに入団。その年にレギュラーを勝ち取ると2015年シーズンで引退するまで浦和レッズにとって欠かせない選手として活躍 。2006年にオシム監督が日本代表監督に就任すると、日本代表に選出され、初戦でスタメン出場。以後、オシムジャパンとしては唯一全試合先発出場を果たす。

白石小百合プロフィール

元テレビ東京アナウンサー。Whitte株式会社 代表取締役。法政大学国際文化学部在学中にスペインのバルセロナに留学し、ゼミでアートを学ぶ。2010年4月株式会社テレビ東京にアナウンサーとして入社。経済番組・情報番組・スポーツ番組・ナレーションなど、多岐にわたり担当し、2017年3月31日付でテレビ東京を退職。同年4月よりフリーとなり、かねてからの興味関心を形にした香りブランド『Whitte』(ウィッテ)創業。