【インタビュー】ビジネス、現場、制度の3領域から見る、遠隔診療を取り巻く動き。加藤浩晃(第1回)

2017.12.04 エキスパート

インターネットを介しビデオチャットなどで医師が診療を行う遠隔診療の普及が期待されています。政府は、2018年度診療報酬改定で、情報通信技術(ICT)を活用して遠隔診療を行った際に医療機関が受け取る報酬を、手厚くする方針を固めています。2017年11月に厚生労働省は特別研究班を立ち上げ、年度末をめどに適切な運用に向けたガイドラインを策定すると発表されています。

ヘルスケア領域の新規事業として現在注目されている遠隔診療。日本遠隔医療学会の分科会長を務め、遠隔診療をめぐる啓発活動や体制整備に向けた様々な取り組みを進める京都府立医科大学特任助教 / デジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏。遠隔診療のガイドラインを策定するための特別研究班のメンバーの一人でもあり、医療現場と厚労省、ビジネスの3領域の知見をもつ加藤氏に、遠隔診療の現状と未来について、ミーミル代表の川口がお話を伺いました。

 

ビジネス、現場、制度の3領域から見る、遠隔診療を取り巻く動き

川口荘史(以下、川口):加藤さんは、医師であり、厚労省への出向経験もあり、そして、医療ベンチャーでの事業経験もお持ちです。そうした複合的な経験が、大企業やベンチャーの新規事業のアドバイザーやプロジェクトメンバーとして関わる中で、特別な強みになっています。

加藤浩晃さん(以下、加藤):はい、医師としての活動も10年間、そして厚労省へ出向し、医療行政側に入りました。ビジネスという点では、学生の時から、起業経験も含めて厚労省へ出向する前からヘルスケア領域におけるベンチャービジネスや事業開発にかかわっています。ベンチャーのCMOも経験しています。つまり、メディカル領域におけるビジネス、現場、制度の3領域を抑えていることになります。

川口:その3領域を抑えていることで、メディカル領域の新規事業において具体的にはどういった価値貢献につながりますか?

加藤:例えば、事業会社からヘルスケア領域の新規事業に関するアドバイスを求められた場合、入口では制度についての見解がほしいという依頼が多い。ただ、その中で作っているプロダクトが医療現場ではどうか、ビジネスとしてはどうかといった観点で総合的にアドバイスができます。

川口:なるほど、事業として考えたときはそれぞれの観点を統合的に考える必要があるが、それぞれの専門家から個別にコメントをもらうだけでは十分ではない。加藤さんの中で3領域がつながっているからこそできるアドバイスですね。

医療に対するハードルを下げる。医師、患者から見た遠隔診療のメリット

川口:それでは今回もその3つの視点でお話をいただきたいと思います。2017年11月に立ち上がった厚労省の遠隔診療のガイドラインを策定するための特別研究班のメンバーの一人でもあり、日本遠隔医療学会の分科会長としても活動されていますが、遠隔医療を取り巻く動きについてそれぞれの視点で教えていただけますか。

加藤:まずは医療従事者の立場からお話しします。一般的な対面の診療と遠隔診療を比較すると、前者の方が高度な医療を提供できると考えるのが常識であり、私自身もそのように考えています。触診や肌の質感など、対面で得られる情報の方が多いですから。来院困難な方などに向けた遠隔診療も普及していくでしょうが、どのくらい対面診療に置き換わるかは未知数です。

川口:診療の質としては対面で得られる情報の方が圧倒的に多いこともあり、対面での診療すべてが遠隔診療に置き換わればよいというわけではないですね。

加藤:遠隔診療の最も明白なメリットは、患者側の医療に対するハードルを下げる点です。通院できない方も遠隔診療により医療に接する機会が得られ、重症化を防ぐ効果も見込めます。これを医師の立場から見ますと診療スタイルの「引き出しが増やせる」というメリットになるのですが、残念ながら現場の医師への認知・普及はまだ時間が掛かりそうです。また、遠隔診療をしても保険点数が現状では対面での診療よりも低い点は病院経営上のデメリットと言えるかも知れません。

 

電子カルテ以来のビジネスとなる、遠隔診療ビジネスの可能性

川口:経営のお話が出ましたが、ビジネスの可能性としてはいかがですか。

加藤:医療ビジネスとしてサブスクリプションモデルで病院へ提案できるサービスとしては電子カルテ以来の可能性を持っていると思います。もっとも更なる改善は必要です。テレビ電話のみならば現状すでにSkypeでもできますが、決済の実施や薬の処方、今後必ず進むと考えられる薬局からの遠隔服薬指導や薬の受け渡しまでが可能なプラットフォームはまだ存在しません。遠隔診療を診療自体のみならず予約から決済、薬の処方と受け取りまでを一気通貫で実施できるサービスが必要です。

川口:電子カルテ以来という大きなビジネスの機会。既にいくつかの企業が進出もしているようですが、そうしたプラットフォームとしてとらえた場合は、可能性も大きいということですね。今後競争も激化していく可能性も高いと思いますが、その点はいかがでしょうか。

加藤:競争環境についてですね。そうした「遠隔診療プラットフォーム」は、患者さんが一度使って慣れてしまうと、ほかのサービスへの乗り換えが中々むずかしいと考えています。クリニックのシステムを変えるだけならクリニックが頑張れば変えることができるのですが、患者さんがアプリなどをダウンロードしているとそれを一人一人変更してもらって、新しいサービスに登録してもらうのが大変だからです。現在、遠隔診療に興味のある医師はイノベーター理論でいう最初の2~3パーセントくらいです。全国に10万件ほどのクリニックがあると言いますが、その中の3,000件に対して各社が争奪戦を繰り広げている状況です。

 

政府としても医療現場の意見を踏まえた仕組みを作っていく姿勢

川口:業界としてもそもそも大きな動きのきっかけとなっているのが、こうした遠隔診療に対しする行政側の立場、厚労省の通達ですね。診療点数次第、という話も聞きますが、行政側としてはどのようにみなしているのでしょうか?

加藤:視点を厚労省サイドに切り替えてみると、もともと、遠隔診療の推進は規制改革会議(現在の規制改革推進会議)からの後押しがあったところから始まっています。

(参考URL:http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/150616/item1.pdf

未来投資会議で安倍首相は、予防医療、遠隔診療や人工知能の活用を進めると明言しており、2018年のタイミングで診療報酬の改定も含めた検討を推進していく旨が発表されています。

(参考URL:http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201704/14mirai_toshi.html

 

これは、政府の動向としてマイルストーンまで決められているということです。具体的な動きがどうなるのかは公開情報から推測する他ありませんが、推進の動機としては医師の負担を減らしたい、併せて医療コストの上昇を招く重症化に関し、医師、患者のタッチポイントを増やすことで防止していこうということが考えられていると思います。

 

川口:厚労省含めた最近の動きや印象は加藤さんからみていかがですか?

加藤:私も厚労省には退職後の現在も月数回程度打合せなどで行っており、様々なセクションと意見交換を行っている中での印象としては、政府としても現場の意見を聴取して確かな仕組みを作る姿勢です。また、医師のグループや事業会社から遠隔診療市場の動向に関する最新情報のニーズが高まっており、全体的な関心が高まってきていることも強く感じます。

川口: 対象となる疾患領域などで見た場合、遠隔診療でどういった領域が伸びそうでしょうか。

加藤: ニーズが多そうなのは慢性疾患、つまり高血圧や糖尿病などです。また海外で遠隔診療が盛んな精神科、必要情報が画像で得られやすい皮膚科なども将来性があります。

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撮影:Masanori Naruse

プロフィール

加藤浩晃:医師、京都府立医科大学 特任助教、デジタルハリウッド大学大学院 客員教授。専門は遠隔診療、デジタルヘルス、ヘルスケア新規事業。「医療現場」「医療制度」「ビジネス」の3領域を横断的に理解する数少ない存在で、医療を専門としない企業に向けたヘルスケア新規事業コンサルティング、薬事・行政戦略支援、講演・研修などを精力的に行う。日本の医療ベンチャーにも精通する。著書は累計37冊。東北大学大学院 非常勤講師、元厚生労働省 室長補佐。ミーミルのクオリティ・エキスパート「医療現場✕厚労省✕ビジネス 第一人者」

川口荘史:株式会社ミーミル代表取締役。東京大学大学院修了、UBS証券投資銀行本部に入社し、M&A及びテクノロジーチームにて、製薬業界、エネルギー業界、大手電機等の国内外のM& A、LBO案件等に従事。その後、複数のベンチャーの創業に参画し、ファイナンスや新規事業立ち上げに従事した後、株式会社ミーミルを創業。