【インタビュー】2019年には現在の倍の規模に。遠隔診療の市場規模と可能性。加藤浩晃(第2回)

2017.12.05 エキスパート

ヘルスケア領域の新規事業として現在注目されている遠隔診療。日本遠隔医療学会の分科会長を務め、遠隔診療をめぐる啓発活動や体制整備に向けた様々な取り組みを進める京都府立医科大学特任助教 / デジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏。医療現場と厚労省、ビジネスの3領域の知見をもつ加藤氏に、遠隔診療の未来について、ミーミル代表の川口がお話を伺いました。第2回は遠隔診療の事業としての可能性についてお伺いします。

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2019年には現在の倍以上になるという試算も。遠隔医療相談の市場の可能性

川口:遠隔診療の市場規模としてはどの程度になるとみられますか。

加藤:市場規模については2019年に192億円と現在の2.5倍に成長する試算もありますが、実際問題、その算定は難しいです。遠隔診療プラットフォームだけではクリニックあたりの導入単価が仮に1.5~3万円とすると、1万クリニックであっても1.5~3億円くらいです。遠隔診療の市場規模と言う際に遠隔診療でのクリニックの売上すべてを試算しているのかもしれません。また、自分としては遠隔診療という医療行為でない、医療者とウェブを介して健康相談ができる「遠隔医療相談」の市場は更に拡大していくと考えています。

川口:そもそも市場としてのとらえ方も様々ですが、関連事業としての広がりもありますね。

加藤:関連事業は多様ですね。例えば慢性疾患のデータベースを構築し、これに基づいて製品開発を行うといった活動もあり得るかもしれません。また、遠隔診療に適したIoTデバイスの開発は今後更に求められていくと考えられ、それらはダイレクトに経済効果になります。

川口:プラットフォーム業者がそれらの診療に関する情報を集約して、そういったデータをビジネスに生かしていくような可能性もあるのでしょうか。

加藤:可能性はあると思います。ただ、特定の事業者だけで患者を抱え込むのは難しいと思います。医師と患者とのやり取りをプラットフォーム提供事業者が常に把握することは、同意取得や個人情報保護などの観点もあり、やろうとするととても難しい。ただし、常時把握ではないですが、クラウド上に遠隔診療の音声や動画データをすべて保管している事業者もあります。現状、事業者はあくまでプラットフォームとして出しているものが多いですが、遠隔診療での音声・画像データはビックデータになり得るので、それを活用したビジネスも生まれていくと考えています。

病院とのタッチポイント。遠隔診療ビジネスにおける本当の狙いどころとは

川口:遠隔診療のビジネスチャンスは様々ですね。

加藤:ビジネスの観点から遠隔診療に参入するメリットを整理すると、一つは遠隔診療サービスの導入ということで病院との接点がなかった企業であれば病院との接点ができることが大きなメリットと考えています。病院との接点ができることで遠隔診療サービスをフロントエンド商品として、バックエンドのサービスも売り込むことも可能です。また導入してもらったクリニックや医師同士のネットワークを構築することもでき、様々なビジネスチャンスにつながります。

川口:今後の展開における課題について。技術的に大きなハードルがあるものではない理解ですが、そうだと遠隔診療はもっと広がってもおかしくない。遠隔診療の展開を阻害する要因についてはどういったものがあるでしょうか。遠隔診療の発展・普及に向けて、今後のトレンドはどうなるとお考えでしょうか。

加藤:何が遠隔診療の普及を阻害しているか、というのがポイントだと思います。まず遠隔診療の実際が理解されていない、という点からお話ししましょう。もっとも典型的な指摘として「動画による診療は無診察診療ではないか」というものがあります。実際には平成9年に、ビデオで診察してもそれは「診察」である、無診察診療ではないと定義されているのですが、ITリテラシーの高い医師でさえ、いまだに「遠隔診療って現在の制度でできるの?」と聞いてきたりして、しっかりわかっていないケースがあります。

(参考URL:http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/johoka/dl/h23.pdf

川口:ビデオで診察してもそれは診察であると定義されているのですね。遠隔診療の実際の理解が現場でもまだ不十分だと。

加藤:制度でみても、遠隔診療を現実に行うための制度設計は不十分です。現状のままですと、無制限の遠隔診療ばかりの診療になる事態にもつながりかねません。さすがに3ヶ月や半年に一回は対面で診たほうが良いのでは、といった意見は当然あるでしょう。何らかのルールはあった方が良いと思っています。2017年11月15日の未来投資会議構造改革徹底推進会合 「健康・医療・介護」会合で公表されましたが、厚生労働省は特別研究班を作成して、「情報通信機器を用いた診療に関するルール整備に向けた研究」(いわゆる遠隔診療のルール作成研究)を行います。総務省、厚生労働省、経済産業省からのオブザーバーも参加し、研究班のメンバーとしては日本医師会やナショナルセンターの面々も名を連ねています。自分もこの遠隔診療のルール作成研究班のメンバーに選ばれましたので、「医療現場」「医療制度」「ビジネス」の3領域を知る存在としてしっかりルール作成に関わっていきたいと考えています。
(参考URL:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/health/dai2/siryou2.pdf 

 

遠隔診療のグローバルにおける可能性

川口:様々な医療事業にかかわっている加藤さんからみて、日本の医療ベンチャーのグローバルで見た可能性はいかがお考えでしょうか。国ごとに規制環境などが異なるので難しいかもしれませんが、遠隔診療も可能性があるかもしれません。

加藤:世界的に見て、医療行為は国ごとに規制のあり方が異なるので、一つの医療ベンチャーがグローバルを制しているという事例は現状ではありません。その中で、世界一と言っていいのではないかと思っているのですが、規制が厳しい日本で立ち上がった事業は、諸外国から見た日本の高品質な診療への評価やアジアに位置するという地の利から、今後人口が増えていくアジア圏に目を向けると市場を抑えられる可能性を秘めており、将来的にはグローバル企業として代表される医療ベンチャーが出てくる可能性もあると考えています。

川口:規制の厳しい日本だからこそ他国への展開が容易だという考え方ですね。その他の日本の医療ならではの強みや可能性はいかがでしょうか。

加藤:医療サービスとしてみていくとD to PでもD to Dでも、日本はスピーディに診療を行います。国際的なブランディングとしても、日本の医療、ということは重要なキーになると考えます。グローバルに見て日本の医師というのは非常にレベルが高いので、日本の医師をネットワークできているということが今後大きな財産になっていく可能性もあります。

川口:海外における遠隔診療市場はどうなっているのでしょうか、米国などは国土も大きく、ニーズも強そうです。

加藤:米国における遠隔診療は日本よりも普及しています。ただし、サービスがどう発展しているかは参考にしても良いのですが、米国と日本とでは制度設計が全く異なるため現実のサービス設計は全く別で考えていく必要があると考えます。どういう点が異なるかというと、ひとつには米国は良くも悪くも自由診療が一般的であるため、マネタイズが容易です。そもそもの対面診療での費用が高いため、米国の遠隔診療は日本の対面診療よりも高い価格であっても成り立っている。公的医療保険制度が完備している日本では米国のやり方を完全に真似することができません。

川口:米国は自由診療なのでマネタイズがしやすいと。日本とは全く異なる環境だということですね。

加藤:加えて日本独自の制度や国としてのあり方も考慮する必要があります。日本では遠隔診療であっても保険診療では初診において必ず対面での診療を受けなければならないことになっており、米国で行われているような地理的に遠くにいる患者に行うことを意図していません。

 

地方での活用や医師会の考えなど、遠隔診療の今後の普及について

川口:遠隔診療のメリットとして、離島などでの活用の可能性も期待されています。日本においての地方と都会での遠隔診療利用の状況をみるといかがでしょうか。

加藤:地方の医師で考えると、地方在住の医師では今の時点で120%、130%の力で外来診療に手術に頑張り続けていることが多く、その上遠隔診療までやらせるのかという反発があり得ます。では東京の医師が地方の患者を遠隔診療で診ようとすると、地方の側からすれば「患者を取られる」という危惧がある場合もあり、なかなか厳しいです。また、医療という領域独特の存在なのですが、医師会の考えも様々に考慮が必要です。

川口:なるほど、今後の展開については医師会がどう考えているかも重要なのですね。ちなみに、今後の普及に向けた打開策など、普及の促進の手立てにはどういったものがあるでしょうか。

加藤:まずは何度も話してしまいますが、遠隔診療という制度を適切に伝え理解してもらうことだと思っています。遠隔診療は患者さんとかかりつけ医をはじめとする医療との接点を増やすためのものであるということを日本中の医師に知ってもらう必要があると。2018年に何らかの遠隔診療の診療報酬が整備されることによって全国の医師の遠隔診療への意識は変わります。遠隔診療はいまからさらに盛り上がっていき、必ず未来ではあたりまえのように遠隔診療をしています。遠隔診療だけではないですが、現在は医療における時代の変曲点のため様々な立場や意見があるのはあるのですが、未来を見て今を作っていきたいです。

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撮影:Masanori Naruse

プロフィール

加藤浩晃:医師、京都府立医科大学 特任助教、デジタルハリウッド大学大学院 客員教授。専門は遠隔診療、デジタルヘルス、ヘルスケア新規事業。「医療現場」「医療制度」「ビジネス」の3領域を横断的に理解する数少ない存在で、医療を専門としない企業に向けたヘルスケア新規事業コンサルティング、薬事・行政戦略支援、講演・研修などを精力的に行う。日本の医療ベンチャーにも精通する。著書は累計37冊。東北大学大学院 非常勤講師、元厚生労働省 室長補佐。ミーミルのクオリティ・エキスパート「医療現場✕厚労省✕ビジネス 第一人者」

川口荘史:株式会社ミーミル代表取締役。東京大学大学院修了、UBS証券投資銀行本部に入社し、M&A及びテクノロジーチームにて、製薬業界、エネルギー業界、大手電機等の国内外のM& A、LBO案件等に従事。その後、複数のベンチャーの創業に参画し、ファイナンスや新規事業立ち上げに従事した後、株式会社ミーミルを創業。