【インタビュー】医療系企業カオスマップからみる医療ベンチャーの事業機会。加藤浩晃(第3回)

2017.12.06 エキスパート

新規事業の対象として注目される医療領域。医療費増大など社会的な課題もあり、そのソリューションとしての新規事業も期待されています。医師として現役で医局に所属し医療現場に出つつも、厚労省経験を活かした行政側の考えも把握し、ベンチャーでの事業経験から、それらを統合的にビジネスに落として話すことができる加藤氏。ITベンチャーなど他業種からの医療領域への進出も増加している中、ヘルスケア領域における新規事業の専門家としても活躍されている同氏はそうした業界の現状をとらえるカオスマップを作成されました。そうしたカオスマップを基に、メディカル領域の事業機会についてミーミル代表の川口がお話を伺いました。

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カオスマップから見る医療分野のベンチャーの事業機会

川口:医療現場、厚労省、ビジネスの3領域がわかるヘルスケアビジネスの新規事業エキスパートである加藤さんには、同領域に関心のある多くの大企業やベンチャーからも相談が寄せられています。そうした中、最近は医療系企業について、予防から医療、介護までまたがるカオスマップを作られています。こうしたカオスマップをもとに、現状の医療領域において俯瞰的にどういったビジネスが面白いか、注目されているかなど伺えればと思います。最近は、予防領域でも多くの企業が進出していますね。

加藤:日本でも予防医療に関するベンチャーは次々に立ち上がっている状況です。予防医療のマーケットは潜在可能性を秘めていると思うのですが、現時点ではまだまだ意識改革や行動変容につながるプロダクトというのはできていません。これは時代の流れで変わるところではありますが、色々なベンチャーが企業や病院、医師などの医療従事者に対して法人営業をかけても、中々ニーズに響かないことが多いようですし、個人向けとしてもなかなか今困っていない人から課金を促すことは難しい。

川口:予防医療の領域では日常で生体データを取得できるものも着目されています。生体センシングができるウェアラブルデバイスなども増えてきていますね。
加藤:様々な生態計測デバイスに関しても、時計型や耳に装着するものなどが出てきていますが、時計をしない人なども含めて社員全員に時計型バンドを勧めたりすることは自然なのでしょうか。私は予防医療プロダクトとしての一つの切り口は「さりげなく」というところだと思っています。朝、歯を磨いているときに鏡をみたり、歯ブラシの持ち手で何かが計測される、夜、お風呂に入っているときに体重などが計測されているなど、現在の人間の行動を変えずに「さりげなく」測定できるデバイスは可能性を秘めています。

 

他業種からのメディカル領域への進出。テクノロジードリブンでの参入は難しい

川口:カオスマップでみてもわかる通り、最近は他業種からの進出も非常に増えています。

加藤:メディカル領域での相談でよくあるのが、例えばAIなどテクノロジーがあるのでメディカル領域にもってきたいといったものや、他業種で利用されているプロダクトやテクノロジーを医療業界に持ってこようとするといったものがあります。ただ、そういった場合、医療業界では「医療現場のニーズ」というところで引っかかることが多い。また、マーケティングの手法を他業界から横スライドして導入しようとする場合は医療制度に引っかかることが多いです。

川口:テクノロジーを医療領域で生かす形での進出はそれほどうまくいかないと。

加藤:医療領域の事業を総体的に見ていると、テクノロジードリブンで参入したプレイヤーは総じてうまく行っていない印象をもっています。「自社では◯◯のテクノロジーを持っている。このテクノロジーを活かすと医療の現場で◯◯の部分が改善できるのではないだろうか。」と言っている企業がいたりするのですが、そうしたテクノロジーから医療業界に新規事業として導入すると、そもそも現場ニーズがなかったりすることも多いです。つまり、テクノロジーやプロダクトに目が行きがちなのですが、「医療現場の何をよくするのか」という視点を常に持つことが大切です。また、医療現場にテクノロジーを導入しようとすると別の面もあります。医療領域の新規事業についてよくいわれるのがクリニックは10万件という大きな市場だと。ただ、そのクリニックの多くはシニアの医師がやっています。医師は、72歳で就業率50%となる高齢化の市場です。シニアがやっている診療所が多く、ITリテラシーも高くはない彼らが決済者です。東京の企業が東京の現状だけをみて判断するのではなく、全国展開を考える場合は医療現場の真実を考えながらプロダクト開発をする必要があります。そういった理由により現場でのテクノロジー導入も進まないといった課題もあったりします。単純にクリニック件数だけみても、導入まで進まない。市場を見るときにはそうした点なども考慮しないといけません、安易にテクノロジーをもってくるというだけでは失敗する原因となります。

川口:クリニック市場で見たときにはシニアの医師がその導入を意思決定するということも想定しないといけない。そういった現場の理解が必要ですね。

医療領域ではどこが有望か。医療メディアからゲノム、腸内細菌まで

川口:電子カルテの話もでましたが、どういった事業モデルや領域が魅力的だと思いますか?

加藤:分野によりけりですが、きちんとマーケットニーズを捉えてさえいれば事業を大きくできる可能性はあちこちにあると思います。「医療領域の何をよくするか」という視点を持っておりということです。いわゆるバイオベンチャーとしてのモデルを採用し、製薬、医療機器、再生医療などの分野でひとつ目玉のプロダクトを作って大規模化するような成長の仕方は医療現場の何をよくするということが決まっていて個人的には良いように感じます。ほかにも、テクノロジーを活用したければ、例えば深層学習を活用した画像の自動診断ツールなどは大変期待が集まっている分野ですが、「医療領域の何をよくするか」の視点があるものならば一気にシェアを獲得することも考えられ当たれば大きい領域ですね。

川口:ここでのAI支援の領域ですね、海外でも活用が進んでいるようですが、日本でも同様に可能性があるということですね。

加藤:平成26年より医療機器ソフトウェアというものが制度としてできたため、ソフトウェアでありながら医療機器としての扱いを求められる可能性もありますので、医療への入り方もより本格的になっていくと思います。あとは医療機器申請としてうまく承認を取れるかどうかというところですが、制度として認めてもらうのは物凄く大変な作業になるので、相当本気で突っ込んで行かなければ勝てない領域でもあるのが辛いところです。

川口:予防領域でみていくと、医療情報の集約メディアなども多いですね。問題もありましたが、ニーズとしてはあるかもしれない。

加藤:こういった事業で難しいのは、医療情報といっても分野が膨大に存在しますので、全領域を高品質で網羅するというのはとても難しい。価値ある情報を集約して伝達できるメディアにするためには領域をより狭く絞り込む必要が出てきます。そうすると何が起きるか。対象者が小さくメディアとして広告を出してもらうマネタイズ先の対象企業の候補が少なくなり、初期に思っていたような事業収入とならないことがあります。

川口:実際に価値のある医療情報を届けようとすると狭く絞ることになり、広告をメディアのマネタイズの前提とすると難しいということですね。その他ではいかがでしょうか?

加藤:個人的には患者同士のコミュニティなどは筋が良いのではないかと考えています。疾患の最新情報などを掲載し、特定の疾患を患っている人どうしを集めれば、そこに広告を出す価値も生まれます。製薬メーカーは治験に協力してくれる方を常に求めていますので、治験対象者の紹介サービスなどへ発展していくかもしれません。また患者コミュニティそのものをデータベース化し、医療相談サービスなどへつなげる手もあります。意外と奥が深いと言えます。

 

川口:海外では、同じ病気の人たちをつないでアドバイスを共有したりするサービスや、医師同士で専門知識を共有できるようなサービスもありますね。その他、予防領域でみていくと、最近目立つものとしてゲノムや腸内細菌の検査サービスなどがあります。遺伝子解析技術の進歩によってこうした領域も可能性が広がっています。

加藤:興味を呼び起こしやすい領域ではあるのですが、問題は検査しデータが出てきたあと、それをどう判断するのかです。今はエビデンスが溜まっておらず、場合によっては「占い」の域を出ていないものもあります。エビデンスが蓄積していけば確かなサービスに仕上がるとは思うのですが、まだ医療者に受け入れてもらうまでには時間が掛かってしまう領域との印象を持っています。とはいえビジネスとしては面白いし将来性もあるので、早めに参入してマーケットにおける認知度を上げ、将来の展開に賭けるという判断も「あり」だと思います。

川口:エビデンスの蓄積が必要になる、サイエンスとしての研究の進捗ともつながっている領域ですね。大学発ベンチャーも増えていますが、大学にもシーズが多くあるかもしれませんね。

加藤:ビジネスに出来たら面白いものは、大学の中に転がっています。簡単に拾えるものではなく、かなり体を突っ込んで掘らなくてはなりませんが、とにかくビジネスシーズの宝庫です。このあたりは一部のVCがかなり頑張っていると聞きますね。

 

まだ手を付けられていない有望な領域とは

川口:今回は、カオスマップをもとに広くご意見を頂きました。医療の領域でまだ手を付けられていないような有望な領域はあるでしょうか。

加藤:一つは医療ベンチャーの新規起業を見ている限り、予防や医療に比べると介護の分野での起業はまだ少なく、介護の分野に有望な領域がまだあるのではないかと考えています。医療領域ではかなり細分化されたニーズから起業しているベンチャーも多くなってきており、ここ3年で特に競争が激しくなっていると感じます。それに比べると、介護領域は日本が高齢化社会のトップということもあり、日本発のサービスとしてグローバルに展開することも視野に入れて非常に将来性が高いと考えています。

川口:介護領域は医療に比べると競争もそこまででもなく、可能性が高いと。

加藤:われわれ全員が最後はそこに行き着く領域でもありますし(笑)、もっともっとこれから発展して行ってほしいです。そしてその余地は十分にある分野だと考えています。

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撮影:Masanori Naruse

プロフィール

加藤浩晃:医師、京都府立医科大学 特任助教、デジタルハリウッド大学大学院 客員教授。専門は遠隔診療、デジタルヘルス、ヘルスケア新規事業。「医療現場」「医療制度」「ビジネス」の3領域を横断的に理解する数少ない存在で、医療を専門としない企業に向けたヘルスケア新規事業コンサルティング、薬事・行政戦略支援、講演・研修などを精力的に行う。日本の医療ベンチャーにも精通する。著書は累計37冊。東北大学大学院 非常勤講師、元厚生労働省 室長補佐。ミーミルのクオリティ・エキスパート「医療現場✕厚労省✕ビジネス 第一人者」

川口荘史:株式会社ミーミル代表取締役。東京大学大学院修了、UBS証券投資銀行本部に入社し、M&A及びテクノロジーチームにて、製薬業界、エネルギー業界、大手電機等の国内外のM& A、LBO案件等に従事。その後、複数のベンチャーの創業に参画し、ファイナンスや新規事業立ち上げに従事した後、株式会社ミーミルを創業。