【インタビュー】医療業界における新規事業エキスパートに何が求められるか。加藤浩晃(第4回)

2017.12.07 エキスパート

新規事業の対象として注目される医療領域。医療費増大などといった社会的な課題もあり、そのためのソリューションとして新規事業も期待されています。「医療現場」「医療制度」「ビジネス」というメディカルの3領域にまたがる実践的な知見を有する加藤氏に、メディカル領域の事業機会についてミーミル代表の川口がお話を伺いました。最後となる第4回では、様々なベンチャーからの相談を受ける上で重要な専門性についてお伺いしました。

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医療領域の事業創出支援の形。ベンチャーと大企業でのスタンスの違い

川口:医師から厚労省、そして今は様々な企業の新規事業にかかわられています。現在、ご自身の知見を提供することで実現したいこと、興味のあるプロジェクト、個人的なミッションについてはいかがですか?

加藤:どこか一社に対してフルコミットをしていくよりも、社会を健康にしていこうとしている様々なプロジェクトにかかわっていくことで社会をよくしていく手伝いをしたいと思っています。社会課題を解決していくような企業を支えながら伴走して支援していきたい。大企業であればプロジェクトメンバーの一人のように自分の知見を使ってプロジェクトを大きく成功させたいし、医療ベンチャーであれば社長が考えているときに相談できるような、外部なんだけど内部の人間のような関わり方、「医療業界のプロの社外取締役」のような存在となりたいと考えています。

川口:大企業とベンチャー、両方のプロジェクトを受けられています。企業のフェーズや規模によって事業の進め方なども大きく異なると思いますが、今後も両方を支援していくのでしょうか。

加藤:解決できる社会課題はベンチャーと大企業とでも異なります。プロジェクトごとに関わっていくことで、その両方を支援していきたいと考えています。大企業は今までの信頼や資金というリソースがあり、それらを活用することである種の「横綱相撲」ができます。発想として医療をよくしたいというところから逆算して考えることができます。ただし、大企業ならではの社内の関係やしがらみなどもあります。ベンチャーだと現状の制度の下で、ゼロから事業を積み上げる必要がありますが、ゼロからなので、システムからビジネスモデルからチームまで新規に作り上げることができます。また、今は「金あまり」と感じており、良質な医療ベンチャーには豊富に資金も集まってきます。ベンチャーに身をおくことは個人的にはベンチャー業界の動向にも最先端で知ることができるという意味も含まれています。

川口:ベンチャーと大企業の事業構築の違いですね。特に医療は、社会課題的な側面も大きいので、医療をよくするという大きな視点で考えることも重要です。

加藤:医療の未来を予測している人は多いですが、厚労省に出向してわかったのが、行政側としては、そもそも有識者たちを集めて今後どのように進めていくかという方針を明確に伝えています。つまり、厚労省が考える医療の未来の姿は厚生労働省をはじめとする省庁のホームページで公開されており、我々はそれを見て適切に判断していくと、より精度が高く未来を予想することができるのです、むしろ予想というよりも予報といってもいいかもしれません。こうしたロードマップを国が作っているので、少なくとも行政側の意向について向こう5年くらいに関しては日本はどのように進むか確度は高く見通すことができます。こうした行政側の考えを適切に取り込んでいくことで、医療業界の進み方を理解した上での事業構築が可能になります。

川口:なるほど、行政側の意向や方向性について気にして事業構築する必要がある医療領域での新規事業ですが、そうした意向は別に秘密にされているわけではなく、公開されているのですね。

過去の経験だけではなく、今と未来についても話せることが重要

川口:次に、医療領域の新規事業エキスパートとしての考えについて。最近は医師が経営者もしくは経営陣として事業を立ち上げているケースもよくみられますね。医師や病院のニーズをくみ取るのに、医師がいたほうがいいと。

加藤:そうした医療分野の事業に関わる人からは「医師がいないと難しいのでしょうか?」という相談を持ち掛けられることもあります。これは面白みがないですが、ものによりけり、というのが率直な回答になります。医師がいるメリットの一つは「医師は医師と話しやすい」ということが挙げられます。例えば今言われた医師や病院のニーズをくみとるというところだと、医師がいるとダイレクトに医療機関の経営層にアプローチできたり、医師がいるとその医師を起点としてニーズ調査の場を見つけることができたりします。ここが外部の医師にお願いをした際に「自分ごと」と思ってもらえてなく、思ったような効果が上がらない場合があります。また他のメリットとしてはサービス利用者からの「見え方」を意識して医師が経営層にいる場合があります。これも手段でしかなく、「医療現場の何をよくしようとするか」の価値が正しければ医師がいるいないは関係ない話と考えています。非医療者であっても本気になれば、医療現場や医療制度の基本的なレベルやあまり活字になっていないかもしれませんが、医療領域の風習や医療者への対応といったところも学べます。自分もよく研修や役員への家庭教師で、非医療者への医療領域の話をしていたりします。

川口:様々な専門家がいる医療領域ですが、外から見てわかりにくいだけに、他業種から新規事業開発をしているような場合など、誰に相談するべきかもよくわからないですね。

加藤:私は3領域が分かっている専門家として知見を期待されていますが、こうした専門性の掛け算でも、それぞれについて深い知識があり、リアルタイムでの業界情報が入っていることが重要だと思っています。意外と、ビジネス業界に医師出身者は多くいます。しかし、現役の医師といっても、医師免許を持っているだけで現在は診療をしていない「医師」もいたりします。また、診療をしていると言っても、現役で医局に所属して大学病院でも医師をやっているのは診療所をやっているだけなのと情報の量と質が全く異なります。現役で医師として大学病院と診療所の両方でも働きながら、厚労省経験を活かした行政の考えも把握でき、かつベンチャーの事業経験からそれらをビジネスワードで話すことができる。そうした医療の3領域を抑えていて、日本で同じような医師は他にいないと断言できることが私の強みです。

川口:なるほど、過去に医師だったというよりも、情報を現場で常に更新できていることも重要ですね。

加藤:専門家としては「過去の経験だけではなく、今と未来について含めて話せる。リアルタイムで自分の専門領域の情報を更新している」ことが重要だと考えています。

 

医療業界における新規事業エキスパートに何が求められるか

川口:これまで様々な依頼を受けていく中で、そうした依頼内容や相談の内容の変化はありますか?

加藤:当初は、依頼内容としては個別のプロダクトについて、医師として医療現場の観点でどう考えるかを聞かれることが多かったのですが、最近は新規事業そのもの、ビジネス自体について意見を求められることも増えています。また、ベンチャー企業を紹介してほしいという依頼も多いですね。これは、東京に来てからサロンや勉強会なども主催しているため、こうしたベンチャーとのネットワークができてきたからかもしれません。また、医師で起業している人が最近は増加しており、医学生や研修医などからの相談も増えています。また、かなり個人的な話になってしまうのですが、医師をしながら医師国家試験予備校講師を年に数日していて、眼科の医師国家試験対策のカリスマ講師となり全国の医学部の学生の95%以上が自分の講座をオンラインで受講してくれています(笑)。そこで顔が売れているため、医学生や若い医師がプロダクトを考えたり、医療ベンチャーを始めたりする際に相談をされます。起業前から相談に乗っていて、今は名のしれた医療ベンチャーになっているものもあります。

川口:大企業からベンチャーまで、幅広く企業の支援に関わっていると、そのネットワーク自体が価値を持つ、これは独立されて複数のプロジェクトに並行してかかわっている専門家ならではの価値ですね。こうした新規事業専門家の方々にいえることですが、表面的な関係ではなく、それぞれの企業と深くプロジェクトにかかわっているからこそ、それぞれの企業の事業や体制含めて理解をしているので適切なマッチングと連携の推進ができるように思います。ベンチャーと大企業とのコラボレーションの機会を創る際にも、両社の本当のニーズを把握して、かつ両社の言葉で話すことができることに意味があります。単にベンチャーと大企業を紹介するだけにとどまらない、エキスパートが介在するメリットですね。こうした形態でないと、本当のコラボレーションや提携機会は生まれにくいと思っています。

患者、病院、医師がそれぞれ「何を求めているのか」を知ることが出発点

川口:では、ほかにそうした外部エキスパートという立場でのかかわり方のメリットはあるでしょうか?

加藤:例えば行政側の判断が知りたいような新規事業について、大企業が動くことが難しいケース。そのまま大企業側が行政に意見を求めてしまうと、その返答が結論になってしまう。そうではなく、私を含めた他の経路でアプローチすると企業担当者からの正面からではない情報の取り方ができます。そうして適切な準備や新規事業の修正を施した後に行政側とコンタクトが取れる。事業担当者としても、このようにいろんな経路での情報取得手段を持っておく方が効果的だと思います。

川口:なるほど。事業会社でも、情報収集手段や情報ソースに様々な経路でアクセスするために、意図的にこうした外部のエキスパートのネットワークを構築しているような方もいらっしゃいますね。エキスパートの方々にとっても、それぞれコミュニティに属して、関係性を築けているようなことも重要ですね。

加藤:そうですね、医師で現場に出ていることも重要と述べましたが、こうしたエキスパートして活動するには、そのように過去の経歴にあぐらをかいているのではなく、その専門業界に身を置いて成長し続けていくこと。現在と未来について把握していることが重要です。そのためにも、業界と今も関係性があることが重要だと思っています。

川口:最後に、医療領域に進出を検討している企業についてアドバイスするとしたらいかがですか?

加藤:色々な事例を見ると、テクノロジー先導型で「〇〇という良い技術があるから医療の領域で活用してみよう」という視点から始まったサービスは花を咲かせず終わっている印象です。医療現場のリアルというのは頭で考えるのとは異なりますので、より良い事業を創出するためには、患者、病院、医師など関係者それぞれが何を求めているのかを知ることがすべての出発点だと思います。

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

加藤浩晃:医師、京都府立医科大学 特任助教、デジタルハリウッド大学大学院 客員教授。専門は遠隔診療、デジタルヘルス、ヘルスケア新規事業。「医療現場」「医療制度」「ビジネス」の3領域を横断的に理解する数少ない存在で、医療を専門としない企業に向けたヘルスケア新規事業コンサルティング、薬事・行政戦略支援、講演・研修などを精力的に行う。日本の医療ベンチャーにも精通する。著書は累計37冊。東北大学大学院 非常勤講師、元厚生労働省 室長補佐。ミーミルのクオリティ・エキスパート「医療現場✕厚労省✕ビジネス 第一人者」

川口荘史:株式会社ミーミル代表取締役。東京大学大学院修了、UBS証券投資銀行本部に入社し、M&A及びテクノロジーチームにて、製薬業界、エネルギー業界、大手電機等の国内外のM& A、LBO案件等に従事。その後、複数のベンチャーの創業に参画し、ファイナンスや新規事業立ち上げに従事した後、株式会社ミーミルを創業。