【対談】米国や中国の企業で高まるロジスティクスへの注目、日本ではまだその取り組みは限定的 角井 亮一×山手 剛人(第1回)

2019.05.17 エキスパート

変革期にある小売業界。ECの普及によって、宅配や物流についての注目度も上がっています。今回は、物流の専門家である角井氏と、小売り・流通業界のアナリストの山手氏に対談をいただきました。メガネスーパーを含めて複数社のEC事業の急成長を牽引した“ECエバンジェリスト”川添 隆氏がファシリテーターを務めます。

中国や米国の大手小売り企業において、ますますロジスティクス、物流戦略が重要視されています。そうした中、日本において同領域に注力している企業はあるのでしょうか。有識者としてソーシャルメディアNewsPicksのプロピッカーも務めるお二人に同じくプロピッカーの川添氏がお話を伺いました。

第一回は、角井氏、山手氏のキャリアと、中国や米国でいかに物流、ロジスティクスが注目されているのかについてです。

今、物流が注目されている。大きな反響を呼んだアマゾン物流戦略本

川添隆(以下、川添):角井さんは物流の専門家として知られています。これまでのご経歴を教えてください。

角井亮一(以下、角井) この業界に入ったのは実家が物流会社を営んでいたからです。私が5歳のときに、親が物流会社を東大阪で起業しました。私が高校で進路を決める時、自分は将来なにをやりたいかを考えたときに、いずれ親の会社を継ぐことになると考え、経営を学ぼうと、理系から文系に転じました。大学のゼミでは、小売などの川下が好きなので日本ダイレクトマーケティング学会初代会長の田中利見先生(上智大学名誉教授)のもとにつきました。

物流は実家に戻ればできるので、まずは小売に携わりたいと船井総合研究所に入社。お酒販売のコンサルとして店舗のレイアウトづくり、チラシづくり、値決めなどすべて行いました。

1996年には、船井総研で初めて「ネット通販参入セミナー」で公演させて頂きました。1999年に、大手総合商社の方からネット通販企業の物流をやらないかと言われて、受託し、2000年にイー・ロジットを設立。現在はネット通販の物流代行を、国内ナンバーワンの310社から受託し、物流センターも、東京ドーム2個分の10万平米で運営しています。

川添:海外にも取り組みを拡大されていますね。

角井:2015年にはタイでSHIPPOPという物流IT企業をタイ最大のネット通販会社と合弁でつくりました。会社の企業価値も3年で100倍になっています。マレーシアでも立ち上げ、まだ規模は小さいですが軌道に乗り始めたので、東南アジアを制覇していきたいですね。

川添:2016年に「アマゾンと物流大戦争」(NHK出版)を出版されています。日本で初めてのアマゾン本として注目され、反響も大きかったのではないでしょうか。

角井:そうですね。これまでに出版した物流関連の著書と売れ方が違いました。いろいろな大手企業の経営者、社員の方に読んでいただいています。

賛否両論のZOZOを応援しているアナリストとしてニューマーケットで知られるように

川添:山手さんは、もともと流通業界のアナリストご出身です。

山手剛人(以下、山手):私はもともと証券アナリストで、角井さんがECを始めた1999年に新卒社員としてUBS証券に入社。翌2000年から株式の格付けする調査部に配属になり、2017年までずっと流通担当の格付けをしております。当時ECはまだなくて、ぽつぽつと「インターネットでものが売れる時代が来るんじゃないか」と言われていたころにアナリストデビュー。時代の先を見る目がなかったのか、「そんなに大きくはならないだろう」と当初はECに悲観論者的なスタンスをとっていたアナリストだったのですが、徐々に変わり、このままだとリアル店舗一辺倒の企業さんは立ち行かなると思い始め、調査するうちに、2010年当時、流通総額200〜300億円と勢いがあるZOZO(当時、スタートトゥデイ)さんに話を聞きに行き、目が覚めました。

その後、UBSからクレディ・スイスに移籍し、スタートトゥデイを応援しているアナリストとしてニューマーケットで知られるようになりました。

評論家として17年間も経営者に直接お話をお伺いする機会に恵まれましたが、それを株の格付けという形で大手の機関投資家の情報にすることに若干違和感を覚え始めまして、ちょうどUBS時代の上司で有名なアナリストの松岡真宏が運営している再生コンサル、フロンティア・マネジメントに入社。事業再生、戦略面のコンサルなど、いままでたくわえていた知見を直接小売企業に提供して役に立てればと思っています。

角井さんとはフロンティア・マネジメントに移籍するころ、一緒に宅配問題について本を書かないかと昔の上司から話があり、物流についてお知恵をお貸しくださいと連絡したことがきっかけでお会いしましたね。

角井:山手さんは流通最年少アナリスト。「日経ヴェリタス」人気アナリストランキングでも常に上位に入っていました。

山手 UBSに入社して4年ほどで、上司で今の社長の松岡が退社したので、まだ20代なかばで突然ポジションが空いたんです。日経ヴェリタスで1位を獲ると「トップアナリスト」と言えるんですが、私は2位までしかいっていません。12年連続1位不動のアナリストさんがいまして。

川添:小売り・流通では、ECなどビジネスが大きく変わっていく中で、業界としても「若いアナリストがいい」という傾向があったりしますか。

山手:あるかもしれないですね。人気アナリストは40、50代が多く、なかなか新しい流通構造の変化に乗ることができなかった。特にZOZOは賛否両論、というより否が多かった。もっと堅実なビジネスモデルに投資したい投資家が多いので、あれだけ株価、業績が上がったことをよく思わない人もいます。

注目している「Amazon GO」など無人コンビニの展開。ポイントはやはり「物流」

川添:最近の動きで注目されているのは、やはりAmazonですか。

山手:そうですね。アメリカで無人コンビニ「Amazon GO」が3000店舗出店。結構なペースですよね。オフィスワーカー向けだとニューヨークやシカゴといった一部の都市に限られる。しかし3000店となるともっと多くの都市で展開しないとそこまでいきません。

角井:どこに出すんでしょうか。1号店、2号店は都市のど真ん中。郊外でも出店できるのか。よほど採算がとれないと、と思いますね。機械のコストが下がって人件費と変わらないくらいで減価償却できるならと思います。

山手:物流がポイントですね、アメリカはセブンイレブンも7000〜8000店ありますが、店舗を集中的に出しているエリアがニューヨーク、ダラス、ロサンゼルスと3箇所ほどあります。特定のエリアである程度物流の効率を追求しないとならないので、複数の重点エリアでやっていくのではないでしょうか。日本みたいに太平洋ベルト地帯で物流ネットワークをつくるのは難しい。

角井:自分は2011年からアメリカに年間30日間以上、今は40日間行っていますが、物流とAmazonの話は切っても切れないというほど聞かされています。Amazonの他にも、アリババ、JD.com(京東商城)は物流に注目しています。

中国人留学生の物流への学習意欲は高い

川添:アマゾンだけではなく、中国企業でもEC大手は物流に投資を進めていますね。

角井:中国とアメリカは国全体がロジスティクスに積極的です。今、多摩大学大学院で教えていますが、生徒の学生半分以上は中国からの留学生です。それも物流のクラスだけ。他のクラスは半分いかないくらい。物流に対する意識の高さを感じます。

本屋にもウリュー(物流)コーナーがありますし、中国からの講演依頼も2017年からよく来るようになりました。

先日、シンガポールのMBAプログラムの1ヶ月コースに在籍する学生が授業のために来日しましたが、50人くらい、いずれも中国石油公社の総経理といった地位の人たちです。3日間早稲田大学にて授業を行いましたが、その半分は物流についての授業でした。

このように物流への注目度は非常に高まっている。日本人からしてみたら「日本の物流のなにを勉強するのだろう?」と疑問かもしれませんが。

山手:日本の物流は中国から見て学ぶことが多いんですか。

角井:日本の技術力、品質レベルは高い。例えば、チルドの宅配は、タイでヤマトさんがやっていますが、それ以外では世界でも民間ではやっていません。

また、中国は軍事的にもロジ(ロジスティクス)を意識しています。たとえばミャンマーに行くと中国は有事のことを考えて石油パイプラインをつくったり、昆明という都市からタイまで鉄道を通してその先の港の開発権利を要求したりとロジと軍事は一体となっている。

アメリカの企業をみると、ウォルマートのトップは歴代ロジに携わってきた人ばかり、今CEOのダグ・マクミロンも当初プロフィールに「インターンシップでロジティクスで働いていた」と書いていました。ふつうはインターンシップを経歴に書かないけれど、わざわざ入れていたのはロジに力を入れていることをアピールしたいから。Amazonも過去ウォルマートのシニアバイスプレジデントでロジスティスクス担当を引き抜いています。それだけどの企業もロジスティクスを重要視しています。

日本では物流に注力している企業が少ない、その中ではニトリの取組に注目

川添:日本では物流で先進的な企業はどのようなところがありますか。

山手:日本では物流に注力している企業は多くないですよね。そのなかでいうと、ニトリさんはかなり早い段階から物流小売業を標榜されていた。あそこはピカイチなんじゃないですか。

角井:小売としてはそうですね。かなり前から似鳥さんの肝いりで業界初の自動倉庫も導入しています。

山手:対応が早いですね。ユニクロや無印良品が中国で安く製造して日本で売るというビジネスモデルをスタートして、一気にアパレル業界に広がった。ただ、家具の世界はなかなかそういうプレーヤーが出てない。ニトリ一強です。ニトリさんにお話を伺うと、業界において物流が大きな参入障壁になっている。なぜアパレルはSPAが簡単で家具は難しいのかというと、家具は大きさがバラバラで組み立て家具であってもかさばるので、中国から輸入して物流の管理をアウトソースできる先がない。だから自前しかないと考えて投資してつくったのだそうです。

角井:物流について安いところにアウトソースすると、配送の際に投げられて壊れたり傷ついたりしますから。服は投げても壊れないけれど。

山手:物流を自前化するとコストがかかるので合理化する余地が出てくる。独自につきつめていくことで、他社ではやっていない発想が出てきて、その延長で物流企業に変貌したのではないでしょうか。

角井:製造機能も初期のころに吸収しています。そこから全部できているのはすごいですね。

山手:そうしたことができているのはニトリさんくらいですね。ZOZOは物流については独自のソリューションは聞かない。サンプルがメーカーから届いたらモデルが自社に20人ほどいて社員の写真を撮ってウェブページに早く上げるといったフルフィルメントはかなり工夫されています。しかし、そこから先の、ものを届ける点はヤマトさんを信頼しきっている。そこはニトリさんとは違うところですね。

コメント

川添:2017年に日本で“宅配クライシス”が表面化したことで、企業において物流への関心が高まったことは間違いありません。しかし、それは「配送費の値上げに対してどう対処するか?」という議論が中心で、「本質的にビジネスのなかに物流をどのように組み込んでいくか?」というところまではいっていないように感じます。

海外では、Amazon、ウォルマート、アリババ、テンセントなどが物流に投資をし重要視しています。ある種“インフラ”的な役割を担うプラットフォーマーにとって、物流=顧客サービスという側面があり、ビジネスの運営効率を上げるうえで欠かせないからでしょう。一方、日本でも、ニトリさんの例が話に出てきましたが、外に頼める先がなかったから自前で構築していったというお話はとても興味深いです。

小売りのデジタルトランスフォーメーションにおいて“物流”が重要な役割を担うことは言うまでもありませんが、ある種、「やらざるを得ない状況をうむ」ことが、変革の起点になるのではないかと感じました。

第2回 物流から見る店舗の価値のあり方と、グローバル競争で見る物流戦略の重要性 に続く

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

角井 亮一:株式会社イー・ロジット代表取締役社長 兼 チーフコンサルタント。1968年生まれ。上智大学経済学部経済学科を、3年で単位取得終了し、渡米。ゴールデンゲート大学マーケティング専攻でMBA取得。帰国後、船井総合研究所に入社し、小売業へのコンサルティングを行い、1996年にはネット通販参入セミナーを開催した。その後、光輝物流に入社し、物流コンサルティングを実施。2000年、株式会社イー・ロジットを設立し、代表取締役に就任。イー・ロジットは、現在300社以上から通販物流を受託する国内ナンバーワンの通販専門物流代行会社であり、200社の会員企業を中心とした物流人材教育研修や物流コンサルティングを行っている。また、ライトヴァンというアーティストグッズ販売やファンクラブ運営を行う会社を経営。2015年、再配達を撲滅するための生活アプリを開発するウケトルを立ち上げ。タイではSHIPPOPという物流IT企業をタイ最大のネット通販会社Tarad.com創業者のPawoot (Pom) Pongvitayapanuと共同で立ち上げた。「すごい物流戦略」「アマゾンと物流大戦争」など29冊(米国、中国、台湾、韓国、越南、日本)出版。

山手 剛人:フロンティア・マネジメント株式会社 シニア・アナリスト 産業調査部。1999年にウォーバーグ・ディロン・リード証券会社(現UBS証券会社)に入社。2003年に同社株式調査部で小売セクター担当のシニア・アナリストに就任。2010年にクレディ・スイス証券会社に移籍。小売セクター担当のアナリストと消費関連産業の調査グループリーダーを兼務。2017年にフロンティア・マネジメント㈱に入社。UBS証券会社では2002年に史上最年少でシニア・アナリスト(食品、消費財セクター担当)に就任。 日経ヴェリタス「人気アナリストランキング」では継続的に上位にランクイン(最高順位は2010年の総合小売セクターで2位)。

川添 隆:販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志し当時サイバーエージェントグループだったクラウンジュエル(現ZOZOUSED)へ。ささげ業務(ECサイトで販売する商品の情報制作業務)から企画、PR、営業まで携わり2010年にクレッジ(現オルケス)に転じ、EC事業の責任者として自社サイトの売上を2倍以上、EC全体を2年で2倍に拡大。LINEを活用した事例でも成功を収める。2013年、メガネスーパー入社、デジタル・コマースグループ ジェネラルマャー就任。2017年からビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を兼務。2018年5月、執行役員に就任。