【対談】物流から見る店舗の価値のあり方と、グローバル競争で見る物流戦略の重要性 角井 亮一×山手 剛人(第2回)

2019.05.24 エキスパート

変革期にある小売業界。ECの普及によって、宅配や物流についての注目度も上がっています。今回は、物流の専門家である角井氏と、小売り・流通業界のアナリストの山手氏に対談をいただきました。メガネスーパーを含めて複数社のEC事業の急成長を牽引した“ECエバンジェリスト”川添 隆氏がファシリテーターを務めます。

中国と米国でも近年ますます注目されている物流・ロジスティクスについて、有識者としてソーシャルメディアNewsPicksのプロピッカーも務めるお二人に同じくプロピッカーの川添氏がお話を伺いました。

第2回では、店舗の在り方の変化、小売のデジタルシフトの阻害要因などについて伺います。

第1回 米国や中国の企業で高まるロジスティクスへの注目、日本ではまだその取り組みは限定的 角井 亮一×山手 剛人 はこちら

店舗のショールーム化には強い物流が必要。これからの店舗の在り方とは

川添:企業においてロジ(ロジスティクス)はコストセンターと捉えているところも多いようですが、一方でECやオムニチャネルが発展するとロジの機能は非常に重要です。その中で、ロジの重要性とこれまでの店舗のあり方はどのようになっていくと思われますか。

山手:流通における中間地点としてお店をとらえると、お店に商品を置いて消費者に買いに来てもらうというラストワンマイルは消費者が担っているわけです。しかし、物流のしくみが発展すれば発展するほど、そこも産業化され、お店の存在価値がなくなってくるのではというのは非常に重たいテーマです。

角井:店舗では床面積に見合った賃料は払えなくなりますね。

山手:アパレルは危機的状況にありますが、ではECに完全にシフトできるかというとできていない。そのなかで唯一大きな流れに反した、脱ECの動きを見せているのはドン・キホーテです。

ECはやらない、強みは楽しい売り場をつくること。いわばドン・キホーテは流通業界のオアシスです。店舗のメディア化といってもいい、お店にある商品や棚が広告になっている。店舗は新しい商品、サービスに出会うショールームであり、そこをいかに魅力あるものにするかが大きなテーマとなっています。

川添:米国、欧州、中国はすでに店舗と物流機能が一体化している店舗が増えています。店舗は今後どうなっていくと思われますか。

角井:ものによって変わります。アパレル、日用雑貨、食品……。食品については、ECサイトと実体店を融合した新しい小売形態、アリババ「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」に注目しています。店舗が物流センターになっていてそこから出荷されていく。そして、盒馬鮮生の売り場は活気があって、楽しい。こういう売り場をつくるべきだと思う。ヨドバシカメラさんも売り場が楽しい。だからこそオムニチャネルがうまくいっている。

山手:私は強い物流を持っていないと、店舗のショールーム化はできないような気がしています。ニトリ渋谷公園通り店は、アプリ「手ぶら de ショッピング」と物流が連動していて、店舗で見たものをすぐに注文できる。店舗と物流が連動しているから機能するのであって、「店舗で実物を見て、買うのはAmazon」となってはショッピングの体験として一気通貫していない。そもそも刈り取れないので店舗がタダ働きのようになる。ショールームを運営している企業がしっかり刈り取れるしくみがないといけない。家具店は、これまでも実際に店舗に在庫があるわけではなく、店舗で注文後、物流センターから自宅に配送されるのでショールーム化はできるのですが、魅力あるショールームをつくるのは非常に難しい。特にああいうかさがある家具、インテリア商品は、広大な店舗をたくさん持つこと自体がオーバースペックになる場合がある。

ごく限られた勝ち組企業が大型商品を持てて、他はどんどん小型化するでしょう。お客さんのほうも、売り場があまりに広大だと疲れる。事前にAIなどを使ってどういう家具、インテリアが部屋のイメージや趣味嗜好に合っているか来店前にリクエストを出し、店舗に着くと自分たちの要望に添った家具だけが置いてあるというような、お取り寄せのショールームでないとペイしないのではないでしょうか。

角井:高齢化社会なので、広い店舗を歩かせるようなことはなくなるでしょうね。店舗も小型化が進みます。

山手:ほしいものだけが店舗に来ている。自動車ではヤナセのショールームにメルセデスの全型が置いてあるわけではない。事前に試乗を予約しておいて、その日は試乗車が来ている。高級な嗜好品の買い方はそちらにシフトするのではないでしょうか。

レガシーコストと追加投資の誘惑。小売りのデジタルシフトの阻害要因とは

川添:ショールーム機能としての店舗は残るというのは一理あると思います。では、ショールームは買い物体験として必要でしょうか。

角井:そうですね。やはりネットだけではわかりませんから。実際に買おうと考えたら、店舗に行くと思います。私は「楽しい買い物」と「楽しくない買い物」という話を2013年から言っています。

「楽しくない買い物」というと小売さんに怒られるんですが、洗剤やトイレットペーパー、食品といったもの。これらは店舗に行かず配達してもらう。いくら「洗剤の香りが変わりました」と言っても、実際に店頭で嗅いでから買うわけではありません。

一方で、楽しい買い物は「行きたい、見てみたい、触りたい」と思うんです。だから店舗は残る。一方で、シェアリングとオーバーラップしていくところもあると思います。たとえばシェアリングで自動車に乗って「この車、ほしいな」と思ったときに買う。

川添:現状、そういったデジタルシフトを含めた進化を阻害しているものは何だと捉えていらっしゃいますか。

山手:販売スタッフや商品の仕入れをするバイヤーなど従業員も、レガシーコストになってしまっているというところはありますね。サブスクモデルに行くと言っても、それらが重たい足かせになってしまうのではないか。そこが小売り大手企業とスタートアップ企業との違いです。

角井:大手企業だと、頭が固定化しているので、若手が発言しても「そんなことうまくいくはずない」と言うんですよね。

山手:そこは経営者の問題ですね。そういう企業であっても新規事業を行う部署をつくって、そこに外部の人材を呼んで権限を与える土壌をつくると、オールドエコノミーのような企業でもイノベーションができるはず。だけど、できない会社が多い。

角井:内部で新規事業を立ち上げなくても、社外のイキのいいスタートアップに投資すればいい。外部の会社であれば働き方はその会社にまかせ、いいなと思ったら吸収すればいい。でも、多くの場合そういうこともしない。投資の仕方がまだ保守的です。もっとアグレッシブに行けばいいのにと思います。

山手:スタートアップへの投資で企業のイノベーションを起こす、と振り切れるのは通信キャリアや鉄道会社のようなインフラ産業ぐらいかもしれません。小売業はそこまで頑強な社会インフラではありません。

それに、小売は場所が空いていたらお店を出したくなる衝動に勝てない。店舗に追加投資し続けてしまい投資に振り切ることができない。

インフラ産業は、たとえば鉄道は今後これ以上収入が伸びないとわかる。新規事業以外に成長の芽がない。小売の場合は、どうしても既存ビジネスの追加投資の誘惑に勝てない。実際にはそんな簡単なわけがないのに、出店すれば儲かると錯覚する。さらに、小売は給料が安いので優秀な人材が集まらない。来てもすぐに辞めてしまう。こうしたことが小売業における新規事業や戦略的な投資を妨げていると思います。

物流も国内ではなく世界の戦い、小売経営者に必要な危機感

川添:そのほかアナリストとして物流面で評価する企業はありますか。

山手:ZARAがECの対象エリアを世界に広げる先鞭つけたと角井さんの著書にありますね。ああいう配送のしくみが必要になりますよね。でも実際にやるのは大変なのではないかと。

角井:難しいですよね。実際に全世界へ運ぼうと思ったら日本からだと高い。

中国のサイトで買い物をすると送料が全然違います。たとえばランニングのときに付けるiPhoneケース、あれを中国のECで購入すると送料1ドル程度で日本まで送ってくれる。つまり送料込みで400円程度です。当然、時間はかかりますが、2〜3週間くらい。

こうした中国の配送コストのベースになっているのは、国策の郵便事業です。郵便は基本的にその国の物価に合わせた金額体系になっていますから。加えて全体の物量が違うので、その分、コストも下がっています。圧倒的に安いしくみのなかに載せられる点は大きいですね。

つまり、物流も日本国内の戦いではなく世界の戦いになっているという前提で考えたら、小売経営者はもう少し危機感を持たないといけません。

ある流通チェーン店さんが「ECの比率を3割にしたい」と相談に来たことがあります。いろいろな資料を持ってこられたんですが、想定のなかに、日本国内の競合しか入っていない。「中国から来たらどうするんですか」と聞いても、想定していない。そもそも中国のECで買ったことがないという。

実際に中国が入ってきたら国内店舗は危ういです。ECも圧倒的なアイテム数に負けてしまう可能性があります。アリババの創業者、ジャック・マーは「72時間で世界をつなげよう」という話をしています。

CtoCも気になります。2015年にAmazonが中国の船便の免許を取り、ゆくゆくは飛行機も買うという話をし、AmazonはCtoCの戦いに準備しているとコメントしました。メルカリも含めグローバルにCtoCが広がっていく方向になっていると感じます。

コメント

川添:店舗のショールームとしての役割の話から、物流がもたらす世界戦のお話しまで、物流を中心として濃い話がお聞き出来ました。

角井さんがおっしゃるように、買い物には自分の嗜好性などに合わせて購入する「楽しい買物」と、生活するために買わなければならない「楽しくない買い物」が存在するという話は同感です。Amazonやアリババなどのプラットフォーマーは、物流の強化をはじめ、チャネルシフトによりオフラインでの体験も提供を始めています。じわじわと「楽しい買物」領域に、体験を提供してきていると感じています。物流を制すれば、オンラインからオフラインへのシフトの壁を低くすることができるのかもしれません。山手さんがおっしゃるようにショールームを機能させるには物流の強化は必須であるということでしょう。

そして後半のお話にあったように、モノを運ぶ仕組みが整うと、容易に国境を超えることができるということです。インターネットとスマホの力で、情報はいつでもどこでも手に入るようになりました。ここに物流が整備されれば、「どの国で取り扱っている商品か?」という意識も薄くなっていくかもしれません。多少、振り切って話しましたが、現時点で想像がつくことは、必ず未来にやってくることでしょう。その危機感を持ち、強固な物流基盤の企業と組むのか?組まないのか?選ばれるブランドになるか?ならないのか?の見通しを立てる必要があると感じました。

 

第3回 【対談】物流から見る店舗の価値のあり方と、グローバルの競争で見た物流戦略の重要性 角井 亮一×山手 剛人はこちら

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

角井 亮一:株式会社イー・ロジット代表取締役社長 兼 チーフコンサルタント。1968年生まれ。上智大学経済学部経済学科を、3年で単位取得終了し、渡米。ゴールデンゲート大学マーケティング専攻でMBA取得。帰国後、船井総合研究所に入社し、小売業へのコンサルティングを行い、1996年にはネット通販参入セミナーを開催した。その後、光輝物流に入社し、物流コンサルティングを実施。2000年、株式会社イー・ロジットを設立し、代表取締役に就任。イー・ロジットは、現在300社以上から通販物流を受託する国内ナンバーワンの通販専門物流代行会社であり、200社の会員企業を中心とした物流人材教育研修や物流コンサルティングを行っている。また、ライトヴァンというアーティストグッズ販売やファンクラブ運営を行う会社を経営。2015年、再配達を撲滅するための生活アプリを開発するウケトルを立ち上げ。タイではSHIPPOPという物流IT企業をタイ最大のネット通販会社Tarad.com創業者のPawoot (Pom) Pongvitayapanuと共同で立ち上げた。「すごい物流戦略」「アマゾンと物流大戦争」など29冊(米国、中国、台湾、韓国、越南、日本)出版。

山手 剛人:フロンティア・マネジメント株式会社 シニア・アナリスト 産業調査部。1999年にウォーバーグ・ディロン・リード証券会社(現UBS証券会社)に入社。2003年に同社株式調査部で小売セクター担当のシニア・アナリストに就任。2010年にクレディ・スイス証券会社に移籍。小売セクター担当のアナリストと消費関連産業の調査グループリーダーを兼務。2017年にフロンティア・マネジメント㈱に入社。UBS証券会社では2002年に史上最年少でシニア・アナリスト(食品、消費財セクター担当)に就任。 日経ヴェリタス「人気アナリストランキング」では継続的に上位にランクイン(最高順位は2010年の総合小売セクターで2位)。

川添 隆:販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志し当時サイバーエージェントグループだったクラウンジュエル(現ZOZOUSED)へ。ささげ業務(ECサイトで販売する商品の情報制作業務)から企画、PR、営業まで携わり2010年にクレッジ(現オルケス)に転じ、EC事業の責任者として自社サイトの売上を2倍以上、EC全体を2年で2倍に拡大。LINEを活用した事例でも成功を収める。2013年、メガネスーパー入社、デジタル・コマースグループ ジェネラルマャー就任。2017年からビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を兼務。2018年5月、執行役員に就任。