【対談】物流から見る店舗の価値のあり方と、グローバルの競争で見た物流戦略の重要性 角井 亮一×山手 剛人(第3回)

2019.06.06 エキスパート

変革期にある小売業界。ECの普及によって、宅配や物流についての注目度も上がっています。今回は、物流の専門家である角井氏と、小売り・流通業界のアナリストの山手氏に対談をいただきました。メガネスーパーを含めて複数社のEC事業の急成長を牽引した“ECエバンジェリスト”川添 隆氏がファシリテーターを務めます。

これまで、増しつつある物流の重要度や小売りのデジタルシフトにおける課題等についてみてきました。それでは今後小売企業は物流を内製化すればよいのでしょうか。有識者としてソーシャルメディアNewsPicksのプロピッカーも務めるお二人に同じくプロピッカーの川添氏がお話を伺いました。

第3回では、ラストワンマイル、物流の内製化について伺います。

第2回 物流から見る店舗の価値のあり方と、グローバル競争で見る物流戦略の重要性 はこちら

「届ける」付加価値も変化していく。まだ課題の多いラストワンマイル

川添:コストセンターからチャネルの選択肢を広げる、または、国を超えてサービス提供するための物流などのお話がありました。小売業の変革期の中で、物流についてのとらえ方も変わってきていますね。

山手:いままでの物流のとらえ方は、メーカーの工場でつくられたものを一括して小売の卸物流センターやせいぜい店舗に分けて運ぶくらいのものでした。しかし、これからは違います、無数にいる出品者、無数にいる購入者を結ぶすさまじい数の物流が必要です。中国の若者はこうした物流領域にものすごいビジネスチャンスが眠っていると思っているでしょうね。

一方で、小売業界としてはお店に来てもらうということのハードルがどんどん上がっているように思います。ものを買いに行くというだけの理由で人が動くことはなくなってくるのではないでしょうか。このように購買体験が変化しています。

角井:定点観測するとアメリカのショッピングモールもどんどんリニューアルしています。店舗のあり方も変わりつつあります。

川添:ラストワンマイルについてはいかがですか。

山手:ラストワンマイルは、まだまだ解決しなければならない余地があります。接客は「届ける」仕事に少しずつ変わっていくのかもしれません。例えば、ショールームに販売員がたくさんいる必要はありません、少なくともレジ係はいらない。

今のラストワンマイルの業界は比較的仕事が単純ですが、例えば、「届ける」付加価値として、宅配業者がタキシードを着るなど、変わっていくのではないかと思います。

ZARAの先進的な物流の仕組みとオムニチャネルへの意識の高さ

川添:もうひとつ、盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)の話でもあがりました、店舗の役割の変化として、ZARAのように物流と店舗が一体化して店舗からすべて出荷するようになるかもしれないと思います。ZARAはECを除いては、各国に物流システムがあるわけではないので、出店していないエリアは本国から出荷していると聞いています。今後EC分も出荷をするとなると、倉庫を兼ねる店舗の在庫回転はさらに速くなりそうですよね。

一方で、日本のアパレル業界は、ディベロッパー依存度が高いため、契約部分をクリアする必要があったり、店舗人員の慢性的な不足に対して、さらに業務が増えてしまうことになるため、同じようなことをやるにはいくつかのハードルがあります。角井さんからみてZARAのモデルは成功しそうですか。

角井:ZARAは通販用に世界に物流拠点が20拠点あり、そこのセンターから出荷するほか、店舗から出荷もしていますね。2011年にはZARAのアプリをリリースしています。センセーショナルだったのは、店舗にないサイズはアプリを使えば注文できるんです。それを2011年から始めていて、彼らのオムニチャネルに対する意識のスピード感はすごいなと思いました。

店舗から出すことの採算は後付けだと思うんです。どこに在庫があるのか、どこから出せばいいのか。店舗から出すにしても、店舗で売れる商品を出しては機会損失になります。だったら遠いところから送ることもあっていい。Amazonではプライム会員は近くから早く届くけれども、プライム会員でないと遠くから日数をかけて来ることもあります。つまり、会員でない場合は、近くの物流センターに在庫があっても遠くからわざわざ出荷しています。この器用さはすごいですね。

物流に顧客満足の源泉がある。物流を他社に任せるリスクとは

川添:小売企業における今後の物流の取り組み方についてそれぞれのお考えをお聞かせください。

角井:このまま物流を他社任せにしているだけでは、送料が上がる、総量規制がかかるということが、今後も起こりえます。それを理解しないEC、小売企業が多い。

まずは再配達問題が解決すれば安定供給・安定価格が維持できるだろうと考え、私も参画している再配達ゼロアプリ「ウケトル」が生まれました。「ウケトル」を使えば、小売側が自動荷物追跡によって受け取るところまで管理でき、不在配達の確率も減らして顧客満足度を高めることができます。

オムニチャネルを考えるときは業態の発想になりがちですが、最後の受け取りまでのサプライチェーンについて顧客満足を最大にすることを考慮しないとなりません。到着日に受け取れない、宅配ボックスに入らない、ドライバーさんに再配達の連絡をしなければならないといった顧客のストレスまで考えている小売企業は基本的にありません。そして、物流を他社にまかせているからデータすら取れない。そこに顧客満足の源泉があるということをまだ理解していないのです。

山手:スーパーは自社のECを外注しています、店舗からの配送の形式が大半なのですが、ドライバーの対応が悪いと消費者から店舗に苦情がくることになります。ネットスーパーは自分たちのサービスの出口だという自覚はあると思うのですが、なかなか配送まで内製化できないので改善ができない。委託している業者さんに「お願いします」といっても難しい。

川添:ECはどこまで物流を内製化できるか。ECの人材不足も深刻ですけど、物流の人材不足も深刻です。

物流の内製化とシステム投資において、アパレルではビームスが投資しています。人手だけでなく戦略的に、ビームスのように投資してECと店舗向けの物流一緒にして、効率的に運用すればいいと先を考えて実行できる企業はなかなかいないようです。

容易ではない物流のマネジメント。物流の内製化における注意点

川添:私自身が、小売りやメーカーのEC・オムニチャネル領域のアドバイザーをしていて難しいと思うのは、内製化するとマネジメントが必要になる点です。物流のマネジメントが容易ではありません。そのため、既存の運用でも効率化できていないところが多い。さらに、B to B(店舗向け)のみに対応していたところに、Bto C(EC向け)の配送を加えるとなると、「顧客対応」の概念を植え付ける必要がでてきます。だから外注したほうが早いのではないかと考え、まかせたままというのがよくある話です。

そこでお伺いしたいですが、企業が物流の内製化を図ったとき、人材育成はできるものでしょうか。

角井:物流を自社でやることになると、一番困るのは労務管理です。物流と小売という職種は似ているようで違います。同じ組織では難しい。大切なのは工程の内製化というよりマネジメントできるかどうかです。

すべての工程が見えていれば外注するのはアリだと思うんです。

Amazonも配達しているのは別の配送業者です。ただ、彼らは全部KPIを把握して見ている。KPI管理ができているところとできていないECサイトを比べると全く効率が違いますね。

物流の中身をわかっていない、まったく見えていないのは危険です。物流の自前化と言っていますが、すべて自分のところでやるのではなく、自分の責任で回すことができればいいと考えています。

コメント

川添:話題にも登場したZARAは、先日、次期CEOを発表しました。その役割を担うのは、デジタル戦略とサステナビリティを推進してきたCarlos Crespo氏です。デジタル戦略にもサステナビリティに向けた取り組みの裏側には、強固な物流があり、そこもさらに注力していくというメッセージだと捉えています。

ECと宅配クライシスの関係のように物流を含めて持続可能にしていくことは重要なトピックスですが、それぞれの小売り企業の社内が持続可能な状態にする鍵をにぎっているのは、まさに物流ではないでしょうか。

顧客のニーズが細分化し、きめ細かい応対が求められる中で、商品の多品種化とチャネルの多様化はより進んでいくでしょう。各社の物流はどこかのタイミングで限界をむかえることは、今からでも予測は可能です。

最後に角井さんがおっしゃっていますが、自身で物流を理解をして、外部のパートナーと組みながら自分の責任で回す体制を構築することが、ビジネスとして合理的かつ持続可能な状態に近づくのではないかと感じます。

 

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

角井 亮一:株式会社イー・ロジット代表取締役社長 兼 チーフコンサルタント。1968年生まれ。上智大学経済学部経済学科を、3年で単位取得終了し、渡米。ゴールデンゲート大学マーケティング専攻でMBA取得。帰国後、船井総合研究所に入社し、小売業へのコンサルティングを行い、1996年にはネット通販参入セミナーを開催した。その後、光輝物流に入社し、物流コンサルティングを実施。2000年、株式会社イー・ロジットを設立し、代表取締役に就任。イー・ロジットは、現在300社以上から通販物流を受託する国内ナンバーワンの通販専門物流代行会社であり、200社の会員企業を中心とした物流人材教育研修や物流コンサルティングを行っている。また、ライトヴァンというアーティストグッズ販売やファンクラブ運営を行う会社を経営。2015年、再配達を撲滅するための生活アプリを開発するウケトルを立ち上げ。タイではSHIPPOPという物流IT企業をタイ最大のネット通販会社Tarad.com創業者のPawoot (Pom) Pongvitayapanuと共同で立ち上げた。「すごい物流戦略」「アマゾンと物流大戦争」など29冊(米国、中国、台湾、韓国、越南、日本)出版。

山手 剛人:フロンティア・マネジメント株式会社 シニア・アナリスト 産業調査部。1999年にウォーバーグ・ディロン・リード証券会社(現UBS証券会社)に入社。2003年に同社株式調査部で小売セクター担当のシニア・アナリストに就任。2010年にクレディ・スイス証券会社に移籍。小売セクター担当のアナリストと消費関連産業の調査グループリーダーを兼務。2017年にフロンティア・マネジメント㈱に入社。UBS証券会社では2002年に史上最年少でシニア・アナリスト(食品、消費財セクター担当)に就任。 日経ヴェリタス「人気アナリストランキング」では継続的に上位にランクイン(最高順位は2010年の総合小売セクターで2位)。

川添 隆:販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志し当時サイバーエージェントグループだったクラウンジュエル(現ZOZOUSED)へ。ささげ業務(ECサイトで販売する商品の情報制作業務)から企画、PR、営業まで携わり2010年にクレッジ(現オルケス)に転じ、EC事業の責任者として自社サイトの売上を2倍以上、EC全体を2年で2倍に拡大。LINEを活用した事例でも成功を収める。2013年、メガネスーパー入社、デジタル・コマースグループ ジェネラルマャー就任。2017年からビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を兼務。2018年5月、執行役員に就任。