大容量・高速通信の波が宇宙にも到来。世界最先端の衛星バス技術の開発を 三菱電機株式会社 小山 浩(前編)

2019.06.05 エキスパート

2018年11月、日本版GPSと言われる準天頂衛星システム「みちびき」が本格的に運用を開始しました。これまで打ち上げた衛星を合わせて4機体制が整い、24時間サービスが可能となります。みちびきによるデータを活用した、ドローンの自動運行、スマート農業のような様々な実証が開始されています。このみちびきの衛星システムの設計・製造を担当したのが三菱電機です。

宇宙開発および宇宙ビジネスの展望について、三菱電機株式会社 電子システム事業本部 役員技監の小山 浩氏にミーミル代表の川口荘史が伺いました。

 

鎌倉製作所にて宇宙ロボット、ランデブ宇宙機の開発、国際協力プロジェクトを経験、本社にて宇宙利用推進へ

川口荘史(以下、川口) 三菱電機において宇宙戦略はどのような位置づけなのでしょうか。また小山さんはこれまでどのように宇宙事業に関わってきたのでしょうか。

小山 浩(以下、小山) 宇宙は成長戦略のひとつです。国においても宇宙システムの開発は成長の原動力の一つとして位置づけられていますが、弊社でも同様です。

宇宙関連の工場は、人工衛星を製造する鎌倉製作所、地上局から司令を送ったりモニタしたりする衛星管制システムを製造する通信機製作所(尼崎市)が主力工場となっており、先端技術総合研究所(尼崎市)、情報技術総合研究所(大船市)等の研究所と連携しながら開発を進めています。

私は1987年に入社しました。はじめに配属されたのは鎌倉製作所で、当時米国で精力的に開発が進められていた、地上から遠隔操作でさまざまな作業を行うことができる宇宙ロボットの開発に携わりました。

並行して、宇宙ステーション等に補給機が近づき物資を補給、回収することを可能とするランデブ・ドッキング技術の開発にも携わりました。特に、HTV(宇宙ステーション補給機、H-II Transfer Vehicle)プロジェクトにおいてはNASA、ヨーロッパの宇宙機関など外部とのやりとりも数多く経験させて頂きました。

その後、衛星技術部門のマネージメントにも携わり、9年ほど前に本社に移り、宇宙利用の推進活動等を重点的に行っています。

川口 三菱電機での宇宙分野の取り組みについて教えてください。

小山 宇宙分野は通信衛星、測位衛星、観測衛星、そしてこれらを支える地上システムが柱となっています。三菱電機もこれらを宇宙ビジネスの核としています。中でも標準衛星バスとして確立しているのが「DS2000」。約30メートル(含、太陽電池パドル)✕約6メートルサイズの静止衛星バスで、この標準衛星バスに目的に応じ衛星通信機器、測位信号機器、気象センサなどが搭載されます。毎回新しいものを開発するのは大変ですので、これを標準とした上でお客様のご要望に応じてカスタマイズしています。

弊社の宇宙開発事業は30年以上の歴史があり、これ迄に500以上の海外プログラムに参加しています。衛星開発の場合、機器や部品などを含めると多くの企業が参画しますが、「主契約者」という取りまとめ役になることが重要です。弊社はこれ迄、60機以上の衛星を主契約者としてまとめています。

川口 静止衛星の多くは「DS2000」の規模のものが使われるということでしょうか。

小山 そうですね。「DS2000」には大・中・小とありますが、だいたいこの範囲でカバー可能です。このDS2000シリーズは、静止衛星の他、準天頂衛星にも活用されています。静止衛星は静止軌道と呼ばれる赤道上空約36,000キロを飛んでいます。準天頂衛星は準天頂軌道と呼ばれる軌道を飛行しています。準天頂軌道は赤道に対して軌道を傾け、日本上空の滞在時間をできるだけ長くするように工夫された軌道で、日本での衛星測位利用に適した軌道となっています。

また、参考までに申し上げますと観測衛星は赤道に対して縦回りの太陽同期軌道と呼ばれる軌道を飛行し、自転している地球を輪切り状に周回し、全球観測を行うことができます。観測衛星は500〜900キロ程度の高度を飛行しています。国際宇宙ステーションは約400キロ上空を飛行しています。

 

トルコ、シンガポール、カタール……衛星の受注先でも新興国が台頭

川口 日本でも衛星を手掛けているベンチャー企業も出てきていますが、現在の衛星市場についてどのようにみられているでしょうか。

小山 ビジネスの主流として市場が確立しているのは商用通信衛星ですが、観測衛星を狙っている企業も多いですね。商用通信衛星市場は年間20〜25機で推移しています。シェアの大半を占めるのは欧米です、アメリカは防衛用の開発で培った技術を民転し活用しています、ヨーロッパも国際市場で競争力を有するための開発・実証を積極的に行っており競争が厳しい。

日本も国際競争力強化に向けた取り組みが必要だということで官民連携体制を確立し、国による研究開発とシステムとしての軌道実証を行って頂いています。その上で民間努力が更に必要となります。

川口 民間努力とはどのようなものでしょうか。

小山 例えば自社工場・試験設備を持っていないと「自在性がない」と判断されてしまう。先ほど申しあげたDS2000のような標準化した衛星の確立、低廉な打ち上げの保険の獲得等の活動も民間努力として必要となります。

ここで、最初の一機は政府で研究開発・実証を行って頂くことが不可欠です。衛星の製造・打ち上げ・実証を行うためには、1機当たり数百億の費用が必要となります。

開発のリスクも高く、どの国も最初の1機は政府が作り、その技術を使って民間用の製品を作ってビジネスにしています。近年はパッケージタイプとしてキャパシティビルディングや宇宙機関等の支援を含めたビジネスを展開していく流れもあります。

川口 日本における国際競争力強化のお話がありましたが、三菱電機ではどのような国から受注していますか。近年は新興国からの受注も増えているのでしょうか。

小山 日本企業として初めて商用衛星を受注した衛星は、1999年にオーストラリアから受注した通信衛星「OPTUS-C1」ですが、これはDS2000が開発中だったため、海外製のバスを使っています。

日本初の国産商用衛星システムは、スカパーJSAT株式会社が保有・運用する「スーパーバードC2」で、2005年に三菱電機が国際競争入札を勝ち抜き受注しました。

2008年にはシンガポール・テレコムと台湾の中華電信が共同所有する通信衛星「ST-2」を受注。2011年にはトルコの国営衛星通信会社から2機の通信衛星「TURKSAT-4A/4B」、同年カタールの国営衛星通信事業者であるEs’hailSat(エスヘイルサット)社から「Es’hail 2」を受注しました。宇宙新興国の台頭は目覚ましいですね。

宇宙ビジネスの場合、上空で実際に稼働した実績が調達前提となります。2005年に「スーパーバードC2」を受注し、翌2006年に「ひまわり7号」、JAXAの技術試験衛星VIII型「きく8号」が打ち上げられ、十分軌道上で稼働した実績が認められ、商用衛星の入札に参加できるようになりました。

こうした衛星システム全体の販売する他に、衛星に載せるコンポーネントの販売も行っています。太陽電池パネルは世界シェア40〜50%、リチウムイオンバッテリーは世界シェア35%、ヒートパイプパネルは世界シェア30%を誇っています。

川口 コンポーネントでは高いシェアです。衛星用だと太陽光パネルも通常のものとは違うのですね。

小山 衛星用のパネルは軽量化が必要な上に、確実に宇宙で展開する必要があり、技術的に難易度の高い製品です。しかも15〜30年間、宇宙の過酷な環境下で壊れることなくしっかりと稼働しなければなりません。衛星システムのレベルでは海外の衛星メーカーがライバルですが、こうした衛星に搭載するコンポーネントについては各社お互い得意なところを相互調達しています。

川口 ちなみに三菱電機の衛星自体のグローバルでのシェアはどのくらいでしょうか。

小山 衛星自体は数%程度です。海外を含めると年間何百機と人工衛星が打ち上げられていますが、そのうち5〜7機が毎年国内で打ち上げられています。

これには歴史的な背景があります。1980年代、日米貿易摩擦の流れで、半導体部品やコンピュータ、航空宇宙などのハイテク分野においても日米ハイテク摩擦が起きました。中でも通信衛星とスーパーコンピュータは「スーパー301条」の適用対象となり、改善措置が求められました。この結果、「実用衛星」は公開調達となり、既に技術的格差のあった日本の衛星は海外に勝てなくなってしまった経緯があります。

2008年に「宇宙基本法」が策定され、改めて産業振興の必要性が重視されました。再び実用に向けたビジネスが始まったというところです。

今後訪れるビジネス機会、衛星によるビッグデータがクラウド上で利用可能に

川口 近年は衛星ビジネスでどのようなトピックが注目されていますか。

小山 地上で起きた大容量・高速通信の波が宇宙にも波及しており、動画像を含めた大容量・高速通信の需要が高まっています。

2017年、三菱電機はJAXAから15年ぶりの技術試験衛星「技術試験衛星Ⅸ号機」のプライムメーカーに選定され、通信の高速大容量化に対応した世界最先端の衛星バス技術開発に着手しました。今後の商用衛星市場獲得に向けた開発を行っているところです。

また、観測衛星は、利用形態が今後大きく変わりそうな分野として注目されています。これまでは地球表面の地表観測や安全保障を目的とするミッションが主流でした。地球全体を長期的、網羅的に見ることができるので、三菱電機では「ひまわり」などの気象衛星のほか、温室効果ガスである二酸化炭素とメタンの濃度を観測する「GOSAT」(2009年に打ち上げ)を開発しています。

地図基礎データとしてその観測データが活用される光学観測衛星は、世界中で分解能が上がっています。現在、先進光学衛星を開発中ですが、完成すれば80センチの分解能で、数十キロ幅の地上を撮影することができ、災害状況の把握などにおいて威力を発揮します。レーダー衛星は、電波を発射して反射された電波をもとに地上の様子を観測するもの。光学カメラでは天気が悪い日や夜間は見えませんが、電波の場合、昼夜天気に関係無く観測可能です。地面の動きも細かくわかりますので、震災後、地面がどれだけずれたか把握することもできます。

川口 観測衛星について、長期的網羅的に非常に多くのデータが取得できるようになったのですね。

小山 さらに、これまでは観測したデータや画像を取得して終わりでしたが、新しい動きが出てきました。海外も含めての動きですが、観測したデータをクラウド上に一元化し、次々と保存していこうという動きです。これにより衛星により取得された観測画像というビッグデータがクラウド上で利用可能になります。これをAIによってデータ解析をすれば、ベンチャーを含め、ビジネスに生かすことができます。すでに、アメリカでは石油の備蓄量、各スーパーマーケットの駐車台数、中国の製造業指数(新しい建造物や工業の稼働状況等)などを提供するビジネスが始まっています。

日本でもビッグデータ一元化の動きが始まっています。これが可能になれば、蓄積された観測衛星画像の利用に対し、次の可能性が出て来るのではないかと思います。

川口 注目されている宇宙のビッグデータ活用ですね。様々な情報がオープンになっていきますが、防衛情報につながるものなど、情報の取り扱いについてはどのようになっているのでしょうか。

小山 リモートセンシング法という法律が最近制定されました。観測衛星画像の取扱いに関しては、この法律に指針に従うことになります。

川口 ベンチャー企業も小型衛星を打ち上げていくと思います。その中での三菱電機の衛星の役割、時間分解能と空間分解能、どちらを高めていく方向に行っていますか。

小山 両方の要素が重要と考えています。ベンチャー企業が小型衛星コンステレーションを打ち上げることにより、時間分解能を補うことが可能となります。時間分解能が高い小型衛星がデータの変化を捉え、空間分解能の高い中・大型衛星がその詳細を見に行く、と役割分担しコラボレーションする流れを期待しています。

三菱電機も、ベンチャーとコラボレーションする可能性はあります。小型観測衛星の製造、蓄積されたデータの処理、利用のノウハウ等、お互いの知見、特徴を生かしたコラボレーションを行うことにより、新たなビジネスチャンスが得られると考えています。

後編 3次元地図で拓く宇宙システム利用の可能性 三菱電機株式会社 小山 浩(後編)に続く

インタビュー:川口荘史

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

 

プロフィール

小山浩: 三菱電機株式会社 電子システム事業本部 役員技監。東京大学工学部航空学科(宇宙工学専修)修了後(博士課程)、三菱電機株式会社に入社。同社、鎌倉製作所にて技術試験衛星VII型(おりひめ・ひこぼし)ランデブ・ドッキングシステムの開発、宇宙ステーション補給機(HTV)ランデブシステム・地上システムの開発・運用等に従事され、その後、衛星システム部門、衛星技術部門のマネージメントを経て、本社にて宇宙システム事業部 副事業部長、技師長を歴任。