3次元地図で拓く宇宙システム利用の可能性 三菱電機株式会社 小山 浩(後編)

2019.06.06 エキスパート

ベンチャー企業も多数参入するなか、日本の衛星開発を牽引してきた三菱電機は今後どのような取り組みを行っていくのだろうか。

三菱電機株式会社 電子システム事業本部 役員技監の小山 浩氏にミーミル代表の川口荘史が伺いました。

大容量・高速通信の波が宇宙にも到来。世界最先端の衛星バス技術の開発を 三菱電機株式会社 小山 浩(前編) はこちら

準天頂衛星4機体制ならセンチオーダーで位置がわかる

川口荘史(以下、川口) これまで通信衛星、観測衛星のトピックスについて伺いましたが、測位衛星についてはどのような点が注目されていますか。

小山 浩(以下、小山) 海外ではGPSを筆頭に測位衛星が複数整備されていますが、日本でも2018年11月に準天頂衛星システム「みちびき」(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)が運用を開始し、準天頂衛星の4機体制が整いました。これは日本を中心としたローカルな地域限定の衛星測位システムとなっています。

GPSやロシア、ヨーロッパの測位衛星はもともと軍用で、世界中で位置情報を提供するシステム。全世界での利用に対応しようとすると衛星が30機ほど必要になりますが、日本は地域限定のシステムですから4機で24時間サービスを提供できます。前述したように、準天頂軌道は赤道に対して軌道を傾けた軌道になっていることがポイント。これが地球の自転と重なると、日本を中心に八の字の形の軌道を描くことになり、次々に衛星が飛んでくることで、3機あれば、必ず日本の上空にいずれかの衛星があることになります。内閣府は今後7機体制を考えており、東京都内であれば真上に常時1〜2機あることなります。

ところで、測位衛星は往々にしてビルの陰などに隠れてしまうことがあります。都心でカーナビを使おうとすると、測位衛星が上空に3〜4機必要となります。準天頂衛星は天頂付近に常時1~2機見えることになりますので、測位の安定性に寄与することになります。

準天頂衛星のもうひとつの大きな機能が測位補強です。GPSは世界中まんべんなく位置がわかりますが、平均的な位置精度は10メートル程度です。準天頂衛星の測位補強サービスは、ずれている量を正しい値に直すための情報を送信しています。2018年から始まったサービス「CLAS(Cm Level Augmentation Service:cm級測位補強サービス)」は、日本中どこを歩いていてもオープンスカイ下では平均的にセンチオーダーの単位で位置がわかります。準天頂衛星は世界中でサービスを提供できるわけではないですが、特定の地域に合った補正をかけやすいのです。

川口 どのような分野に利用される見通しですか。

小山 使用が予想される分野は、自動走行、鉄道運行管理、農業機器、建設機器など、その他いろいろ想定されています。

自動走行では、走りながらセンチ単位で位置がわかりますと、レーン単位での制御が可能となります。受信条件がよければカメラやセンサを使わず、地図と準天頂衛星の情報だけで走ることも可能となります。社内では、雪道を地図と準天頂衛星の情報だけで走る実証実験も行っています。自動走行の方式は複数あり、準天頂衛星による測位情報利用もその方法のひとつです。カメラや他のセンサなどと組み合わせる方式も検討されています。

また、鉄道分野においても、準天頂衛星の利用が検討されています。列車は衝突を防止するために信号機と信号機の間は1列車しか走行できないようになっています。このため、たくさん列車を走らせたい場合は信号機を数多く設置しなければならず設置やメンテナンスがたいへんです。列車の位置を準天頂衛星からの情報によって正確に運転手に知らせることで、将来的に信号機をなくそうという計画が検討されています。

また、GPSでは誤差があるために引き込み線上の列車位置を把握することはできませんが、準天頂衛星であれば正確にわかります。JR東日本による精度の評価実験が行われています。

農業分野においては、農業人口減少と高齢化の問題を解消するため、トラクタ、田植機、コンバインなどの農機をロボット化する研究を北海道大学が行っています。作物の植え方には種類によって最適な間隔が決まっており、それより狭くすると育ちが悪く、大きくすると効率が悪い。準天頂衛星からの位置情報があれば、畝を踏み荒らすことなくセンチ単位で農機をコントロールすることが可能となります。

その他、段差のある道などを高齢者に知らせたり、目的地のドアの前まで行けるドア・ツー・ドアのガイダンスなどが検討されています。

 

自動走行にも3次元地図を利用、ダイナミックマップの取り組み

川口 センチ単位で位置がわかると、利用領域は幅広いですね。

小山 地図もこれ迄は三脚を付けた測量機をのぞきながら作成することが主流でしたが、最近では専用の車を走らせることで地図作成が可能です。モバイルマッピングシステムと呼ばれています。

車の上に高精度な衛星測位受信機と、レーザーを照射するレーザースキャナーとカメラを搭載し、レーザーを高速で振りながら道を走りますと、記録されたレーザーの点のひとつひとつが地図上の各点のXYZ値を示し、これを基に、3次元地図をつくることができます。

この仕組みを応用して自動走行用の3次元地図(ダイナミックマップ)を作成する試みがあります。ダイナミックマップは3次元地図が基底にあり、その上に1時間ごとに情報を更新する交通規制情報、道路工事情報、1分ごとに更新する事故情報や渋滞情報、さらに1秒ごとに更新する信号情報、周辺車両や歩行者情報などを積み重ねたものとなります。この地図を作成、維持、提供するための会社「ダイナミックマップ基盤株式会社」を、大手地図メーカーや自動車メーカーと共同出資し、弊社がまとめ役となって2016年に設立しました。ダイナミックマップを作ろうとすると一社では作成、更新が間に合いません。そこで競争ではなく各社みんなで協力しましょうと、協調領域と競争領域という新たな考え方が生まれました。

また、この地図の利用法のひとつにインフラ管理があります。たとえば、トンネルの壁面が落下する事故を防ぐため、前述したレーザーを照射する車で走り、しばらくしてまた走り、差を記録すると、どの部分が変形しているのか、高い精度で場所を特定することができます。また、災害の事前事後に3次元地図データを取ると、どこにどれだけ土砂がたまっているのかがわかります。これらの情報を復興計画に利用しようという話もあります。

小山 高精度測位と地図を使って何ができるかはアイデア勝負です。政府では5年ごとに改定されている科学技術基本法の第5期(2016年度〜2020年度)において「Society 5.0」を提唱。3次元地図や衛星情報などの基盤データにAI、ビッグデータ処理を結びつけ、さまざまな利用ができるのではないかと考えています。産業競争力懇談会(COCN)においても、民間20数社が参加して、3次元位置情報を用いたサービスと共通基盤整備、防災への利用など取り組みの検討を行いました。ダイナミックマップ基盤株式会社の海外展開、海外の地図メーカーとの連携も想定されます。

川口 海外では日本のこのような取り組みはまだないということですか。

小山 まだありません。日本の場合、準天頂衛星から発信している情報は政府が無償でインフラとして提供しようとしています。こういった例は他にありません。

ところで、自動走行への利用を考えた場合、高精度測位情報を日本だけでなく、海外でも利用できることが必要となります。このため、ドイツのBosch(ボッシュ)と測位メーカーGeo++(ゲオプラスプラス)、三菱電機、スイスの自動車チップメーカーu-blox(ユーブロックス)の4社で、マスマーケット向け高精度測位サービスを行う合弁会社としてSapcorda Services社(サプコルダサービス)を立ち上げました。

 

スマートモビリティなど、測位データ利用の可能性

川口 通信、測位、観測のうち小山さんが個人的に注目している領域は?

小山 測位関連です。3次元地図利用、高精度測位利用、観測のビッグデータ利用と、これまでにない動きがありますし、当社としても、これらはコアの技術となっています。応用領域において注目しているのは、自動車に限らずドローンなども含めて移動体すべてを対象にしたスマートモビリティです。

川口 こういった測位情報の応用について、御社ではどういった体制で担当されているのでしょうか。

小山 電子システム事業本部のなかにいくつか部門があり、宇宙関係は宇宙システム事業部、測位の利用は高精度測位情報事業推進部が担当しており、両者の連携により利用を推進致します。

小型衛星の競争は激化、大手衛星メーカーとしての今後の取り組み

川口 小山さんのもとには外部企業から沢山の宇宙関連のご相談が寄せられていると思います。近年の宇宙産業の盛り上がりを受け、そうした相談や依頼の内容に変化はあるでしょうか。

小山 そうですね。ベンチャー企業の方や事業会社さんともお話させていただいています。ここ数年、小型の衛星コンストレーションが出てきたあたりから、状況が急速に変わってきています。観測通信においてビッグデータやAIを使った新たなソリューションが生まれたり、通信衛星への小型衛星活用が進展しつつあります。

かつて通信衛星は何機……という規模でしたが、小型衛星では数百機、数千機とケタが違う話になっています。

川口 三菱電機で小型衛星を作る可能性もありますか。

小山 それはこれからの課題です。ワンウェブというアメリカのベンチャー企業が打ち上げている小型衛星は、大手のエアバスが製造しました。観測でいうと、観測衛星画像販売の新興企業・プラネットが買収したスカイボックスの衛星をつくっているのはSSLというカナダの大手衛星メーカーです。ベンチャー企業がコンソーシアムを組んで事業創出をし、量産は大手が引き受けるというケースもここ数年の動きとして出てきていますね。

川口 取引をしている会社に変化はありますか。

小山 通信衛星の場合は商用通信オペレーターが多く、通信料の低減が大命題です。そういう意味ではお客様のご要望に変化はあまりありません。

その通信手段にいろいろなバリエーションが出てきているということです。

小型衛星コンステレーションで低廉な通信サービスが提供できるのであれば、そちらが選択されることになります。競争は激化しています。

川口 御社の目標は2020年までに衛星の売上規模トップ5、2021年度には売上高1,500億円とされています。

小山 このためには、海外への販売と利用も含めた成長が不可欠です。これからは宇宙ビジネスは変わり目となります。

海外の通信衛星システム、小型衛星システム、観測衛星データ利用、測位データ利用等の状況を見据え、今後の方向性を決めることが重要と考えています。

インタビュー:川口荘史

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

 

プロフィール

小山浩: 三菱電機株式会社 電子システム事業本部 役員技監。東京大学工学部航空学科(宇宙工学専修)修了後(博士課程)、三菱電機株式会社に入社。同社、鎌倉製作所にて技術試験衛星VII型(おりひめ・ひこぼし)ランデブ・ドッキングシステムの開発、宇宙ステーション補給機(HTV)ランデブシステム・地上システムの開発・運用等に従事され、その後、衛星システム部門、衛星技術部門のマネージメントを経て、本社にて宇宙システム事業部 副事業部長、技師長を歴任。