【5Gにおける新規ビジネス】5G端末への買替促進にはインパクトのある商品開発が不可欠 サイバーエージェント常務取締役 小池政秀

2020.08.14 エキスパート

2020年の5G商用サービス開始に向けた準備が進められています。5Gは超高速・大容量、多端末同時接続、低遅延と言う今までの移動通信サービスになかった特徴により、通信業界のみならず社会全体を変えるインフラになると期待されています。その一方で、「5Gの特徴を活かせるキラーアプリやキラーコンテンツ」がないとの声があり、産業界や社会に与えるインパクトが疑問視されています。
そんな中で、5Gサービス市場での成長が有望視されている分野が動画配信、スポーツ中継、音楽ライブ中継、オンラインゲームなどのエンターテインメント分野と言われています。
そこで今回は、テレビ&ビデオエンターテインメント「ABEMA」を運営するサイバーエージェントの小池政秀常務取締役に、5G時代における新しいエンターテインメント事業創出の可能性についてお話を伺いました。

 

狙い撃ちの5G事業は成功しない

―― 貴社では5Gの事業領域としてどの領域を注目されているのでしょうか。

小池常務(以下、小池) 弊社ではすべての事業領域を注目しています。

インターネットがあらゆる産業でそれぞれのイノベーションを巻き起こす手段になったように、弊社では5Gもあらゆる産業で新たなイノベーションを巻き起こす手段になる可能性があると見ています。

したがって、「5Gならこの事業領域」と言った狙い撃ちではなく、現在は俯瞰的にすべての事業領域の動向に目を光らせている状態です。

5Gはまだその用途が模索段階ですので、そのインパクトについてはいろいろな意見が飛び交っています。
しかし、5G商用サービスが開始され、「5Gを感じさせない」、 すなわち「5Gは空気のようなもの。あって当たり前」と言う状況まで普及した時、あらゆる産業の在り方やビジネスモデルが変わってくるのは必然だと考えています。私は5Gにはそれだけのインパクトがあると見ています。

―― では5Gを活用して新しいビジネスを創出する際、どんな視点が重要でしょうか。

小池 18世紀後半の産業革命以降、いつの時代もそうですが、新しいテクノロジーを活用して新しいビジネスを創出する際、私たちは「早くても駄目、遅くても駄目」の経験則があります。

5Gを活用した新しいビジネスにおいても、あらゆる事態を想定したビジネスモデルを準備しつつも、それを市場に投入するタイミングの見極めが何よりも重要だと思います。

5Gの活用でどんな画期的な商品を開発しても、適切なタイミングで市場に投入し、浸透させないと、お客様に受け入れていただくスビートが変わってくると思います。

弊社はインターネット広告事業からスタートし、そこからメディア事業、ゲーム事業、インターネット動画事業へとインターネット関連事業の幅を広げていきましたが、いずれもスクラップ&ビルドで新サービスを起ち上げ、事業拡大を続けてきました。

弊社の経験則で申し上げますと、1発で新サービスが成功することはまずありません。2発、3発と失敗を繰り返し、そこから失敗の真の原因を探り出し、その学習効果で成功してきたと言っても過言ではありません。

したがって、5G活用の新ビジネスを創出する際も、1発・2発目は失敗、3発目か4発目でやっと成功といった覚悟でやらなければと思っています。

 

5G向けエンターテインメント事業はアイデア勝負

 

―― 5G活用のエンターテインメント市場においては、どのようなプレイヤーが優位性を持つと考えておられますか。

小池 エンターテインメント事業はコンテンツが命ですので、やはりコンテンツの根源であるIP(知的財産)と、それを提供するプラットフォームの両方を持っているプレイヤーが優位だと思います。

プラットフォーマーは、コンテンツ事業者が開発したコンテンツを買い集めて市場に供給するだけの役割を果たしているだけでは競合との差別化ができません。したがって自社でIPを持ち、オリジナルコンテンツも制作する必要があります。

したがって5Gにおいても、やはりIPを豊富に持っていて、プラットフォームも持っているプレイヤーが優位になると思います。

コンテンツの買い物合戦でプラットフォーマが勝てる時代はすでに終わっていますから。

―― 5G活用のエンターテインメント市場においては、ユーザニーズにフィットしたコンテンツをどれだけたくさん制作し、提供できるかの競争になるのでしょうか。

小池 それもありますが、コンテンツのメニューをいかに豊富に提供できるかがポイントになると思います。

現在のテレビメニューは映画、テレビドラマ、スポーツ中継、バラエティ、ドキュメンタリーと言う形で、固定的なパッケージでどのテレビ局も放映しています。

しかしネットフリックスのようにオンラインDVDレンタルサービスをするようなプレイヤーが表れて、封切り映画・映画館未公開作品だけではなく、オリジナルのドラマ・ドキュメンタリーなどをスマートフォンで視聴ができるようになりました。その結果テレビで放送される映画やドラマの視聴率にも影響がでるようになりました。

この事実からも推測できるように、これからはコンテンツ提供のフレームワークのアイデア競争にもなるのではないでしょうか。

 

5Gの普及はマイノリティの5Gユーザをいかに早くマジョリティ化するかにかかっている

―― 御社では4Gから5Gへの切替え時期はいつ頃になると見ているのでしょうか。

小池 4Gから5Gへの切替え時期は、やはり5Gがどれだけ世の中に浸透するのかで決まってくると思います。

これについては5Gに関する市場予測レポートが発表されるたびに目を通しているのですが、5年経っても5G普及率は30%だ、いや5年後には50%を超えるとか、予測結果は様々です。

―― 市場予測調査は調査目的、質問設定、サンプルの属性などで結果は大きく異なりますからね。

小池 結局のところ、現時点では5Gの的確な普及率は誰も予測できない訳で、切替え時期が何時になるかは分からないということではないでしょうか。

また5Gへの切替え時期については、端末の買替が大きく影響すると思います。

現在、私たちが使っている4Gのスマートフォンなどで5Gサービスは利用できないと言われていますから、端末を買い替える必要がありますよね。

ところが、端末の買替需要自体が現在は低下しています。そんな中で5Gサービスの基地局だけが林立しても、5Gへの切替えは進まないでしょう。

そうすると4G端末を使っているユーザがマジョリティである時代に、マイノリティである5G端末向けコンテンツやサービスを先行して提供する事業者がどれだけ現れるのだろうかとの問題もあります。

―― ユーザの5G端末買替需要を刺激するためには、やはり何らかのインパクトが重要になってきますね。

小池 おっしゃる通りだと思います。

そのためには、ユーザを強烈に刺激するコンテンツやサービスが必要だと思います。

―― 貴社 が提供されているeスポーツが、その刺激剤の1つになると思いますか。

小池 まだ断定はできませんが、その可能性はあると思います。

―― 5Gは4Gよりタイムラグがさらに縮小するので、オンラインゲームのリアル感が4Gより格段と高まります。ですから、5Gでオンラインゲームを楽しみたいとのニーズが強いと聞いています。オンラインゲームの中でもeスポーツは特にこのニーズにフィットするのではないでしょうか。

小池 eスポーツは、ニュースなどで報道されているような大会形式だけでなく、個人対個人のオンラインゲームで、スポーツゲームなので、レスポンスタイムをいかにして縮めるかが重要になります。

5Gを活用すれば今の技術でも4Gよりレスポンスタイムをかなり縮められる可能性が高いので、5G端末が普及すればeスポーツが現在以上に盛り上がってくるのは間違いがないと思います。その意味でeスポーツはユーザの端末買替需要を刺激するコンテンツの1つになる可能性があると思います。

 

5G事業の社会浸透には提供側の「血沸き肉躍る」ワクワク感が重要

 

―― 「5Gでこんな世界になったらいいな」と考える世界は、どのような世界でしょうか。

小池 5G活用により新規、既存含めた事業がさらに活性化され進化することですね。

インターネットは世界中の情報が集約され、いつでもどこでも自由に目的の情報にアクセスできる「情報革命」により世界を変えました。その最初のワクワク感を、私は通信自由化元年の35年前に体験しました。

このワクワク感が5Gでさらに刺激され、発展することで、既存産業で新しいイノベーションや新しい産業が生まれる速度が上がるといいなと思っています。

反面、企業の生存競争が激しくなる訳ですが、様々なビジネスチャンスが生まれてくるので、ビジネス環境として刺激的な状況になると思います。

私はアパレル業界の仕事から社会人人生がスタートし、アパレルの仕事に携わりながら様々なIT企業経営者の著書を読み漁って「情報革命は凄い、ICT革命は凄い、イノベーションで社会はこんなに変わるんだ」とITCの門外漢ながら興奮しながら20年前にこの業界に飛び込んできました。そしてこの20年間は本当にワクワクする刺激的な毎日でした。

私は現在エンターテインメント事業に携わっていますが、事業領域に関わらずより大きなスケールの事業に作り上げてゆくプロセス、換言すれば新しい事業を発展させる仕事に今後も携わり続けたいと思っています。

5Gで「さらにワクワクする事業を育成できればいいな」と思っています。

―― 本日は貴重なお話を賜り、ありがとうございました。

 

記事作成ː 福井 晋

 

 

小池政秀

サイバーエージェント常務取締役