【EdTechオピニオン】有識者7名に聞く、EdTechは教育の未来をどう変える? 

2019.11.27 エキスパート

変化・複雑性・相互依存の強まる世界の中で、課題先進国である日本においては、創造的な課題発見・解決力がより一層求められています。文部科学省が告示した 2020 年代の新・学習指導要領では、「教科(系統)主義」と「経験主義」の二分論を越えて、その両立を目指すものとなっています。経済産業省の「未来の教室」と EdTech 研究会の第1次提言では、EdTech を用いた民間教育発の教育イノベーションを公教育の現場に取り入れることや、産業界や地域社会等が教育への当事者意識を高め、教育現場に参画を進めることの必要性も説かれています。

ミーミルでは、EdTechにとりくむ、民間教育現場やサービス提供者などの有識者の皆様に、今後の展望や課題等についてご見解を伺いました。

エキスパート(順不同)

  • 林 良司:日本電気株式会社 執行役員
  • 小澤 尚登:学校法人駿河台学園 EdTech事業担当 部長代理
  • 川島 慶:株式会社花まるラボ 代表取締役
  • 仙波敦子:株式会社Zeals HR・PR責任者。元株式会社ドワンゴ教育事業本部キャンパス運営部部長・角川ドワンゴ学園N高等学校拠点運営部部長
  • 為田 裕行:フューチャーインスティテュート 代表取締役社長、ICT CONNECT 21 EdTech推進SWGサブリーダー
  • 稲田大輔:atama plus株式会社 代表取締役
  • 山田未知之 「月刊私塾界」発行人兼編集長 代表取締役社長

 

トピック

  1. EdTechは日本の教育を変えるのか?
  2. EdTech普及の鍵は?
  3. 注目のEdTech先進事例は?
  4. EdTechの未来をどう見る?

 

EdTechは日本の教育を変えるのか?

>>テクノロジーの進化と先生方の熱意が融合する時代の到来

アダプティブラーニングによる学びの個別最適化の実現は、これまで先生方がやりたくても実現できなかった、一人ひとりに合わせた学びを提供することを可能にする。これまで環境上の制約で一斉指導しかできなかった先生が、EdTechによって支えられて、より良い授業ができるようになる。(為田)

>>学習者中心の教育によって、“教師”に求められる役割が大きく変わる

EdTechの導入は進みつつあると思うが、まだまだ多くの先生方に「EdTechによって学びの個別最適化によって授業がどう変えられるのか」は知られていないのが現状。機材が揃うだけでなく、先生方がEdTechの導入によって授業がどう変わるのか、子どもたちがどう変容するのか、イメージを持ってもらうことが今後ますます重要になる。(為田)

>>一気に AIを始めとした機械中心の学習スタイルへ転換する可能性はある

かつて生の授業と黒板が中心であった塾・予備校業界において、映像型コンテンツが大きく花開いたタイミングがあった。「学習継続のモチベーション維持」、「記述型解答への対応」といった課題をクリアする技術が生まれれば、一気にAIを始めとした機械中心の学習スタイルへ世の中が転換する可能性もある。(小澤)

 

EdTech普及の鍵は?

>>コンピュータ、通信環境などのICT環境整備

EdTechが学びの個別最適化を進めていくには、文房具として教育用コンピュータが普段使いされていなければならない。ノートや鉛筆などの文房具と同じように、学習者が道具としてコンピュータを選べるようになっていて、初めてコンピュータが学習者のものとなる。(為田)

為田 裕行:フューチャーインスティテュート 代表取締役社長、ICT CONNECT 21 EdTech推進SWGサブリーダー

>>学習者を中心とした学びの体験デザイン、コンテンツの開発

様々な進度・理解度の学習者に寄り添えることが、デジタルの強みであり、重要であると考える。また、EdTech市場をオペレーション支援とコンテンツの2領域で考えた場合、業界全体としてコンテンツ開発が未成熟。デジタルならではの付加価値を備えたコンテンツが増えればさらに浸透が進む。(川島)

>>データ利活用と個人情報保護のトレードオフ

例えば、全生徒の学習結果、属性情報などのデータがあれば教材メーカーはいい教材を作ることができ、地域情報を組み合わせるとさらにいいものができる。サービスプラットフォームの上に各社がアプリを配置できる教育エコシステムの構築。生徒と先生と家庭、地域、町、ICTベンダー、企業、教材メーカーなどが乗っていく。

子供の教育状況についての情報、どのような勉強をしているのか、そうしたデータをオープン化していく上で、個人情報保護との観点での整理が必要である。(林)

>>塾にとっての導入のカギは、既存の教材のリプレイスになるか

民間の塾では、20年来、ICTを活用した教材のシステムを使ってきているので、AIへのアレルギーや抵抗感はそこまで大きくない。一方で、経営環境は厳しい中、導入にあたり追加コストになるのではなく、コスト削減になるかどうかが重要で、現状の教材のリプレイスになるという発想が必要。しかし、そのためには教科書準拠や、数学や英語だけではない全教科対応も必要で、現状は価格も折り合っていない。(山田)

>>個別指導への転換の中で、塾業界では講師不足の解決策として期待されている

塾業界では、個別指導に業態転換している中講師不足が深刻化している。講師は大学生がアルバイトで行うことが多いが、地方の大学が少ない地域は特に講師不足が深刻となっており、その問題解決策として塾業界でEdTech導入機運が高まっている。2018年センター試験本番で、私どもが開発している「atama+」で2週間の冬期講習を受けた生徒さんたちの得点伸び率が平均50%台に達している等「高い学習効果」も立証されており、今後EdTechを活用している塾の人気は高まるだろう。(稲田)

稲田大輔:atama plus株式会社 代表取締役

>> AIと教育の相性について、どのようなAIの技術を用いるかも熟考が必要

教育においては、どのようなAIの技術を用いるかも熟考が必要。例えばニューラルネットワークなどは教育と相性が良くないと考える。学習は結果に至る「過程」が重要であるが、そこがブラックボックスとなってしまう。また、問題が次々と出てくる現在の「問題アダプティブ型学習」は、暗記や基礎学力の習得にはかなり効果的な一方で、難関大学入試対策には不向きと考える。難関大学の思考型問題に対する学習は、1つの問題をじっくり熟考することで学力が向上していく性質があるため。(小澤)

 

注目のEdTech先進事例は?

>>“世界最難関”の大学と呼ばれるまでになった「ミネルバ大学」

オンライン大学のMOOCの受講完了率は7%であり、授業の事前準備として見ておくべき「予習」にしかならない。しかしミネルバ大学は、単なる新テクノロジーの教材ではなく、学びのシステムである。変化の速い現代に最適な人材を再定義し、学びそのものの価値転換を行う(ビジネス)モデルを創造した点が素晴らしい。(仙波)

>>教育のエンターテイメント化を謳う「BYJU’s」

インドのBYJU’sは、「教育のエンターテイメント化」を謳い、デジタルコンテンツの開発に巨額を投じてインドに教育変革を起こしている。英語など特定分野を除いて教育企業によるグローバル展開の成功事例は少ないが、BYJU’sは教育×エンタメの強みをもって英語圏各国への進出を狙っている。(川島)

 

EdTechの未来をどう見る?

>>教育市場大国「日本」のEdTechビジネスの成長に期待

2020年のEdTechの世界市場規模は11兆円超と、15年実績の2倍以上へ急成長する見通し。主に米国、中国、インドのスタートアップがEdTech市場を牽引しており、過去3年間でUS$10M以上の資金調達実績があるEdTechスタートアップは世界に35社あるが、日本からは1社しかいない。一方で、教育市場規模は米国、中国に続き日本は世界第3位。潜在的にはEdTech大国となる可能性を秘めている。(稲田)

>>オープンデータ活用、パーソナルレコード、AIに商機を見出す

北欧の教育モデルはオープンデータの活用が盛ん、そのトレンドを捉えて、良いところを吸収していく。AIをEdTechにおけるアプローチの手段として注目している。教育の過程を可視化するといった目的について、AIをベースとしたソリューションを考えている。PCを配るというだけではなく、家庭でやっている宿題や、先生の教育の内容やカリキュラムも含めて情報が集約されている状態。パーソナルレコード(PxR;Personal x Record)としても蓄積し、個人の情報として集めていく必要がある。(林)

林 良司:日本電気株式会社 執行役員

>>「学び」の意味を再考する好機

知識はGoogleが教えてくれる、家にいながら世界中の人とコミュニケーションできる、そんな時代に学びとは何かを再定義し、よく生きる事へとつなげる事が今求められているのではないだろうか。(仙波)

>>人と機械のバランス、コーチングもオンライン化できればまさに未来の教育

ティーチングを機械がやり、コーチングを人がやるということは、常套句のようになっているが、そのバランスをどのようにとるかが勘所であり、ノウハウともなる。コーチングまで全てオンライン化できればまさに未来の教育だが、そこまではなかなかハードルが高い。(小澤)

>>これからコンテンツの単価は下がっていく中、生き残った企業が成長していく

教育業界においては少子化の問題が付きまとっていて、塾として売上を保つには、受け入れる生徒層の幅を広げるか、サービスを高品質化していくか。今後は、大きな流れとしてはICT化することで単価を下げ、生徒の幅を広げていく方向にいくと考えている。その中でコンテンツの単価そのものは安くなっていく。米大手調査会社によると、AIは幻滅期に差しかかっているため、教育分野においても今後3―5年かけて生き残ったものが成長していく。(山田)

 

プロフィール

林 良司 日本電気株式会社 執行役員

1988年、日本電気株式会社(NEC)に入社。以来、官公庁のお客様を中心としたソリューション事業に従事。 2015年以降、事業部長としてパブリックセーフティを実現するバイオメトリクス事業や、未来の人財開発に貢献する教育ICT事業を担当。2018年、執行役員に就任、Society5.0時代におけるパブリック事業推進に幅広く取り組んでいる。

 

小澤 尚登 学校法人駿河台学園 EdTech事業担当 部長代理 駿台教育センター株式会社 取締役

1993年、学校法人駿河台学園に入職。駿台予備学校本部、東大進学専門塾塾長、駿台予備学校校舎長、駿台中学部本部、法人経営企画室を歴任。中学受験から、高校受験、大学受験、海外進学等、現場・管理部門にて進学受験に広く携わる。現在駿河台学園全体へ、受験の側面からEdTechの導入を推進している。

 

川島 慶 株式会社花まるラボ 代表取締役

栄光学園中学・高等学校 出身、東京大学卒業。 2011年に(株)こうゆう(花まる学習会)入社。公立小学校や国内外児童養護施設の学習支援や教員研修を手掛ける。 2014年に(株)花まるラボ設立。同年、東京大学非常勤講師。2015年から算数オリンピックの問題作成・解説、2016年からは世界最大のオンライン算数大会「世界算数」問題作成を担当。花まる学習会代表高濱正伸との共著に、なぞぺーシリーズ「迷路なぞぺー」「絵なぞぺー」など。

 

仙波敦子 元(株)ドワンゴ教育事業本部キャンパス運営部部長・角川ドワンゴ学園N高等学校拠点運営部部長

元慶応義塾大学SFC研究所 所員。児童書・教育書の編集者を経て(株)ドワンゴにて通信制高校N高等学校の通学コース新規開校を牽引した。教育ベンチャー(株)SEKAISHAにて教育事業責任者として慶應義塾大学SFC研究所とのサービス開発、教育WEBメディアのグロースを手がけた後、現在コミュニケーションAIを推進する(株)ZealsにてHR・PR責任者。

 

為田 裕行 フューチャーインスティテュート株式会社 代表取締役、ICT CONNECT 21 EdTech推進SWGサブリーダー

大学卒業後、西日本の大手学習塾を経て、 フューチャーインスティテュートの設立に参画。 以後、幼稚園から大学までの教壇に立つと共に、教員向けの研修プログラム設計、授業計画コンサルテーション、学習教材・サービスなどの監修も行う。セサミストリート・ティーチャー / 戸田市教育委員会 21世紀型スキル育成アドバイザー。

 

稲田大輔 atama plus株式会社 代表取締役

2004年東京大学工学部卒。06年東京大学大学院情報理工学系研究科修了後、三井物産株式会社入社。主に教育事業を担当し、ベネッセブラジル執行役員、海外EdTech企業への投資責任者等を歴任。17年大学の同級生達と共にatama plus株式会社を創業

 

山田未知之 「月刊私塾界」発行人兼編集長 代表取締役社長

2005年、教育サービス業界専門誌『月刊私塾界』(毎月5,000部発行)を発行する株式会社私塾界(全国私塾情報センター)に入社。2008年、取締役に就任。2010年、同社創業者である父・山田雄司が急逝し、副社長に就任。2012年10月より現職