【MaaSオピニオン】有識者4名に聞く、MaaS市場のキープレーヤーは?新たなビジネスチャンスはどんなところに生まれる?

2019.11.27 エキスパート

「MaaS元年」と言われた2018年。鉄道をはじめとする公共交通機関や自動車メーカーはもちろん、通信事業者や地図情報会社など異業種からの参入も後を絶ちません。国土交通省も実証実験のバックアップを表明するなど、MaaS市場は今後ますますの盛り上がりが予想されます。一方で、MaaSは業界横断的な概念であるがゆえに、市場のキープレーヤーや商流が見えにくいといった課題があります。また、都市部の人口過密や過疎地域の超高齢化などによるモビリティーの課題は、待ったなしの状態です。

こうしたMaaSへの注目度の高まりを受け、ミーミルでは同領域おける第一人者にヒアリング調査を行い、市場成長の要因やポイント等について探りました。

エキスパート(順不同)

  • 井上岳一:株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネージャー
  • 黒岩隆之:株式会社JTBコミュニケーションデザイン営業推進部 アカウントプロデュース局 チーフマネージャー
  • 日高洋祐:株式会社MaaS Tech Japan 代表/元JR東日本
  • 近藤洋祐:株式会社電脳交通 代表取締役社長

トピック

  1. 日本にMaaSが根付くには?(MaaSをブームで終わらせないための留意点)
  2. MaaSのプラットフォームビジネスをどう見ている?
  3. 地方のMaaS、ローカライズのポイントは?
  4. 理解のない業界内や社内はどう動かしていく?
  5. MaaS市場の拡大で、新たなビジネスチャンスはどんなところに生まれる?

 

MaaS市場の拡大をけん引するキープレーヤーは誰?

≫市場の爆発的な拡大は鉄道のイノベーションに掛かっている

公共交通空白地帯の移動弱者の問題を解決するルーラルマース(地方型MaaS)という意味では、特に鉄道のイノベーションができればとても意味がある。例えば、完全な自動運転は難しくても、半自動運転でコストがかなり下がるとする。もし地方でも頻繁に鉄道が走るようになって交通網が活性化すれば、地方はそれなりに元気になるはず。

自動車会社がMaaS市場に流れ込むことで、市場は拡大するだろう。ただ、鉄道が大きく変わらないまま、いろんなサービスを二次交通としてつなげてそれをMaaSだと言っているだけだと、面白くないし爆発的な市場の拡大にはつながらない。(井上)

≫今後、ローカルデータを保有するプラットフォーマーの存在感が増す

鉄道のような大型の輸送機関と、タクシーのような小型の輸送機関の接続には、どうしてもデータの共有と交換が必要になってくる。そのとき、ローカルデータを保有しているプラットフォーマーがキープレイヤーになってくるのではないか。ただし、これを実現していくためには、タクシー事業者をはじめ小型輸送機関などサプライヤーの技術をアップデートすることが必要。(近藤)

近藤洋祐:株式会社電脳交通 代表取締役社長

≫旅行業法はMaaSをやりやすくする枠組みになり得る

日本の場合は、観光を基軸とした地域経済への寄与が、MaaSの一つの答えになるのではないか。旅行は単純に旅館にお金を落として終わりではなく、モビリティを担保することで買い物や観光を通してあまねく地域経済が活性化する。例えば「乗り合い」のサービスは現行法ではできないが、旅行業法ならできる。ホテルなどのキャンセル料規定もそうで、旅行商品にすることによって個々の法律を包含できる。鉄道も飛行機もタクシーも、一つのパッケージとして商品化できる。その点で、旅行業法はMaaSをやりやすくする枠組みになり得る。(黒岩)

 

日本にMaaSが根付くには?(MaaSをブームで終わらせないための留意点)

≫縦割りを打開して交通手段と目的をセットで考える

いろんな意味で、これまでの縦割りの構造を打破していく必要がある。例えば、鉄道やバス、タクシーなどと分かれていたものを、「どうすれば地域の交通モビリティーになるのか」という観点で見直すことが大切。モビリティーには、医療や買い物、旅など何らかの目的があるわけで、交通手段と目的は切り離せない。これまでは別の業界の領域だったところを一緒に考えていったとき何ができるか。そこを考えながらみんなで取り組むことが、ドラスティックにお金が回る仕組みを作るカギになる。(井上)

井上岳一:株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネージャー

≫みんなでコストをシェアする「パブリックの再構築」という視点が必要

特に田舎の高齢者の方々がアプリを使いこなすという状況はなかなか難しい。そうするとコールセンターを運営していく必要がある。ただ、コールセンターは各社がそれぞれ作ったり、1サービスのためだけに専用で作っていては採算が合わない。交通が生活の一つの重要な手段だと考えると、行政も民間企業も力を合わせながら、みんなでコストをシェアしていくモデルが成り立つと理想的。どうすれば、みんなで自分たちの資産を持ち出しながらパブリックな空間を立ち上げられるか。「パブリックの再構築」が打開できればMaaSがもたらす可能性はかなり広がる(井上)

≫決済が全部シームレスにつながらないとMaaSの可能性は限定的

決済は全部シームレスにつないで、お客様から見たらワンストップのサービスを作る必要がある。「ここからここはICカードで決済して、ここからここはクレジットカードで決済する」というのはナンセンス。お金がバラバラに入っていくと、データ自体もそれぞれのプロバイダにしか貯まらなくなるわけで、MaaSの可能性は限定的になってしまう。(黒岩)

黒岩隆之:株式会社JTBコミュニケーションデザイン営業推進部 アカウントプロデュース局 チーフマネージャー

MaaSのプラットフォームビジネスをどう見ている?

≫1社で囲い込むプラットフォームは幻想。今は協調領域でやる時期

みなさんプラットフォーマー幻想があって、1社で支配したがる傾向が強い。ただ、「GAFAなどITのプラットフォーマーに影響を受けすぎじゃないか」とマース・グローバルのサンポ氏※も言うように、交通ってもっとリアルな世界だし、マーケットも大きい。1社で独占できるような甘い世界ではない。特に地方の交通は、ローカルにカスタマイズしていかなきゃいけない部分が多い。生き残った各社が互いに競い合って、常にユーザーエクスペリエンスやユーザーインターフェイスを進化させていく世界にならないと、1社独占みたいな形では、最後はユーザーの方を向いていかなくなる。今MaaSは、競争領域と言うより、いろんな人たちが協調領域できちんとやらなきゃいけない段階。プラットフォームができた瞬間に、どっちにしろ競争は始まる。そこに至るまではみんなでイーブンな関係でやっていくのが理想的。(井上)

※フィンランドに拠点を置くモビリティー関連ベンチャー「マース・グローバル(MaaS Global)」のCEOサンポ・ヒエタネン氏

≫MaaSオペレーターは交通事業者ではなく中立性のある事業者を

自動車会社も鉄道会社も1社でユーザーを囲い込みたがるため、MaaSオペレーターも自前でやりたがる。自社が提供している交通手段を最優先に誘導しようと考える。ここに、交通事業者がMaaSオペレーターをやっちゃいけない理由がある。ドイツ鉄道も実践しているが、交通事業者とは完全に切り離して、中立性のあるMaaSオペレーターを立てることが大切。そうすれば後は、客を奪われるなどと考えず、交通事業者はとにかくサービスとコストの競争をしていけばいい。プラットフォームがユーザーのことを考えた世界になるから、市場は間違いなく拡大していく。(井上)

≫方向性を柔軟に変えられる旅行業者はMaaSオペレーターに向いている

旅行業を取り扱う我々は、プラットフォームを自前で持つのではなく、それを作っている方々と組んで、MaaSオペレーターのような役割を担うのが責務だろうと考えている。鉄道もホテルも飲食店もモビリティーも持っていないので、ある意味ではリスクがなくて何でもできる。方向性が間違っていると感じたらすぐに変えられる柔軟性がある。そういった立ち位置をはっきりさせた上で、オールジャパンでコラボレーションしていくことが日本のMaaSの成功要件になるんじゃないか。(黒岩)

≫グーグルでも検索できないローカルデータを集められるプラットフォームがカギ

自動運転の時代に向けて、脱マイカーの流れも加速していく中で、個人の輸送に関する移動データの蓄積は、小型輸送機関でも欠かせない。それを集めるプラットフォームが、今後は必ず必要になってくる。しかも、グーグルでも検索できないローカルデータこそ次世代モビリティーサービスのカギになる。例えば移動データだけではなくて、足腰が不自由なので玄関まで付き添ってもらわないと移動ができないといったデータもそうだし、地域固有の通称みたいなものだってそう。「ラスト1インチ」の世界観で選ばれるサービスを作れるかどうかは、蓄積したローカルデータがカギを握っている。(近藤)

 

地方のMaaS、ローカライズのポイントは?

≫率先して地域の交通を束ねている事業者と連携する

地方のMaaSを考えたとき、その地域のキープレーヤーを中心に据えることが肝心。例えば広島電鉄さんなど、率先して地域の交通を束ねている地方の雄もいらっしゃる。そういったアグレッシブで意欲的な事業者と連携することが大きなポイントになる。(黒岩)

≫MaaSと地域のステークホルダーの間を取り持つ人材が不可欠

地方の交通業界は、特にしがらみや規制などが多い世界。その中で、外からきた人たちがMaaSの議論を展開していくと、必ず地域のステークホルダーからハレーションが起こる。だから間に入って双方の行間を調節する人が、必ず重要になってくる。(近藤)

≫地域経済の活性化と補助金が減るトレードオフをどう解決するか

NTTドコモさんと一緒に、山口県の阿東地区で「0円タクシー」の実証実験※をした。利用者はスーパーで買い物をしたり、サービス業を利用してお金を使っていたが、利用者が増えることで地域経済の活性化につながることがわかった。自治体の負担も下がる。ただ、無条件でタクシー会社に投下されていた補助金が減らされると、地元にとってはかなりのトレードオフになる。これをどう解決するかも大きなポイント。(近藤)

※地方の交通空白地帯では、人の輸送を支えている乗り物に対して補助金が使われているが、1ダイヤにつき利用者がまったくいないこともある。これを最適化するために2019年3月、2車3台の地元のタクシーを7日間貸し切って、地元の人たちに無料で提供した

 

理解のない業界内や社内はどう動かしていく?

≫ブルーオーシャンのマネタイズポイントは社会的意義から探る

マネタイズポイントがわかっていれば、それはもうレッドオーシャン。だから私たちは、やっていること自体が人のためになるとか、そのサービスを世の中が望んでいるのかという点で突き進むしかないと思っている。人が動かなくなることによる経済損失は計り知れないものがある。移動を担保することで将来的な鬱が減るとか、高齢者の雇用を創出するとか、そうした経済のトータル収支で見ていくのがMaaS。会社の動きとして話を通してもらうには、毎回、今起きている社会課題や、それに対する自分の思いをまず説明していく必要がある。(黒岩)

≫坂本龍馬のような人材が同業他社横断、業界横断のカギ

例えば鉄道事業者の相談を受けても、A社とB社は一緒にできませんと言うし、A社とC社もしかり。こういう状況を打開していくためには今、坂本龍馬のような人が必要。各社ともより広い視点でMaaSを捉える必要がある。(井上)

 

MaaS市場の拡大で、新たなビジネスチャンスはどんなところに生まれる?

≫異常時にも交通機関の最適な利用法予測が立てられる

ドイツで開発されたソフトウェアに、あるエリア内のバス台数、タクシー台数、人数等のデータから、人や交通機関の動きを予測し、さらに「この場所にタクシーを50台増やすとどうなるか」「相乗りするとどうなるか」といったシミュレーションを立てられるものがある。仮にこうしたソフトウェアを日本で使うと、地震やゲリラ豪雨、大雪が発生した際に交通機関の最適な利用法予測が立てられ、コントロールできるようになる可能性がある。人の動きや交通機関への需要の高まりを予想できるようになれば、タクシーを効率的に稼働させることも可能になる。さらに介護施設や医療機関への高齢者の送迎やヘルパーさんの訪問看護、予約したレストランや美容室に行く時も、待ち時間などのムラ・隙間を少なくし、効率化することができる。(日高)

日高洋祐:株式会社MaaS Tech Japan 代表/元JR東日本

≫移動に対する考え方が変わるため,むしろツルハシの部分に多様なビジネスチャンス

MaaS普及の動きはインターネットと似ている。インターネットが一般に普及した頃は、使った分だけ料金を支払う従量制だった。それが定額制になることで、Googleの各サービス、YoutubeやNetflixなどの映像配信、音楽配信などが爆発的に普及した。現在、各交通機関は従量制が中心だが、MaaSによって定額制になり、料金を気にせず移動できるようになるとユーザーの意識が変わり、人々の居住地やオフィス、病院、商業施設など出掛ける場所に対する考え方も変わってくるはず。企業がユーザーに提供する商品やサービスも変わり、新しい業態が生まれてくる可能性がる。MaaSがインフラ、OS的なプラットフォームだとしたら、MaaSそのものに取り組むのはもちろん、MaaSが普及していく中で「これが必要になってくる」「この分野が伸びる」といったツルハシの部分に多様な事業機会が眠っている。MaaSと聞くと「交通系の企業がやるもの」と考えがちだが、むしろ異業種や新規参入企業が新しい発想やアイデアを持ち込むことに期待する。(日高)

≫鉄道会社の管制システムに「穴を開けない」という考え方に商機あり

MaaSに鉄道会社とのデータ連携は欠かせないが、鉄道会社ではいろんなデータが管制システムに紐付いている。つまり管制システムがハッキングされた瞬間に、鉄道が止まるといった事態が起こり得る。だから、そこにAPIで穴を開けることはリスクが高い。穴を開けるにしても、システム改修に何億円も掛かるという話もある。そもそもオープンデータにすること自体が難しい世界なのだから、鉄道会社の管制システムにどう接続しようかではなく、「穴を開けない」という発想も必要ではないか。タブレットやセンサーなどを取り付けることによって、簡単に乗車率のデータ等がリアルタイムに共有できる仕組みを作ってしまう。データの共有は、管制システムとは完全に分けた方が安上がりだし、安全性も確保できる。ここはビジネス領域になるはずなので、そうしたシステムを新しく作って提案できると面白い。(井上)

 

プロフィール

井上岳一 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネージャー

農林水産省林野庁、(株)Cassina IXCを経て、2003年に日本総合研究所に入社。Yale大学修士(経済学)。法政大学兼任講師(生態系デザイン論)。森のように多様で持続可能な社会システムの実現を目指しインキュベーション活動に従事。現在の注力テーマは、自動運転技術を生かした「ローカルMaaS」のエコシステム構築。共著者に『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP社)、『公共IoT 地域を創るIoT投資』(日刊工業新聞社)、『AI自治体 公務員の仕事と行政サービスはこう変わる!』(学陽書房)、『「自動運転」ビジネス 勝利の法則』(B&Tブックス)などがある。

 

黒岩隆之 株式会社JTBコミュニケーションデザイン 営業推進部 アカウントプロデュース局 チーフマネージャー

17年間、株式会社日本交通公社(当時) 団体旅行新宿支店にて企業営業を担務。2009年にJTB内の総責任者として、事業展開を行う。その後株式会社JTB法人東京(当時)マーケティング部では環境マーケットにおける国策に連動した、新たな事業領域の拡大と地域貢献(活性)を創造するプロデューサーに着任。2011年には日本ユニシスと協業で、EV・PHVユーザー向けの充電課金認証会員サービス事業を起ち上げた。2012年10月より会員サービス事業を開始すると同時に、EV・PHVを活用した、EVモビリティ観光活性事業も展開。鎌倉でのEVバイクのバッテリーシェアリング実証事業、観光アプリを活用した京都クレジットの流通メカニズム構築実証事業なども手掛ける。現在は、観光分野におけるMaaS、情報銀行の社会実装等、JTBが進める地域交流事業と最新のテクノロジー及びシステム(仕組み)の融合で、社会課題の解決と社業の両輪に資するJTBの第三の創業に向けた取組を行っている。

 

日高 洋祐 株式会社MaaS Tech Japan 代表取締役

2005年JR東日本入社。JR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所にて、ICTを活用したスマートフォンアプリの開発や公共交通連携プロジェクト、モビリティ戦略策定などの業務に従事。2018年6月からは技術イノベーション推進本部ITストラテジー部門モビリティ変革グループに所属。また、2014年より東京大学大学院 学際情報学府(社会人博士)にて日本版MaaSの社会実装に向けて国内外の調査や実証実験の実施、MaaSの社会実装に資する提言取り纏めを行う。2018年11月、株式会社MaaS Tech Japanを創業。MaaSプラットフォーム事業を推進し、日本国内での価値あるMaaSの実現を目指す。一般社団法人JCoMaaS理事

 

近藤洋祐 株式会社電脳交通 代表取締役、吉野川タクシー有限会社 代表取締役

学生時代は、メジャーリーグを目指すために単身渡米するも、ケガによる故障や現地選手との実力の差を実感する中で、プロのメジャーリーガーは断念。地元の徳島へ帰って、別の道を探しているとき、祖父が経営する「吉野川タクシー」を清算する話が持ち上がり、後を継ぐことを決心した。その後、クラウド型タクシー配車システムの導入や、コールセンターの委託業務を全国に展開する株式会社電脳交通を設立。地方と交通の課題を、ITとデータの力で解決しようと挑む、タクシー業界の異端児的存在である。