【インタビュー】急速に広がりつつある地球観測データを活用したビジネスチャンス。闇経済検知から農家まで広がる応用領域 ―PwCディレクター ルイージ・スカテイア(後編)

2019.02.12 エキスパート

いま世界では、宇宙で得た地球観測データを使って、新たなビジネスが次々と生まれています。とはいえ、そもそもどんなビジネスチャンスがあり得るのか、地球観測データとこれまで無縁だった企業にもビジネスチャンスはあるのか、事業をマネタイズする際のポイントは何かなど、気になる問いは尽きません。

データ活用において産業横断的な観点も求められている同領域について、ビジネスとの橋渡しを行うコンサルティングファームの果たす役割も増えています。

そこで、PwCフランス(以下、PwC)のディレクターで宇宙産業チームのリーダーを務めるルイージ・スカテイア氏(Luigi Scatteia)にお話を伺う後編。宇宙産業に身を置いて17年になるという、宇宙ビジネスのコンサルティングの最前線を知る同氏に、企業が地球観測データを活用する際のポイントや新たなビジネスチャンスについて聞きました。

前編 世界規模の地球観測プログラム「コペルニクス」とは。地球観測データ活用の可能性 はこちら

 

地球観測データ活用のコンサルティング。過去にない解決策に熱い視線

―宇宙産業の専門のコンサルティングのチームとして、様々なプロジェクトを受けていると思います。そもそも地球観測データを活用において、コンサルタントに対して、実際にはどういった業界からどういった相談が寄せられているのでしょうか。

ルイージ・スカテイア氏(以下、ルイージ):地球観測データと、他のさまざまなデータソースを融合して使いたいというご相談が多いですね。業界としても安全保障や防衛にかぎりません。

これからの情報サービス企業、中でもインテリジェンスを核にサービスを展開する企業は、複数のデータソースをもとにディープラーニングやAIを使って自らの見解を導き出していくわけです。そこで、これまでのデータに加えて地球観測データも併せて使いたい、地球観測データも併せたデータを使いたいという関心が高まっています。これまでとは違う新しいデータソースを加えることで、結果として新しいインサイトや見解を導き出したいといったニーズがあるからです。

ルイージ:政府機関や政策関連でも、地球観測データを活用したモニタリングについて関心が高いです。地球観測データを使って政策に対する違反がないか、例えば特定の地域で違法建築がなされていないか調べる、そうしたことに関心を寄せている機関もあります。

違法な闇経済について調べる場合でも、それらを実際に検知するのは容易ではありません。しかし、地球観測データを利用すれば、夜間人口が少ない地域でも電力がどのくらい使われているかがわかります。そうすると、疑わしいエリアをマッピングしてモニターすることもできるというわけです。

その他にも、違法な貿易が行われていないかの検知でも関心が高まっています。ドローンも使いますが、ドローンを飛ばすとなるとそのための規制にも対応する必要があり、自治体からの許可なども必要になります。そうなると手続き上はいろいろと煩雑なので、それなら衛星画像を使ったほうが簡単でいいというわけです。

こうした事例はいくつもあります。政府機関だけではなく、近年は民間企業も闇経済をとても気にかけていて、「闇経済によって、自分たちのビジネスで侵害されている権利が無いのかどうか知りたい」というように、過去にあまりなかったご相談も寄せられています。

また、このようにデータ活用方法についての相談を受けるほか、PwCとしてデータを分析し、そのデータを活用したコンサルティングを提供することもできると考えています。

 

防衛から農業まで。わずか1年でおもしろい支援事例が次々と生まれている

―データ活用のコンサルティングのみならず、PwCで内部に分析チームを擁していて、データを活用したコンサルティングも提供をされているというのは大変興味深いですね。欧州で地球観測データを活用したコンサルティングをすでにどの程度行っているのでしょうか。実際の事例についてお伺いできればと思います。

ルイージ:はい。すでにデータを活用したコンサルティングの事例も1件あります。詳細はお伝え出来ませんが、とあるクライアントが各種データにアクセスしやすくするための課題解決に取り組みました。そのために、私たちは商用データプラットフォームのデベロッパーライセンスを取得し、実証プログラムを作ってクライアントに提案しています。

ほかの事例としては、アフリカでのデータ収集がなかなかうまくいかないというクライアントの課題解決にあたったこともあります。アフリカは、そもそも基本的なデータがとれていないエリアです。そうした地域では、マッピングをしようにも人海戦術でデータを集めるしかないほど情報がありません。逆に、だからこそ地球観測データがそのまますぐに役立つ状況だと言えます。そういう意味でも、地球観測データの活用可能性が大きいアフリカは重要なマーケットです。

また、欧州委員会の農業局でも支援事例があります。ここでは、プロジェクトの実現可能性について調査するフィージビリティ・スタディに活用されています。同局における食物の栄養管理やその計画において、欧州での持続可能な農業の実現を目的としたプロジェクトですが、ゆくゆくは、ヨーロッパ中の農家が手軽に使えるようなツールの開発を目指しています。例えば肥料をどのタイミングでどのくらい使うべきか、といったことに対して、小規模農家や家族経営の農家がタブレット端末などのツールで簡単に地球観測データを活用できるようになればいいですね。

この場合のクライアントは欧州委員会ですが、エンドユーザーは農家になるのでこれまでにない新しい事例です。

―農業におけるリモートセンシングは、注目されているテーマですが、そうした具体的なプロジェクトの動きも進んでいるのですね。

ルイージ:また、地球観測データを活用したコンサルティングには直接該当しませんが、地球観測データを活用する能力習得支援や構築支援も、私たちの大切なミッションだと思っています。これについても、すでに何件ものクライアントをお手伝いしています。

こうした案件が次々と発生していますが、これは実はわずか1年ほどで起きていることです。地球観測データを活用した支援の相談は、どの産業かにかかわらず、マーケット全体として今後もどんどん増えるでしょう。

誰にでもビジネスチャンスが生まれる、地球観測データのポテンシャル

―これからも、エンドユーザーのすそ野はどんどん広がっていきそうですね。

ルイージ:地球観測データを活用して何ができるのか。そのポテンシャルをまったく知らないユーザーがまだまだたくさんいるという意味でも、エンドユーザーは今後ますます広がっていくでしょうね。

私たちも、そのために尽力しているわけです。地球観測データを使ってビジネス指標を抽出することで、コンサルティング業務にも革新的なアドバンテージが生れます。そうすれば、そもそも地球観測データをどう使えばいいのかわからなという新しいユーザーにとっても、ビジネスチャンスにつながるはずです。

―ビジネス指標の抽出とはどういった事例があるでしょうか。

ルイージ:例えば地球観測データの画像から、商業ビルか住宅用の建物かを見極めて、商業面のポテンシャルがどれくらいあるのかを算出することができます。こうした提案ができれば、小売店にとっても「次はどこに店舗を出すのか」といった拡大戦略につながります。

幸いなことに、PwCは大手のコンサルティングファームとして、いろいろな産業分野をカバーするチームがあります。そのため、各産業に対する知見を有しているし、地球観測データをビジネス面とテクノロジー面の両方で取り扱う知識も持っている。こうしたナレッジを組み合わせることで、これまで地球観測データとは無縁だったクライアントに対しても、さまざまなビジネスチャンスを作り出していけるでしょう。

地球観測データ活用事業のマネタイズに大切な2つのポイント

―企業が地球観測データを活用して事業をマネタイズする際、ポイントになることは何でしょうか。

ルイージ:まずは、石油やガス探査、保険、農業などの分野で、長年地球観測データを使っている従来のユーザーに対して言えることがあります。それは、「データ活用における組織内での情報や認識のギャップをいかに埋めるか」ということです。

よくあるのが、専門チームがデータを取得して分析し、その結果を会社全体に伝えるという情報共有の形です。この構造の問題点は、専門チームと会社全体、あるいは専門チームと他のチームとの間に情報や認識のギャップが生まれやすいことです。

革新的なサービスを生み出したり、既存のサービスをより強化していくに当たって、社内での情報や認識のギャップは大きなリスクになります。そうしたギャップを埋めるためにも、地球観測データを、専門チームだけが扱うのではなくもっとみんながアクセスしやすく使いやすいものに変えていく必要があります。アプリやユーザインタフェースを使い易いものにして、もっと広く他の部署でも使えるものにする。これが、1点目のポイントです。

2点目が、「汎用性の高いワン・サイズ・フィッツ・オール(one-size-fits-all)のツールに頼り切らない」ということ。実は、すでに地球観測データを利用している企業であっても、汎用性の高いワン・サイズ・フィッツ・オールのソリューションしか使えていないところが目立ちます。一つのツールですべてをまかなおうとする発想ですね。無料のプラットフォームで、全社的な問題を解決しようとしている。

しかし、企業が抱える事情や課題、取り巻く環境は実にさまざまです。ワン・サイズ・フィッツ・オールといわれるツールほどそこまであてにはなりません。地球観測データを自社に最適な形で利用するには巨額の投資も必要ですし、トレーニングも必要です。しかし、企業の経営陣は保守的で、なかなかそうした行動に踏み切れない。とりあえず無料データを使ってみようかということになり、結局は結果が出ずに諦めてしまう。そうした事例も散見されます。

そうではなくて、小さいところからでいいので、まずは何より自社にフィットする地球観測データの活用方法を探ってみる。そして、徐々に拡大していく。そうしたアプローチをとることで、「自分たちも自分たちに合う形で地球観測データが使えるんだ」という自信をつけていただきたい。これも事業のマネタイズには大切なポイントです。

ビジネスとテクノロジーに通じた人材強化が宇宙ビジネス拡大のカギ

―日本国内では、宇宙ビジネスに詳しいコンサルタントはまだ少ないのが現状です。ルイージさんは、欧州宇宙機関での経験もありつつ、現在はコンサルタントとして活躍されています。こうした転身は、欧州でも珍しいのではないでしょうか?また、こうした宇宙産業とビジネスの橋渡しをするような人材の面において、世界の状況はいかがですか。

ルイージ:日本に限らず、宇宙産業に通じていてビジネスの課題にもあたることができる人材は少ないと思います。地球観測データを活用したビジネスを盛り上げるには、地球観測のビジネス面とテクノロジー面両方を理解できる人材がもっと必要です。

私自身は宇宙産業について技術的なバックグラウンドがあり、コンサルタントとして活動していますが、それは意図したものではなく、偶然だったといえます。もちろん、欧州であってもコンサルタントとして典型的なキャリアとは言えません。

ただ、私個人でいうと宇宙研究のあとMBAを取得してビジネスの世界に飛び込んだことは、結果的にコンサルタントとして成功した大きな要因となりました。宇宙産業は、ビジネスであってもかなり技術的な話が深く絡んでいます、だからこそ、技術とビジネスの両方を理解していることはとても大きな強みになっていると実感しています。幸いなことに、私のチームには宇宙産業のテクノロジーにも通じたメンバーが数多くいます。

―PwCとして宇宙産業へのコンサルティングに特に力を入れているのでしょうか?

ルイージ:PwCは、宇宙事業の専門チームを持つコンサルティング会社として、20年ほどの比較的長い歴史があります。大手のコンサルティングファームの中でもこれは珍しいことです。

また、特筆すべき点として、2016年には、PwCフランスがトゥールーズにあったデータアナリティックスの会社を買収しています。この会社には宇宙データのアナリティックスの専門家もいて、現在は同じ傘下にいます。地球観測データを専門にしたデータアナリティストが加わったことで、PwCが提供するソリューションの質はより高まっています。

ただ、この状況に甘んじるつもりはありません。環境は整っているので、PwCとしても宇宙ビジネスを強力に担うことができる人材を今後はもっと強化していきたい。そして、私たちにしかできないサービスを展開していきたい。大きなポテンシャルを秘めたまだ手付かずのマーケットを、これからどんどん開拓していくつもりです。

 

宇宙ビジネスの本筋は、テクノロジーにより得られるデータを活用し、課題を解決すること

―それでは最後に、PwC Japanグループとして日本の宇宙産業についての見方をお伺いできればと思います。

PwCネットワークの日本法人において同領域を見られている大塚さんに伺います。日本ではコンサルティングとしての提供機会もまだこれからというところかもしれませんが、宇宙産業、地球観測データビジネスについてどのようにお考えになっているでしょうか。

大塚泰子氏:宇宙ビジネスと聞くと、「自分にはあまり関係のない話」と片付ける人がまだまだ多いのではないでしょうか。また、どうしてもテクノロジーの話になりがちです。

けれども私たちが考える宇宙ビジネスの本筋は、テクノロジーによって得られるデータを活用して、お客様の課題や社会課題を解決することです。地球観測データと各企業が持っているさまざまなデータを組み合わせることで、一緒にビジネス課題を解決することです。

私たちPwCグローバルネットワークでは「Purpose(存在意義)」を「Build trust in society and solve important problems(社会における信頼を築き、重要な課題を解決する)」としています。「社会課題を解決するためにどうすればデータを活かせるか」ということを念頭に、領域を絞ってビジネスを展開していくつもりです。

大塚泰子氏:例えば、農業分野では地球観測データをわりと昔から利用してきました。けれども、国のGDPの大半が農業から、という国であっても、どういうエリアならどういう作物をどれくらい育てやすいのか、といった農業効率に関する部分では、わからないこともまだまだあります。そうした領域に対して、「このエリアでこの作物をこれくらいの量作っていけば、農業のGDPはこれくらい上がる」といった提案を、さまざまな企業と連携しながらグローバルに展開していきたい、そう考えています。

先ほどルイージから、トゥールーズにあった会社を買収した話がありました。日本オフィスにもデータアナリティックスチームがありデータサイエンティストが在籍しています。今後PwC Japanとしても、データアナリティックスのチームと連携しながら、より質の高いソリューションを提供していくつもりです。

インタビュー:川口荘史

記事作成:黒川なお

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

Luigi Scatteia:PwCフランスのディレクター。材料工学と経営学の両方を修め、宇宙産業に17年以上も携わる。PwCの宇宙セクター内では、コンサルティングに特化したアドバイザリーチームのリーダーを務めている。過去には、イタリアの宇宙研究センターで研究し、欧州宇宙庁のヨーロッパ宇宙飛行士センターでサイエンストレーナーとして勤務した経歴を持つ。宇宙ビジネスにおいて、テクノロジーとビジネスの両面を深く理解する数少ない人材として、宇宙産業の新規事業や市場戦略などをサポートしている。

大塚 泰子:PwCコンサルティング合同会社のディレクター。新規事業の戦略策定、中長期成長戦略の策定、中期経営計画の検証、企業買収において調査・分析を担うビジネス・デュー・デリジェンス、経営統合支援業務といった幅広い領域に携わってきた。近年は、AIを活用した新規ビジネスモデルの策定支援を、ハイテク企業との協業モデルによって推進している。