【対談】全体の8割は意見がない。大企業の社内変革でみえた、組織の動かし方 鈴木康弘×逸見光次郎(第2回)

2019.01.30 エキスパート

アマゾンエフェクトのただ中にある小売業界。デジタルトランスフォーメーションが進む中、小売り大手各社のオムニチャネル戦略やEC立ち上げも徐々に進んできています。そのような大組織における変革を実現するには、どのようにしたらよいでしょうか。

セブン&アイでオムニセブンの立ち上げを指揮していた鈴木康弘氏と、鈴木氏とともにソフトバンク時代にイー・ショッピング・ブックスを立ち上げ、その後、カメラのキタムラでオムニチャネル化をリードしたオムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎氏の対談です。

メガネスーパーを含めて複数社のEC事業の急成長を牽引した“ECエバンジェリスト”川添 隆氏がファシリテーターを務めます。

第2回は、逸見氏のキャリアについて。鈴木氏とのソフトバンクでの出会いから、アマゾンやイオン、キタムラなど多くの小売大手企業を渡り歩いた逸見氏、その原点はどこにあったのでしょうか。

第1回 「イー・ショッピング・ブックス」の設立から、オムニセブンの立ち上げまで 鈴木康弘×逸見光次郎はこちらから

 

失敗経験が買われて入社したソフトバンク

川添隆(以下、川添):鈴木さんと逸見さんの出会いはソフトバンク時代からですね。

鈴木康弘(以下、鈴木):逸見くんとは何年くらい一緒に仕事していたことになるでしょうか?

逸見光次郎(以下、逸見):1999年から2006年くらいですね。私は学生時代から本屋が好きで、本屋でアルバイトをしていました。レジに立って本を発注して棚つめして……ということをやっていました。そうして、新卒で神田の三省堂書店に入社しました。

逸見:三省堂では、社内の仕入れデータをネットワーク化、データベース化したほうが楽に発注できるのではないかと考え、98年に初級のシスアド(初級システムアドミニストレータ、後継試験はITパスポート試験)の資格をとったのですが、当時の三省堂書店はデジタル化にあまり関心がありませんでした。ちょうどそのとき確か日経新聞に「インターネット書店を作る」という求人広告があって、これだと思って応募し、1999年にソフトバンクに入社しました。

鈴木さんに後で採用した理由をきいたら、「お前、ひとつ店を潰しているんだよな」と。正確には、潰したのではなく相模大野店を撤退した経験があるんです。そもそも家賃が高すぎたというのが大きな原因なのですが、その失敗経験が買われたようです。ソフトバンクでは、イー・ショッピング・ブックス事業部に入りました。本の仕入れだけでなく、鈴木さんの方針で「とにかく深く広くやれ」と言われ、商品だけではなく、システムも作れるしHTMLも書けるしメールも流せるし、物流も見て、会計処理も見て、社長室も見て……おかげさまで一通りのことはできるようになりました。

鈴木:ベンチャーだからできたことですね。

逸見:自由でしたよね。何をやってもOKでした。そうして7年間がたつ頃には、ものすごいスピードで仕事をしていたのでやりつくしちゃった感が大きかった。それでちょっとアマゾンを見に行きたいなと、鈴木さんに「アマゾンに行ってきます」と2006年にアマゾンジャパンに移りました。

鈴木:競合ですから普通じゃありえない転職です(笑)。ちょうどそのあたりは初期メンバーが巣立っていった時期でした。

 

アマゾンにて、「お店がない商売はやりにくい」

逸見:アマゾンに行って初めて「お店がない商売はやりにくい」と気づいたんです。商品の需要予測や倉庫のピッキングなどは非常に優れているんですが、私がずっとお店にいたからかもしれないですけど、顧客接点が物足りなく感じてしまいました。

そこで2007年8月にイオンに転職して、すぐネットスーパーを立ち上げることになり、11月にはローンチしました。それまでの経験が役に立ちました。ソフトバンクに入る前は、ネットに興味を持っていたもののエクセルも使えませんでした。

鈴木:企画書も作れませんでした。小売業は一般に「上司の背中を見て覚えろ」という世界です。企画書などはあまりありません。僕は小売出身ではなく、富士通育ちだからそういうのがありました。

逸見:そういうのを教えていただいて、さらにイオンで戦略担当としてデジタルの戦略答申や、企業のM&Aをやったりしました。

川添:イオンに移られてからお二人は競合企業となってしまいましたが、当時でもやり取りなどはあったんでしょうか。

鈴木:当時は、逸見くんとのやりとりはさすがにあまりなかったですね。僕がセブン&アイですから。逸見くんがキタムラに行ったころからまた話すようになりました。

オムニチャネルのことをキタムラでは「人間力EC」とよぶ

逸見:2011年に入社したキタムラは、イオンのプリントショップの事業をM&Aで買い取っているんです。だからイオンの中に250店舗ほどカメラのキタムラが入っています。その様子を見ていて、イオンの集客力の一要因に、出店している各テナントさんの専門性があると思いました。

なかなかスーパーだけでは人は集まらないですよね。この考え方をネット化したらおもしろいんじゃないかと、キタムラでECを手がけるために入社しました。

キタムラの屋号だけで当時全国に約850店、スタジオマリオで約400店、すなわち1200〜1300もの直営店がある。そこにネットを用いて集客するオムニチャネル戦略を立てました。

オムニチャネルのことをキタムラ社内では「人間力EC」と呼んでいて、Eコマースだけでなく、デジタル化すべてを指していました。デジタルを従業員全員が理解して使いこなしてお客さんにサービスを提供していく。そういう発想のもと、経営方針としてオムニチャネルを推進していきました。

その後、2017年ローソンに入社し、2018年からは約1年のコンサル後、千趣会の執行役員として、マーケティング副担当を務めました。千趣会では、大阪本社と東京本社と行き来しながらデジタル化を推進していくことが役割でした。カタログ通販は、育児のカタログ、家具のカタログなど、カタログごとがセグメントになっていて顧客軸で見ることが徹底できていません。このカタログに何品商品を掲載し、何ページ作ったらいくらの売り上げ予算……と古いプロダクトアウトとメディアの合体になっているので、それを顧客の軸から解きほぐしてみようと。

 

ベンチャー時代にマーケティングもITも一通りこなした

鈴木:おもしろい経歴だなと思います。2011年から2016年までしっかりとキタムラでデジタル化を推進し、逸見くんの形を作りました。

逸見くんのいいところはフットワークが軽いことです。

逸見:イー・ショッピング・ブックス当時は、3ヶ月で出版社上位200社回りましたね。

鈴木:当時は担当が3人だけでしたが、壁に張り出して、行っていないところがないように徹底的につぶしこんでいました。大変でしたが、今でもあの当時のメンバーで集まったりするし、みんなそれぞれ活躍していて「あのときの厳しさはすごかったから今はどこに行っても大丈夫です。ありがとうございます」といわれます。

逸見:今はベンチャーでも縦割りになってきていますが、あのころはマーケティング、IT、なんでも横で理解していて当たり前でした。得意・不得意はあっても一通りは知っているから、何かあったら誰でも走り出せるのです。

鈴木:コンピューターの世界もビジネスの世界も常に分散と集中を繰り返します。初期のころは、何もわからなかったということもありますが、みんな集中して仕事をして、インターネットが形作られていくと分散していきます。ここにきて分散しすぎてわからないから、集中して見られる人がいないとだめだとなってきました。

ビジョンを明確に出すことができる人がトップに立つべき

川添:私もベンチャーを経験した身ですが、鈴木さん、逸見さんともベンチャーの後に大組織でデジタルトランスフォーメーションを含む社内変革に取り組まれていますね。ベンチャーでのフットワークの軽さは大企業にも役立つのでしょうか。

逸見:大企業は何かするのに決済印が数十個必要だったりします。それを面倒と思う人もいるけれど、実は判子をもらったら、逆に好きなことができるということです。

イオンでも「ネットスーパーをやりたいんです」とあちこち根回しして、順番どおり判子をもらって、お金の心配はあとでいいんですよ。ただ、内部を調整してまで「これをやりたい」と動く人が意外と少ない。

鈴木:イオンやキタムラはまだ創業者がいるから決断は速いですね。中間が抵抗勢力になるけど、いちばん抵抗する人を落とせば芋づる式に認めてもらえるということでもあります。大企業の中での立ち回り方、動かし方は逸見くんも実際に大企業で勉強されていましたね。

逸見:勉強しましたね。

鈴木:別に創業者がすべてではなく、創業者とニアリーイコールの、ビジョンを明確に出せる人なら話は速いです。経営者にはビジョンを出して引っ張っていく創業者タイプの人と、出世争いをしてきて社長になったサラリーマンタイプがいるんです。

逸見:私自身は出世争いには興味がありません。仕事の成果を出すことは楽しいけれど、別に誰かと役職を競いたくはありません。

大企業の動かし方。全体の8割は特に意見がない

鈴木:おもしろい人と仕事するのがいいですよね。

逸見:おもしろい経営者は限られていますが。

川添:今おもしろいと思う経営者はいらっしゃいますか。

鈴木:張っている人はおもしろいですよ。自分の頭で考えている人は、若かろうが年をとっていようが好きですね。

人とは違うことをやる人、そういう人が世の中を動かしていくと思います。ZOZOの前澤友作さんもいろいろ言われていますが、実際会ったら自分の考えをしっかりと持った面白い人でした。

大きな組織を動かすときはトップも重要ですが、中間の人も説得しないとならない。だいたいほんの少数、応援してくれる人がいます。それと同じくらい面と向かって反対する人もいます。でも、残りの8割は特に意見がなくその時の多勢に寄る人なんです。

面と向かって反対してくる人は自分の主張がはっきりしているわけだから、話して納得すれば協力してくれます。ややこしいのは8割です。裏で足を引っ張ったり、うまくいくと「ずっと応援していた」と言ったり、ちょっと失敗する「ほら見ろ」と言ったりと大変です。

逸見:日本はその体質が強い。

鈴木:そういうことをしてこそ会社だと思っているんですね。自分で仕事を完結できる人がどこの会社でもトップになってほしい。下の人たちが上司を選べるようになればいい。部下がいないと仕事ができない人が多すぎます。

川添:出世争いで勝ち上がるレースではなく、実力・実績・意志・人望で上のポジションが決まるようになるとよいですね。

鈴木:外に出て事業をなしえた人が戻ってくるのもいいですね。番頭みたいにくっついてきた人が偉くなるのは違うと思います。

 

 

コメント

川添:ベンチャー、大組織であっても、人の本質は大きくは変わらないと捉えています。例えば、ベンチャーでも一定数を超えると、派閥を作り始めたり、意見を持たない人が出てきます。大組織では人数が多い分、説得するためのステップや説得のための伝える方法などで労力を使うことになるでしょう。

改めて伺うと、逸見さんのキャリアは一見華々しいですが、都度課題にぶち当たり、とにかく行動をされていることがわかります。書店店員からスタートし、ベンチャーであるソフトバンク内でECの立ち上げをされて、ECプラットフォーマーであるアマゾンに入社される。そこで、アマゾンのエコシステムに魅了されるよりも、店舗の存在価値に魅力を感じられたというのが逸見さんらしいですね。それが、イオンやキタムラ、現在のオムニチャネルコンサルタントの経験の軸になっているんではないでしょうか。

こういった、「動いて壁に当たってまた動く繰り返し」をできる人は、大組織の改革には必須だと捉えています。動きながら結果を出す。信頼を得た段階で、わかりやすい言葉でやりたいことを伝える。オムニチャネルではなく「人間力EC」というのは、私自身、初めて聞いたときに「まさにコレだ!」と感じたのを覚えています。皆を巻き込むための言葉を生み出し、経営を巻き込んでダイナミックに方向付けできるのは、大組織の強みともいえるでしょう。

胆力があり、フットワークが軽い人物は、大組織の改革だけでなく、デジタルシフトという難題に対しても必要な人材です。大組織でデジタルシフトをするリーダー格には、胆力とフットワークの軽さが必要というのは、逸見さんや私のキャリアや成果を見てもこれは間違いないと言えそうです。

 

第3回 【対談】ITの内製化とフラット型の組織、これが実現できない小売企業は生き残れない 鈴木康弘×逸見光次郎 に続く

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

鈴木康弘:1965年生まれ。1987年、富士通入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年、ソフトバンク入社。営業、新規事業企画に携わる。1999年、ネット書籍販売会社イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立。代表取締役社長就任。2006年、セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。2014年、セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年、同社取締役執行役員CIO就任。2016年、同社を退社。2017年、デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施。SBIホールディングス社外役員就任。著書に「アマゾンエフェクト! ―「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか」(プレジデント社)。

逸見光次郎:1970年生まれ。1994年、三省堂書店入社。1999年、ソフトバンク入社。イー・ショッピング・ブックス立ち上げに参画。2006年、アマゾンジャパン入社。2007年、イオン入社。ネットスーパー事業の立ち上げと、イオングループのネット戦略構築を行う。2011年、キタムラ入社。EC推進本部副部長、ピクチャリングオンライン代表取締役会長(2012年9月にキタムラ統合)、執行役員EC事業部長、執行役員オムニチャネル(人間力EC)推進担当。2017年、個人事業主としてオムニチャネルコンサルタント活動を始める。同年、ローソン入社。マーケティング本部本部長補佐、同年退社し、コンサル契約に移行しローソン銀行立ち上げに関わる。2018年に千趣会執行役員マーケティング副本部長に就任。現在は、フリーのコンサルタントとして流通業界のオムニチャネル化のための講演活動や複数の流通事業会社のオムニチャネル化を支援中。プリズマティクス社アドバイザー、GMOメイクショップ社オムニチャネルスーパーバイザーを兼務。著書に「デジタル時代の基礎知識『マーケティング』 「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール」(翔泳社)。

川添 隆:販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志し当時サイバーエージェントグループだったクラウンジュエル(現ZOZOUSED)へ。ささげ業務(ECサイトで販売する商品の情報制作業務)から企画、PR、営業まで携わり2010年にクレッジ(現オルケス)に転じ、EC事業の責任者として自社サイトの売上を2倍以上、EC全体を2年で2倍に拡大。LINEを活用した事例でも成功を収める。2013年、メガネスーパー入社、デジタル・コマースグループ ジェネラルマャー就任。2017年からビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を兼務。2018年5月、執行役員に就任。