【対談】ITの内製化とフラット型の組織、これが実現できない小売企業は生き残れない 鈴木康弘×逸見光次郎(第3回)

2019.02.05 エキスパート

小売業界で進むデジタルトランスフォーメーション。多くの企業はデジタルを媒体が変わっただけといった捉え方をしていますが、実はその影響は大きい。

セブン&アイでオムニセブンを統括、現在は自ら立ち上げたデジタルシフトウェーブ社の代表を務める鈴木康弘氏と、鈴木氏とともにソフトバンク時代にイー・ショッピング・ブックスを立ち上げ、その後、カメラのキタムラでオムニチャネル化をリードしたオムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎氏の対談です。

メガネスーパーを含めて複数社のEC事業の急成長を牽引した“ECエバンジェリスト”川添 隆氏がファシリテーターを務めます。

鈴木氏は、「デジタルシフトは消費者の生活が変わるだけでなく、求められる企業、組織、人材が変わるということ」といいます。

第3回では、そうしたデジタルシフトで求められる組織や企業としての向き合い方についてお話しいただきました。

前回記事 全体の8割は意見がない。大企業の社内変革でみえた、組織の動かし方 鈴木康弘×逸見光次郎(第2回) はこちらから

 

いろいろな業界でデジタルエフェクトが起きている

川添 隆(以下、川添):鈴木さんは現在、どのような会社の支援をされていますか。

鈴木康弘(以下、鈴木):最初はスカパーさんのコールセンターのデジタル化を手がけました。それから大手のSIerの教育を手掛けたり、小売業や外食業のデジタルシフト支援など、今20社くらいを支援しています。

逸見光次郎(以下、逸見):鈴木さんはシステムをよくわかっているし、営業経験があり、ベンチャーも大企業も経験があるので、対応できる幅が広いですね。

川添:逸見さんは、千趣会の立て直しにチャレンジされましたね。

鈴木:通販業界はEコマースとバッティングするから構造的に大変です。通販企業側は往々にしてカタログとネットは媒体が変わっただけとしか思っていないけれど、もっと深い構造的な問題があります。

逸見:そうなんです。うちの妻は25年間千趣会で買い物していて欠品になると「なぜこんなことが起きるの」と怒る。おっしゃる通り構造の問題なんですよね。チャネルが単に切り替わっただけでなく、お客さんの見方、使い方が全部変わってきています。

鈴木:いろいろな業界で変わってきています。僕がデジタルシフトについて解説した著書「アマゾンエフェクト!」(プレジデント社)でも書いたけれど、流通業はアマゾンエフェクト。象徴的なのが、2017年にAmazon.comがホールフーズ・マーケットを137億ドルで買収したことです。金融業界だってフィンテックエフェクト、自動車業界もコネクテッドカーエフェクト、いろいろな業界でデジタルエフェクトが起きています。

逸見:それなのに、多くの企業は「デジタル」と言うと単にITをのせるということしか考えていません。

鈴木:デジタルシフトはどういうことか、僕の考えは、デジタルによって人々の生活が変わることだと思います。10年前はスマホはそれほど普及していませんでした。20、30年前に遡ると、携帯すら持っていなかった。でも今はみんなが持っています。

発信される情報がネットによって増えて、十人十色、億人億色の生活になりました。僕らが子どものころは木曜の夜は「ザ・ベストテン」を見て次の日学校はみんなその話題ばかりでした。それが変わりました。人々が変わったら当然企業も変わらないといけません。

テクノロジーによってパーソナル化、ナレッジ化、省力化を実現しなければなりません。ITを活用しない企業は立ちゆかなくなります。今、テック企業というとヤフーや楽天が思い浮かびますが、10年後、20年後みんなテック企業になります。

フラット型の組織でなければテック企業に追いつかない

鈴木:テック企業の特徴はピラミッド型の組織ではなくフラット型の組織であるということです。すなわち働く人も変わります。デジタルシフトは消費者の生活が変わるだけでなく、求められる企業、組織、人材が変わるということだと思います。

「なぜテック企業は新しいことができるんですか」とよく聞かれますが、ピラミッド型は社長と経営陣が今年の方針を考えます。フラット型は常にプロジェクトがたくさん走っていて、それそのものが戦略となっています。戦略のビット数が多いのです。グーグルやアマゾンも100、1000のプロジェクトがあると言います。その分、当たりも多いがはずれも多いです。

逸見:ピラミッド型の組織だと、職務権限がない社員が勝手に進めたら怒られますね。

鈴木:そういう組織である限りテック企業には追いつきません。アメリカはIT人材を育成するSTEM教育を打ち出し、2015年で300万人のIT人材がいます。一方、日本は90万人程度。2020年に100万人を目指すと言っているけれども人口がどんどん減っていく中で本当に増やしていけるのでしょうか。

世界的にもデジタルシフトが進んで、今後IT人材の育成が国力や企業力を決める時代になると思います。さらに問題は、アメリカではIT人材の4分の3は一般企業に所属しているけれど、日本はSIなどに偏っていますね。外部ではなく、企業の内部にいる人がデジタルシフトの担い手となって動くほうが当然速いです。

逸見:社内のルールをわかっていてITを作るのと、外から入ってきてRFP(Request For Proposal)を見ながら作るのとでは全然スピードが違います。日本ではどこの会社に行っても、ITの話は外部のベンダーが出てきます。「社内の人は?」と言うと、「こういう新しいものはベンダーにまかせているから」と答えます。それでどうやって進化するのでしょうか。「技術の発展に伴いIT化」ではなく「ビジネスの発展に伴いIT化」であるべきです。顧客に合わせて作らなければなりません。

鈴木:間に入っている人がいっぱいいます。そこにだまされてしまう。IT人材は内製化します。本当にテクニカルなAIのエンジンなどだけ専門の人を使えばいいと思います。

逸見:昔はマーケティング分析をやるためには重回帰分析を覚えないといけなかったけれど、今はデータを流し込めばBI(Business Intelligence)で見えます。そんなに難しい知識やスキルはいりません。一方で、ビジネスも業務も知らないデータサイエンティストに外注しても本当の分析はできません。データサイエンティスト自身は優秀でも、ビジネスサイドが要望をはっきり伝えていないから、何をするかが曖昧なんです。役割分担の怖いところだと思います。

鈴木:ITの人はマーケティングを知りません。マーケティングはデジタルが必要というけど、いざ作るとなると逃げます。そこを融合したらいいと思います。

小売業のプラットフォームはオープンにすることが理想

鈴木:20年前に孫さんが言っていたのは、「デジタルは時間と距離と量と方向の制約から解放されること」。確かにその通りで、いつでも瞬時に買えて、地球の裏側にある商品在庫でも見られて、双方向でコミュニケーションがあります。それらは20年前にはできなかったことです。

逸見:さらにネットを押さえるということは、銀座の一等地を押さえることでもある、と孫さんはおっしゃっていましたね。昔は銀座に人が集まった。いまはその人にとっての銀座がそれぞれある。ログデータで見て、その顧客にとっての一等地で情報を提供していき、つながりをどれだけ持てるか。

鈴木:ビジネスの主戦場も変わっています。顕著な例でいえば音楽プレーヤーです。ウォークマンが主流のところへiPodが出てきました。ソニーの人は「音質ではソニー」だと言っていたし、デジタル雑誌もこぞって「ソニーが勝ち」と書いていました。それでアップルは、端末の競争をやめてプラットフォームビジネスに切り替えました。プラットフォーム(iCloud)にあう端末は何かというとiPhone、iPadということになりました。これが革命的でした。

フィンテックも同様です。昔は銀行、証券、保険、駅前の一等地に支店をたくさん持っているところが強かった。さらに保険会社は優秀な保険レディを多数抱えていました。しかしネット証券ができて、プラットフォーム上に金融ベンチャーがどんどん出てきました。銀行もがんばってオンラインバンクを始めたけれど、結果的にいま大変な状況です。

小売業はアマゾンが出てきました。デパート、スーパー、コンビニ、ショッピングモールなどリアルの小売業は店で売っているものをネットで売る。対してアマゾンは極端な話、地球上の商品を全部集めてリコメンドして売る形がある程度できあがっています。さらに、ネットの体験をリアルで実現すべく、AIスピーカーを打ち出したりリアルの小売を作ったりコンタクトポイントを増やしています。

逸見:百貨店などは、リアルで売っている商品をまだネットに全部載せていないところも多い。単品管理してないんです。海外は単品管理しているからメイシーズ(アメリカ)やジョンルイス(イギリス)ではネットとお店、同じものが見えています。日本の百貨店は期待してウェブを開くとお中元やお歳暮が中心だったりします。これはアウトですね。

鈴木:セブン&アイ時代に、小売業でオープンプラットフォームをつくりたいと考えていました。まず自社のプラットフォームを構築した上で、会員のデータを統合する。その上で、プラットフォームをオープン化して、競合のイオンも含め他社の商品、コンテンツを参加させて増やしていく。これにリアルの小売業は抵抗します。

そのデータをもとに顧客のパーソナライズ化、店舗のパーソナライズ化をします。小売業はチェーンストア理論があるのでこれも抵抗します。さらに、プラットフォーム上で新しい商品を生み出す。結局トップが変わったこともあり、こうした取り組みはできなくなってしまいましたが。

逸見:本当はそうしたほうがみんな楽になりますね。イオンでネットスーパーを作ったときも、PB(プライベートブランド)は別として他のNB(ナショナルブランド)の商品マスターはみんなで共通で持っていたらいいのにと思いました。

書店のネット化が早く進んだのは、もともと寡占業界でトーハン・日販の卸を通るときに商品の共通データベースがすでにできあがっていたんです。「競合」といっても競うのはサービスであって、基本的なデータベースで競ってもなんの意味もないんですよね。みんなお金がかかるだけです。

「三河屋のサブちゃん」のように。これから求められる顧客情報との向き合い方

鈴木:大切なのはコップの中のけんかではなくアマゾンにどう戦うかだと思います。

逸見:それと、個人情報保護の問題がさんざん言われますが、自分が買い物する立場だったら必要な個人の情報はむしろ押さえてほしい。自分の好みをちゃんと覚えてくれてそれを提供してくれる、買い物をすればするほどその関係が深まっていくほうがいいです。それはネットだけでなく、リアルの店舗にも組み込まれていってほしい。書店で働いていたときは、よくなじみのお客さんから「おすすめの本はないか」と聞かれました。お客さんは読書履歴を知られる事を全然嫌がってないわけですね。

鈴木:顧客側としては小売業やサービス業が個人情報を持つことに抵抗はないんですよ。「サザエさん」でいう三河屋のサブちゃんに「ビールが切れそうだから追加して」という感覚です。ややこしいのは個人情報を売ろうとする会社があることです。

逸見:データで商売する会社ですね。そこはおかしいですよね。商売のマーケティングデータとして内部で活用すべきです。

最近小売の人向けにわかりやすくカスタマージャーニーを説明する際、次のように言っています。「いままではPOSだけが見えていた。それは買った瞬間だけ。今はその買う前も後も見えるようになってきています。買ってないのに来店したログが残っています。検索した商品もわかります。さらに、買ったあとそのお客さんがソーシャルでつぶやいているのも見えます。さまざまなものが見える化します。」

今までの売り上げは、「商品単価もしくは顧客単価×客数」でしたが、今ではその客数を分解することもできるようになりました。客数10と言っても新規か既存か、既存でも毎年買っている人か2回目なのか、3年前は買っていたがしばらく買わずに帰ってきた復活なのか、その他、売り上げに入らない休眠客の存在もわかります。それも含めて企業における顧客です。この流れが見えた上で何をするのかが重要なのです。

 

コメント

川添:「デジタル推進は目的ではなく手段」と言われますが、先日あるイベントでは「デジタル推進は環境だ」というコメントを聞き、私自身も納得しました。今回、鈴木さんがおっしゃられていますが、「デジタルによって人々の生活が変わった」というのも、デジタルという環境があったからでしょう。そして、ここで指す人々というのは“人そのもの”であり、仕事をしている時の自分、プライベートで生活者として過ごしている自分、この両方のことだと捉えています。

「デジタルシフトにおける組織」の話は、リーダーや経営者、部門連係の話がよくあがりますが、今回のピラミッド型とフラット型の組織という議論は私自身初めて聞き、肚落ちしました。デジタルシフトもいくつかのフェーズがありますが、“デジタルという環境”がある程度整った場合、それを活用したり、アップデートしていく必要が出てきます。新しいことにチャレンジしていくには、最初の見立てはあったとしても、スモールスタートでやってみなきゃわからない部分の方が多いと感じます。実行をしていく企業ほど知見がたまっていくため、課題に向き合っている担当がプロジェクトを発案して、いろんなプロジェクトを進めている企業の方がより強くなってくでしょう。

デジタルによって組織のあり方も変化してきています。この事実を受けて止め、どのタイミングで自社がその舵を切るのかを考えておく時期にきていると感じました。

 

第4回【対談】小売のデジタル化が進み、ビジネスが変われば働き方も変わる、人生100年時代を生き抜くには 鈴木康弘×逸見光次郎 に続く

 

記事作成:安楽由紀子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

鈴木康弘:1965年生まれ。1987年、富士通入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年、ソフトバンク入社。営業、新規事業企画に携わる。1999年、ネット書籍販売会社イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立。代表取締役社長就任。2006年、セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。2014年、セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年、同社取締役執行役員CIO就任。2016年、同社を退社。2017年、デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施。SBIホールディングス社外役員就任。著書に「アマゾンエフェクト! ―「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか」(プレジデント社)。

逸見光次郎:1970年生まれ。1994年、三省堂書店入社。1999年、ソフトバンク入社。イー・ショッピング・ブックス立ち上げに参画。2006年、アマゾンジャパン入社。2007年、イオン入社。ネットスーパー事業の立ち上げと、イオングループのネット戦略構築を行う。2011年、キタムラ入社。EC推進本部副部長、ピクチャリングオンライン代表取締役会長(2012年9月にキタムラ統合)、執行役員EC事業部長、執行役員オムニチャネル(人間力EC)推進担当。2017年、個人事業主としてオムニチャネルコンサルタント活動を始める。同年、ローソン入社。マーケティング本部本部長補佐、同年退社し、コンサル契約に移行しローソン銀行立ち上げに関わる。2018年に千趣会執行役員マーケティング副本部長に就任。現在は、フリーのコンサルタントとして流通業界のオムニチャネル化のための講演活動や複数の流通事業会社のオムニチャネル化を支援中。プリズマティクス社アドバイザー、GMOメイクショップ社オムニチャネルスーパーバイザーを兼務。著書に「デジタル時代の基礎知識『マーケティング』 「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール」(翔泳社)。

川添 隆:販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志し当時サイバーエージェントグループだったクラウンジュエル(現ZOZOUSED)へ。ささげ業務(ECサイトで販売する商品の情報制作業務)から企画、PR、営業まで携わり2010年にクレッジ(現オルケス)に転じ、EC事業の責任者として自社サイトの売上を2倍以上、EC全体を2年で2倍に拡大。LINEを活用した事例でも成功を収める。2013年、メガネスーパー入社、デジタル・コマースグループ ジェネラルマャー就任。2017年からビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を兼務。2018年5月、執行役員に就任。