【対談】サービスロボットの社会実装に向けては、品質・安全基準・倫理・心理学などを総動員した全く新しい議論が必要 羽田卓生×柴山吉報(後編)

2020.02.13 エキスパート

医療・介護、調理などの生活領域で活躍する「サービスロボット」分野の成長と早い実用化が期待されている一方で、工業製品としての安全性や適切な運用を巡るいくつかの法的課題も残されています。

前編に続き、ロボットエバンジェリストの羽田卓生氏とAI分野の法制に詳しい柴山吉報弁護士に、既存の法制との接点が少ない自律型ロボットの普及促進を図るためには、どのような法制的課題を解決しなればならないのかを語って頂きました。その中から、難問山積の法制的課題を何としでも解決し、自律型ロボットの普及を図らなければならない真の理由も見えてきました。

前編 ロボット産業は2035年に9.7兆円規模へ 成長の前に横たわるこれだけの法制的課題 羽田卓生×柴山吉報 はこちら

実用化が近づくサービスロボット

羽田 さて、今後のロボット産業の育成についてですが、ロボットに関する各種の調査・研究レポートを読んでいると、従来の産業用ロボット以上に成長への期待が大きいのが「サービスロボット」だと思います。

今後ますます人手不足深刻化が予測されている医療・介護施設、飲食業、物流施設、商業施設のバックヤード、農林業、食品加工業などの領域にサービスロボットが導入され、業務をロボットが代替するのは時間の問題だと思います。

例えば介護施設なら、介護福祉士不足という現実的な問題もありますが、介護ケアの場面においても人が介護するよりサービスロボットの「介護福祉ロボット」が介護する方が良いように思います。

 柴山 それはどういう意味ですか。

 羽田 これはある介護施設を取材した時に知ったことですが、要介護者の方々方には常に「介護してもらって申し訳ない」との心理的負担があり、それが介護される方々のストレスになっているらしいのです。

介護福祉士の方々はみんな訓練を受けていて、要介護者の方々がストレスを感じない介護に努めているのですが、要介護者が「申し訳ない」と感じる気持ちだけはどうしても拭い切れないといいます。これは日本人の国民性も背景にあると思います。

ですから、要介護者の体に直接接触する介護業務を介護福祉ロボットが担えば、この問題を解消できる可能性があります。

柴山 心理的負担という観点では、介護福祉ロボットの果たす役割は大きそうですね。また、介護施設には介護福祉ロボット以外のロボットも活躍できる業務が色々とあります。例えば清掃と荷物運搬業務。大半が定型的な業務なので既存の制御型ロボットで処理できます。これなら割と早く実用化できますね。

羽田 おっしゃる通りだと思います。

全産業に言えることですが、そうした周辺業務から入っていった方がロボットの導入普及は早まると思います。また、介護という業務フローを建物レベルから根本的に見直すと、現在のロボティクス技術レベルですぐに解決できる介護業務は他にもいろいろあると思います。

柴山 建物レベルから見直すとは、どのような事でしょうか。

羽田 言うなれば「ロボットバリアフリー」という概念で、ロボットが動きやすい環境を整備するということです。ロボットが動きやすい環境は、恐らく人も動きやすいはずです。

柴山 そうしたサービスロボットの活用に関しては、介護施設のみならず他の領域にも通ずる視点ですね。

 

自律型ロボットに対して無力な現行の製造物責任法

羽田 近い将来、サービスロボットが様々な領域で活躍するためには、その要件としてやはり自律型ロボットが必要になると思います。

ところが、自律型ロボットは一般にはまだまだよく知られていないロボティクス技術ですから、これの開発や導入に際しては法律、ガイドラインをいかに整備するのか。さらにはパブリックアクセプタンス(社会の受容)をどのようにして形成するかの課題が出てきます。

これに関して柴山さんは、法律家としてどのようにお考えでしょうか。

柴山 自律型ロボットの場合、技術的に未解決な問題も残っていますので、率直に申し上げて難しい問題だと思います。人間が制御しない自律型ロボットの場合、品質と安全性をどうして担保するかがかなり大きな問題になると思います。

羽田 自律型ロボットに限らず、工業製品の品質と安全性については、製造段階で「産業標準化法(旧工業標準化法)」の適用を、利用段階で「製造物責任法」の適用を受けますね。

柴山 はい。産業標準化法への対応という観点では、現行法が規定している製品管理体制や品質管理体制をクリアする必要があります。

利用段階で事故が起きたときは製造物責任法が問題になります。

交通事故など、民法上の不法行為責任を追及する場合には、事故の被害者は加害者に過失があったことを基礎づける事実を立証しなければなりません。対して製造物責任法においては、製品利用中に事故が発生した場合、ユーザである被害者はそのメーカーの過失の立証は不要で、製品に欠陥があった事実だけを立証すれば良いとされています。

ところが、自律型ロボットのような超複雑で高度な技術で製造されている製品になってくると、事故が発生しても、一般のユーザが製品の欠陥を特定したうえで立証することは相当な困難が伴います。

羽田 ハードウェアの欠陥については、機械に詳しいユーザなら欠陥の特定は可能でしょうけれども、ソフトウェアの欠陥となるとバグ、ノイズ、プログラムミスなど多種多様な要因が複雑に絡んでくるので、ITエンジニアでも難しいのが現状です。事故が発生した時の状況をそっくり再現しないと原因究明ができませんから。

ましてやAIが制御する自律型ロボットになってくると、早い話、AI自身が新しいプログラムを勝手に殖やしてゆくような世界です。つまり、使うごとにソフトウェアが進化してゆくような製品なので、人間の手に負えなくなる可能性がありますね。もしかすると原因究明のためのAIロボットが必要になるかも知れません。

柴山 ロボットのような高度な製品の場合には、現行法を前提にしても、裁判例等では被害者側に一定の配慮をした判断がなされることがあります。例えば、複雑な構造をしたヘリコプターのエンジンの欠陥の有無が争われた事例では、「エンジンを適正な使用方法で使用していたにもかかわらず、通常予想できない事故が発生したことの主張、立証で足り」るとして、エンジンの中の欠陥の部位やその態様等を特定したうえで、事故発生の科学的機序まで主張立証する責任はないと判断した裁判例があります。高度化した制御型ロボットや自律型ロボットの「ロボット事故」の場合にも、同じような判断枠組みで判断される可能性が高いものと思われます。また、自動運転のための法整備が検討されているように、技術の発展とともに製造物責任法の枠組みでは対応が難しいような事態が生じた場合には、法律自体が変わる可能性もあると見ています。

サービスロボットは我が子に似たような存在?法整備は国家戦略レベルの対応が必要

羽田 ロボットが「危険な製品に進化する」事態を防ぐためにも、ロボットが設計の想定外の動きをした時に、ロボットがそれを「失敗だ」と認識し、それを学習して同じ失敗を二度と犯さない技術の開発は重要です。

ただ同時に、ロボットの「どの程度の失敗」まで人間が許容できるのかの線引きも必要になると思います。例えば我が子のように「この程度の失敗なら、まあ大目に見てやろう」と言ったような。

柴山 そうですね。法的な観点とは少し離れますが、日本の場合、例えば職人が包丁を丁寧に研ぐといったように、仕事道具を大切に扱う国民性がありますよね。それと同じように、サービスロボットなんかに対しては、自分の大事な仕事道具のような感覚で扱う。あるいは、自分の仕事を奪う道具ではなく、自分の仕事を助けてくれる仕事仲間のような意識を持つようになるのではと、私は楽観している部分もあるのですが。

羽田 日本の場合、特に職人さんの場合は機械にしろ工具にしろ、科学や合理性だけでは説明できない感覚で取り扱っていますものね。我が子を慈しみ、育てるような感覚で。

柴山 サービスロボットは、もしかするとそんな存在になるかも知れませんね。

となると、非常に微妙で複雑で繊細な問題ですので、その実用化においては品質や安全基準論議だけでは対処できなくて、倫理、感情論、心理学などを動員したまったく新しい、これまで経験したことがない視点の論議が必要になってくるかも知れませんね。

羽田 最後になりますが、サービスロボットの普及に向けては、柴山さんが縷々説明してくださったように、法制面に関してはいまだ手付かずの未解決問題が山積の状況です。

それでも私は開発の手を緩め、普及を遅らせる訳にはゆかないと思っています。サービスロボットは人口減少問題の現実的な解決策の1つだと確信しているからです。

今後ますます深刻化すると予測されている少子高齢化とは、すなわち生産人口の減少であり、それは日本の経済・産業の活力低下に繋がることが様々な研究で明らかになっています。

サービスロボットがその有力な解決手段になる可能性があるなら、日本人の知恵と工夫を結集して山積している法制面の未解決問題を1つ1つ解決していくしかないとも思います。

 柴山 この点については、消費者と専門家の間でもまだ認識にギャップがあると思っており、ロボット産業に対する期待値のズレが結果として一過性のブームという形に収斂しないようにしなければなりません。

今後のロボット産業の育成に関しては国、事業者、消費者、私たち法律家が一体となった国家戦略レベルで法制問題の解決に立ち向かう必要があると思っています。

 

記事作成ː福井 晋

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

羽田 卓生:株式会社ABEJA 新規事業担当

1998年にソフトバンク入社後、出版事業部に配属。2007年のボーダフォン買収後は、通信ビジネスに主に従事。2013年、あらゆるロボットの制御を担う汎用の基本ソフト(OS)「V-Sido」を開発・販売するアスラテック株式会社の立ち上げ時より同社に参画し、現在同社のパートナーロボットエヴァンジェリストとして活動。2019年より、株式会社ABEJAに参画。そのほか、Mira Robotics株式会社パートナー/ストラテジスト、任意団体ロボットパイオニアフォーラムジャパン 代表幹事、特定非営利活動法人ロボットビジネス支援機構(RobiZy)アドバイザーほか、執筆活動も行う。

柴山吉報:阿部・井窪・片山法律事務所 弁護士

司法試験予備試験合格、東京大学法科大学院卒業。阿部・井窪・片山法律事務所に所属し、IT企業の知的財産権、営業秘密等に関する案件のほか、システム開発の紛争や各種訴訟等を数多く扱う。2018年から㈱ABEJAに参画し、AIのモデル開発、顔認証技術を用いたサービス及びデータの取引等の分野において契約交渉及びビジネススキームの検討等の業務を行う。
主な著書に、『第4次産業革命と法律実務(クラウド・IoT・ビッグデータ・AIに関する規制と保護対策)』(共著・民事法研究会)、『金融機関の法務対策5000講 Ⅴ巻(回収・担保権の実行・私的整理・法的整理 編)』(共著・きんざい)、『損害賠償額算定解説事例集』(共著・新日本法規)など。

<参照資料>
ロボット革命実現会議/首相官邸
●ロボットを取り巻く環境変化等について/経済産業省
●平成29年度 ロボット産業・技術振興に関する調査研究報告書/日本機械工業連合会
●市場規模は2035年までに5倍に/ロボット導入.com
●介護福祉・生活支援ロボットの法規制対応/Medtec
●介護ロボットの開発・普及の促進/厚生労働省
●AI利活用ガイドライン/総務省AIネットワーク社会推進会議報告書2019