【対談】良いロボットスタートアップは「地味」? ロボティクス領域特有の組織マネジ メントと事業の進め方とは 尹祐根×中村壮一郎(後編)

2020.03.17 エキスパート

労働人口減など日本における喫緊の課題に対して、ロボティクスは大きな成長を期待され ています。ファナックへの売却で注目を集めたライフロボティクスの創業者で現在は産業 技術総合研究所で研究を行う尹祐根氏と、警備用自律移動型ロボットを開発・提供する SEQSENSE 代表取締役・中村壮一郎氏の対談企画。 前編では、ロボット産業の発展に向けた事業上・技術上・法規制上のポイントやご自身の 取り組みについてお伺いしました。

後編では、バックグラウンドを異にしながら共にロボティクススタートアップを起業し、 経営した経験のあるお 2 人から、事業やマネジメント上のハードル、それを乗り越える工 夫など、さらに、大企業とスタートアップの協業についてのお考えを語って頂きました。

前編 【対談】ロボットが「ロボット」と呼ばれなくなる日まで 実用化に向けた道筋と技術的課題 尹祐根×中村壮一郎 はこちら

 

ロボットスタートアップの起業、経営において重要なこと

― 尹さんは、起業された一番のドライバーになったものは何だったのでしょうか。

尹:自分の作った技術で世の中の誰かが幸せになることはエンジニア冥利に尽きると思う んです。それを僕は自分が生きている間に実感したいと思ったのです。それが一番個人的 な理由ですね。

事業として世の中に出していくということはマーケットからお金を頂くということ、つま り誰かの役に立っているということだと思うので、その点は大切にしてきました。あとは、 技術の進歩のためにも、研究者やエンジニアにしっかりお金が回る世の中にしていきたい と思っています。

― 中村さんはマネジメントで工夫されてきたことはありますか。

中村:エンジニアにはそれぞれ役割があり、分野も分かれているので、いかに連携できる かが非常に大切で難しい課題です。会社としては、エンジニアの方々が活躍するための組 織をつくらなければいけない。

かつ、新しいマーケットを切り開くものを作っている組織なので、組織の編成なども自分 たちで考えていかなければならないと思います。人数によってもその都度最適化して、有 機的に自己組織化できるようにならないと、スピード感はなかなか出ないかなと。

― 尹さんはロボティックススタートアップをやる上で苦労された点はありますか。

尹:ロボットエンジニアは良くも悪くも自分の好奇心ベースで動く人が多いです。面白そ うで、自分の興味があるからつくりたい。それは他の分野と比較して際立っていると思い ます。それが世の中のニーズとハマるとすごいのですが、ハマらないとただの個人の趣味 になりかねないので、それはマネジメントとして注意すべき点ですね。

中村:そういう意味では、弊社ははじめに会社の哲学(「ヒト型も、ネコ型も、目指さな い」※前編参照)がバシッと打ち出されていて、エンターテイメント系はやらないと言っ ているので、それに同意できる人しか入ってこないようになっていますね。

尹:ライフロボティクスでの採用では、研究だけの研究者よりもメーカーでものづくりを 経験したエンジニアが多くなりました。技術はもとより、ビジネスとして成り立つかとい う視点が不可欠だと思っているからですね。

 

ロボティクスは、お客様との共同開発である

― ハードウェアの場合、ソフトウェアのようにアジャイルで開発し市場に出しながら修 正を繰り返すのが難しい一方で、AI はどれだけ実稼働させてデータを取れるかが大事とい うジレンマがあると思われます。そのジレンマにはどのように立ち向かわれたのでしょう か。

中村:我々はミニマムからやっています。新しいマーケットを創るとなると、想像で「こ ういう機能が必要だろう」と何でもかんでも乗せて出すのは良くないと思っています。ま ずはミニマムで出して、お客様企業や警備員の方などからご要望や感想を頂いて、最も必 要と思われるアプリケーションを、優先度を上げて作っていく。 ハードウェアは、そう簡単に機能を付けたり消したりできないので、ある程度初期のお客 様にはご協力を頂かなければと感じています。本当にお客様と共同開発していくことが必 要です。

よくロボットの現場で「インテグレーション」という言葉が使われるのですが、ソフトウ ェアとハードウェアのインテグレーションだけではなく、社内のエンジニアとビジネスサ イドの人間、さらには自社とお客様とのインテグレーションも必要になってきます。

尹:同感です。ロボティクスは、会社としての成長スピードを我慢する必要があります。 スマホアプリなどのソフトウェアなら、一気に広げて 100 万ダウンロードしてもらって、 バージョンアップで修正していけば良いのですが、ハードウェアではそうはいかない。 最初はお客様にも我慢して頂きながら、スモールスタートである程度検証して、これなら いけるというのが見えてから一気に広げていかなければなりません。

我慢が必要なのは投資家も同じですね。「一気にいけ」という投資家さんも多いのですが、 そうはいかないのです。機能と実用性を実証するためだけに普通に 5、6 年かかる。それが 我慢できた会社は、その後一気に伸びるので、そこが大事なポイントです。

― 現在、投資家やお客様からの理解はいかがですか。

尹:今はすごく良い環境です。10 年前は誰も理解してくれなかったのですが、人手不足が 本格化して、経営者の危機感にも火がついているので、一気に進んでいます。

中村:我々はありがたい話、営業したことがないのですが、要はそれほど事が深刻で必要 なのだろうと。逆に言えば、わざわざ営業してマーケットを開拓するようなことは本質的 ではないのかもしれません。

尹:僕が思う、良いスタートアップって地味なんですよ。比較的 BtoC のソフトウェアは派 手ですが、それはスピード感が違うからです。テレビ CM などで派手に見せて、世間の期待 値が先行することは、スピードを上げにくいハードウェアにとって自らの首を絞めること になります。 だから結果的に、ハードウェアは地に足をついてやらざるを得ない。その点で、SEQSENSE さんには以前から非常に注目しています。

 

大企業が心得るべきは、ベンチャースピリッツではなく、スタートアップ との付き合い方

― ハードウェアは成功確率が非常に低い分野だとおっしゃっていますが、成功させるた めに大企業と連携するという方法もあります。このあたりはどのようにお考えでしょうか。

尹:目的と手段が逆になってるのでは、と思うことがあります。「オープンイノベーショ ンをしたい」ではなく、まずは何かを成し遂げたいという目的があって、たくさんの手段 のうちのひとつとしてオープンイノベーションがあるというのが正しい順序のはずです。

スタートアップと協業するのが流行っているから、やるだけで何らかの収穫があると思い がちですが、何もないことも多いです。ビジネスの目的を達成するために必要だったらや ればいいだけで、必要ないならやらなくていいんです。

中村:私たちは大企業と関わるビジネスをしていますが、その中で重要だと思うのは、「役 割の違い」をしっかり認識しておくことです。大企業の方々が「自分たちもベンチャース ピリッツを持たねば」という事を仰るのですが、それは本当に必要なのかなと。

スタートアップでは、プロダクトは良いが、いざマーケットに広げようとするとリソース が少なくて限界があるというケースが多々あります。その時に、プロダクトの良さを理解 して、アクセルを踏んで広めるところの役割を、大企業に担って頂けるとイノベーション が本当にワークするのではないかと思います。お互いに無い部分を補完する関係がベスト ではないでしょうか。

尹:大企業はスタートアップの特性を理解することが大事であって、スタートアップの文 化を取り入れましょうということではないですね。大企業は構造的に、成功率が高いもの しかできないのです。稟議社会ですし、失敗した人が報われる人事評価システムではない ので。 となるとやはり、ゼロイチの部分はスタートアップに任せて、一気に拡大するためのロジ やメンテナンス体制を構築する段階で、大企業にバトンタッチするというのがハードウェ アスタートアップにとっては非常に大事な考え方かなと思います。

 

プロフィール

尹 祐根 産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 人工知能研究センター デジタルヒ ューマン研究チーム 主任研究員(ライフロボティクス創業者) ロボット研究者、起業家、投資家。

東北大学にて博士(工学)取得。東北大学助手、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産 総研)主任研究員を経て産総研発ベンチャーであるライフロボティクスを 2007 年に創業。 同社で 2016 年からの 1 年間でシリーズ A、B により合計 15 億円調達し、世界で唯一の肘 のない協働ロボット CORO を開発・販売。
2018 年同社をファナックへ売却。
2018 年から産総研に復職し、2019 年から産総研 AI 研究センターに所属。 メルカリ、epiST、ウィズ・パートナーズ、内閣府など、産学官のアドバイザーや委員を兼 務。
ライフロボティクスの代表取締役として、Forbes Japan「日本の起業家ランキング2017」 で第 9 位と特別賞(Cutting Edge)、「日本の起業家ランキング 2018」第 10 位に選出。

 

中村壮一郎 SEQSENSE株式会社 代表取締役

京都大学法学部卒。1977年生まれ。大学ではアメリカンフットボール部主将。ALL JAPAN にも選出。大学卒業後は、三菱 UFJ 銀行にて中小企業融資を担当。その後、シティグルー プ証券に転職。2006 年から 2008 年はニューヨークオフィス勤務。債券部に所属し、LBO フ ァイナスやストラクチャードプロダクトのマーケティング等を担当。2015 年より SEQSENSE 立上げプロジェクトに参画。2016 年 10 月創業と共に代表取締役就任。東京工業大学アメ リカンフットボール部ヘッドコーチも務める。