【サブスクリプション】SaaSの事業拡大に必要なカスタマーサクセスの思想 Salesforce Ventures日本代表 浅田慎二

2020.02.14 エキスパート

「サブスクリプション(サブスク)」はSaaS(Software as a Service)や動画/音楽ストリーミングのspotifyやNetflixなど、サービスの利用に対して顧客から定期定額料金を回収するビジネスモデルとして、近年世界中で大流行しています。さらには、ファッション、自動車のレンタルといった「モノのサブスク」も増加しています。

こうしたバズワード化しているともいわれるサブスクの現状と今後の可能性について、米国の代表的なSaaS企業のセールスフォース・ドットコムのコーポレートベンチャーキャピタル、「Salesforce Ventures(セールスフォースベンチャーズ)」日本代表の浅田慎二氏に伺いました。

 

サブスクビジネスで成長するために重要なのは、カスタマーサクセスの思想

――SaaSは普及してきている印象がありますが、最近では様々なモノのサブスクも出てきています。最初のご質問として、こうしたモノのサブスクリプションについての普及の可能性について、どのようにお考えですか?

浅田 今後の見方として、「カスタマーサクセス」を前提としたサブスクにはポジティブですが、旧来型の定額制ビジネスについてはネガティブです。カスタマーサクセスという言葉がSaaSの中で広がっていますが、「顧客と共に育つ」ことが現在のサブスクビジネスの重要な考え方です。旧来の定額制ビジネスというのは、例えば解約したくても解約ボタンが見つからないというような状態で、提供者側の論理でビジネスモデルを作っていました。サブスクという言葉は同じでも考え方は180度違います。

カスタマーサクセスの思想があるサービスは、今後もユーザーの支持を得て伸びるでしょう。今はエンタープライズソフトウェアの方が成功している感はありますが、今後はリアルな服や家具、お弁当などが毎日届いたりするサブスクも普及すると思います。ただし、リアルなサービスについては、カスタマーサクセス思考であってもソフトウェアと異なり、製品を届けるコストも発生するため、自動化や低価格化などを進めてもエコノミクスとしては成り立ちにくい。黒字化までは時間がかかるものの、それでもカスタマーサクセス思考でやっている会社は残るでしょう。

――重要なのは、カスタマーサクセスという思想が根底にあるかどうかですね。

浅田 そうしたサブスクビジネスにおいて、成長の起爆剤になるのはユーザーの口コミ評価や実体験に基づく実績です。バズワードでの認知拡大よりも、本質的には、ユーザーが満足しているものがソーシャルなどで広がっていくことが重要です。ユーザーの満足度に関する情報が出回る時代なので、満足度の高いものがさらに広がっていくようになります。

日本のSaaS市場規模、アメリカに比べ大きく遅れている日本のSaaS

――国内市場では、サブスクは時間軸でみるとどのような広がりを見せるでしょうか?

浅田 僕の専門のエンタープライズソフトウェアの答えになりますが、日本のSaaSは5〜8年アメリカから遅れていると思います。その分、5〜8年後にかなり大きな市場になるでしょう。現在のエンタープライズソフトウェア市場は日本では7兆円で横ばい。8年後には70%のシェアをSaaSが埋め、4〜5兆円の市場になっているかもしれません。実は根拠としては、政府のクラウドファーストの宣言があります。2018年に日本の政府が発表した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」では、全省庁で、クラウドを導入するという方針が打ち出されています。米国政府も2012年に同様のプレスを出していますので、日米で5-8年ぐらいの時差で進んでいくイメージです。

――現在、日本でSaaSの導入への課題になっているのは何でしょうか。

浅田 日本では発注元が素人で、最初に丸投げして1次、2次、3次の代理店に流す構造が多い。この構造がSaaS を阻んでいると感じます。発注元が専門家にならない限りは、こうしたゼネコン構造のようなものは変わらないと思います。内部に専門家がいれば、自分たちで判断できるので、直接、製品提供メーカーに問い合わせ、自社で検証予算を用いて3ヶ月でゴールを設定し、成果を比較するといったことができます。社内に専門家を配備して、自分たちの知見に基づいて購買できる方が早いし効率がいい、最近のスタートアップではそうしたことができていますが、今後はそのような会社がSaaSの活用でも成功し、経営上伸びていくでしょう。

自転車エクササイズサービスのPelotonなど、ソフトウェアとリアルを融合したモデルも

――多くの事例が生まれていますが、海外も含めて注目しているサービスは何でしょうか。

浅田 注目している事例は二つ種類あります、一つは旧来型モデルをサブスクに転換した会社。AdobeとNetflixです。Adobeは、箱で売る売り切りのモデルからオンラインのサブスク企業に変わりました。NetflixもDVDが郵送されるモデルから変革した。

もう一つは、リアルの市場をソフトウェア化して、サブスクモデルに挑戦している会社。Weworkもいろいろいわれていますが、よく見てみるとどこにテナントとして入るか、どこの不動産を抑え、どういったサブリース先を入れるかをソフトウェアで最適化しています。そうしたリアルなものを効率化している、「オフィス・アズ・ア・サービス」であり、思想自体はカスタマーサクセス思考といえます。

また、アメリカのペロトン(Peloton)という会社は、ソフトウェアとリアルを融合した自宅での自転車エクササイズサービスを提供しています。まず、自宅で使用できるバイクを販売し、購入者はオンラインのエクササイズのサービスをサブスクリプションで受講できます。痩せることや健康になるといったことがゴールで、続けるためにライブでエクササイズをやっている人がランキング表示され、競い合ったりもできる。性別、年齢など属性をチューニングすると小さなグループにすることができ、例えば、500人中180番というより、10人中3位なら1位を目指せるからモチベーションが上がる仕組みなどを取り入れています。最初に自転車に先行投資させて入り口を狭くしていますが、フォーカスグループを見つけていかないと、結局総花的なマーケティングになってしまう。とがらせることが生き残り繁栄するための必須条件です。

――大変興味深いサービスですね、国によってもこうしたサービスは異なる展開を見せるのでしょうか。

浅田 コンテンツやリアルの世界は、各国の価値観が反映されていないと流行りません。国民性が大事な気がします。ティックトック(Tik Tok)はグローバルサービスですが、IPアドレスに基づいて各国のユーザーのローカルコンテンツだけを表示しています。こうしたローカライズは重要です。

SaaSの事業開発は、客観情報よりも担当者の主観的な思いが重要

――これからSaaS、サブスクのビジネス展開を検討している企業の経営者や担当者は何に気を付けていくべきでしょうか。

浅田 それぞれの業界の関連性の高いサービスを、とにかく使ってみること。ユーザーとして良かった点・悪かった点をチューニングしていけば、自社のブランドやノウハウを反映させていくことで、いいサービスが作れるでしょう。そのためにも大事なのはプライマリーリサーチ。一次情報にアクセスすることで解像度が変わります。

――SaaSの事業開発に重要なのは、1次情報で解像度を高めるということですね。

浅田 プライマリーリサーチをしてユーザー層に訴求するものが見えたら、プロダクトを作って検証する。そうして、実際に試してみて、クオリティーが低いと感じたら、自分ならこうするとワイヤーフレームを書き、手書きでも素人でできるものを使ってでもいいので、それを見せてエンジニアに打診していく。そういった手触りのある開発が必要だと思います。

――担当者の主観的な思いから事業開発していくことが重要なのですね。

浅田 何よりも、自分でほしい、という発想が大事ですね。その後、さらに確信を得るために、コンサルに依頼し客観情報で補完していく。確信を持てた後、プロジェクトを社内で通す必要がありますが、そうしたマーケットの成長率や会社としてのメリットが社内の人間に伝わるような書類作成はプロのコンサルに委託すればいい。スタートアップの起業家がそうですね、まず自分としてやりたいことがあって、それを実現していくために客観論を使います。

 

サブスク企業は選別が進むが、まだまだ市場は拡大

――サブスクはこの数年で注目され、スタートアップでは大型の調達事例も増えていますが、過剰な盛り上がりだという声もあります。

浅田 もうすぐ減滅期に入り、そうなるとカスタマーサクセス思考じゃないサービスが自滅していくと思います。カスタマーサクセス思考で顧客に満足度を提供してきた会社は直線から曲線成長になりますから、一気にマーケットシェアをとっていく。

――選別が進むということですね、これからも市場は拡大しますか?

浅田 はい、まだまだ市場は小さいと思います。2018年の年間ベンチャーへの出資金額は4,200億円。そのうちの14%がSaaSでしたがアメリカは40%。カスタマーサクセス思考のSaaSが伸びると、売り上げも伸び、それを見たVCが継続投資をするので3倍くらいになる可能性はあります。4,000億円くらいのSaaSへの投資が増え、ベンチャーも増えていくとみています。

 

記事作成:中山 佳子

撮影:Masanori Naruse

プロフィール

浅田慎二 Salesforce Ventures 日本代表 

伊藤忠商事株式会社および伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社にて、ユーザベース、メルカリ、WHILL、Tokyo Otaku Mode、Boxなどへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。 2015年3月よりセールスフォースベンチャーズ日本代表に就任。ビズリーチ、freee、Sansan、PhoneAppli、TeamSpirit 、トレタ、ヤプリ、Goodpatch、マネーツリー、スタディスト、オクト等B2Bクラウドベンチャーへ投資。慶應義塾大学経済学部卒、マサチューセッツ工科大学経営大学院MBA修了。