【スマートシティ】日本のスマートシティ導入論議に必要不可欠な社会観とは 南雲岳彦 三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員

2020.01.15 エキスパート

スマートシティ導入が国際的な潮流となり、欧米や新興国でその取組が活発化しています。我が国でも政府が2019年6月に閣議決定した「統合イノベーション戦略2019」において日本のスマートシティ事業推進司令塔として「官民連携プラットフォーム」設置を明記。2019年8月に、中央府省12団体、地方公共団体112団体、大学・研究機関43団体、企業304社が結集した官学民連携の「スマートシティ官民連携プラットフォーム」が発足。日本全国の様々な都市で6分野154事業が始動、スマートシティ導入の動きが本格化しています。しかし、「何のためのスマートシティ導入なのか」の本質的な論議よりも、スマートシティでAI、IoT、MaaSなどの先端テクノロジーをいかに活用し、都市生活の利便性を高めるかの論議が先行しています。

そこで今回は、国内外のスマートシティ導入動向に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの南雲岳彦専務執行役員に、スマートシティは何のために導入するのか、そのためにはどんな都市再開発計画が重要なのかなど、スマートシティ導入の本質に関しご意見を伺いました。

 

グリーンフィールドへのスマートシティ導入は不確定要素がいっぱい

―― スマートシティの導入については、未開発地域に新たな都市を建設する方法と、既存の都市を再開発する形で導入する方法などがあります。現在、中国やインドで多数のプロジェクトが立ち上がっている未開発地域への建設についていかがお考えでしょうか。

南雲専務執行役員(以下、南雲) グリーンフィールド(未開発地域)の場合は、玉石混交になると思います。中国、インドなどは国土が広大なため、グリーンフィールドでスマートシティを導入しやすい環境にあります。

しかし、これらの国の場合は、国民のニーズに基づいているという訳ではなく、スマートシティ導入という国策が初めにあり、政治主導でスマートシティ導入事業を推進しているケースも少なくないように見受けられます。しかも導入の方法論が確立されておらず、不確定要素が多く存在します。

このため、スマートシティ化された一見便利そうな新都市が生まれたけれども、住民が集まらない、誰も住まない、結果として多産多死になる可能性も多分にあると思います。

―― 莫大な開発投資をしたけれども、ニーズがなかったので建設完了後にゴーストタウン化するような形ですね。

南雲 成功の確率が高いのが、ヘルシンキやメルボルンなどのスマートシティ先進都市における事例だと思います。ヘルシンキやメルボルンは、コンパクトシティとしても知られており、歩ける距離の範囲内に生活に必要なものがほとんどあるということで、「住みやすい街」として高い評価を得ています。

そんな「住みやすい街」にデジタルテクノロジーを活用したスマートシティを導入すれば、便利さと相まって住環境の質が高くなります。

また、Googleの兄弟会社Sidewalk Labsが関与しているトロントは、個人情報への懸念で紛糾しましたが、世界でも高水準のスマートシティ・モデルだと言われています。同じようにハイスペックなモデルがヘルシンキです。ヘルシンキのスマートシティは、ウェルビーイングに注目した取り組みかつ、コンセプトが住民のニーズにもマッチしているので、これを参考にしたモデルが新興国でも出てくるかもしれませんね。

特に欧州の街は、我が国と同様に地域特性に適した街づくりの歴史が長いので、成功と失敗のノウハウも豊富です。スマートシティ導入の不確定要素に対する解決能力も高いと思います。

―― 他には、海外でどの国の事例に注目されていますか?

南雲 個人的に関心があるのはフィンランドです。エストニアは昔から電子政府で注目されていますが、社会全体のデジタル化という観点でみるとフィンランドやデンマークが最先端です。米国ではGAFAといった民間の企業がデータを集めていく中で個人情報の取り扱いに懸念が生じています。一方で、強い政府が推進している中国やシンガポールでは、スマートシティの利便性は高くなるものの、ソーシャルクレジットで信賞必罰を与える側面を持つモデルです。欧州はその中間といえます。

北欧諸国では、市民と政府でデータを使うことの合意形成ができており、その基本的な概念として、人間中心主義・人間を幸せにするために行政サービスをいかにデジタル化していくのかという発想があります。たとえば、フィンランドでは、政府が「Aurora」というAI活用施策を進めています。

―― 「Aurora」とは、どういった取組でしょうか。

南雲 Aurora AI施策の例を挙げるとわかりやすいかもしれません。大学を卒業して就職する、結婚する、離婚する、子供が成長して事業を継がせるなど、ライフステージに応じて行政のサービスが必要になります。こうした手続きを、人間ではなくAIが先回りして行う施策です。デジタルツインズを作ってあらゆるライフステージをデータで先読みしていき、それぞれの個人の人生のタイミングごとに適したサービスを提供していく。これをやろうと思うと、行政の中に横の連携が必要となり、旧来型の官庁の縦割りは必然的に無意味になっていきます。

―― 先進的な取り組みですね、日本にとっても北欧の事例は参考になります。

南雲 北欧の国々は、人口も5百万人程度の国が多く、みんなで知恵を出して社会を作っていく感覚です。福祉国家なので教育も無償ですし、実はリスクも取りやすいのです。

スマートシティ導入の促進要因は人口の都市集中と気候変動

―― 中長期的に見ると、スマートシティ導入の促進要因はどういったものになるのでしょうか。

南雲 2つあります。

1つは、急激な都市化の進行です。2050年までに世界人口の約7割が都市に住むと予測されています。このように急激な勢いで都市化が進むと、国土が広大な新興国でも従来型の都市計画では社会インフラ整備が追い付きません。良質な住宅が足りない、浄水場・下水処理場が足りない、ゴミ処理施設やゴミリサイクル施設が足りない。極端に言えば国中がスラム街になる可能性があります。このリスク回避だけがスマートシティ導入へと短絡的に結びつく訳ではありませんが、従来型の都市づくりを見直すきっかけと、スマートシティ導入の促進要因にはなると思います。

もう1つは、気候変動の影響です。海面上昇の影響で、現在の土木技術では沿岸部が暴風や高波に対する防災能力を失い、沿岸からある程度離れた内陸にしか建築物を建てられなくなってしまう都市があります。その場合、例えば沿岸から一定距離は、すべて公園にするような再開発計画を進めるということになります。インドネシアのジャカルタでも気候変動や水没に都市が耐えられない状況になっていますが、そうした要因を受けて国家政策としてよりサステナブルな都市建設に力を入れていくことはできるはずです。

―― 気候変動の影響が従来型の都市づくりの見直しを促している形ですね。

南雲 日本でも2019年9月に上陸した台風15号が千葉県に甚大な被害を与えましたし、2018年の9月に上陸した台風21号は関西国際空港に甚大な被害を与えました。

凶暴な自然災害に対しては、現在の科学技術では為す術がありません。では、自然災害から都市を守るためにはどうすればよいのか? 今のところ、その解は都市の改造しかありません。風水害に強い強靭な都市への改造です。災害が多い地域は保険料が上がり住み難くなる一方で、安全な地域も地価が上がっていくなど、住環境における需要が変化していく、こうした街づくりの新しいダイナミズムが起きていきます。

 

日本では少子高齢化と地方創生がスマートシティ導入のキーに

―― グローバルでは、都市化や気候変動が都市開発に影響を与える要因となりますが、日本でみるといかがでしょうか。

南雲 日本の場合は、少子高齢化と地方創生の2つになると思います。

5年後でみると、東京の人口も減り始め、日本全体で少子高齢化問題が勢いを増します。日本全体が沈没はしていないけれども、地方都市の問題はかなり深刻化している状態です。無人運転や遠隔地介護は待ったなしで、高齢化社会に向けた街づくりが必要になっています。この2つの深刻な社会課題の解決策のひとつとして、スマートシティの導入があると思います。

―― こうした少子高齢化などの社会課題解決を背景とした都市開発については、海外の先進国でも取り組みが進んでいるのでしょうか。

南雲 欧州は日本と似てきていますね。欧州でも少子高齢化問題が深刻化すると思うのですが、それとは別に、「ウォーカブルシティ」と呼ぶ新しいトレンドの波が来ています。

―― ウォーカブルシティとは?

南雲 早い話が「歩ける街」ですね。

スマートシティ先進都市では肥満・生活習慣病対策、高齢者への配慮、エコロジーなどの観点から「街のウォーカビリティ」が重視されるようになっています。その背景には「車社会は人間が街中を自由に歩けないから健康に良くないよね。大気汚染も進むし」との認識の高まりがあります。

そこから「ウェルビーイングな街」、「ヘルシーな街」、「グリーンな街」、「サステナブルな街」などの概念を持った都市づくりが注目され、さらにこれらの概念を集約したのがウォーカブルシティと言えます。

ウォーカブルシティは、都心部が歩行者専用地域、その外周が自転車移動専用地域、その外周がライトレール、その更に外側にヘビーレールとして鉄道移動専用地域という形で都市が設計されます。これらをMaaSで繋げば自動車を保有しなくても何不自由なく移動できるので、歩行の範囲内で都市生活を完結させることが可能になります。そうなると、カーボンフリーで大気汚染も防止でき、ヘルスケアと低炭素を実現できる都市になるという理屈です。

―― 「大都市もいかがなものか」という流れですね。ウォーカブルシティの概念はスマートシティの概念との共通性が多いですね。

南雲 今後は、ウォーカブルシティづくりの推進がスマートシティ導入の定番的な柱のひとつなると思います。

 

ニーズ不在の「テクノロジードリーム」が先行する日本のスマートシティ論議

―― 欧州の都市づくりのトレンドであるウォーカブルシティの概念を伺うと、都市づくりには人間の生き方や価値観が色濃く反映されていますね。

南雲 街作りはそれだけ奥が深いのです。

テクノロジー先行で設計した街は、人間にとって必ずしも「住みやすい街」にはならないと思います。

―― そうすると我が国のスマートシティ導入も、もう少しウェルビーイングというか、テクノロジー先行ではない視点から捉え直す必要がありそうですね。

南雲 そう思います。

日本でスマートシティ導入というと、とかくスマートリビング、スマートエネルギー、スマートエコノミー、スマートモビリティなど、テクノロジーを背景にした概念で、AI、IoT、MaaSなどの先端テクノロジーをいかに活用するかの論議に偏ってしまいがちです。

これは、「テクノロジードリーム」を語っているに過ぎないのではないでしょうか。

そうではなく、私たちが本当に論じ合わなければいけないのは、「何のためにスマートシティを導入するのか」、「それによって住民のウェルビーイングが保障され、身体的・精神的・社会的に健康な生活を送ることができる」、「幸せになれるのか」などではないでしょうか。

この論議を先に行わないと、スマートシティのニーズそのものも十分には喚起されないと思います。

―― ニーズのない事業は成功しませんものね。

南雲 現在の日本のスマートシティ論議の欠点は、正にそれだと思います。

スマートシティ事業は公共性の高い事業ですので、高収益が期待できません。

また仮に、政府や自治体が計画だけを先行させても大きな関門があります。

例えば、日本には現在、基礎自治体が1724市町村あるのですが、そのうち、財政が健全な自治体は、発電所や優良な大企業が立地する70市町村程度しかありません。それ以外の自治体は、民間企業を誘致したり税収を増やす努力をしたりしないと、ファイナンス面でのハードルをクリアするのは難しいかと思います。この点をクリアしないと、スマートシティ事業を推進できる自治体と推進できない自治体に明確に分かれてしまうでしょう。

―― 推進できない自治体は過疎化が加速する。そうなると、これからの日本が立ち向かわなくてはならない少子高齢化と地方創生の2つの社会的課題解決が遠のきますね。

南雲 その可能性はあると思います。

―― スマートシティにおけるデータ利活用の観点ではいかがですか?

南雲 勿論、データも重要です。行政のデータをオープンにしてアプリケーションを作る、コネクテッドインダストリーで生産効率を上げていく、そして個人情報の活用といった流れがきています。個人情報の活用はハードルが高いものの、スマートシティでは、IoTからデータ活用が広がって、徐々に個人情報と組み合わされていくと考えられています。

 

「幸せ」とは何か、スマートシティを切り口に生き方や価値観を再考していく必要性

―― 「テクノロジードリーム」ではない、日本におけるスマートシティの在り方について、どのようにお考えでしょうか。

南雲 私はSDGs(持続可能な開発目標)が参考にしやすいと思います。「誰一人取り残さない持続可能な社会」を実現するためにAI、IoT、MaaSなどの先端テクノロジーをいかに活用するかの論議が必要だと思います。この社会観がないと、たとえ国策として国家予算を投入してスマートシティ導入を進めても、日本の社会的課題解決には繋がらず、人口集中と過疎の二極化が進むのは必定でしょう。

―― 日本がどのような社会を目指していくのかということですね。

南雲 こうしたスマートシティを切り口に、生き方や価値観をどのようにとらえるかが重要になります。日本において、今後の経済成長を目指すか、もしくは成長があまりない中でのウェルビーイングを追求していくのか。日本はどうあるべきかを考える時にきています。

トリガーや転換期は、オリンピック後に訪れるでしょう。経済が冷え込む可能性も否定できず、東京も人口が減り始めます。そうした時に、改めて幸せとは何か、それを考えるきっかけが生じると思います。シリコンバレーのような成長を目指す考えもありますが、そうして先に述べた社会の二極化が進んでいくよりも、個人的には北欧のようなウェルビーイングの考え方が日本にはあっていると思います。

 

記事作成:福井 晋

プロフィール:

南雲岳彦 三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員

三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役員、三菱東京UFJ銀行執行役員を経て、三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員。内閣府規制改革推進会議委員、一般社団法人スマートシティ・インスティテュート理事、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター・フェロー、京都大学経営管理大学院客員教授、国際大学GLOCOM上席客員フェロー、産業技術総合研究所客員研究員等を兼務。