宇宙エバンジェリストが語る、「本物の宇宙ベンチャー」と「宇宙っぽいベンチャー」を見極める技術者の視点 ―グローバル・ブレイン 青木英剛(前編)

2019.03.18 エキスパート

宇宙が現実的なビジネスフィールドとなった現在、異分野からの参入の機会を窺う企業も増え続けています。そうした企業のアドバイザーとして宇宙ビジネスを推進しているのが、ベンチャーキャピタリストであり、「宇宙エバンジェリスト」としても活動する青木英剛氏です。

三菱電機時代には日本初の宇宙船「こうのとり」の開発に従事し、数多くの賞を受賞。ドリームインキュベータでは技術系企業の戦略立案や実行支援に従事し、現在はベンチャーキャピタルであるグローバル・ブレインのパートナー(宇宙・ロボティクス)として宇宙ビジネスの展開に多面的に関与しています。

前編では、そんな青木氏のキャリアを中心に伺いました。

 

テキサスから三菱電機へ、宇宙につながるキャリアの選択肢とは

―「宇宙エバンジェリスト」という肩書きがとても印象的ですね。

ここ2〜3年で、日経新聞などの主要メディアでも毎日と言っても良いくらい宇宙ビジネスの記事が出るようになりましたよね。そんなトレンドもあって、自動車やネットなど、これまで宇宙とは無関係だと思われていた業界の企業からも「宇宙ビジネスの現状を聞かせてほしい」という依頼が非常に多いんです。私個人としてはできるだけ多くの企業に啓発していきたいという思いもあり、「宇宙エバンジェリスト」と名乗って商標登録もしました。

以前は宇宙開発といえば公共事業の範疇でしたが、ようやく「宇宙ビジネス」として注目されるようになっている。その展開に尽力したいと考えているところです。

 

―青木さんが宇宙の領域に足を踏み入れるようになった経緯は?

子どもの頃は宇宙飛行士になるのが夢でした。中学生の頃から本格的に意識し始めて、「英語ができなきゃいけない、理系の専門知識も必要だ」と。それで高校卒業後は単身アメリカへ渡り、航空宇宙工学を学んだんです。場所は宇宙産業のメッカであるテキサス州。4年間楽しく宇宙のことを学んだり、パイロットの免許を取ったりしました。飛行機なら、趣味で操縦できるんですよ。

ロケットの設計なども学び、大学院にも進んで宇宙工学を突き詰めていきました。

―そのままアメリカに残らず帰国したのはなぜですか?

宇宙工学は、軍事や軍需産業とも密接に絡んでいます。そのため日本へ帰って日本に貢献することが順当だと考えたんです。また、海外生活が長くなると日本が好きになるんですよね。日本で就職活動し、宇宙産業国内最大手の三菱電機へ入社しました。

有名な「気象衛星ひまわり」や「すばる望遠鏡」なども作っている三菱電機は、日本の宇宙産業においてはガリバーです。私は人工衛星を作りたいと思っていたので、ここしかないと考えていました。

―宇宙を志す方にとってどのようなキャリアがあるかも大変興味深いです。当時、宇宙に関わるキャリアとして他にどのような選択肢がありましたか?

同業である重工業メーカーか、もしくはJAXA(宇宙航空研究開発機構)という感じでしょうか。あとは大学に残って研究を続けるという選択肢くらい。航空宇宙工学を専攻しても、実際に宇宙に関わる業界で働ける人は少なかったですね。
大学時代のアメリカの友人はNASAやボーイングなどの航空宇宙メーカーに就職していました。当時はスペースXが世に出たばかりの頃で、まだまだ無名。今でこそアメリカには宇宙ベンチャーが多数あり、さまざまな選択肢がありますけどね。

―宇宙ビジネスの現場に携わるというのは簡単ではないですね。一方で人材の流動性も低そうですね。

そうですね。キャリアとしても航空宇宙業界に一度入れば、そこで40年勤め上げるのが前提でした。エンジニアとして入ったなら、エンジニアとして勤め上げるわけです。なぜなら他に転職先がないから。辞めて異業種に行く人は非常に稀でしょう。

また海外の場合は、現地の国籍や永住権を取得していないと入社できないというケースも往々にしてありました。20年ほど前は、例えばボーイングのようなところは戦闘機などを作っている関係もあり、アメリカ国籍がないと入社できなかったんです。今は国籍を問わないベンチャーが増えたことで、随分と環境が変わりました。日本は宇宙産業に限らず、全般的に外国人社員に対してビザの発給がしやすいこともあって、世界中から人材が集まってきています。

―防衛産業とも重なるために、入社にあたって国籍の制限も出てくるのが、宇宙業界ならではですね。

 

「こうのとり」の開発から、コンサルティングファームへ。「技術者×経営専門家」として

―三菱電機時代の取り組みについても教えてください。青木さんは「こうのとり」の開発リーダーとして知られています。

はい。それ以外にも、月面着陸船の設計などにも携わっていました。宇宙技術者でもなかなか関わることのできないプロジェクトに関わることが多く、最前線で、技術者として自由にやらせてもらっていたんです。

入社2〜3年目頃からは、若手ながらリーダーとしての役割も任せてもらうようになっていました。そんな中で試行錯誤しながら、ビジネスパーソンとしてキャリアを積んでいくことに興味が向いていきました。ビジネススクールにも通い、MBA取得を目指しながら「日本の宇宙産業をどう振興していくか」といった研究を続けました。

―技術分野だけでなく、経営にも興味を持つようになったのはなぜですか?

2009年頃に国内の電機メーカーがこぞって大赤字になりましたよね。日本の電機メーカーはすべて危ないのではないかと思われるような状況になったとき、ふと「日本の強みである技術にちゃんと向き合いながら、経営を回せる人がほとんどいないな」と感じたんです。それで経営分野にも興味を持つようになりました。

当時は「三菱電機の社長になりたい」と思っていたんですよ。でも30年も待てません。飛び級的に経営に挑戦するために会社を辞めてビジネススクールへ行きました。「技術者×経営専門家」として活動していきたいと本格的に考えるようになった頃でした。

宇宙ビジネスを盛り上げて市場を作っていくには、どんなポジションでやっていくべきか。それを模索する中でドリームインキュベータというコンサルティングファームに出会いました。そこは個社の支援をするというよりも、新しい産業を興していくことを重視していた。その考えに感銘を受け、宇宙ビジネスへの思いを伝えてジョインしたんです。

宇宙技術者で宇宙ビジネスにも精通しているという人は、世界的にも少ないです。同様にビジネスコンサルタントはいても、宇宙技術者としてのバックグラウンドがある人もほとんどいません。宇宙は技術面での深い理解がないとついていけない部分もあります。自分の経験を生かしてアドバイスできると感じました。

日本の宇宙産業の課題は「村社会化」。民間ビジネスとしてのスキームが必要

―コンサルティングファームで活動していた当時、民間で宇宙ビジネスに興味を持つ企業はいたのでしょうか?

いえ、最初はまったくありませんでした。そこで未来予測やトレンドを伝えていくところから始めました。まさに宇宙ビジネスの営業マンとして活動していたわけです。

既存の宇宙産業は、言ってみれば完全な村社会でした。文部科学省の予算をJAXAがもらい、その下で大手宇宙メーカーが仕事を請け、さらに多数の企業がJAXA/大手宇宙メーカー主導のプロジェクトを支え合うという形。大手宇宙メーカーも営業をするにしても、JAXAしか商売相手がいないような状況です。

その中で、民間ビジネスとしての当たり前のエコシステムを作れないかと考えました。過去20年間、日本の宇宙産業はほとんど成長していません。海外はどんどん進化しているのに。その理由は宇宙産業の村社会にあると思ったんです。

そうしてさまざまな企業に出入りしているうちに、「宇宙エバンジェリストのような活動をしているよね」と言われるようになりました。
―そこから「宇宙エバンジェリスト」としての活動に繋がったのですね。コンサルタントとしては具体的にどのようなプロジェクトを担当されてきたのでしょうか?

多いのは新規事業のコンサルです。衛星やロケットなど、宇宙に関わることを絡めて提案しすることもありました。CEOアジェンダとして企業のトップからの依頼が多かったですね。20年後の長期ビジョンであったり、まったく新しい産業を興すための戦略と戦術、そしてその実行支援。その中からは、宇宙ビジネスが立ち上がっている例もあります。

「やりたくない人がいない」分野の宇宙産業。民間参入の勃興期だからこそ技術者の視点も必要

―その頃から民間企業からの宇宙産業への取り組みに携わられてきていました。当時に比べて現在では、民間企業からの宇宙ビジネスへの注目度も上がっていますね。

現に大手企業の多くはすでに手を付け始めていますよね。本格的に動きが増えたのはここ1〜2年くらいですが、今では「知らない人は置いていかれる」くらいの感じになっています。

技術系の会社の場合は研究所で動かしたり、場合によっては事業部単位で取り組んだり。「宇宙」はメディア受けがいいので、採用のために取り組んだり広報観点で始めたりする企業も出てきました。

宇宙って、「やりたくない人がいない」分野なんですよね。未知のことばかりで多くの人が興味を持っているし、単純に「好き」「あこがれる」という人も多い。それは企業のトップも同じです。だから、新規事業として経営層へも提案しやすいんです。

―今後はベンチャーでも宇宙ビジネスに挑む企業がますます増えていきそうですね。それに伴い、青木さんのような宇宙や技術に詳しいベンチャーキャピタリストへの期待も高まっていくのではないでしょうか。

良く言われることですが、私のようなバックグラウンドを持つ人は世界的に見ても珍しいと思います。ベンチャーキャピタリストを生業としてやっている方となるとさらに少ない。責任の大きさも感じています。

「宇宙ビジネスを始めたい」と思っても、技術的なバックグラウンドがなければ何も動き出せないということもあります。どれだけディープテックの話ができるか、技術の理解も必要となる局面も多い。

こうした産業の勃興期は、玉石混交でさまざまなものが出てくるのでしょう。「本物の宇宙ベンチャー」なのか、それもと「宇宙っぽいベンチャー」なのか。そうした見極めを行うためにも、技術者としての視点が重要だと感じています。

後編 このままでは日本は確実に負ける。ベンチャー・大企業・政府が一体となって宇宙ビジネスを加速させるために必要なこと に続く

 

インタビュー:川口荘史

記事作成:多田慎介

撮影:Masanori Naruse

 

プロフィール

青木 英剛:グローバル・ブレイン株式会社 パートナー/宇宙エバンジェリスト。米オーバーン大学大学院で修士号(航空宇宙工学)を取得後、三菱電機に入社。三菱電機では日本初の宇宙船「こうのとり」の開発等に従事し、多くの賞を受賞。慶應ビジネススクール(MBA)修了後に、ドリームインキュベータ(DI)に参画。DIでは、大手企業に対する宇宙ビジネスコンサルティングや技術系スタートアップのインキュベーション等に従事。2015年からグローバル・ブレインにて、宇宙やロボティクス領域を中心とした技術系スタートアップへの投資・成長支援に従事。また、「宇宙エバンジェリスト」として宇宙ビジネスの啓発、民間主導の宇宙産業創出に貢献。一般社団法人SPACETIDE共同創業者兼理事。内閣府宇宙政策委員会宇宙産業振興小委員会委員を始め、JAXAや政府委員会の委員等を多数歴任。